旅行のお守り
友人の親友で、霊感があるというRさんが車で旅行をした時の話をひとつ。
Rさんは学生の時の11月初旬の連休に車で一人で旅行に出かけることになった。もともとは冬になる前にRさんの学校の友達と二人で自動車を使って東北地方の名所の各地を回る計画だった。車の運転を交代しながら高速道路を利用し、A県まで行って戻ってくる予定だったとのこと。
だが、Rさんの友達は急に都合が悪くなってしまったので、Rさんは一人で車を使って旅行をすることになった。ただ、その計画は一人で運転するには時間も距離も厳しいものだったので、一人で車を運転するRさんのことを心配して、お母さんは旅行安全のお守りをもらって来てRさんに渡してくれた。その時はRさん自身はそんなお守りを大げさ過ぎると思っていたらしい。
Rさんは途中でいくつかのポイントを見た後、A県のH山へ向かった。そこでH山の登山まではしなかったが、ふもとにある旧日本軍の雪中行軍での遭難事件の資料施設を訪れた。
そこには生還して治療を受けているゆかた姿の軍人(行軍参加者211名で生還者12名)が椅子に座った写真が壁にかけてあった。ただ、胸から下の部分には目隠しがされていて、見学者が自分の手でめくるように、との注意書きが。そこで目隠しを持ち上げたところ、椅子に座っている生還者たち全員の脚から下が無い写真だった(凍傷の治療のために切除されたらしい)。Rさんはその写真を見てかなり強いショックを受けたとのこと。
一人での長距離運転と資料施設での体験で、どっと疲れがでたRさんは車に戻って運転席に座ると眠り込んでしまっていた。
ドンドンドンッ… ドンドンドンッ…
どのくらい時間がたっただろうか、Rさんは何か物を叩く音で目を覚まされた。
“な、なんなんだ…?”
音のする方を見ると、雪中行軍の装備をした兵隊が車内を覗きこんでいる。そして外から車のガラスを叩きながら何かを話しかけてきている…
その時、うっすらと車のガラスには雪が積もっていたので、どうやらRさんを起こそうとしているようだった。
“まだ暗くなる前だぞ…?”
恐怖で口も体も動かせなかったRさんだったが、雪が降るなか必死に自分を起こしてくれようとしているらしい兵隊にはお礼がしたい気持ちになっていた。その時、直感的に母親がくれた旅行安全のお守りのことを思い出した。
「あ、ありがとうございます… こ、これからの お、お出かけには気を付けて…」
なんとか車のガラス窓を開けて、Rさんはお守りを取り出して声にならない声でその兵隊に手渡すとすぐに車を発進させた。その場から離れると、いつの間にか雪はやんでいた。
翌日Rさんは宿を出ると、気が付いたら再び遭難事件の資料施設を訪れていた。そのまま館内に入って行き、引き寄せられるように傷病者たちの展示写真の前に立っていた。
“昨日は気づかなかったけど、車の窓を叩いていた人がいる…”
傷病者たちの写真の中に、昨日車のところに来ていた兵隊の顔があるので驚いていたところ、隣にいた見学者が目隠しを持ち上げた。
すると、その時に昨日車のガラスを叩いてくれた兵隊だけ脚部が大丈夫なままの姿で写真に写っていたのを見つけたとのこと。




