023-2「何だか、私よりも私の事を知ってそうね」
「何してるの?」
自分の採った芋はいつ食べられるだろうかと思いを馳せていると聞き覚えのある声が聞こえた。
「あ、南葵さん。どうしてここに?」
神楽も目を丸くしながら話しかける。神楽の場合はよくここまでたどり着けたなという驚きだと思う。
「研究所に向かってるだけど、研究所の場所が変わったみたいでたどり着けないんだよ」
なるほど。それは方向音痴でなくとも、場所が変わったのならば辿り着けなくても仕方がない。
「……研究所の場所は変わってないっす」
ただの迷子だった。
「で、何してるの?」
「焼き芋焼いてるの」
正確にはさつまいもを焼いて焼き芋にしている。
「南葵さんも焼き芋いります?」
「いいよ。俺が食べたら君らの分なくなるでしょ」
「それならこれはどうだ? 栗とキノコの炊き込みご飯だ」
緑弥の声が聞こえ、振り向くと先日の釜をもった緑弥がすぐ後ろに立っていた。
「緑弥さん、いつのまに!」
まるで忍者のように静かに通ってきた緑弥の手元は恐ろしいほどに良い匂いがする。釜が熱いのは分かっているが、今すぐ触って蓋を開けてみたい。
「神楽から焼き芋するって聞いてな。ご飯にはそれだけじゃあ、ちぃと足りんだろ。この間炊き込みご飯、ちゃんとしたのは食わせてやれなかったしな」
「緑弥さん、ありがと!!」
緑弥の片足に抱き着くと、緑弥は面白がってそのまま歩き出した。面白い。緑弥が釜を下ろす時にはきちんと離れた。
「おいチビ、もう少しで焼けるぞ」
「はぁい!」
火の前で待機すると、熱さが直接伝わってくるが、温かい。寒い季節には焚き火は最高の味方だ。布団だって負けていない。
私が座ると、南葵も同じ様に隣に座った。緑弥は、釜の近くに座り、炊き込みご飯をお握りにし始めた。
鼻に届く良い匂いにお腹が鳴る。そんな私を見つめている南葵の視線に気が付いた。そして、気になる事を聞いてみようと思った。
「南葵はどんな仕事をしているの?」
「なんで俺だけ呼び捨てなんだよ」
そう言えば何故だろう。神楽でさえ南葵の事をさんをつけているにも関わらず、私は呼び捨て。敬称をつけて呼ぼうなどと考えもつかなかった。それは決して、南葵が私と近い身長をしているからではない。南葵の方がずっと年上だと理解している。それでも、気が付けば呼び捨てで呼んでいた。
「まぁ、いいけど。俺は研究者みたいなもん。文献とか色々調べてる」
「何について調べてるの?」
「まあ今はずっと聖女につてかな」
「そうなの?」
つまりは私について調べているという事だろうか。
「霙や白鴎、黎翔とか、ここの人には知ってる事は全て教えてもらった。寿命の事もね」
「何だか、私よりも私の事を知ってそうね」
「さあ、それはどうかな。でも、他の聖女についても多少は知ってるよ。会った事は無いけどね」
「……他の聖女?」
確か太陽の国という場所に聖女が現れたという情報を聞いた気がする。現れたと言っても私よりずっと前にこの世界に来たようだが。
「そう。今は太陽の国と、ここにしか聖女様はいない。昔はいたみたいだけど」
「どうして今はいないの?」
「さぁね。神は気まぐれだから、聖女様をいつどの国に遣わせてくれるかは俺たちには計り知れない」
「ふうん」
ならばやはり私がこの時代のこの国に来たという事も、きっと神の采配だ。
「聖女様は、神は……、気まぐれだ」
そういった南葵の表情はどこか寂しげだった。
「出来たぞ」
私と南葵が話しているうちに、気がつけば神楽は火から芋を取り出していた。
「ありがと!」
芋を受け取ると熱くて持つのは難しいが、紙に包まれていた為、どうしても持てないという事ではない。
「頂きまぁす!」
昨日と同じくとても甘い。これが聖女の加護とでも言うのだろうか。私が来た事で良い影響があるのならば、それは喜ばしい事だ。
「……この小さな体に食べ物が入るというのが不思議でならない」
「いっぱい入るよ?」
「お前のいっぱいは俺たちの十分の一くらいだ」
神楽の言葉に頬を膨らませる。
そこはまだ子どもだから仕方がないし、皆と違って毎日食べるのだからそこまでの差はないだろう。
「もう本当にこんなに小さな生き物が動いているというのが不思議だ」
小さいは余計だ。
「これでもでかくなったんだよな。前まではもう少し小さかった」
話に耳を傾けていた緑弥も余計な事を言う。決して私が小さいのではなくこの人達の背が大きいだけだ。
ああ、芋がやけに美味しい。
「ほれ、炊き込みご飯」
片手に芋、片手に炊き込みご飯のおにぎりを持つ。何という贅沢だろうか。
「美味しいねぇ」
美味しいものはきっと、私を今以上に幸せにする。
「あ、明日、ここでお芋パーティーするから皆来てね!」
「……誰が作るんだ?」
「緑弥さんにお願いしようと思って!」
「初耳だなぁ」
「うん、今言った!」
「まあ暇だからいいけど」
「やった!」
後で全員に声をかけなければ。大きい私が掘った芋もある事だし、明日はこれをパーティーに回してもらおう。皆、腹の容量が空いていると良いのだけれど。黎翔は昨日食べたから明日は入らないだろうか。それでもあの空間にいてくれると嬉しい。
「じゃあたどり着けたら行くよ」
「……」
よく断り文句として「行けたら行く」というものがあるがこれは行きたくない場合によく用いられる。けれども南葵の場合はどちらか分からない。彼の場合は本当に迷子になってしまいそうで、たどり着く事が困難なように思える。私に言えるのは頑張ってたどり着いて、という事のみだ。
「待ってるね!」
火を眺めながら手に持っている芋と炊き込みご飯を頬張る。きのこの食感は苦手だと思っていたが、意外と美味しく頂ける。
キノコですら甘い。栗の味と相まって、余計に。それはくどい甘さではない。
「……楽しそうだな」
「うん! 楽しい!」
染み染みとした南葵の声に私は頷く。ここに来てから楽しい事しかない。私の声を聞いてくれて、私を存在したものとして扱ってくれる。
未来の約束があるというのは、ここにいても良いという証明だ。明日も、ここにいていいと、受け入れられた。それがどれだけ心強いか、ここの人たちは、きっと知らない。
「何をしている」
「あっ! 黎翔様おかえりなさい!」
食べ終わって片付けに向かっていると、仕事から帰ってきた黎翔が、呆れを隠さずに現状を見る。
「あのね、焼き芋してたの!」
走りながら黎翔に飛びつくと、危なげなく抱き上げてくれた。
「焼き芋か。懐かしいな」
黎翔は珍しく口角を緩めた。
「黎翔様、お芋好き?」
「……嫌いでは無い」
「好きなんだ!」
少しづつ、黎翔の事も分かってきた。
「黎翔様、明日忙しい?」
「まあな」
「そっかぁ……」
忙しいのならば、お芋パーティーに誘っても迷惑だろうか。
「明日、何がある」
「あのね、皆でお芋パーティーしたいなぁって。緑弥さんが作ってくれるの」
「……何時頃だ」
「え? えーっと、」
私一人では時間を決められない為、緑弥を見る。
「昼頃、かな」
「昼頃だって!」
緑弥の言葉をそのまま黎翔に伝える。
「予定を空けよう」
「ほんと?!」
予想外の言葉に嬉しくなる。
「明日、来てね!」
「ああ」
黎翔からの参加は得られた。あとは、績、彩月、霙、白鴎だ。
ああ、楽しみだ。




