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我々は聖女を召喚したはずなのに。「主よ、ズっ友とはなんですか!?」  作者: tomato.nit
第四章 平成とは何ですか?

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第17話 神様、プリクラとは何ですか


 リナの朗読会から、三日が経った。


 切れたミサンガは、だべり場の壁に飾られている。


 本人は捨てようとしたが、ノアとエマが止めた。


 ミカ様も、


「記念、記念」


 と言った。


 その結果、小さな額に入れられた。


 神官長は、


「聖遺物ではありませんよね?」


 と三度ほど確認していた。


 今のところ、誰も聖遺物とは呼んでいない。


 今後については分からない。


 その日の夜。


 私は記録を整理するため、だべり場の奥にいた。


 ミカ様は長椅子に寝転がり、『白百合聖典 やさしい解説』を顔の上に載せている。


 読んではいない。


 聖典を枕代わりにするのはいかがなものかと思うが、主は何も仰らない。


「暇」


 誰に言ったのかは分からない。


 返事があった。


 ――ミカ。


「ん?」


 ミカ様が聖典をずらした。


 ――元の世界が恋しいか?


 聖典が床へ落ちた。


「え」


 私も顔を上げる。


 白百合の間から、神託石の光が見えた。


「神ちゃん、めっちゃ喋るじゃん」


 確かに。


 以前の主の神託は短かった。


 よい。


 まじ、よい。


 ウケる。


 ズッ友。


 最近では長い言葉も増えていたが、今のように明確な問いを投げかけられることはなかった。


「確かに、以前より神託が明瞭になっておられます」


 入口を見ると、神官長が立っていた。


「まだいたんだ」


「仕事をしておりました。ミカ様とは違います」


「うちは休憩してただけだしぃ」


 神官長は聞かなかったことにして、白百合の間へ向かった。


 我々も後に続く。


「主よ。御力に何か変化があったのでしょうか」


 少し間を置いて、文字が浮かぶ。


 ――ミカのおかげだ。


「うち?」


 ――絆。


 ミカ様が黙った。


「絆ってなに?」


「主の御言葉ですので」


「神官長さんは今ので納得すんの?意味わかるん?」


 神官長は無言で神託石へ近づいた。


「可能性としては、ミカ様が長く主の御言葉を受け取り続けたことで、両者の繋がりが強くなったのかもしれません。以前より、主の御言葉がこちらへ届きやすくなっているのでしょう」


 ミカ様が少し考える。


「アンテナ増えた感じ?」


「何ですか、それは」


「前まで一本だったのが、三本になったみたいな。電波届きやすくなるやつ」


 神託石が光った。


 ――分かりやすい。


「ほら、伝わってんじゃん」


「主よ。今までそのでんぱというのをご存じだったのですか?」


 ――今、知った。


 神官長が目を閉じた。


 最近はあまり見なくなって久しい表情だ。


「やはり、繋がりが強まったことで、ミカ様の知識まで伝わりやすくなっている可能性があります」


「じゃあ、うちの電波拾ってんの?」


「その表現が正しいかは私には分かりません」


 ――アンテナ三本。


 神託石が一度、強く光った。


 そして改めて文字が浮かぶ。


 ――それで、元の世界が恋しいか?


 ミカ様は長椅子へ座り、少し考えた。


「まあ、普通に恋しいっちゃ恋しいけど……」


 軽い答えだった。


「友達いるし、家族もいるし。ケータイないの普通にだるいし、カラオケ行きたいし、ファミレスも行きたいし。プリとかも撮りたいし」


 神託石の光が僅かに揺れた。


 ――帰りたいか?


 今度は、ミカ様もすぐには答えなかった。


「そりゃ、帰れんなら帰りたいけど」


 膝を抱える。


「でも、今すぐ帰せって感じでもないし」


「そうなのですか」


「だって、リナとかノアとかエマとかいるじゃん」


「私もおります」


「え、神官長さんは別に」


 神官長が黙った。


「冗談だってー。そんなに落ち込まないでよ」


 ミカ様が笑う。


「こっちのこと、全部どうでもいいわけじゃないし」


 神託石は静かに光っていた。


 ――そうか。


「うん」


 それだけだった。


 ミカ様が長椅子へ戻ろうとすると、神託石がもう一度光った。


 ――プリとは何だ?


「そんなに気になんの?」


 ミカ様が振り返る。


「プリクラ。友達とかと撮るやつ」


「以前作った肖像とは違うのですか」


「全然違うし。撮って、盛って、落書きして、みんなで交換すんの」


 神官長が眉を寄せた。


「完成した肖像へ、さらに手を加えるのですか」


「そういうもんなの」


 主は違ったらしい。


 ――楽しそうだ。


「楽しいよ。めっちゃ撮ったし」


 ミカ様が笑った。


「まあ、こっちじゃ無理だけどね」


 ――そうか。


 その日の神託は、それで終わった。


     


 翌朝。


 肖像室から悲鳴が聞こえた。


 神官のものである。


 珍しい。


 駆けつけると、以前ミカ様たちの肖像を作った魔法具の前で、一人の神官が立ち尽くしていた。


「どうしました」


「それが……」


 指さした先に、小さな肖像が置かれている。


 一枚ではない。


 同じものが四枚。


 周囲には花と星が飛び、上には文字まで浮いていた。


 ズッ友☆


「……何ですか、これは」


「分かりません」


 後ろから覗き込んだミカ様が止まった。


「え、プリじゃん」


 神官長がゆっくりミカ様を見る。


「昨日、主へ説明されていたものですね」


 白百合の間から鐘が鳴った。


 ――できた。


「作ったの!?」


 ――再現した。


「あんまし説明してないけど、できるんだ」


 ――アンテナ三本。


「それ関係あんの?」


「大いにあると思われます」


 神官長が額を押さえた。


 ミカ様は四枚の肖像を手に取った。


「やば。普通に懐かしいんだけど」


 神託石が強く光った。


 完全に成功したと思っているらしい。


「これ、落書きもできんの?」


 ――できる。


 肖像魔法具の横には、色のついた細い筆まで用意されていた。


「用意よすぎじゃん」


 ミカ様はすぐにリナたちを呼んだ。


 結果。


 ミカ様。


 リナ。


 ノア。


 エマ。


 神官長。


 五人が肖像魔法具の前に並ぶことになった。


「なぜ私まで入る必要があるのです」


「ノリ。神官長さんデカいから、もうちょい詰めて」


「これ以上は狭いのですが」


「じゃあそのままでいいから、はい、笑って」


「必要ありません」


 光が瞬いた。


 数秒後、小さな肖像が四枚出てくる。


「めっちゃプリ!すごっ!」


 ミカ様はすぐに筆を取った。


 リナの周囲には星。


 エマの頭には王冠。


 ノアの横には大きく、


 つよい☆


「本当に強そう!」


 ノアが喜んだ。


 そして、神官長の横には、


 笑って♡


「消してください」


「神官長さん、これ絶対いいって。めっちゃ似合ってっし」


 ミカ様は構わず、自分の周囲にもハートを描いた。


「はい、完成」


 肖像が光った。


 最初に変化したのはエマだった。


 頭の上に、小さな王冠が浮かんでいる。


「何これ!」


 手を伸ばしても触れない。


 リナの周囲には、光る星が舞い始めた。


「え……」


 本人が動くと、星もついていく。


「きれい」


 ノアが言った直後。


 近くにあった長椅子を、片手で持ち上げた。


「うわ!」


「ノア!」


「軽い!」


「下ろしてください!」


 そして。


 全員が神官長を見た。


 神官長は笑っていた。


 満面の笑みだった。


「ミカ様」


 声だけは普段通りである。


「それを消してください」


「めっちゃ笑ってんじゃん!ぷっぷっ、ダメだって、その顔、やばい、お腹いたいっ」


「今すぐ消してください」


 笑顔のまま怒っていた。


 非常に怖い。


 ミカ様が笑いながら文字を消すと、神官長の顔が戻った。


「……戻りました」


「もったいなー」


 ノアの文字を消すと、持ち上げていた長椅子が急に重くなったらしい。慌てて両手で支える。


 エマの王冠も、リナの星も、肖像の装飾を消すと同時に消えた。


 神官長がプリクラを見つめる。


「肖像へ加えた変化が、そのまま本人へ反映されていますな」


「そういうもんじゃないけど」


「本来はどこまで変化するのですか」


「写真に絵書くだけだって。なんにも変わんないよ」


 神官長とミカ様が同時に白百合の間を見た。


「神ちゃん。なんで現実まで盛れてんの?」


 ――盛るものだと言ったから。


「そうだけど、現実まで盛るのは違うんじゃない?」


 少し間があった。


 ――違ったのか?


「うちはそんなん知らんし」


 神官長が神託石を見つめる。


「主よ。こちらの世界でのみ、この現象が起きた理由はお分かりになるのですか」


 ――魔力があるからではないか?


「神ちゃんが聞いてどうすんの。作ったの自分でしょ?」


 主にも正確な理由は分からないらしい。


 それが一番困る。


 神官長は、その日のうちにプリクラの使用を停止した。


 確認すべきことが多いらしい。


「もう触んなくてよくない? 絶対また何か起きるじゃん」


「すでに起きています。だからこそ、原因を確認する必要があるのです」


 神託石が光った。


 ――成功だと思う。


「主よ。成功ではありません」


 ――ミカは喜んだ。


 全員の視線がミカ様へ向いた。


「いやいやいやいや。うちのせいにしないでよ」


 ミカ様は手元の四枚を見る。


 狭そうに並んだ五人。


 神官長だけが笑っていない。


「まあ、プリはちょっと嬉しいけど」


 神託石が強く光った。


 嫌な予感がした。


 ――ミカ。


「なに?」


 ――他にも、恋しいものはあるか?


「いっぱいあるけど?」


「お待ちください」


 神官長の声が響いた。


 ミカ様が振り返る。


「主には、なるべく何も教えないでください」


「なんで?」


 神官長は机の上のプリクラを見た。


「世界が変わります」


「大げさじゃない?」


 神託石が光る。


 ――次も、うまく再現する。


「主もおやめください」


 この時点では、私も少し大げさだと思っていた。


 後に訂正することになる。


### 記録十七 プリクラについて


 プリクラとは何か。


 ミカ様の世界に存在する、小型の肖像を作る文化である。


 複数人で撮影し、装飾や文字を加え、出来上がったものを交換する。


 その際に重要なのが、「盛る」という行為らしい。


 ただし、本来の世界で盛られるのは肖像だけである。


 本人が強くなることはない。


 頭上に王冠も出現しない。


 周囲に星も飛ばない。


 笑顔を強制されることもない。


 こちらの世界でのみ、肖像へ加えた変化が本人へ反映された。


 主によれば、


 ――盛るものだと言ったから。


 とのことである。


 間違ってはいない。


 なお、主の神託は以前より明瞭になっている。


 神官長によれば、ミカ様と主との繋がりが強まったことが原因ではないかと考えられている。


 ミカ様はこれを、


「アンテナが一本から三本になった感じ」


 と表現された。


 主も、


 ――分かりやすい。


 と認められた。


 そのため、現在の仮称は、


 神託感度三本状態。


 である。


 神官長は名称の変更を求めている。


 なお。


 本記録を書いている途中、神官長が突然光り始めた。


 確認すると、保管していたプリクラの隅に、


 かわいい♡


 という文字が追加されていた。


 神官長はミカ様を疑ったが、本人は否定した。


 ノアは、


「僕、字違うよ」


 と言い、エマも知らないという。


 神託石が光った。


 ――盛れた。


 神官長は、その場でプリクラを金庫へ移した。


 主が金庫の中に干渉できないことを切に願う。


第4章スタートです。


4章は全6話。


執筆済みですので、しばしお付き合いください

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