表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モンストル  作者: 髪槍夜昼
虚言と渇望の吸血鬼
20/136

第二十夜


青ざめた肌をした吸血鬼の男が立っていた。


貴族風のローブを纏っている姿は人間がイメージする吸血鬼像そのものだが、型にはまり過ぎた格好は同族には陳腐に見える。


「お前は私の道具だ。ヴェガよ」


初めて会う男は冷徹に言った。


困惑する幼いヴェガを余所に、言葉を続ける。


「この私が吸血鬼の頂点に立つ為、お前は駒となるのだ」


ヴェガの主張を認めない一方的な言葉だった。


「来るべき日までお前はこの村で身を隠していろ。他の純血に存在を知られてはならない」


まるで兵器を隠すが如く、ヴェガは辺境の村へ連れて来られた。


知る者など誰もいない村へ、ヴェガは一人置き去りにされた。


他でもない、自分の父親によって。


「………」


それでも、最初の頃は良かった。


辺境に住む吸血鬼達は気性も穏やかで、余所者のヴェガにも優しく接してくれた。


不安だった当初は彼らを親代わりに思っていた。


「高貴な純血を引くお前が、下等な吸血鬼と言葉を交わすな」


数年ぶりに現れた父親は、そう言ってヴェガの友達を焼き殺した。


親代わりになっていた年配の吸血鬼も、全て殺された。


「我々には吸血鬼の始祖の血が流れている。自分の純血を自覚しろ」


その日から、周囲の態度が変わった。


派閥争いと無関係な辺境とは言え、純血の意味を知らない吸血鬼はいない。


周囲が自分を見る目は恐怖に彩られ、僅かに憎悪すら存在した。


純血と知るとあっさりと態度を変えた彼ら。


弱いくせに自分に憎悪を抱く彼ら。


そんな者達を段々とヴェガは、同胞と見れなくなっていった。


姿形は同じ彼らが酷く脆くて弱い存在に見えてきた。


やがて、ヴェガは憎悪を向けてきた下等吸血鬼を虐殺し、それを見せしめにするようになった。


忌み嫌ってきた自分の父と同じように。


小さな辺境の村の王様。


そんな日々は、長くは続かなかった。


「純血の娘じゃな? ティミッドめ、こんな辺境に娘を隠しておったとは…探すのに苦労したわい」


突然現れた霧の吸血鬼は、有無を言わさずヴェガを連れて行った。


そうして、ヴェガは外の世界を知る。








「……ん」


埃っぽいコンクリートの上でヴェガは目を覚ます。


まさか自分が野宿を経験するなど、あの村にいた頃には想像もしていなかった。


それもこれも全てルヴナンと、目の前で熟睡しているルーセットのせいだ。


「Zzz」


幸せそうな顔をしてルーセットはいびきをかく。


布すら敷いていないコンクリートの上だと言うのに、どうして安眠出来るのだろうか。


節々が痛む身体に顔を顰め、ルーセットを睨んだ。


この男は、多くの吸血鬼に恨まれる裏切り者。


ヴェガを倒して無理やり眷属化した仇敵。


そして、


ヴェガの父『ティミッド』を殺した男。


「………」


ティミッドはお世辞にも良い父親ではなかった。


それどころか、ヴェガはティミッドを心底毛嫌いしていた。


虐待同然の教育を施し、道具扱いし続けたティミッドを憎んですらいた。


その為、ヴェガは父を殺したことについてはルーセットを恨んでいない。


あんな父親の復讐をする気はないし、そもそも父親だと言うことを告げる気もない。


「…ふわぁぁ……ん。おはよう、ヴェガ」


考え事をしているとあくびをしながら、ルーセットが目を覚ました。


寝足りなそうに眼を擦り、ぼんやりと空を見上げている。


元々外見年齢の割に幼い表情をすることが多いルーセットだが、寝起きは更に幼く見えた。


女性的な容姿も相まって、成人男性にはとても見えない。


「…前々から思っていましたが、あなたは性別の分かりにくい容姿をしていますね。これでは父親なのか母親なのか」


「んんー? ああ、俺の顔のことか? 可愛くて格好いいだろう? しかも自前だぜ」


寝ぼけたテンションでルーセットは決めポーズを取った。


確かに容姿は整っているが、半開きの目で言われても間抜けでしかない。


「自前………その顔は素顔なんですか?」


「当然よ。男か女か分からない顔だろうと、世界でただ一つの俺の顔だ」


手で寝癖を直しながら、ルーセットはニヤリと笑った。


呆れた顔をしているヴェガへ一歩近づく。


「だが、リクエストがあるなら、どんな顔にも変身してやるぞ。さあさあ、どんな顔が好み? 清純な騎士風イケメンか? それとも悪系のダンディか?」


「ちょ、ちょっと…」


「まさかの同性愛? 綺麗系美女? 可愛い系美少女? どんな要望にもお応えできるぞ俺は!」


「顔が、顔が近いですって!?」


興奮しながら近づくルーセットに悲鳴を上げるヴェガ。


寝起きの妙なテンションのルーセットは止まる気配がない。


しかもちょっと能力が暴走して顔が変化しつつあるので、ヴェガにとっては恐怖以外の何物でもない。


「………ん?」


「へ…?」


何やら覚悟を決めたヴェガが拳を握り締めた所で、ルーセットは動きを止めた。


訝しげな顔をして、廃墟の外を見る。


肉眼で見える先ではない。


それよりもずっと遠く。


目には見えないが、吸血鬼の嗅覚はその先の光景を伝えた。


「何か、向こうで起きてるな。血の臭いを感じないか?」


「え?………た、確かに。かなり離れた場所ですが、血の臭いを感じます」


「…派閥争いか? いや、それにしては」


近くに置いていた山高帽を取りながら、ルーセットは呟く。


既にその意識はヴェガではなく、彼方に向けられている。


「行ってみる気ですか?」


「そうだな。ちょっと興味があるし、能力で送ってくれ」


「…私をタクシー扱いしないで下さい」


呆れながらもヴェガは自分のイクリプスを起動させた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ