024-1「お芋って何が作れるの?」
「おーい」
昨日よりも何倍も優しい声で起こされた。
「ふぁい……」
昨日は夕方に起きておいて、よく寝るなと自分でも感じる。
「……もう夕方?!」
昨日起こされた時間を思い出し、飛び起きる。自分から皆を誘っておいて寝坊をかましたのだろうか。
「まだ朝だ」
落ち着いた緑弥の声に安心する。
「……どうして緑弥さん、ここに?」
昼からお芋パーティーの約束はしていたが、今はまだ朝。昨日のように何か約束を忘れていただろうか。
「今日はパーティーすんだろ?俺が全部使ってもいいんだが、聖女も一緒に作るか?」
「!」
「と言っても、危ない事は出来ないがな」
「する!」
つまりは、料理を手伝っても良いという事だろう。料理は滅多に手伝う事がなかった為出来るかわからないが、簡単なものしかさせるつもりはないと言っているし、私でも出来るような事だろう。
楽しみだったパーティーがより一層楽しみになった。
「お芋って何が作れるの?」
ベッドから起き上がり、クローゼットへ向かいながら聞く。
「何でも出来るぞ。お菓子も作れるし料理も作れる」
「お菓子も!?」
見つけた1枚の菜の花色のワンピースを引き抜いてベッドまで持っていく。
「じゃあ、ポテトチップスは?」
「出来るぞ」
「大学芋!」
「出来る」
「サラダは?」
「出来る」
「えっと、じゃあ後は……」
「いいから着替えろ」
「はぁい」
今着ている服を脱ぎワンピースを着る。
「何か、芋を着てるみたいだな」
「正解!」
私が今日この色のワンピースを選んだ理由は、芋の色と似ているから。
「緑弥さん、髪結んで!」
私は紫色のリボンを2つ取り出した。
「ふはっ、完全にさつまいもじゃねえか!」
「可愛いでしょ!」
緑弥は慣れた手つきで髪の毛をハーフアップにする。そしてハーフアップした髪を左右に分け、それぞれサイドでお団子にした。
「すごぉい! お団子だ!」
両サイドに出来上がったお団子にさつまいも色のリボンをつけていく。
「どうしてここの皆は髪の毛するの上手なの?」
「普通だろ?」
「普通じゃないよ! 私出来ないもん!」
「まぁ、まだ小さいからなぁ」
また小さいと言われてしまった。
「じゃあ行くぞ」
「ほれ、これ付けるから後ろ向け」
「?」
調理場に着いたところで、緑弥の言葉に従い後ろを向いた。感覚的には頭に帽子をかぶされた感覚。
「何つけてるの?」
「三角巾。料理には鉄則だろ?」
「じゃあエプロンもつけるの?」
「当然!」
緑弥は当然のように私サイズのエプロンと三角巾を用意していた。
「もしかして彩月さんが作ってくれたの?」
「ああ、昨夜頼んでおいた」
「彩月さん仕事が早いねぇ」
しみじみとそう感じる。昨夜頼んで今朝には出来ていた。早すぎて彩月がきちんと寝ているのか心配になる。
そして昨日お願いしたという事は、緑弥も私が作るという事を事前に計画して伝えておいてくれたのだろう。
「よし準備出来たな。始めるぞ」
「はい!」
石鹸で手を洗って準備完了だ。
「まずは何を作るの?」
「何が食いたい?」
「何でも良いの?」
「試しに言ってみろ」
私が食べたいもの。芋を使ったもので食べたいものといえば。
「お芋のタルト」
「いいな。ついでにクッキーも作るか」
「作る!」
緑弥に頼めば何だって作れそうだ。
「じゃあ、まずは芋を柔らかくする」
「はぁい!」
緑弥は私が掘った大きなさつまいもを取り出した。
「お前包丁使えるか?」
「うん!」
使い方は知っている。問題があるとすればこの小さな体で使えるかという事だ。
「じゃあ、こっち来い。」
緑弥が指さした方には踏み台と低めの台があった。その前の上にまな板と包丁が置かれた。
「後で潰すからどのサイズでもいい。芋を小さく切ってくれ」
「はい!」
台の上にのり、包丁を持つ。包丁を右手で持ち左手で芋を支える。確か左手は猫の手というように丸めて持つのがよかったはずだ。
「……ふんっ!」
今は思ったよりも硬く力が要った。硬かったけど力任せに振り下ろしては指を怪我する事間違いない。ゆっくりと切り込みを入れていく。
「……ふぅ、」
まず1回切れた。これを何度も何度も繰り返して小さくしていかなければならない。大変だけれどとても楽しい。料理が出来るというのは、とても幸せな事だ。料理が出来るというのは料理をする為の道具がある。そして調理をする為の材料がある。裕福な証だ。
「よー、いしょっ、」
端まで綺麗に輪切りに出来たところで緑弥に声をかける。
「緑弥さん切れたよ!」
全てを切り終わったところで、きちんと包丁置き緑弥の方へと振り込む。
「おお、思ったより早かったな」
「…………」
緑弥の方を向くと、私の倍以上の芋を切り終わり、さらに何か作る用の食材の計量まで終えていた。
「……緑弥さんすごいねぇ」
「慣れてるからな」
料理人はすごい。同時進行でいくつもの料理を作る為、見通す力や同時進行をする力がなければやっていけない。
「これを混ぜてくれ」
緑弥は私に大きなボウルとヘラを渡した。そして緑弥は大きな鍋にさつまいもを入れぐつぐつと煮始めた。渡されたものでボウルの中を混ぜていくが、予想よりも重たくて難しい。大人数の料理を作るというのは本当に大変だ。毎日これをしている緑弥に尊敬を覚える。けれども今日の分の料理は緑弥にとっては大人数のうちに入らないだろう。普段から何十人分という料理を作っているのだから。
ボウルの中はほとんど粉しかなかったように見えていたが下の方に牛乳や卵のような液体も入っていた為、少しずつ混ざり始める。
「んーしょ」
緑弥は私が料理になれていない事を分かってる為、急いで作ろうとは思わないらしい。溢さないように丁寧にする方が良いだろう。混ぜる時には時折切るように混ぜた方がいいという風に聞くけれどそれがよくわからない。緑弥も混ぜ方については特に何も言っていない為、とりあえず混ざれば良いだろう。
「出来た!」
正直最後の方は混ぜるのが難しくて手で混ぜたくもなったがとりあえず混ぜる事が出来た。私の目には粉も残っていないように見える。
「いいじゃん」
緑弥からも合格をもらえた。
「じゃあ、ここに生地を置いてこれで伸ばしてくれ」
私が使っている台の上にシートを敷いて、棒を渡した。
「これで伸ばしたらいいの?」
「ああ」
まるで、粘土でもしているかのようだ。自分よりもずっと長い棒を使って生地を伸ばしていく。
「緑弥さん出来たよ!」
「んー、もうちょい薄く伸ばしてくれ」
「はぁい!」
普段食べているクッキーを思い出しながら生地を伸ばしていく。確かに今のままだと自分の小指分ぐらいの太さはあったから大分厚かったかもしれない。この間食べたクッキーの薄さは確かこれくらい。
「緑弥さんこれくらい?」
「ああ」
私が伸ばした生地を銀色の型にはめていく。
「これがタルトの型?」
「ああ」
生地を型に合わせながら綺麗に押し当てていくと、もうすでに美味しそうだった。緑弥はこれをオーブンに持っていき、中に入れた。
「お芋は入れないの?」
「ああ、まずは1回生地だけ焼くんだ」
「へぇー」
お菓子というのは奥が深い。1つ覚えても色々な事を覚えないと一つの料理を作りきる事が出来ない。
「この余った生地はどうするの?」
先ほどタルト型にはめた生地は少し余っている。
「これをクッキーにするんだ」
「え、これがクッキーになるの?」
「なる。材料は一緒だからな」
クッキーとタルトの材料が一緒だなんて知らなかった。お菓子ってやはり奥が深い。
「ほれ、型」
「楽しいやつだ!」
「ふはっ、そりゃよかった。分厚さはさっきと一緒でいいからどんどん型をとっていってくれ」
「はぁい!」
今度こそ本当に粘土をしているようだ。緑弥に渡されたお花とリボンと星の形の型を抜いていく。昨日の朝に、というよりは夜中に綺麗な星を見たから、少しだけ星を多めに抜いていく。
やはりタルト生地はクッキーより生地が固いのか、少しだけ抜きにくい。けれどもきっとサクサクして美味しいのだろう。
「今日のパーティーがもっと楽しみになってきた!」
自分の作ったもの誰かに食べてもらうというのはとても緊張する。今回は緑弥がほぼしてくれたと言っても過言ではない為、私が緊張する必要はないのだが、緑弥は普段からこのような気持ちを味わいながら料理をしてるのかと思うと尊敬の域に値する。
「緑弥さんはいつもこんなすごい事をやっているの?」
「まあ俺はこれが仕事っていうのもあるけど単純に料理が好きなんだよな」
「すごいね」
「すごくなんかねえよ。聖女様が俺の作った料理好きって言ってくれるだろ? ああいうのが嬉しいんだ。むしろああいう顔を見るたびに次はどんなのを作ろうかって楽しくなる」
つまり緑弥は人が喜ぶ顔を見る為に料理をしているという事だ。自分が作る事が好きで、人が喜ぶ顔を見るのが好き。こういうのを向いているというのだろう。きっとそれは自分が作るのが好きというだけでは成り立たない。
自分がこうしたいという自己主張だけで成り立たないのが社会だ。自分の一方通行の思いだけでは人間関係は成り立たない。だから私は失敗した。だから私はうまくいかなかった。
だから、私は――――――――
愛してもらえなかった。




