026-1「……ちっちゃいね?」
「よぉし、やるぞぉ!」
例の畑の前で仁王立ちをする私。その横には、手のひらサイズのスコップを持った霙と白鴎。そして神楽。南葵も誘ったのだけれど、ここまでたどり着けなかったようだ。本人も「たどり着けたら行く」と言っていたのだから。
「霙さんと白鴎さんまで巻き込んですみません」
神楽は申し訳なさそうな顔で霙と白鴎に謝罪をする。ちなみに私には何もない。寧ろ昨日、「明日来いよ」と誘われたくらいだ。
「いや、普段からお前一人に任せ切りで申し訳ないと思っていた」
「そうそう。寧ろ芋掘りは好きだから、いいよ」
今日集まったのは他でもなく、芋掘りの為だ。普段から私が来ていた畑の芋たちはそろそろ取り頃だそうだ。神楽の予定としてはもう少し眠らせておくつもりだったらしいが、あまり放置しすぎて掘り時を逃すのも良くないとの事だった。畑は一目見て分かるほど広い。私が掘った芋を思い返せばほんの一部でしかない。寧ろ4人で掘るというのも無謀ではないか。
「これ今日中に終わるの?」
「当たり前だろう?」
神楽は当然のように話すが、考えても見てほしい。3人は問題なく芋を掘る事が出来るだろうが私は芋を一人で持ち上げる事すら出来ない非力な人間だ。4人で掘ると言ったが実質3人だろう。
「よし、やるか」
霙はそう言いながら真っ白の服の袖を捲り、しゃがんだ体勢のままスコップを地面に突き立てる。
サクッという土の音が心地良い。それは先日までの私とは比べ物のならない速さで芋を土から起こしていく。
「はやいねっ!」
さすがは大人だ。
「よぉし!」
頑張っている人を見ればやる気が出るものだろう。私も袖を捲り、小さなスコップを地に突き立てる。手でも掘る事が出来るほど土が柔らかい為スコップは簡単に土の中へと入っていく。勢いを出しすぎて芋を突き刺さないようにしなければならない。
掘り始めてから数分もしないうちに土の中から芋の色が見えた。
「あった!」
今はやはり先日と違わず、とても大きい。私の近くで芋を掘っている霙を眺めるが、霙のものとは比べ物にならないほど大きい。やはりこれが聖女補正だろうか。
「……霙さん、お芋採って」
例に違わず、私は芋を土から出してあげる事が出来なかった。霙は私が助けを求めた事を不思議に思いながらも文句を言わず私の掘った土の中を覗き込んだ。
「…………でかいな」
先日の神楽と全く同じ反応を霙も返してくれた。褒められたような気がして思わず仁王立ちで喜ぶ。
「やはり聖女様の力だろうか」
「かもね!」
腕につけているリングに全く変化はないが、何かしらの力が働いている事は間違いないだろう。そうでなければ大きい芋を、偶然私が何度も引き当てているという事だ。そんな奇跡があるだろうか。可能性が全くない訳ではないが。
それから何度も芋を掘り進めていくが、やはりどうしても私の掘った芋は大きい。持ち上げる事が出来ない為、その度に近くにいた霙を呼ぶ事になった。霙は面倒がらず、寧ろ興味深そうに私の芋を持ち上げ続けた。掘った芋は大きな荷車のようなものに入れていくのだが、私と霙はそれすら面倒くさく、次々と掘り進めていく事にしていた。
「…………うわぁ」
霙が芋を掘り当てるより、私が芋を掘ってそれを霙が持ち上げる方が効率的だという事で、霙は途中から私が芋を掘るのを眺めていた。
その一部終始を見ていなかった神楽と白鴎は、遠目から私だけが掘り進め、霙が眺めているという、その光景を不思議に思い、ゆっくりと私たちの方に近づきそして、引いた。
「ナニコレ」
最初に霙が掘ったであろう芋が3つと、その芋一つのおよそ5倍の大きさはあるだろう芋が、数十個そばに積み重なっていた。
「いくら何でも、お前の力ヤバすぎだろ」
神楽は傍にあった芋をまじまじと眺めた。そう言われても、私が掘り進めると、こうなるのだから仕方がない。寧ろ神楽はこれが分かっていて私を芋掘りに誘ったのではないのだろうか。そう伝えると
「分かっちゃいたが、さすがに引いた。いくら何でも凄すぎる」
言葉に出されると多少傷つくが、正直逆の立場だったら私も引く。
「何あんた。聖女の力でも込めて掘ってんのか?」
「……?」
そのような事は考えた事がなかった。チラリと腕輪を見てみるも、最初と全く変化はない。やはりこの腕輪は浄化の力にしか反応しないのだろうか。もしかすると、腕輪が反応していないだけで私の何かしらの聖女の力が働いているのだろうか。
どちらにせよ、その事についてはいくら私が考えたって、答えが出る訳ではない。
「お兄ちゃん、ちょっとスコップ持ってて」
「ん? ああ」
1度くらいは自分の力で芋を土の中から取り出してみたい。そう思って踏ん張りながら芋を掘り起こすけれど、やはり芋はびくともしなかった。見かねた白鴎が、自身のスコップもカグラに預け、一緒に土から芋を掘り出してくれる。芋は当然のように、土から顔を出し、他の芋たちの山に積み重なった。
「やっぱり重たいなぁ。お兄ちゃんスコップありがとう」
「あぁ。…………お前のスコップどっちだっけ?」
神楽の手には同じスコップが3つ握られており、私もどれが先ほどまで使っていたスコップか分からない。
「どれでもいいよ」
白鴎がそういい、神楽からスコップを一つもらう。私も特にこだわりはなかった為、受け取ったスコップで再び掘り始める。私は相変わらず、霙の近くで掘り進める事にし、霙は私が掘り終わりかけた所で交代するようにした。
「うわぁ!!」
芋の姿が見えた為、霙に変わろうと振り向いた瞬間、遠くの方で芋を掘っていた神楽の大きな声が聞こえた。
見た所怪我などはしていないようだが、驚いたように掘った穴を見つめている。
私よりも早く駆け出した霙と白鴎は同じように穴を見て絶句した。
「……どぉしたの?」
緊急事態ではないようだったから、私なりに急いで3人の元まで行く。同じように穴を覗き込むけれど、悲鳴をあげたり絶句したりする意味が全く分からない。そこには何の変哲もないような掘った穴と、先ほどまでと同じような芋がいただけだった。白鴎は驚いたようで先ほど持っていたスコップも地面に落としていた。優しい私はそれを拾ってそっと白鴎の手に握らせた。
「……?」
3人は未だに固まっているが、虫でもいたのだろうか。穴をゆっくりと見渡すけれど、やはりそんな様子は全くない。
「……えっと、どうしたの?」
「……あーそうか。お前はさっきまでこれが普通だったから特に違和感がないんだな」
神楽は合点がいったように頷き、私に説明をしてくれた。
「この芋を見てどう思う?」
「…………えっと、特に何も? 美味しそうだなぁとしか……」
私がそう言うと、神楽は先ほどまで自身が掘っていた芋を1つ持ってきて、穴の中の芋の横に置いた。
「……ちっちゃいね?」
「いや、これが普通なんだよ」
ようやく私の中でも理解出来た。今神楽が掘った芋は、先ほどまで私が掘っていた芋と同じくらいの大きさだ。
「お兄ちゃんも大きいのが掘れたんだね!」
ようやく理解出来た私は、神楽に称賛の言葉を贈る。
「……」
私の褒めた言葉には全く反応をくれなかったが、ちらりと私を見てため息をついた後に芋を土の中から取り出した。
「……多分偶然じゃないっすよね」
「だろうな。心当たりは?」
「全くないです」
霙と神楽は2人で話し続けていた為、私は未だ呆然としている白鴎を引っ張って芋を掘る事にした。
「白鴎さん、お芋掘ろ!」
「……うん」
私が地面と向き合い芋を掘り進めた事を確認した白鴎は、自身も同じように土にスコップを突き立てた。
「……は?」
そして数分後、白鴎から決して大きくはないが、戸惑いの声が上がった。




