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モンストル  作者: 髪槍夜昼
虚言と渇望の吸血鬼
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第十一夜


「もぐもぐ、と言う訳で、俺っちは、もぐもぐ、お前を殺しに来たんだよ」


テーブルに座り、適当に頼んだ肉料理を食べながらモールは言った。


そのマイペースさにヴェガは絶句している。


無理もないだろう。


血の臭いを纏って現れた襲撃者が、まさか同じテーブルで食事を始めるとは予想できない。


「だから、俺としては穏便に話し合いで済ませようって言ってんの。君、強そうだし」


「話し合いィ? 俺っち考えることは苦手なんだよなぁ」


串に刺した肉をムシャムシャと噛み千切りながら、モールは不満そうに言う。


テーブルに立て掛けられた木製の槍をフォークで軽く叩く。


「そもそも、君はどこの純血の派閥?」


「俺っちはルヴナン派の吸血鬼よぉ」


その名前が出た瞬間、ヴェガが僅かに反応する。


ヴェガを純血に迎え入れたのはルヴナンだ。


行方を晦ましたヴェガへ送り込まれてきたのか、と思わず身構える。


向けられる視線に気づいたのか、モールは手は止めずにヴェガを一瞥する。


「そこのお姫様とは同じ派閥だな。よろしくぅ」


「…別に私はあの人の派閥ではありません」


「そうなのか? まあ、どうでもいいけど」


それっきり、モールはヴェガへ目を向けることはなかった。


本心から関心がないように見える。


モールの興味はルーセットだけに向けられていた。


「この子を取り戻せと命令されてきたんじゃないのか?」


「それもある。俺っちに与えられた命令は二つ」


視線を向けずにモールはヴェガを指さす。


「一つは、そこのお姫様を狙うコカドリーユ派の吸血鬼を始末すること」


それはもう終わったけどな、と笑顔でモールは言った。


肉を刺したフォークを置き、立て掛けられた木製の槍を握る。


「そして二つ目は蝙蝠の吸血鬼を始末し、お姫様を回収することだ」


モールは緩慢な動作で槍をルーセットへ向けた。


動きこそのんびりとしているが、向けられる殺気は本物だ。


細長い白木の槍を見て、ルーセットはため息をつく。


「それなら、ヴェガを返せば俺は見逃してくれるのか?」


「ノン。ルヴナンの旦那はお前の死もお望みだ。そして、何より………」


バキバキ、と大樹が倒れるような音が響いた。


料理が乗ったテーブルが下から強い力で押され、軋んでいた。


床下から何かに突き上げられ、テーブルに亀裂が走る。


限界を迎えたテーブルを破壊して、床下から現れたのは巨大な杭。


石柱や大樹のように太い、白木の杭だった。


「俺っちの楽しみを奪うんじゃねえよ! 命乞いなんてするな、下らねえ!」


「…戦闘狂か」


「ウィ。その通りだ! 腹ごなしの運動と行こうぜ!」


壊れたテーブルの破片を踏み締め、モールはルーセットへ飛び掛かる。


その手に握った槍のように細長い杭を構え、椅子に座ったままのルーセットを狙う。


「チッ」


ルーセットは咄嗟にテーブルクロスを引き剥がし、被せるようにモールへ投げた。


大した強度もない為、盾の役割は果たせずにあっさりと突き破られる。


だが、テーブルクロスを破って捨てた時、そこにルーセットの姿はなかった。


「いない…どこに」


訝しげな顔をするモールの耳に悲鳴が届いた。


先程から無視していたが、周囲の人間達がいよいよパニックを起こしたようだ。


ただでさえ異様な風貌のモールは注目を浴びていたのに、それが暴れ出したのだ。


能力も持たない単なる人間が恐怖しても仕方がないだろう。


「…待てよ、確かアイツの能力イクリプスは」


ルヴナンからルーセットの能力は聞いていた。


単純な破壊よりも翻弄、奇襲に特化した『変身』のイクリプス。


生物なら何にでも変身できると言う能力。


もし、今悲鳴を上げている人間の中に紛れ込んでいたら。


我先にと出口へ向かう人間達の姿が、モールの目に留まった。


「逃がすか! 影よ!」


叫び声と共に、モールの影が蠢く。


それはまるで生き物のように伸び、逃げようとしていた人間達の影と繋がった。


「立ち上る影よ。極刑の杭となれ!」


モールの影に捕まった影が隆起する。


黒い影が白木の杭へ変質し、大樹へ成長する。


「『インペイルメント』」


瞬間、数多の断末魔が響き渡った。


影より現れた杭は正確に宿主を貫き、その命を絶った。


串刺しにされ、吊るされるのは人々の死体。


林のように血濡れの杭が立ち並ぶ中、一本だけ血に濡れていない杭があった。


「はぁ…はぁ…危なかった…」


その杭にもたれ掛かって荒い息を吐くのはルーセット。


間一髪で杭を躱したのか、その身体に傷はない。


影からの奇襲。


一度能力を見ていなければ、ルーセットでも危なかった。


「よく躱したな! そうこなくちゃ面白くない!」


自分の杭が躱されたことに歓喜して、モールは笑みを浮かべた。


「ただ殺されるだけなら人間でも出来る! ただ殺しを楽しみたいだけなら人間相手で満足だ!」


モールの影が再び怪しく蠢いた。


伸びる影は勢いよくルーセットの足元へ近づいていく。


「ヤバッ…」


「ほらほら次行くぞ!」


警告を受けて、ルーセットは慌てて走り出す。


先程までルーセットがいた位置に杭が立ち上った。


「足元にご注意をー! アン・ドゥ・トロワ!」


走るルーセットを追いかけるように影が伸び、その影から次々と杭が出現する。


影から無数の杭を生み出す能力。


それこそがモールのイクリプス『インペイルメント』


シンプルだが、それ故に強力な能力だ。


「今度はそっちから仕掛けて来いよ! 逃げてるだけじゃつまらねえぞ!」


狂笑を浮かべてモールは叫ぶ。


「人間を超えろ! 化物同士の殺し合いをしようぜ!」

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