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モンストル  作者: 髪槍夜昼
虚言と渇望の吸血鬼
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第二十六夜


『数日前の裏通り』


倒れた少女の腹を踏み付けて、ルーセットは嗜虐的な笑みを浮かべていた。


本来争い事は好まないルーセットだが、それでも吸血鬼の端くれ。


自身の命を狙った者を見逃す程、聖人ではない。


既に意識を失った少女、ヴェガの顔を見下ろす。


如何にも権力主義の高慢な少女だった。


仇敵ルヴナンを思わせる少女を下したことは、ルーセットの自尊心を満足させた。


奴の息がかかっていそうなヴェガを殺して送り付ければ、あの傲慢な老害に泡を吹かせることが出来る。


ルーセットはそう考え、ヴェガの首に手をかける。


その直前だった。


『い、やだ……』


意識がない筈のヴェガから声が漏れた。


『怖い……誰、か………助、けて…』


何も見えていない虚ろな目から涙を流し、ヴェガは呟く。


魂が擦り切れて、意識すら混濁した状態でヴェガは必死に訴える。


『…死にたく、ない…』


『………………………………………………………ッ』


その涙ながらの命乞いは、ルーセットの胸に突き刺さった。


瀕死の少女を憐れに思った訳ではない。


その懇願が、悲痛な声が、ルーセットの深い部分に触れたのだ。


そして…








「何、ボーっとしてしているんですか?」


訝しげな顔をしたヴェガに顔を覗き込まれ、ルーセットの意識は覚醒した。


いつも通りの憮然とした顔を見て、少し安心した。


眷属にして以来ヴェガの不機嫌そうな顔しか見ていないが、元気なことは良い事だ。


「何、さっきの女性の余韻を味わっていただけだよ」


「…あなたって、卑猥な表現を使わないと話せないんですか?」


ルーセットを見るヴェガの視線が、先程よりも冷めた物に変わる。


以前はルーセットの発言一つに赤面する箱入り娘だったが、イジメられる度に耐性がついたようだ。


高慢な態度で見下されるよりはマシだが、それでもゴミを見るような目で見られることはルーセットの本意ではない。


「そう言えば、君の方は良かったの?」


「何がですか?」


「血。と言うか、魔力の補給」


ルーセットの問いにヴェガは露骨に顔を顰めた。


吸血行為自体に嫌悪感を抱いているような態度に、ルーセットは首を傾げる。


以前、冗談交じりに聞いた時に吸血は経験済みと言っていたが…


「…まさか、本当に吸血バージン…」


「ち、違う! って言うか、卑猥な造語を作らないで貰えますか!」


戦慄したように呟くルーセットに、ヴェガは顔を真っ赤にして否定した。


耐性が付いたように見えたが、やはり下ネタは苦手なままのようだ。


焦ったように挙動不審になりながら、口を開く。


「ただ、その、今までは配下の者に調達させて、その…」


「あー…なるほど」


その拙い説明で事情を把握したルーセットは深く頷いた。


「つまり、親からしか餌を貰ったことない雛鳥だと」


「その例えはやめて下さい!」


「つまり、親(俺)の口移しでしか餌を食べられないと」


「そ、それは断じて違います! だから、近寄るな! 私に触るな!」


腕をブンブン振ってルーセットを拒絶するヴェガ。


威嚇する小動物のように息を荒げて、ルーセットを睨む。


それを見て、卑猥な笑みを浮かべていたルーセットも流石に自重した。


「まあ、冗談はさておき。君も吸血しておいた方が良いのは事実だよ」


「ふぅー! ええ、それは同感です」


「そうだな、口移しが嫌なら…俺の血でも吸う?」


自分の白い右腕をヴェガに見せながらルーセットは言った。


「あなたの、血を…?」


差し出された男性とは思えない細い腕を見て、ヴェガは呟く。


吸血鬼同士の共食い。


本来は『禁忌』とされていることだが、本人の同意があれば良いのだろうか。


それに、ヴェガは以前ルーセットに吸血されている。


「………」


無言でヴェガはルーセットの腕を見る。


コレはチャンスなのかもしれない。


以前自分がされたようにルーセットの魂を全て奪ってしまえば、握られっぱなしの主導権を取り返すことが出来る。


ヴェガは静かに自分の牙に触れ、高鳴る鼓動を抑えた。


「で、では、失礼します…」


何故か緊張した声を出しながら、ヴェガはルーセットの腕を取った。


その肌に触れた時、今までにない感覚が身体を過ぎる。


ルーセットの血が欲しい。


この感覚こそが、本来ヴェガに備わっている筈の吸血衝動なのだろうか。


牙を剥き、一介の獣のように腕に喰らい付く。


「おいおいおい! 俺っちを放って女遊びかよ。嫉妬しちゃうぜ!」


その時、空気を読まない叫び声が響いた。


雰囲気に酔っていた頭が瞬時に冷める。


ヴェガは慌てて口を抑えて、ルーセットから距離を取った。


「たっく、今凄くイイ所だったのに。相変わらず君は喧しいね」


小さな歯形が付いた腕を見ながら、ルーセットは不機嫌そうに言った。


「ああ、ルーセット。ルーセットォ! 俺っちはお前に会いたかった!」


「俺は二度と会いたくなかったよ。出来れば帰ってくれないか? 今すぐに」


「この再会を祝して、もう一度殺し合おうぜ! ルーセット!」


返り血塗れの身体で突然現れたモールは叫んだ。


手にした槍状の杭を握り、叫ぶ姿は狂人にしか見えない。


熱狂するモールとは対照的に、ルーセットのテンションは急降下した。


「あのリコルヌの野郎にパシリにされた時は災難だったが、今は感謝してるくらいだぜ。お前にこうして会えたんだからよォ!」


「…リコルヌ? お前、今度はそっちの純血の下にいるのか?」


「あ?…ああ、そうだよ。全く甘ったるくて、弱っちくて、最悪の上司だけどな!」


その発言と得ていた情報から、ルーセットは面識のないリコルヌの人となりが掴めてきた。


身内を大事にする、博愛主義者。


野心と闘争心が欠ける、平和主義者。


モールと相性が悪くても不思議ではない。


「そんなことより、早く始めようぜ!」


モールは狂笑を浮かべて、自分の影に触れた。


「立ち上る影よ。極刑の杭となれ」


モールの影が広がり、影より杭が顔を出す。


「『インペイルメント』」

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