↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒いモノクロな世界と白いカラフルな世界〜世界の色を探して〜  作者: ちぇしゃ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
80/120

022-2「ちくちくもない?」


「ところで今日はどちらまで」

「借り物をしに緑弥さんのところまで行きます」

「お急ぎで?」

「ううん」


 今日は特に急ぐ用事もない。私がやりたい事をやっている日だ。私の返答に彼は「良かった」と呟く。彼のその返答に首を傾けるが彼のその次の言葉に私は体の動きが固まった。


「良い機会ですので、健康診断しましょうか」

「…………え?」


 おかしい。先ほどまで私の耳は正常だったというのに急に言葉を正しく聞き取る機能が失われてしまった。

 

「健康診断しましょうか」

「………………えぇ?」


 おかしい。やはりおかしい。私の聴覚は本当に先ほどまで正常だったのだ。どうしても績の言葉が「健康診断」に聞こえる。こうなれば3度目の正直だ。

 

「健康診断、しましょうか?」


 やはり私の聞き間違いでは無かったのか。なにより績の笑顔が怖い。

 

「…………はい」

「ふふ、快く受け入れて下さり安心しました」

「…………」


 そうか、今の返事が彼には快く聞こえていたのか。何という幸せな耳だろう。


「では、お茶を飲み終えたら始めましょうか」

「……はぁい」


 時間をかけて、ゆっくりと味わう様にお茶を頂く。


「こちらもどうぞ」

「わぁ! クッキー!」


 績が用意してくれたクッキーも美味しく食べる。丁度小腹が空いていたところだ。シンプルなプレーンのクッキーは、どこか懐かしい味がして、1枚、2枚と手元から消えていく。



 





 

「…………あれ?」


 出来うる限りゆっくりと頂いていた筈のお茶は、気が付けば中身が無くなっていた。


「…………?」


 自分でもこんなに早くお茶がなくなっている理由を理解出来ない。目の前の績はとても穏やかに笑っていた。


「さあ、しましょうか」

「はぁい」

「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。痛い事はありませんから」

「ちくちくもない?」

「ええ、採血も今日はしませんよ」

「なぁんだ」


 あれほど怖がったのは無駄だったと言う訳だ。


「今日は何するの?」

「まずは身長体重などを測らせてくださいね」


 績はメジャーを取り出すと、私のつま先から頭先まで当てる。


「大きくなりましたね」

「でしょ! この間、彩月さんにも測ってもらったよ!」


 少しずつ元の年齢の大きさに近づいている事が嬉しい。


「身長がいきなり大きくなってから、何か不都合は無いですか?」

「不都合って?」

「例えば歩きにくいとか、視界が変だとか」


 思い返すが、日常生活で困る事は全くない。強いて言えば、以前の洋服のサイズが合わない事だが、それは彩月の手により解決された。

 

「ない、かなぁ」


 私は恵まれている。ここは、着れる洋服がある。美味しい食事もある。寝る場所もある。


「身体が痛いとかもありませんか?」

「元気!」


 本当に何も変わっていない。むしろ少し手足が長くなった事で移動が早くなったように感じる。不都合ばかりではない。寧ろ良い事の方が多いのだ。


「あ、」

「どうかしましたか?」


 違いというほどのものでもないが、ほんの少しの違和感は感じる。


「ごはん、前より沢山食べれるの!」


 以前は、というよりもこの世界に来た直後は、焼き芋1つは、とてもではないが一人で食べきる事は出来なかった。その後に栗ご飯を食べるような胃も持ち合わせていない。けれども昨日は、その全てを食べ終わった後でも、少しの空腹を覚えていた。


 私の発言に績も納得する部分があるようで腕を組みながら頷いていた。


「そうですよね。以前の聖女様は食事量が少ないという理由でここに来られた事もありました」


 そういえばそのような事もあった気がする。

 

「ご飯を食べる事に慣れてきているのでしょうか。それとも体が大きくなった事で単純に食事量が増えているのでしょうか」

「んー?」


 その答えは私には分からないが、身体が大きくなる以前より、少しずつ食事量は増えていたように思う。沢山食べられるという事がとても嬉しい。緑弥の作った食事は、幸せを呼ぶものだ。あの食事を食べる度に、私の中で幸せが増えていく。


「今、空腹ですか?」

「うん」  

「では、体重も測りましょう」


 空腹と体重がどう関係しているのかは分からないが、私に拒否権が無い事は分かった。


 体重計のようなものに乗ると、緑弥は記録を紙に記した。 


「少し増えていますね。ですが、身長と比較すると痩せすぎです」

「……」


 それは悪い事だろうか。体重が軽い事は悪い事のように思えない。太っているよりは良いと思う。


「健康的な体になるように、沢山食べましょうね」

「……」


 沢山食べる事に異論はないが、義務のように思うと苦しくなる。


「…………お腹、空かなかったら?」

「無理に食べる必要はありませんよ。今は毎日食事をされていますよね。それを続けて下さい」

「……それだけで良いの?」


 苦しくなるほど食べなければならない訳では無い様だ。空腹でも食べられない事と、満腹だが食べ続けなければならない事。どちらの方が幸せでどちらの方が苦しいのだろうか。恐らく答えは見つからない。

 

「ええ。聖女様の食事量はすでに少しずつ増えていますので、急に無理をして増やす必要はありません。ただ、1つ約束があります。お腹が空いた時に我慢をしないでください」

「我慢しなさいじゃなくて?」

「ええ。前日の就寝時間や食事、起床時間や食事前の活動によっても食べる量や空腹の時間は変わるでしょう?ですから、お腹が空いた時に緑弥に強請ればよいのですよ。彼も喜んで準備します」

「時間とか、毎日って、迷惑じゃない?」

「自身が作った料理を美味しそうに食べてくれる事を喜ばない料理人がいますか?」

 

 ここでは空腹の時に料理を要求する事は我儘にはならないのか。人間の三大欲求である1つを満たす為にここでは我慢をしなくて良い。何という贅沢で何という残酷。もし私がこの世界から元の世界に帰った時にこの世界の贅沢に慣れてしまっていたならば。私は向こうでは我儘になる。



  





 

「それではおしまいです」


 績と話しながらしているとあっという間に終わった。身長体重胸囲。視力や聴覚、その他の検査も終わった。痛い事は何も無かった。


「所で緑弥のところに行く予定ですよね」

「…………、あっ、そうそう!」

「今忘れていましたよね。ついでにご飯でも強請っていらっしゃい。空腹なのでしょう?」

「はぁい!」


 績にクッキーとお茶をごちそうになったとは言え、満腹とは程遠い。部屋を出て績の言葉通り緑弥に食事を強請ろうと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。