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我々は聖女を召喚したはずなのに。「主よ、ズっ友とはなんですか!?」  作者: tomato.nit
第四章 平成とは何ですか?

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第21話 神様、変身とは何ですか


 たまちゃんが生まれて二日目の朝も、神官長は測定具を持ち込んでいた。


 机の上へ小さな水晶や針のついた盤を並べ、たまちゃんの背へ手をかざす。


「少しだけ動かないでください。すぐに終わりますから」


 たまちゃんは神官長の袖へ前脚を掛け、そのまま体重を後ろへ預けた。


 袖が引かれる。


 神官長が腕を戻すと、たまちゃんもついてくる。


「それでは測れません」


 もう一度手を伸ばしたところで、今度は袖口を噛まれた。


「神官長さん、完全に遊ばれてんじゃん」


 長椅子でけーたいを見ていたミカ様が笑う。


「こちらの言葉を理解しているかもしれません。繰り返し伝えれば、いずれ協力してくれるでしょう」


「分かってて引っ張ってんじゃないの。それ」


 神官長は答えず、噛まれた袖をたまちゃんの口から外した。


 その隣では、ノアとエマが細長い木片を二枚、紐で繋いでいた。


 昨夜見せてもらった弟君との写真が、よほど羨ましかったらしい。


 開けば二つに折れ、閉じれば小さな箱のようになる。


 ノアはそれを片手で開き、内側を何度か指で押した。


「変身!」


 腰の横へ構えたが、何も起こらない。


 興味を失ったたまちゃんが近づき、木片の角へ噛みつく。


「違うって。たまちゃんが変身するんじゃないから」


「ちょっと、貸してみ?」


 ミカ様は長椅子から身体を起こすと、ノアから木片を受け取った。


 一度閉じ、手首を返して開く。


 内側を三度押し、最後に親指を滑らせながら身体の横へ構えた。


「こうやって、変身」


 慣れた所作だった。


 ノアがすぐに同じ構えを真似する。


「何番を押したの?」


「あんま覚えてないんだよね。三つくらい押してみ?」


「数字が違ったら変身できないんじゃない?」


「やっぱ、男の子はそういうとこ、こだわるんだねえ。どこでも一緒か」


 エマは細く切った紙を木片の隙間へ差し込み、勢いよく引き抜いた。


「カードも使うんだよね?」


「なんかそんなんもあった気がするんだけどなー」


 ミカ様も同じように紙を滑らせる。


 ノアは木片と紙を見比べた。


「数字を押すのと、カードを使うの、どっちなの?」


「だから、あんま詳しくないんだって。両方使えばいいじゃん」


 測定具を片づけていた神官長の手が止まった。


「別の道具を、一緒に使うのですか」


「子供の遊びなんて、そんなもんじゃないの? 変身したり、カードをがちゃがちゃしたり」


「その遊びに決まりはないのですか」


「やりたいようにやればいいじゃん」


 ミカ様はけーたいへ視線を戻し、画面を何度か払った。


「あった」


 ノアとエマが両側から覗き込む。


 画面には、今より少し幼いミカ様と、小さな男の子が映っていた。


 男の子は銀色と赤の玩具を腰の前へ構え、肩から布を垂らしたミカ様は、両手を大きく広げている。


「ミカ様は、何をしているのですか」


 聖典を読んでいたリナも顔を寄せた。


「敵役」


「悪い役だったのですか?」


「毎回そうだよ。うちはいっつも怪人とか怪獣とか、そんなんばっか」


 次の写真には、机の上へ並べられた玩具が写っている。


 携帯電話に似たもの。


 腕へ巻くもの。


 札を通すための溝がついたもの。


 ノアは、その一つ一つへ指を当てた。


「これ全部、変身する道具?」


「たぶん。誕生日とかで増えるんだよね」


「僕も変身したい」


 ノアが顔を上げる。


 ミカ様は少しも迷わなかった。


「いいじゃん。プリで落書きしたらできんじゃね?」


「お待ちください」


 神官長は測定具を抱えたまま、二人の間へ入った。


「プリクラで描いたものが現実へ反映されます」


「だから変身できるってことでしょ?」


「しかし、危険がないとは言えません」


「武器とか描かなきゃへーきだって」


 ミカ様はノアの背を押して歩き出した。


 神官長も、そのまま測定具を抱えてついていく。


 たまちゃんも神官長の袖を追った。




 プリクラの部屋で、ノアの肖像を撮る。


 出来上がった紙を机へ置き、ミカ様はけーたいの写真と見比べながら、細い筆を走らせた。


 目元には赤い線。


 胸には大きな印。


 腕と脚には黒と銀の装甲を重ね、腰には携帯電話に似た四角い道具を描く。


「こんな感じだったっけ」


「写真と、かなり違いませんか」


 神官長が横から見る。


「アレンジだって。というか、元の形よく知らんし」


「元となる物語すら分からないのに、さらに変更を加えるのですか」


「こっちの方が強そうだからいいんだって」


 ミカ様が胸の印へ赤を足し、筆を置いた。


 肖像から銀色の光が溢れる。


 光はノアの全身を包み、服の上へ黒い装甲を重ねていった。


 胸と手足には赤い線が走り、顔には二枚の赤い板が浮かぶ。


 腰にも、肖像に描かれた四角い装具が収まっていた。


「変身した!」


 ノアは自分の両腕を見回し、そのまま腰の装具へ手を伸ばした。


「これ、開くの?」


 引いても外れない。


 内側に指を差し込もうとすると、神官長が手を押さえた。


「用途の分からないものを操作しないでください」


「見た目しか描いてないから。たぶん飾りなんじゃない?」


 神官長はノアの腰から静かに手を離した。


「今後、たぶんという言葉で魔法を使わないでください」


 たまちゃんが、ノアの足元へ寄ってきた。


 赤い光を前脚で何度か触り、装甲へよじ登ろうとする。


「一緒にやる?」


 ノアが抱き上げると、たまちゃんは胸の装甲へ爪を立てた。


「たまちゃんも変身させようよ」


「おそろいとか、絶対かわいいじゃん」


 ミカ様は、肖像の端へたまちゃんを描き足した。


 小さな装甲を身体へ巻き、額にはノアと同じ赤い印。


 背中からは、翼らしい二本の線が伸びている。


「飛ばすおつもりですか」


「見た目だけだって。さすがにこれじゃ飛べないでしょ」


 肖像が光る。


 たまちゃんの身体へ銀色の小さな装甲が現れ、背中から二枚の光が開いた。


 たまちゃんは何かが増えたことに気づき、身体を曲げて背中を見ようとした。


 見えないらしく、反対へ回る。


 そのまま何度も回り、足をもつれさせて床へ転がった。


「かわいっ!」


 ミカ様が抱き起こす。


 たまちゃんは腕の中でも背中を見ようとしていた。


「飛べないの?」


 ノアが翼へ触れる。


 指が光をすり抜けた。


「線しか描いてないしね」


 神官長は二人へ手をかざし、しばらく魔力の流れを調べていた。


「装甲には多少の防護があるようです。それ以外の機能は確認できません」


「じゃあ、写真撮ろ」


 ミカ様はけーたいを構えた。


 ノアがたまちゃんを胸の前へ抱き、足を開いて立つ。


「もっと強そうな顔して」


「こう?」


「怖いっていうか、お腹痛そう」


「じゃあどうすんの?」


「そこは、ノリで」


 撮れた写真には、妙に真剣な顔をしたノアと、腕の中から逃げようとしているたまちゃんが写っていた。




 夜。


 たまちゃんは元の姿へ戻り、ミカ様の膝の上で眠っていた。


 ミカ様はけーたいの画面を送りながら、昼間に見つけた弟君の写真を眺めている。


 向かいでは、神官長が今日の記録を書いていた。


 神託石が光る。


 ――ミカ。


「なに?」


 ――あの少年も、ノアのように変身したのか。


「しないって。遊びだから」


 神託石の光が少し弱くなった。


 ――だが、こちらではできた。


「魔法なんだから、それぐらいできるっしょ」


 机の端にあった、ノアの木製の玩具が浮かび上がる。


 紐で繋がれた木片が閉じ、すぐに開いた。


 内側へ赤い数字が三つ浮かぶ。


「え。神ちゃん、何してんの?」


 数字から伸びた赤い光が、眠っているたまちゃんへ向かった。


 神官長が立ち上がるのと、光が消えるのはほぼ同時だった。


 木片が机の上へ落ちる。


 たまちゃんは耳を一度動かしただけで、眠ったままだった。


 ――何かが足りない。


「もしかして、真面目に再現しようとしてる?」


「理解していないものを試すのは、おやめください」


 神官長は椅子へ戻らず、神託石を見上げている。


 しばらく白百合の間は静かだった。


 やがて、今度は弱い光が落ちる。


 ――私は、平成をよく知らない。


「うちだってそんなに知ってるわけじゃないんだから、神ちゃんが知らないのは当たり前じゃん」


 ――もっと知りたい。


「主よ。好奇心はほどほどにしてください」


 神官長がすぐに言った。


 主は答えず、ミカ様のけーたいへ細い光を落とした。


 画面の中では、弟君が玩具を構え、その向こうでミカ様が大きく腕を広げている。


 ――このミカは、楽しそうだ。


 ミカ様の指が止まった。


「まあね。毎回敵だったけど」


 ――そうか。


 神託石の光は消えなかった。


 ミカ様は画面を見たあと、膝の上のたまちゃんを撫でる。


「変なの作んないようにね」


 ――分かった。


 神官長は、まだ立っていた。


「今の返答を、信用してよいのでしょうか」


「うちらはどうしようもないから、心配しても意味なくない?」


「……主が分かったと仰った後ほど、警戒が必要なのです」


 机の上には、明日の誕生会で使うプリクラとカラオケ、それから撮影の順番まで書かれた予定表が置かれていた。


 神託石の光は、夜が更けても時々けーたいの画面へ落ちていた。


### 記録二十一 変身について


 変身とは、物語の登場人物が道具を用いて姿を変え、特別な力を得ることである。


 ミカ様の弟君は、そのような物語を好んでいたらしい。


 遊ぶ際には、別の物語に登場する道具も一緒に使っていた。


 ミカ様によれば、


「色々できた方が面白いんじゃないの?」


 とのことである。


 本日は、プリクラによってノアとたまちゃんの姿が変わった。


 たまちゃんには翼も生えた。


 飛ばなかった。


 主は、物語の中にしかいない戦士も、この世界なら作れると考えておられる。


 神官長は否定している。


 今夜も、神託石は光っている。


 明日は、たまちゃんの誕生会である。


 関係がないことを願う。


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