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黒いモノクロな世界と白いカラフルな世界〜世界の色を探して〜  作者: ちぇしゃ


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026-4「スイートポテトのお届け!」イラスト付き

 

 作り方は覚えている。今から使う芋は今日採った芋ではない。先日私がとって、保管してもらっていたものだ。


「切れるか?」

「きっ、れるっ!」


 大きいのはそれだけで切るのが大変だ。手を切らないように包丁を上から下まで持っていく。硬いけれど切った瞬間の断面が好きだ。

 サクサクと心地良い音が響く。


「……」

 

 今ならば緑弥は見ていない。小さく切った芋を一口に入れる。


「……!」


 甘い。とても甘い。けれどこれをスイートポテトにすればさらに甘くなる。もう一口食べようかと思うが、流石にそれはやめておこうと思う。生で食べ過ぎるとよくないらしい。


「……緑弥さん切れたよ!」

「ん、じゃあ鍋に入れて」


 切った芋を鍋の中へと放り込む。熱湯が入ってる為、勢いよく入れた芋のせいでお湯が跳ねる。


「あちっ」

「大丈夫か」

「へぇき」


 グツグツと煮込まれる芋が踊っている。自我がないはずの芋は何処か楽しそうだ。


 

 

 


 

  

「でーきた!」


 オーブンから取り出された芋は、スイートポテトへと姿を変え、輝きながら板に乗っている。


 一口食べて、美味しい事を確認した。やはりこの今は他の材料を混ぜなくても十分に甘い。


「黎翔様にあげてくるねっ!」

「ちょっと待て」


 急いで行こうとする私の足を緑弥は止めた。


「なぁに?」

「黎翔は帰ってきてからでいい。外もも暗くなる。お前一人に外へ出せる訳にはいかない」

「大丈夫! 南葵も連れて行くから!」

「……南葵?」


 私の手には今2人分のスイートポテトが握られている。黎翔と南葵の分だ。南葵とは以前約束をしていた。私の一方的な約束とも言えるけれど、作ったらあげると約束していた。南葵にとっての懐かしい味とは、少し違うかもしれないけれど、約束を守る女だ。


 緑弥の不安そうな気持ちはよく分かる。南葵は私より大きいとはいえ、まだ見た目は子どもだ。それに加えて方向音痴。まっすぐ帰ってこれるか不安なのだろう。


「大丈夫だよ!」


 私の中には不思議と確信があった。『大丈夫』という確信だ。何事もなく帰って来られる。


「じゃあ、行ってくるね!」

「あ、おい!」


 緑弥の言葉を聞かず、料理場を駆け出す。








「南葵みーっけ!」


 不思議と南葵はあっさり見つかった。南葵は庭の鈴蘭が咲いている所にいた。なんとなくここだと思っていた。


「聖女様?」


 南葵がここで何をしていたのかは分からないが、恐らく道に迷っていたのだろう。


「どうした?」

「黎翔様の所行くから着いてきて!」

「……構わない」


 南葵にスイートポテトを渡してしまおうと考えたが、どうせ黎翔にも渡すのだ。向こうで一緒に食べれば良いだろう。


「じゃあ、行こ!」


 南葵の手を掴む事は忘れない。ここで南葵を野放しにすれば、黎翔の元にたどり着くどころではなくなってしまう。


「黎翔の所に何をしに行くんだ?」

「スイートポテトのお届け!」

「!」


 スイートポテト。


 私がその言葉を口にすると、南葵は興味深そうに私の手元へ視線をやった。


「南葵の分もあるよ!」

「……そうか」


 南葵は喜びを隠そうともしない声で頷いた。言葉にせずとも喜んでいるのは分かる。南葵の分も持ってきてよかった。


「聖女様は城の場所が分かるのか」

「分かるよ」


 南葵と一緒にしないで欲しいという言葉を飲み込んで一言で返す。この場所からもうすでに城は見えているのだ。迷う必要がない。

 

 門を出て城へ向かう。


「初めて南葵を見たのもここだったな」

「そうなのか?」

「うん。お城に向かって歩いてる時に、振り返ったら南葵がいたの」


 思い返せば懐かしい。あれは一体いつの事だっただろうか。この世界に来て何日目の事だっただろうか。


 楽しい時こそ時間が経つのは早いと言うけれども、私がここに来てもうすぐで1ヶ月が経とうとしている。ここに来た時は寒かったけれど、時々暖かい日もある秋だった。今ではもうすっかり風が冷たくなっている。


「そういえば南葵はあの時何してたの?」

「さあ? 研究室にでも向かっていたんじゃないか?」


 自分でもなぜそこを通っていたのか分からない。つまりそれは間違いなく迷子だろう。けれども必要以上に突っ込まない。


「そうなんだ」


 南葵と手をつなぐと、腕が疲れない。腕をそれほど高くあげなくても良いから繋ぎやすい。霙や黎翔だと、どうしても私は上に向かって手を伸ばさなければならない。これが身長差の弊害だ。その点に関しては南葵は良い。

 

「お前って本当にすごいな」

「何が?」

「全く道に迷わねえだろ」


 迷う事だってあるけれど、南葵に比べれば確かに迷わない。南葵みたいに見えている目的地の直前で逆方向に曲がったりしない。やはり頭が良い人はどこかしら抜けているものなのだ。南葵を見ていると馬鹿と天才は紙一重という言葉が頭に浮かぶ。


「…………この世界で迷う事はないのか」

「んー、行った事のない所では迷っちゃうかもしれないけれど、一度行った所なら大丈夫」

  

 大丈夫ではない時もあるかもしれないけど、南葵の手前、見栄を張っておこうと思う。


「……俺は研究者だ」

「急にどうしたの。知ってるよ?」 

「聖女様について調べている」 

「それも聞いたよ」

「…………お前、俺に聖女について教えろと言わないよな」

「……」


 昨日聞いた、聖女の力の事だけでは不満だったのだろうか。私なりに分からない事は聞いているつもりだったけど彼にとってはまだまだ足りなかったのだろうか。 

 南葵は探るような目で私を見てくる。この国では彼以外に見かけない銀色の瞳。全てを見透かすような鋭い瞳は、私の本心も分かっているかのようだ。


「……お前、帰りたいと思わないのか」

「……」


 帰りたい、か。そう聞かれて戸惑う。なぜ、『今更』そんな事を聞くのだろうか。『帰りたい』たとえ今それを言ったとして、叶うはずもない。私はここに送り込んだのはこの国の彼らではなく、神だ。元の世界に戻る魔法などありはしないのに、そのような非現実的な希望を伝えても困るだけだ。


 何より


「思わない」


 この世界にあふれてる色を私はまだ見尽くしていない。


「この世界はとっても楽しいから」


 この国の美しさを――、この世界の美しさを私はまだ見尽くしていない。


「聖女については知りたいと思う。でも、正直何を聞いたらいいのか分からないの」

「……」

「……南葵はどうして聖女について調べようと思ったの?」


 質問されると思っていなかったのか、南葵は数度瞬きをし、口を開いた。


「俺は、……俺があの時出会った聖女様について知りたいと思ったから」


 その聖女様というのは、南葵が会いたがっていた聖女様の事だろう。私に似ていたという。

  

「……南葵はどうして私がこの国に来るって知っていたの?」

「誰が来るとまでは知らなかった。ただ聖女様が、空の国に小さな聖女様が来ると言っていた」


 その聖女様の力というのは予言か何かだったのだろうか。何年前の話かは分からないが、場所まで正確に予言出来るなど相当な力を持っていたに違いない。

 

「私も……、会ってみたかったな」


 投げが憧れたその聖女というものに私も会ってみたかった。きっと聖女とはどういう存在なのか彼女に聞けば分かったのだろう。

 

「俺ももう一度会いたい。その為に聖女様の研究をしている」


 南葵の瞳はとても力強かった。格好良かった。私はそんな南葵の瞳に憧れた。


 


 

 


 

「どうした……」


 黎翔の執務室に入ると、目の下に隈を蓄えた黎翔が出迎えた。先日のお芋パーティーの時はこれほどまでの目元をしていなかった。一体この数日で何があったというのだろうか。


「お仕事忙しいの?」

「あぁ……」


 野暮な事を聞いた。黎翔の目元の隈と部屋に散乱している書類を見れば一目瞭然ではないか。本来ならばここで「手伝います」というセリフでも出てくれば良いのだが、いかんせん私は文字が読めない。


 南葵ならば手伝ってくれるだろうかと視線を向けるが、南葵は我関せずと言ったようにソファに座って、自ら3人分の紅茶を入れていた。私の分は勿論ミルクティー。そして視線を私の手元にやっている。

 

「あ、あのね黎翔様。スイートポテト作って持ってきたの。一緒に食べよ」


 視界の端で南葵が満足そうに頷いているのを見かけたが、別に南葵の為にこのセリフを言った訳ではない。

 黎翔は大人しくソファに座り背もたれに背を預けていた。私も黎翔の横へ座る。

 

「いただこう」


 黎翔がその言葉をかける前に南葵はすでに一口目を飲み込んでいた。本当にスイートポテトが好きなんだなと感じる。南葵に視線を向けている間に黎翔も一口目をかじり終わっていた。

 

「やはりうまいな」


 疲れ切った黎翔の顔に微笑みが浮かんだ事に安心する。


「今はどんなお仕事が忙しいの?」

「太陽の聖女様が来訪する件に関してだな」


 やはりだ。霙と白鴎が忙しいのに黎翔が忙しくない訳がないのだ。だからと言って私に出来る事もない。


「太陽の国から聖女様宛に手紙が届いていたぞ」


 黎翔が引き出しから一通の手紙を取り出してくる。開封済みのその手紙は、正式な手紙というよりも個人的な手紙のようだ。私宛と言いながらも開封済みであるという理由は間違いなく黎翔が開けたからであろう。


「んーと、」


 封筒から取り出し手紙を眺めると、それらは全て日本語で書かれている事が分かった。綺麗だけどどこか可愛らしい。女性の文字を思わせる。


「空の国の聖女様へ

 

 初めまして。だんだんと寒くなり風も冷たくなってきましたね。元気にしていますか。

 先日の披露会では我が国の国王である炎藤がお世話になりました。聖女様の事をとても可愛らしいとお褒めになっておりました。

 日本とは異なる所もあり戸惑う事もあると思いますが、この世界はとても素晴らしい所です。

 是非お会い出来るのを楽しみにしています。


 太陽の国の聖女より」


 優しそうな文面に彼女自身も優しそう人だと安堵する。それにしても私は手紙に対する作法が分からないから何とも言えないが彼女は国王である炎藤を呼び捨て出来るような仲なのだろうか。それとも手紙ではそのように書かなくてはならないのだろうか。


 個人的な手紙というのは奥が深い。

  

「返事を書くか?」

「ふえ?」


 返事と聞いてドキリとする。たった今手紙とは奥が深いと思い直したばかりだというのに。


「文字書けないもん……」

「南葵に手本を書いてもらえ」

「俺は構わない」


 手本があっても下手くそだというのは黎翔もよく存じているはずだ。

 

「やだ」

 

 本来、勉強というものが嫌いなのだ。当然文字を書くのも好きではない。


「この間は書いただろう」

「…………」


 この間書いて大変さを実感したからこそやりたく無い。黎翔も強制させる気はなかったようで、私から断りの言葉が出るとすぐに「そうか」と言って諦めてくれた。けれども南葵はどこか不満のようで、鋭い視線を私に向け続けていた。私はその視線に気がつかないふりをした。




 





「帰るぞ」


 スイートポテトを食べ終わった黎翔は、仕事をする気分ではなくなったようで、帰り支度を始めた。

 

「黎翔様のお仕事、邪魔しちゃった?」

「いや、切り上げ時が分からなかっただけだ」


 相変わらず疲れた表情はしているものの、私たちは部屋に入った瞬間の疲れた表情と比べれば幾分かましになっている。本日の仕事は終了したという事で気分も晴れたのだろうか。

 

「そう言えば鶴羽さんは?」


 ここに来てからいつも黎翔と共にいる鶴羽を見なかった。彼がいない事で一層仕事が立ち込んでいるのだろう。

 

「別件の仕事を任せている」 


 誰か彼の仕事を手伝える人はいないのだろうか。この世界の事を知っていてこの国の事を知っていて文字が書ける人。読める人。

 どうして私はこの国の人間ではないのだろうか。もともと私がこの国の人間ならば、文字改めてを覚える必要も国を知る必要もなかった。そうすれば心置きなく黎翔の手伝いが出来ていたというのに。


「ひょわっ!」


 思考に没頭していたが、急に体が宙に浮く。どうやら黎翔が私を抱き上げたようだ。


「歩けるよ」

「……たまには良いだろう」


 私を甘やかしたいのだろうか。高い場所から見る景色は、ここでないと見られない。



 ああ、それにしても。


 



 とても、良い気分だ。

  








挿絵(By みてみん)

※この画像はAI生成画像です

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