022-5「……最初の目的って何だっけ?」イラスト付き
「何やってんだ、お前」
「?!」
風に吹かれながら座っていると、訪れた睡魔に身を任せる為に目を閉じた。けれどもその瞬間足音もなく帰ってきた神楽の声に飛び起きた。
「お、お兄ちゃん、なにそれ」
「どう見てもカボチャだろうが」
彼の脇には大きな萱草色の球体が抱えられていた。神楽の体の向きから察すると、これは焚き火をした場所からここに来たのではなく、更に奥の方へと足を伸ばしていたのだろう。大きなカボチャに目を奪われると、そのカボチャは私の膝の上に置かれた。
「お、おもっ!」
持てないほどではないが、これを抱えて歩く事は不可能だろう。間違いなく立ち上がる事も出来ない。なぜ彼が私の膝の上にこれを乗せたのかはわからないが、怒っているような表情ではない為、私で遊んでいる可能性もある。
「んで、お前は何で俺を探してたんだ?」
「え?」
「彩月さんから聞いた」
そういえば私は神楽を探していたのだと今更ながらに思い出す。
「あ、えっとね。お兄ちゃんにナイフ貸してもらおうと思ったの!」
「はぁ? なんでナイフなんかいるんだよ」
「お花を飾ろうかなって」
「ふぅん、で、俺を探してウロウロしてた訳か」
途中目的を忘れていたがそれは言わない事にしておこう。
「途中で績さんや緑弥さんの所も行ってたの!」
「調理場か?」
「うん、そうだよ!」
「じゃあ何で、そこでナイフかりなかったんだよ。調理場なら、ナイフくらいあるだろ」
「………………」
唖然とするとはこの事だろう。調理場にナイフや鋏があるのは当たり前だ。ナイフは危なくとも鋏だったら借りるのは可能だったかもしれない。それに績がいる医務室も鋏ならばあっただろう。神楽しか持っていないという固定概念で随分と遠回りをしたものだ。
「やっぱアホだな」
神楽は呆れた表情を隠そうともせず、私の膝の上のカボチャを持ち上げた。
「奥の方にカボチャ畑があるの?」
「ああ。他にも色々あるぞ」
「行ってみたい!」
「別に構わねえが、お前はこんな所座って何してたんだ?」
今日の私はあまりにも物忘れがひどい。言われてから漸く自分が何故座っていたのかを思い出す。
「お芋が採れない」
「はぁ、またかよ。仕方ねぇなぁ」
ここから近い場所の芋を掘っていた為、神楽は直に芋の場所を特定した。
「………………いや、デカいな」
呆れた表情から一変し、驚愕という言葉がふさわしい表情で芋を見つめた。
「昨日よりでかくねえか? 本当に何だよ、お前」
「わかんない」
この世界の聖女がどういう役割をしているかなど、私よりこの世界の人の方が知っているはずだ。私に「何」と言われても分からないし困る。
それでも神楽は軽々と芋を掘り上げた。
「お兄ちゃん力持ち!」
「普通だろ」
神楽は掘った芋を私の前に置いた。私自身では持ち上げる事はやはり不可能だった。それでも昨日よりもさらに大きな芋を掘れた事に達成感を感じる。
「んで、お前。最初の目的を覚えてるのか?」
「……最初の目的って何だっけ?」
またもや私は何かを忘れているのだろうか。私は今日何をしていたのだろう。本来の目的である芋掘りは済ます事が出来たはずだ。その他の目的といえば花を生ける事だろうか。けれどもそれは最初の目的ではない。
「人探しをしてたんじゃねえのか?」
「……………………はっ!」
そうだ。それこそが、本当に私の最初の目的だ。どうして忘れていたのだろうか。今日の私はあまりにも忘れが酷い。
「そうなの! 寄り道しすぎた!」
本来ならば、人を探して見つけて出会って終わる1日だったはずなのに、気が付けば余りにも多くの場所へ寄り道をしている。なぜ今日の私はこうも集中力がないのだろうか。
「探しに行かなくていいのか」
「いく! お兄ちゃん、私の代わりにお芋持って帰ってて! また明日一緒に、焼き芋するの!」
「へいへい」
お芋を神楽に託すと素早く林から抜け、焚き火をした場所まで戻ってくる。飴を回収するの忘れてはいけない。
「……こっち!」
目的の場所が分かっている訳ではない為、感覚で歩き回る事にする。朝も探しに行っているが、探している人物も移動しているだろうから、朝と同じところももう一度探す。
庭を探すと言っても、私は自分が行った事がある場所以外を探すつもりはない。探したが最後、自分が迷子になっておしまいだ。この建物が狭いのならば行った事がない所も探してみるのだけれど、そうもいかないのがこの大きな建物だ。
調理場にも、医務室にもいない。一通り探したが分からず一体私の探している人物はどこにいるのだろうか。
前回、あの男の子を見かけたのはこの建物の出入り口の近くだ。私が城に向かっている途中、振り向いた時に見つけた。あれが彼だったのならば。
「……行ってみようかな」
こうなれば、とことん探すべきだ。霙と白鴎がもう見つけている可能性はあるが、どのみち、霙と白鴎と合流出来ない事には、それもわからない。目的の人物を探すついでに霙と白鴎と合流すれば良いだろう。
「……えーっと、確か」
一度庭から出て建物の中に入る。そして、出入り口の方に足を進める。一人で入り口の方へと歩くのは初めてだ。この建物から出ようとする時は必ず傍に誰かがいた。一人で向かおうとしている事で、見かけた人に逃げようとしていると思われないだろうか。誰にもすれ違わない事を祈りつつ足を動かし続ける。
「聖女様?」
気持ち早足で廊下を駆け抜けていると、通り過ぎた脇道から白鴎が出てきた。
「あ、えっと。今から門のところに行ってみようと思って」
「うん。霙もそこにいるから聖女様を呼びに来た所なんだ」
「……え?」
霙がそこにいるとは、どういう意味か。一度合流して共に探そうという事か。将又、既に目的の人物を見つけ、逃さないように確保しているという事か。
どの道私の行動は一歩遅かったようだ。
「今、霙さんとその子は一緒にいるの?」
「うん、下手に動き回る方が逸れるから待機してもらってる」
「ふぅん」
先程までとは違い、速度を大分落として門の方へと向かう。
門まで行くと、霙が立っているのが見えた。
「霙さん、来ました!」
遠くから手を振り、速度を早めて駆け寄る。私の早足が白鴎の通常と言うのが悔しいところだ。こちらに向かって手を振る霙の横に、霙よりも背の低い男の子が立っているのが見えた。やはり、先日見た男の子とそっくりだ。彼があの子だろう。後ろを向いている為、男の子の顔がまだわからない。
霙の隣まで来ると漸く男の子がこちらを向いてくれた。
私は、漸く彼に会えた。
男の子は、私を見た途端、大きく目を見開いた。
「…………――霧?」
そして、目の前の男の子を見た瞬間、私の中から、何かよく分からない感情が込み上げてきた。それは渇望か、喜びか悲しみか。それとも――
男の子は、息も忘れたかの表情で、私の肩を掴む。その表情は、焦りとも、驚きとも捉えられる。
「お前、なんで?! しかも小さく……! 俺がどれだけどれだけあんたを探したと!」
目の前の男の子がそう嘆くのを私は呆然と見つめていた。私は彼を知らない。彼が嘆く理由もわからない。
「どうしたんだ、南葵」
動揺したように霙が彼に問いかける。けれども彼の衝動は収まらない。
「俺を置いて今までどこに行っていた!」
南葵。彼の名前に聞き覚えはない。ないはずなのにどこか懐かしい。
「今まで……、どこにっ!」
涙交じりの絞り出した声は、彼が一体どれだけその人物を追い求めていたのか深く実感した。
「………………お兄ちゃん、だぁれ?」
今の状態の彼にこの言葉ほど残酷な言葉はないとは思うが、他にかける言葉が見つからない。仮に彼の胸に刺さるような言葉を紡ぐ事が出来たとしても、私は彼が求めている人ではない。より彼を深く傷つけるだけだ。
私の残酷な言葉で彼が探し求めている人が私ではないと気づいたのだろう。長い間私を見つめた後、彼は息を何度も深く吸い込み吐いた。
「いや、悪い。昔の知り合いによく似てた。髪色も違った。……あまりにもよく似ていて」
落ち着いたのか、静かな声で私に謝る。完全には納得はいっていないような目だが、それでも私ではないと気づいたようだ。
「改めて、南葵だ。」
銀色の瞳に吸い込まれそうになって言葉を忘れる。やはり彼の銀色を見た事がある。ずっとずっと昔のような気もするし未来で見た気もする。
「……おい」
「え、あっ! この国の聖女になりました! お願いします!」
改めて南葵の顔をよく見るけれど、迷子になりそうな顔はしていない。私より少し目線の高い彼は、生きた年数で言うと私よりもずっとずっと上なのだろう。
そういえば、何故彼を今まで見た事がなかったのだろうか。大抵の人は顔だけならば披露会の時に見たはずだが。そこに彼はいなかった。彼のように背が低い人はいなかった。彼もそれまでに私の事を見た事があるのならば、彼は私を見て先程のような反応をしていない。
「……お兄ちゃん、今までどこにいたの?」
「……どういう意味だ?」
「今まで会った事がなかったから」
「あぁ、お前披露会の時いなかったしな」
「仕方ないだろ。全員が出席したら誰が警備するんだよ」
彼が今までどこにいたのかわからなかったが、披露会の時は警備の為にあの場にいなかった事は分かった。恐らく普段は迷子にでもなっていて、なかなか会う事が叶わないのだろう。
「俺は仕事に行く。またな」
彼は背中に翼を生やして空を飛んで行った。もう少し話したかったけれど仕方がない。
「仕事場は真反対だ…………」
呆れたようにそう呟く霙の声が頭に残った。
※この画像はAI生成画像です




