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黒いモノクロな世界と白いカラフルな世界〜世界の色を探して〜  作者: ちぇしゃ


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026-2「……私、何かいけない事した?」


「……どうしたの?」


 白鴎は先ほどの神楽と同じように穴を見つめて絶句していた為、今度こそ虫でも出たのだろうかと穴を覗き込むが、そこには神楽と同様、大きな芋が土の中で眠っていた。


「わぁ! 白鴎さんもおっきな芋だ!!」


 私がそう声をかけても白鴎は全く反応してくれなかった為、神楽達に知らせてやる事にした。

 

「お兄ちゃん、霙さん! 白鴎さんも大きい芋採ったよ」


 私が振り返った時には、神楽と霙はスコップを眺めながら、ゆっくりとした足取りでこちらに近づいてきた。


「これはまた見事だな……」


 霙はもうすでに原因が分かっているのか、諦めたような口調で芋を眺めた。 


「お前やべーな」


 神楽も褒めてるのか分からない言葉を私に投げかけた。


「……私、何かいけない事した?」


 これだけ引かれたり呆れられたりしたら、不安にななるというものだ。私自身、意図したしたものではないとはいえ、彼らはこの大きなもの原因が私だという事をほぼ確信してような口ぶりだ。大きい芋が取れた事は良い事のように思えるが、そうではないのだろうか。


「そういう訳ではない。凄すぎて言葉が出ないだけだ」


 優しい霙の言葉が本心かは分からないが、あの神楽も同意をするように頷いていたのだから、霙と同意見なのだろう。


 すごいと言われても私が何かをしている自覚がないから何とも言えない。けれども、何もしていないし何もしなくても良いのだろう。気にせずに芋掘り進める事にした。


「おぉーい、白鴎さーん」


 今だ固まっている白鴎に声をかけるが、反応は全くなかった。そのうち気がつくだろうと思い、芋を掘り続ける事にした。急がなければ今日中に終わらない。


 そして白鴎は気がつけば、私と少し離れた所で芋を掘り進めていた。






 毎回とはいかないが、神楽と白鴎が掘り進めていると時折大きな芋が現れるようになった。確率としては10回1回ほど。それでも今まではそんな事はなかったらしい。量にしても、昨年度よりもだいぶ多いらしい。どうやら今年は豊作のようだ。

 

「霙さんと白鴎さんって忙しいよね」


 霙と白鴎とこんなにもゆっくり過ごすのは久しぶりだ。果たしてこの状況がゆっくりかは分からないが、それでも長い時間を共に過ごせている。


 だからこそ、その思いが口からこぼれてしまった。

 

「……すまない。寂しい思いをさせていたか?」

「えっ? ……ううん! 大丈夫!」


 全く寂しくないと言えば嘘になるが、毎朝会えているし、話もしてくれる。夜になれば必ず会いに来てくれる。それだけで十分だ。責めたつもりはない。謝らせたかった訳ではない。

 私は15歳だから一人で過ごしたとしても、寂しくはない。時間を潰すのに困る事はあるが、霙と白鴎が私に多くのおもちゃを与えてくれている。放置をされてる訳ではない。


「そういえばあまり一緒に過ごせていないな。…………どうも、幼子……、女児と接した記憶がなく、距離感が分からない」


 そうか。この世界で子どもは少ないと言っていた。幼子と接した記憶など無いに等しいに違いない。ましてや、寿命が長い彼らに、子どもの頃を思い出せと言っても無理な話だろう。


 普通の子どもはどうなのだろう。普段から大人と過ごすものなのか。それとも1人で過ごすものなのか。私の小さい頃は、…………、思い出そうとして、やめた。淋しくなりそうだから。


「この世界、とっても楽しいから大丈夫だよ!」


 言いようによっては、一緒にいなくても良いと突き放したように聞こえるかもしれないが、そのつもりはない。そばにいてくれれば、それは嬉しい。けれども無理をしてまで一緒にいてもらう必要はない。


 無理をして一緒にいようとすればそれは重荷になる。そうはなりたくない。


「ただ、ね。霙さんと白鴎さん忙しそうだから、大丈夫かなって……」


 きっと大人達は皆、忙しいのだろう。私にはそう見えないだけで。


 芋にスコップが、突き刺さる。少し、口に出した事を後悔した。どう言葉を紡いでも、2人を責めたような口調になってしまう。


 私は、寂しいのだろうか。

 

「ごめんね、聖女様を蔑ろにしていた訳では無いんだ。ただ、…………仕事があるのが嬉しくて」


 白鴎はポツリとワーカーホリックのような言葉を漏らす。


「仕事があるのが嬉しいの?」


 ここでは仕事をしているのが普通ではないのか。寧ろ仕事をしていた所に私というイレギュラーの存在が来て、余計に2人を忙しくさせてしまったのではないだろうか。


「私達は、聖女様が来るまで、殆ど仕事が無かった。聖女様は何時現れるか分からない。そんな状況で私たちはずっとここにいた」

「……?」


 私がいなければ彼らに仕事がない。つまり彼らの仕事は私に関する事が主という事だろうか。


「私たちは聖女様がいらっしゃるという啓示を受けてここに居る。だからこそ聖女様がいらっしゃる為に環境を整えたりはするが、それしか出来なかった。聖女様が来た事で、ようやく私たちには役割が与えられた」

「だから、それが嬉しくて仕事に打ち込ん出来たんだけど、…………寂しい思いをさせてごめんね」


 はたして私のこの中に燻る想いが、寂しさかは分からない。そして私はこの気持ちの紛らわせ方が分からない。


 分からないからこそ、南葵や神楽など、歳の近いものと、関わろうとしたのか。 


「えっと、ね。大丈夫なの」


 これは決して強がりなんかではない。


「一緒にいるって分かってるから大丈夫。私の事どうでもいいと思ってる訳じゃないって、ちゃんと分かってるの。だから本当に大丈夫なの」


 それは、信頼。愛情。彼らの気持ちがどうかは分からないが、私が一方的に彼らのそれを受け取ってるだけだ。

 

「それにね、ここの皆が働いてるの、凄くかっこいいと思ってるから。お兄ちゃんは働いてる所、あんまり見た事ないけど」

「……依頼があれば働いてるっつーの!」

「そぉなの?」

「そうだよ!」


 いつもこの畑にいるから、てっきり庭師に職業を変更したのかと思っていた。失礼な事を言ってしまった。

  

「本当に今まで通りで大丈夫なの。寂しかったらちゃんと言うから」


 大きな芋が、姿を現した。真ん中に少しだけ傷がある。


 きっと私は不安なのだ。寂しいのではなく自分が何をしたらよいか分からず不安になっている。自分を客観視してみると理由は単純だ。


「その時は必ず言ってくれ」

「うん!」


 傷ついた芋も、美味しく食べられる。半分に割れた訳でもない。スイートポテトにしたら、全てが小さく砕けるから傷ついた事すら分からない。


「霙さん、お芋取って」

「ああ」


 芋は、霙によって優しく抱きかかえられた。









 

「休憩だ」

  

 ようやく半分が終わったあたりで、ここにないはずの緑弥の声が聞こえた。いつのまにか畑に来ていたようだ。彼の手には小さなバスケットと飲み物が握られていた。


 くうぅぅぅぅぅ


 それと同時に私のお腹も悲鳴をあげた。緑弥がやってくれば、条件反射でお腹が鳴るようになってしまったのだろうか。


 緑弥はそれに気づき吹き出すように笑った。


「ふっ、ちゃんと飯も持ってきてるぞ」


 笑いながら手に持っていたバスケットを私の方へと差し出す。


「……ありがとぉ」


 若干の恥ずかしさを覚えつつ、バスケットは受け取る。他の3人も休憩を取る事に異論はないようで、皆私のそばに来て土の上に座った。どこに座ろうかと迷ったが皆に習って土の上に座ろうとする。


「ここに」


 腰の辺りを掴まれたと思えば、あぐらをかいていた霙の足の中に収まった。


「……!」


 まるで本当の家族のようで背中がとても暖かかった。


「霙さん、重たくない?」

「全く」

 

 少し大きくなったとはいえ、まだまだ幼い私の体重は霙にとってそれほどの負担にはならなかったようだ。


「はい、飲み物」


 緑弥から飲み物を受け取った白鴎は、霙の上に座っている私にそれを差し出した。


「ありがとお」


 スッキリとしているりんご水は、甘すぎない。疲れが癒されていく。


 全く疲れていないと思っていたが、いざ座ると体が休まるのを感じ、自分が疲れていたのだと実感する。


「もたれて良い」


 霙がそう言う為、遠慮なく霙の胸に背を預ける事にした。椅子よりもはるかに柔らかい安心感に包まれ、落ち着いた。


「口開けて」


 大人しく口を開けるとサンドイッチが口の中に入ってきた。きゅうりとハムとキャベツだ。白鴎がバスケットを開けて、私の口元までサンドイッチを運ぶ。食べさせてもらう事に申し訳なさを感じつつも、どこか心が温まるその感覚を遠ざける事は出来なかった。サンドイッチを咀嚼し、りんご水を口に含む。


 自分のこの燃費の悪さだけはどうにかならないものかと思う。前より食べないといけない量は増えているし。食べる事は好きだけれどそのうち彼らのように、数日に1食の食事で耐えられる体になるのだろうか。 

 

「そう言えば」

 

 私の頭の上で、霙が思い出したように呟いた。


「もう少し先にはなるが、太陽の聖女様がこの空の国に訪問されるらしい」

「えっ!」 


 太陽の聖女様といえば、太陽の国にとって初めての聖女であり、歌で瘴気を浄化したという。

 聖女という点に関しては私と同じ存在だ。


「太陽の聖女様って国を出ても大丈夫なの?」

「ああ、問題ない。重要なのは聖女様が幸せである事だからな」

「幸せ?」


 あぁ、そうか。聖女は体の中で正気を浄化するだけではなく、災害を抑える力もあるのだった。

 

 そして、思い返せば、太陽の国の国王である炎藤も、『聖女様を連れて遊びに来る』と言っていた。社交辞令だと思っていた為、それを本気にするつもりはなかったが、冗談ではなかったとは。


「1週間ほど滞在される予定にはなっているが、良いか?」

「……?」


 何故私に意見を求めるのだろうか。私が嫌だと言ったらそれは断られるのだろうか。けれども聖女様が来るという事は知らない人たちが1週間この建物に滞在するという事だ。この建物の主として私も顔を出さない訳にはいかないだろう。知らない人が大勢いる場に顔を出すというのは私にとってものすごくハードルは高いが、避けては通れないだろう。断ったとしても、また次に同じような機会は訪れるはずだ。


「楽しみ!」


 ならば、早いうちに済ませておく方が良いだろう。


 何より太陽の聖女という者に興味がある。彼女がもし人格者ならば、話を聞いてみたい。


「ならば、太陽の国へ了承の返事を出しておこう」

 

 白鴎も安心したようにため息を吐いていた。そこでようやく彼らがなぜ最近忙しかったかを理解した。彼らは私が来た事で仕事が出来たという発言をしていた事から、私やこの建物に関わる出来事には全て関与しているのだろう。披露会にしても今回の太陽の国の聖女様の来訪についても。

 黎翔のように大きな出来事に関わっているのだろう。黎翔を思い出した途端、黎翔にもあまり会えていない事に気づく。霙と白鴎と黎翔。彼らの忙しさを比べるつもりはないが、国王である黎翔が、霙と白鴎が関わっている仕事に全く関与していないとは限らない。国の運営をしながら、私の事に関する仕事にまで手を伸ばしているのだろう。


 顔を合わせる機会が増えたら良いとの事でこの建物に住んでもらっているが、果たしてそれは正解だったのだろうか。職場との行き来が彼にとって無駄な時間となっていないだろうか。きちんと体は休まっているだろうか。


 今日の夜に黎翔の元へ訪問してみても良いかもしれない。


 また一口サンドイッチを口に含む。今度は卵のサンドイッチだ。サンドイッチは何を挟んでも美味しい。今度、今日採った芋を挟んでみるのはどうだろうか。さつまいもとチーズのパン。意外と美味しいのではないだろうか。

 心のメモに書き込んで卵を飲み込む。


「美味しかった!」


 食べ終えた頃には、太陽は真上に上がっていた。


「もう少し休憩するか?」


 霙の言葉に頷きたい気持ちはあったが、これ以上休んでしまっては動く気力もなくなってしまうというものだ。


「ううん、頑張ろぉ!」 


 残りの芋を掘りに畑へと向かう。

 

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