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モンストル  作者: 髪槍夜昼
虚言と渇望の吸血鬼
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第十夜


「だからゴメンってば、機嫌直してよ」


「………」


へらへらと誠意の感じない謝罪をするルーセットをヴェガは完全に無視していた。


ルーセットが住処としている高級ホテル。


その一階にあるレストランに二人は来ていた。


辺りで裕福そうな男女が静かに食事を楽しんでいる中、マジシャンのような格好のルーセットと浮世離れした格好のヴェガは浮いていた。


「いやー、まさか気絶するとは思わなくて………どれだけ初心なんだ」


「お、思い出させないで下さい! この色情狂!」


「色情狂は酷いな。ちょっとハグしただけでしょ! それ以上は何もする前に気絶したじゃないか」


「それ以上!?」


顔を真っ赤にしたヴェガは何を想像したのか絶句する。


そんな反応を見ているのも楽しいが、あまり騒がしくして人間の注目を浴びるのは避けたい。


「まあまあ、お詫びに何でも食べていいからさ。こう言う食べ物って初めてだろ?」


「吸血鬼に食事など不要です。成長する為の栄養など必要としないのだから」


「人は栄養を得る為だけに食事を取るんじゃない。食事とは、一種の娯楽だよ」


周囲の人間を見渡しながら、ルーセットは笑みを浮かべる。


思いつく限りの人の娯楽を制覇した風変わりな吸血鬼は、得意げに指を立てた。


「長い時を生きるには娯楽が必要さ。そう言う意味では、吸血鬼にとっても食事は必要になるね」


「…一理あります。私の父も、特別な日には食事を取ることがありました」


「父?」


思わず聞き返したルーセットの言葉に、ヴェガはハッとなる。


余計なことまで口走ってしまったことを悔いるように、再び口を閉ざしてしまった。


少し気にはなるが、ルーセットは無理に問いただすことはしなかった。


触れて欲しくないことを悟る程度の良識は持っているつもりだ。


「そう言えば、人間上がりの吸血鬼は成長しないけど、純血はどうなんだ?」


話題を変えるように、ルーセットはヴェガの目を見た。


「俺達と違って母の腹から生まれる訳だろ? まさか、生まれた時からその姿ってことは…ないよな?」


「当たり前です。生まれた時は皆、赤子ですよ」


人間で言えば、十七歳程度の身体を持つヴェガは自分の身体を見下ろしながら言う。


実年齢もまだ二十歳未満であり、外見年齢とそう変わらない。


「吸血鬼の本質は魂ですから。肉体は魂に引き摺られ、形を変えます。誕生して約十年程で完全に魂と同じ形となるのです」


「…つまり、十歳くらいの頃にはもうその身体だったのか?」


「そうです。そして、以後何年経とうと姿が変わることはないでしょう」


吸血鬼の本質は魂である。


肉体はその付属品に過ぎず、魂さえ無事ならどれだけ損傷しても修復できる。


魂の状態によって肉体は姿を変え、魂が失われた時、灰と成って消える。


『変身能力』を操るルーセットとしては分かり切っていたことだったが、かなり興味深い話だった。


人間上がりの吸血鬼とは根本的に異なる純血。


その秘密、神秘を解き明かすことが出来ればルーセットの『夢』の実現に…


「何、ぎらついた目をしているんですか」


「…ん? いや、ゴメンゴメン。不死の研究者としては、興味が引かれてね」


不審そうなヴェガにルーセットは照れたように笑う。


らしくなく真剣な顔をしていたことが恥ずかしくなったのだろう。


「…本当に不老不死になる気なんですか?」


「勿論。それが俺の夢だからな」


テーブルに置かれたメニューを適当に捲りながら、ルーセットは当然のように答えた。


誰に何を言われても、その夢を諦めるつもりがないのだろう。


「…それがどれだけ不可能なことか分かっているのですか?」


「仮に不可能だったとしても、それが夢を諦める理由にはならない」


パタン、とメニューを置いてルーセットは言った。


それが可能だろうと不可能だろうと、ルーセットの目標であることに変わりはないのだ。


今までに成し遂げた者のいないことだろうと、


どれだけ難解なことだろうと、


「叶えられない夢を見てはいけない…なんて道理はない。俺はロマンチストなんだよ」


「………」


驚いたようにヴェガは目を見開いた。


感心するような少し羨むような目でルーセットを見つめる。


その視線に込められた感情に気付き、ルーセットはニヤケな顔を作る。


「惚れた?」


「ッ! だ、誰がですか! この下等!」


ヴェガは顔を真っ赤にして憤慨し、テーブルの上のメニューを投げつけた。


それを笑顔で受け取って、見やすいように大きく開くルーセット。


「さて、いい加減に何か食べようか。君は…」


その時、ルーセットとヴェガの間を弱い風が突き抜けた。


風に乗って辺りに漂うのは、レストランにそぐわない強い臭い。


暗い死と、熱い闘争を思わせる強烈な『血の臭い』だ。


「3番テーブル、お待ちどうさまぁ」


それは異様な程に細身の男だった。


その身体は、最早痩せていると言うよりも、飢えていると表現した方が正確な程。


骨に僅かに肉が付いただけの身体は黒いローブに覆われ、手には木製の槍を握っているが『死神』のような風貌をしている。


「本日のメニューは、串刺し肉と血のワインでーす!」


骸骨の成り損ないは満面の笑みを浮かべて、ルーセットに言う。


その異様な風貌で周囲から注目を浴びながらも、目はずっとルーセットしか見ていない。


「…君は?」


「俺っちはモール! 殺しに来たぜ、蝙蝠の吸血鬼!」


まるで長年の友人に語り掛けるように、


とても楽しそうにモールは告げた。

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