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我々は聖女を召喚したはずなのに。「主よ、ズっ友とはなんですか!?」  作者: tomato.nit
第四章 平成とは何ですか?

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第18話 神様、写メとは何ですか


 翌朝。


 ミカ様の部屋から、大きな声が聞こえた。


「神ちゃん!」


 朝の祈祷が始まる少し前だった。


 廊下にいた神官が足を止める。


 私も止まった。


 白百合の間から鐘は鳴っていない。


「神ちゃん、ちょっと来て!」


 主を呼びつける者を、私は他に知らない。


 ちょうど向こうから来た神官長と共に部屋へ向かうと、扉は開いていた。


 ミカ様は寝台の上に座り、小さな銀色の板を両手で持っている。


「何があったのです」


「これ!」


 見覚えがあった。


 ミカ様がこちらの世界へ来た時から持っていた道具である。


 けーたい。


 異界では、離れた者と話し、文字を送り、肖像まで残せるらしい。


 ただし、こちらへ来た時にはすでに動かなくなっていた。


 ミカ様によれば、


「電池切れ」


 とのことだった。


 そのけーたいが光っている。


「ついたんだけど!」


 神官長が画面を覗き込んだ。


「昨日までは動かなかったものですね」


「そう。だから神ちゃん呼んでんじゃん」


 白百合の間から鐘が鳴った。


 ――恋しいと言っていたから。


 ミカ様が黙った。


 手元のけーたいを見る。


「いや……それは、ありがたいけど」


 神官長は別のところを見ていた。


「上部にある三本の印は何ですか」


 ミカ様も画面を見る。


「あ」


 少し間があった。


「アンテナ三本立ってんじゃん」


 神官長がこちらを見る。


 私も見返した。


 昨日聞いた言葉である。


「いや、待って。ここ電波あるわけなくない?」


 神託石が光った。


 ――三本がよいのだろう?


「そういう問題なん?」


 ミカ様は画面を指さした。


「アンテナ立ってても、通信できないと意味ないかんね」


「昨日は、三本になったようなものだと説明されていましたが」


「合ってるけど違うんだよなぁー」


 主は昨日覚えた知識を、かなり素直に実装されたらしい。


 素直すぎる。


 ミカ様はしばらく画面を触っていた。


「うわ」


 声が変わった。


「これ、まだ入ってる」


「何がですか」


「写真だよ、しゃ、し、ん!」


 画面をこちらへ向ける。


 小さな肖像の中で、ミカ様と見知らぬ少女たちが肩を寄せて笑っていた。


「ご友人ですか」


 指が動く。


「うわ、これ懐かし。この時の髪やば」


 次の一枚。


「めっちゃ盛ってるし」


 また次へ送る。


「これ誰が撮ったんだっけ」


 ミカ様は笑っていた。


 何枚か進んだところで、一度だけ指が止まった。


 そのまま、少し長く画面を見る。


 やがて騒ぎを聞きつけたリナとノア、エマまで部屋へ入ってきた。


「これが、ミカ様の世界の肖像ですか」


 リナが横から覗き込む。


「そ。こっちは普通の写真。プリの写真あったかなぁ」


 昨日の出来事を思い出したのだろう。


 神官長の眉が僅かに動いた。


「普通という言葉は、しばらく慎重にお使いください」


「なんで?」


 ミカ様は聞いていなかった。


「せっかくだし、撮ろ」


「何をですか」


「写メ」


 神官長が黙った。


 また新しい言葉が増えた。


「写真撮るだけだって。今度はほんとに普通のやつ」


「昨日も似たような説明を聞いた気がしますが」


「今回は大丈夫っしょ。撮るだけなんだし」


 神官長はまだ何か言いたそうだったが、ミカ様はすでに皆を並ばせていた。


 昨日と同じ五人である。


「なぜ私まで入るのです」


「昨日も撮ったじゃん。ほら、神官長さんデカいからもうちょい寄って」


「身長は変えられません」


「じゃ、そのままでいいから笑って。はい、チーズ」


 小さな音が鳴った。


 ミカ様が画面を見る。


「撮れた!」


 全員で覗き込む。


 星も王冠もそこには映っていない。


 神官長もいつもの表情のまま。


「普通ですね」


「だからそう言ってるじゃん。うちのことなんだと思ってんの?」


 ミカ様は満足そうに画面を見た。


「これ、向こうの友達に見せたいわ」


 指を動かす。


「見せられるのですか」


 リナが尋ねた。


「メールで送れればね。まあ、無理だと思うけど」


 画面を触っていた指が止まる。


「あ、アドレス残ってる」


 ミカ様はしばらく表示を見ていた。


「アンテナ三本だし、やってみよっかな」


 神官長が白百合の間の方を見る。


 主からの反応はない。


 ミカ様は先ほど撮った写真を選び、何度か画面を押した。


「送信っと」


 何も起こらない。


 全員で待った。


 数秒後、表示が変わる。


「……送信完了」


 ミカ様が画面を見つめる。


「届いたのですか」


「分かんない。返事来ないと」


 しばらく待ったが、けーたいは鳴らなかった。


「ほんとに届いてんのかな、これ」


 誰も答えられない。


「まあ、流石に届く訳ないか」


 ミカ様は画面を戻した。


 少しして、いつもの調子でリナを見る。


「あ。じゃあ、リナに送ってみよ」


「私にですか?」


「近くなら届いたか分かるっしょ」


 神官長が嫌そうな顔をした。


「どこへ送るおつもりなのですか?」


「え、だからリナに」


「それはそうなのですが、リナは何も持っていないのですよ」


「それはそうなんだけど……」


 ミカ様が画面を見て止まった。


「あれ。リナのアドレスあるんだけど」


 異界の文字が並ぶ中に、


 リナ


 と表示されていた。


「いつ登録されたのですか」


「あたしはしてないけど」


 全員で白百合の間を見る。


 神託石が光った。


 ――必要だと思った。


「神ちゃん、勝手に連絡先作ったん?」


 ――便利だろう?


「まあ、便利だけど」


「主よ。便利であればよいというものではありません」


 神官長が額を押さえる。


 ミカ様はすでに先ほどの写真を選んでいた。


「じゃ、送るね」


「私も写っていますが」


「いいじゃん、別に。減るもんじゃないし」


 送信。


 小さな音がした。


 その直後。


 机の上から、花瓶が消えた。


 全員が止まる。


「え」


 リナの前で光が弾けた。


 花の入った花瓶が現れる。


「……何ですか、これは」


 リナが花瓶を見る。


 ミカ様も見る。


 最後に、けーたいの画面を見る。


 先ほど撮った写真の端に、花瓶が写り込んでいた。


 神官長が口を開く。


「送れましたね」


「何が?」


「花瓶が」


「なんで!?」


 神託石が光った。


 ――写っていたから。


「写メは写真を送るの!」


 ――写真には写っていた。


「写ってるもの送るんじゃないよ?」


 神官長はリナの前に現れた花瓶を調べていた。


「間違いなく、先ほどまで机にあったものです。転移したと考えるべきでしょう」


「え、じゃあこれ」


「試さないでください」


 神官長の返事は早かった。


「まだ何も言ってないんだけど」


「顔で分かります」


 ミカ様は少し不満そうだった。


 だが。


 林檎だけは試した。


 撮る。


 送る。


 机から消える。


 リナの前へ現れる。


「すご」


「すごい、ではありません」


 次に椅子へけーたいを向けたところで、神官長が止めた。


 ミカ様は少し考え、今度はノアを見る。


「僕?」


「そこ立ってみて」


「ミカ様」


 神官長の声が低くなった。


「何するの?」


「人間を送ろうとしていますね」


「できんのかなって」


「確認する必要はありません」


 ノアは少し残念そうだった。


「僕、やってみたい」


「ノアもやめてください」


 人間の送信実験は中止された。


 少なくとも、その日は。


     ◇


 神官長は花瓶と林檎を何度も確認していた。


「通常の転移術には座標指定と術式が必要です。当然、相応の魔力も消費します」


「これ、ボタン押しただけだけど」


「だから困っているのです」


 ミカ様がけーたいを持ち上げる。


「神ちゃん」


 ――何だ?


「これ、写メじゃないからね。物まで送るもんじゃないし」


 ――写真を撮って、送った。


「写真だけでいいんだって」


 少し間があった。


 ――違ったのか?


「残念、ハズレ―」


 神官長が神託石を見る。


「主よ。この世界で物体まで転移した理由はお分かりになりますか」


 ――魔力があるからではないか?


「神ちゃんが聞いてどうすんの。作ったの自分でしょ?」


 主にも正確な理由は分からないらしい。


 それが一番困る。


 その日のうちに、けーたいの使用にはいくつかの制限がついた。


 物を写して送る場合は、神官長の許可を得ること。


 人間や生き物が写っている状態では送信しないこと。


 大きな物も送らないこと。


「めっちゃルール増えた」


「当然です。これはすでに、ただのミカ様の知っているけーたいではありません」


「ケータイだって」


「物を転移させる魔道具など、私は知りません」


「うちも知らないから、仲間だね」


 そこについては、意見が一致した。


 夜。


 ミカ様はだべり場でけーたいを眺めていた。


「でも、アンテナ三本なんだよね」


 神託石が光る。


 ――気に入っている。


「神ちゃんが?」


 ――うん。


「そうなんだ」


 ミカ様が少し笑った。


「まあ、充電切れないなら助かるけど」


 神託石が強く光る。


 少し離れたところで書類を読んでいた神官長が、すぐに顔を上げた。


「ミカ様」


「なに?」


「今後、主の前で不用意に機能を褒めないでください」


「なんでよ。また変な事が起こるって?」


 誰も答えなかった。


 昨日も、似たようなことを聞いた気がする。


### 記録十八 写メについて


 写メとは何か。


 ミカ様の世界において、携帯電話で撮影した肖像を、離れた相手へ送る行為を指すらしい。


 本来、送られるのは肖像のみである。


 花瓶は送られない。


 林檎も送られない。


 人間については確認していない。


 今後も確認しない予定である。


 しかし、主が再現した写メでは、肖像に写った物体そのものが送信先へ移動した。


 主によれば、


 ――写っていたから。


 とのことである。


 今回も間違ってはいない。


 やはり、それが困る。


 通常の転移術には、術式と座標指定、それに相応の魔力が必要となる。


 今回使用したものは、


 ミカ様のけーたい。


 そして、


 送信。


 以上である。


 神官長は転移魔法具として管理すべきだと主張している。


 ミカ様は、


「ケータイだって」


 と主張している。


 今のところ、どちらも譲っていない。


 なお。


 現在、ミカ様のけーたいには、リナ、ノア、エマ、神官長、そして私の名前が連絡先として登録されている。


 誰も登録した覚えはない。


 神官長は自身の名前を削除するよう主へ求めた。


 主は、


 ――便利だろう?


 と返された。


 削除はされなかった。


 そのため神官長は、


「私が写っている状態では、絶対に送信しないでください」


 とミカ様へ念を押している。


「分かってるって」


 ミカ様はそう答えていた。


 あの顔は絶対に試す顔だ。私にはわかる。


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