表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我々は聖女を召喚したはずなのに。「主よ、ズっ友とはなんですか!?」  作者: tomato.nit
第四章 平成とは何ですか?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/22

第20話 神様、たまごっちとは何ですか


 カラオケが神聖術になった翌朝。


 神官長は机に紙を広げていた。


「平成と魔法の相性について、確認する必要があります」


「えー、まだやんの?」


「こうまで重なると、もう偶然では片付けられないのです」


 ミカ様が机の上を見る。


「偶然じゃないのは、神ちゃんが認めてるから別にいいんじゃない?」


「尚更です。今回は、もう少し安全なものを選びます」


「安全って?」


「現実を変えない。物を飛ばさない。魔法も起こらない。これが最低限です」


「そんなの、やる前に分かんなくない?」


 神官長の手が止まった。


 ミカ様は椅子に座ったまま、しばらく考えていた。


 伸びをしたり、腕を組んだり。


 あ、欠伸。本当に考えているのだろうか。


「じゃあ、たまごっちとか?」


 目を擦りながらミカ様はそんなことを言う。


 白百合の間から光が差した。


 ――何をするものだ?


「育てんの」


 ――何を?


「だから、たまごっち」


 神官長が顔を上げた。


「それは生き物なのですか?」


「うん。ゲームの中の話だから、これならいけるっしょ」


「……なるほど」


 神官長は紙に何かを書き加えた。


「それなら、現実に干渉することはないと」


「当たり前じゃん」


 この時、誰も止めなかった。


 なぜ、大丈夫だと思ったのだろう。


     


「その生き物は、どのような姿をしているのですか」


「あんまり覚えてないんだよねー」


 ミカ様の前には紙と筆が置かれていた。


「そ、育てていたのでは?」


「種類いっぱいあったし。昔だし」


「何か一つでも構いません。覚えておられませんか?」


「適当でもいい?」


「参考にするだけですので、大丈夫かと」


 ミカ様が筆を取った。


 丸を描く。


 手足らしき線を足す。


 頭の横に何かをつけ、尻尾まで描いた。


 目は点が二つ。


「こんなん」


 神官長が紙を見た。


「これは何の生物ですか」


「だから、たまごっちだって」


「いえ、その、何か元になった生物などはいないのでしょうか」


「えー、知らんし」


 ミカ様は紙を引き寄せた。


「でも、かわいくない?」


 その日の午後。


 魔物図鑑が届いた。


「なにこれ?」


「参考になるかと思いまして」


 ミカ様が開く。


 一頁目には、大きな牙を持つ獣が載っていた。


 頁をめくる。


 目が多い。


 さらにめくる。


 虫だった。


 ミカ様は図鑑を閉じた。


「まじで、無理」


「まだ数頁しか見ていませんよ」


「こんなん育てたくないって。てかグロいって」


「育てるわけではありません」


「じゃあ、見る意味なくない?」


 ミカ様は自分の絵を図鑑の上へ置いた。


「これでいいじゃん」


「少なくとも、既知の魔物ではありません」


「そりゃそうでしょ……」


 神官長は図鑑を閉じた。


     


 魔法具は、その日のうちに形になった。


 両手に収まるほどの卵型。


 中央には小さな水晶板があり、その下に三つの印が並んでいる。


「うわ。それっぽい」


 ミカ様が持ち上げた。


「この三つは、これで合っていますか」


「ご飯と、遊ぶのと……あと世話とかするんだよね、確か」


 神官長が水晶板を見る。


「これは、どのように使うのですか」


「このボタン押して、やってほしいことをする感じだったかな。そしたら進化すんの」


 神官長が黙った。


「完成形が分からないのですが」


「育ててからのお楽しみでしょ。それは」


 神託石が光った。


 ――とりあえず、やってみよう。


「主よ」


「神ちゃんもやりたいって」


「主には、もう少し慎重になっていただきたいのです」


 起動した。


 水晶板が光る。


 何も出なかった。


 ミカ様がしばらく待ち、卵型の魔法具を持ち上げる。


「失敗?」


「術式は動いています。ただ、何も表示されていません」


「でも、いないじゃん」


「やはり、対象そのものが曖昧では――」


 こん。


 音がした。


 もう一度。


 こん。


 机の端に両手で抱えるほどの大きさの卵が現れた。


 ミカ様が魔法具と見比べる。


「これ、さっきあった?」


 神官長は答えず、卵へ手をかざした。


 少しして、その手を引く。


「……生きています」


 ノアが立ち上がった。


「中に何かいるの?」


「触らないでください」


 魔物図鑑が再び開かれた。


 何度か頁がめくられた。


 別の本も運ばれてきた。


 どれにも載っていなかった。


「神ちゃん」


 ミカ様が白百合の間を見る。


「これ、またやった?」


 ――私はやっていない。


 神官長が神託石を見る。


「では、この卵は何なのですか」


 ――分からない。


「神ちゃんが分かんないの?」


 ――私の術式ではないことは確か。


 それが一番困る。


     


 卵は、だべり場に置かれ、周囲には結界が張られた。


 神官長は隔離を主張していたが、ノアが卵を見ながら言った。


「一人にしとくの?」


「中に何がいるか分からないのですよ」


「でも、生きてんだろ?」


 翌朝から、ノアは卵の前へしゃがむようになった。


「おーい、まだ出てこないのか」


 時々触ろうとして、神官長に止められた。


 エマは菓子を置いた。


「卵は食べませんよ」


「生まれたら食べるかもしれないじゃん」


「その前に腐りますから、自分でお食べなさい」


 次の日には別の菓子に変わっていた。


 リナは聖典を持ってきた。


 だべり場の隅で『白百合聖典やさしい解説』を読んでいると、卵が小さく揺れた。


 声が止まると、卵も止まった。


 リナが続きを読む。


 また揺れた。


「聞こえてるんですかね」


 ミカ様が横へしゃがむ。


「耳ないけどね。中で聞いてるかもね」


「そうだったら、嬉しいです」


 夜になると、老女が布を掛けた。


 神官長は一日に三度来た。


 殻を見て、魔力を測り、紙に書く。


「神官長さん、一番見に来てんじゃん」


「観察です」


「それ、世話っていわない?」


「違います」


 ミカ様は何もしなかった。


「何すりゃいいか分かんないし」


 そう言いながら、通りかかると殻を撫でていった。


 何日か経った朝。


 神官長が卵の前で止まった。


 殻に薄い線が浮かんでいる。


 丸い線。


 短い手足のような線。


 神官長は執務室へ戻ると、一枚の紙を持ってきた。


 ミカ様の絵だった。


「何してんの?」


「まだ、何とも言えません」


「何が?」


「何とも言えないのです」


 紙はそのまま持ち帰った。


     


 翌朝。


「動いてる!」


 ノアの声で、だべり場へ人が集まった。


 卵が揺れていた。


 ひびが入る。


 中から殻が押され、白い欠片が落ちた。


 エマが近づこうとして、神官長に止められる。


 もう一度、殻が割れた。


 隙間から何かが見えた。


 次の瞬間。


 丸いものが、ころんと外へ転がった。


 短い手足。


 頭の横に変な耳。


 小さな尻尾。


 目は点が二つ。


 神官長が無言で部屋を出た。


 戻ってきた手には、ミカ様の絵があった。


 生き物の横へ並べる。


「……同じですね」


「なんで!?」


 ミカ様の声に、生き物が顔を上げた。


 小さく鳴く。


「かわいい」


 ノアがしゃがむ。


 生き物はそちらへ寄っていき、差し出された手の前で止まった。


 次の瞬間には走り出した。


「速っ!」


 ノアが追いかける。


 生き物は机の下を抜け、椅子を回り、エマが置いていた菓子のところで止まった。


「食べる?」


 エマが手を伸ばす。


「待ちなさい!」


 神官長が菓子を取り上げた。


 騒ぎの横で、リナが落ちた聖典を拾う。


 開いた頁を読み始めると、生き物がぴたりと止まった。


 そのままリナの前へ行き、床へ座る。


「……ほんとに聞いてたんだ」


 昼になった。


 神官長がだべり場へ入ってくる。


 生き物が立ち上がった。


 そのまま走っていき、神官長の足元で止まる。


「なぜ私のところへ来るのですか」


「毎日来てたからじゃない?」


 ミカ様が言った。


 神官長は足元を見る。


 生き物も見上げていた。


「神ちゃん」


 ミカ様が神託石を見る。


「ほんとに、これ作ってないんだよね?」


 ――作っていない。


「では、何が起きたのでしょう」


 神官長が尋ねた。


 しばらくして、神託石が光った。


 ――育てるものが、必要だったのかもしれない。


 神官長が卵型の魔法具を見る。


「我々が作ったのは、育てるための仕組みだけです」


 ――そのつもりだ。


「対象がなかったから、魔力が補った?」


 ――おそらく。


「神ちゃんも分かってないじゃん」


 返事はなかった。


 ミカ様は生き物の前へしゃがんだ。


「命って、こんな感じで生えていいの?」


 生き物が近づいてくる。


 ミカ様の靴へ頭をつけた。


「……かわい」


「ミカ様」


「なに?」


「まだ名前をつけないでください」


「なんで?」


「名を与えることで、存在が強く定着する可能性があります。正体も分かっていない以上、今は避けるべきです」


「もう遅くない? みんな普通にかわいがってるし」


「そういう問題ではありません」


 ノアが横から覗き込む。


「でも、呼ぶ時困るだろ」


「名前あった方がいいよ」


 エマも加わった。


 ミカ様が少し考える。


「たまちゃんでよくない?」


「待ってください」


「たまちゃん」


 生き物が振り返った。


 ミカ様がもう一度呼ぶ。


「たまちゃん」


 今度は走ってきた。


「ほら」


 神官長は何も言わなかった。


「誕生会しようよ」


 エマが言った。


 ノアもすぐに乗った。


「いいじゃん。生まれちゃったもんは仕方ない」


「やろやろ」


 ミカ様が立ち上がる。


 神官長も顔を上げた。


「何をするおつもりですか」


「普通に祝うだけだって」


 誰も返事をしなかった。


### 記録二十 たまごっちについて


 たまごっちとは、画面の中にいる生き物を育てる遊びらしい。


 食事を与え、遊び、世話をする。


 育て方によって姿も変わるという。


 今回、それを魔法で再現した。


 画面には何も現れなかった。


 代わりに、本物の卵が現れた。


 主は作っていないと仰った。


 神官長も作っていない。


 他の神官にも覚えはない。


 だが、孵った。


 姿は、ミカ様の描いた絵と同じだった。


 現在は、たまちゃんと呼ばれている。


 神官長は、正式に決まった名前ではないと言っている。


 たまちゃんは呼ぶと来る。


 おそらく、既に名前として認識している。


 明日は誕生会をするらしい。


 ミカ様は、


「普通に祝うだけ」


 と言っていた。


 私は普通という言葉が最近信じられなくなってきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ