018-3「もうちょっと食べたい」
話を聞き終えた後、緑弥は叫んだ。
「なにそれ、俺がご飯作ってる間に、めっちゃ愉快な一大事になってるじゃん?! 呼べよ!」
愉快な一大事という言葉に言い得て妙だと納得してしまった。
「緑弥さーん」
「ん、どうした?」
「もうちょっと食べたい」
緑弥は足りなければ用意するといったものの、用意されたオムライスで十分満腹になるだろうと思っていた私は、あっさりと食べきった自分に驚いた。そして、まだ満腹を訴えていない腹にも驚いた。
「無理をしている訳ではないな。どれぐらい食べられそうだ?」
「えっと、たぶん、おにぎりふたぁつ?」
「ん、分かった。デザートも一緒に持ってくるな」
緑弥が出て行ってから私はフォークを握りしめたまま皆の会話に耳を傾ける。
「国民への知らせはどうする」
「落ち着いてからすべきだな」
「各国王への知らせは?」
「聖女様のお力といえば納得するでしょう」
国王と聞いて、昨日会った人達を思い出す。
「そう言えば、昨日パーティに来てくれた人は皆帰ったの?」
昨日は、私が早くに寝てしまったから、その後の状況がわからない。
「この国のものは昨日帰ったな。屋敷が遠いものは今朝出た。国王たちはその辺にいるだろう」
「え」
何だか国王達だけ適当だ。黎翔も面倒そうに思いを馳せている。
「神羅が買い物の荷物持ちに連れ出したようだ」
「他の王様たちも一緒に行ったの?」
「ああ、恐らく神羅に連れ回されている」
その表情はよくよく見ると面倒そうというよりは、他の国王たちへの同情だ。
「この世界は女性は少ないからな。特にアレでも王だ。何かあってはな……」
おそらく、そのような理由で、他の国王もついていったのだろう。黎翔も同じ立場になればついていくのだろう。黎翔は面倒そうにしながらも、優しい人だから。
「持って来たぞー」
突然開いたドアに黎翔は、もう何も言わなかった。
目の前に置かれた料理に心がときめく。
「はんばぁぐ!」
「今作ったのか?」
「まさか。何かあった時のために、作ったのを冷凍しておいたんだよ」
「相変わらず準備が良いな」
「それが俺だからな」
フォークでさせるように、小さく切られたハンバーグと小さく丸められたおにぎりたちに緑弥の愛を感じる。
「んまーぁい!」
白米とお肉の組み合わせは、神が与えた、最高の組み合わせと言っても過言ではないだろう。
「ほれ、味噌汁」
「!」
白米、ハンバーグ、味噌汁。完璧すぎて言葉が出ない。
「緑弥さん大好き!」
「ありがとな」
美味しいご飯を堪能し、食べきった後はデザートだ。
「緑弥さん、デザートは?」
「ほれ」
「はわわぁ!」
目の前に現れたのは、宝石だった。薄い黄色の透明な宝石。食べ物であると理解してはいるが、本当に食べれるのかという疑問も湧いてくるほど神々しい。
「ゼリー!」
「リンゴのゼリーだ」
前もゼリーを出してくれたけど、それも驚くほど美味しかった。きっとこの世界では料理の水準が高いのだろう。幸せな事だ。
食事を終えたタイミングで、彩月は城を出て向こうの家に帰っていった。何でも、やる事があるそうだ。私は帰らなくても良いのだろうかと考え、そう言葉を放つが、
「……もう少し、ここにいろ」
黎翔の言葉で滞在が継続されそうだ。
「つまり、黎翔が寂しいからここにいろって事か?」
頭の後ろで手を組みながら緑弥が黎翔に向かって言う。
「……そうは言っていない」
「そうとしか聞こえない」
来客とかがあるから滞在の必要性があるのかと思っていたけれど、どうやら黎翔の私情のようだ。胸が異様に暖かい気がして触れてみると、いつも通りの体温で、首を傾げる。
「黎翔様も、一緒に住んだらダメなの?」
ふと感じた事を口に出すが、れ黎翔だけでなく、他の皆も驚いたように、私を見た。
「!」
なぜ皆がこんなに驚いているのかわからず、私は自分の意見とメリットを出してみた。
「歩くのも近いから、すぐに行ったり来たり出来るよ」
あぁ、けれども、近いならば、わざわざこちらに泊まる必要はないのか。メリットが一つ消えてしまった。
「その発想がなかった」
「どぅして?」
「国王は城に住むのが当然だからな」
やはりそうか。物語の中でも、王様や王子様はいつだって城に住んでいる。それがお約束というものだろう。
「じゃあダメ?」
「そうは言っていない」
「つまり、黎翔の部屋も用意しておけって事だよな」
「……」
「無言は肯定と取るぞ」
「……」
緑弥は黎翔の通訳になれる気がする。というよりも国王である黎翔に遠慮なく話せる存在というのは、貴重なのではないだろうか。物語の王様はいつだって、威張って人を寄せ付けない、寂しい存在だった。けれども、レイショウからは寂しさは感じられない。仲の良い優しい人達がいる。それはとても幸せな事だ。
「という事で、聖女様、黎翔の部屋も向こうに用意して良いか?」
「勿論!」
私としても、数少ない知り合いである黎翔が共にいてくれるならば、喜ばしい事だ。
「じゃあ、神楽に知らせておくか」
「……かぐら?」
「ウチの大工だ。聖女様はまだ会った事無かったか」
昨日の披露目会を思い出す。そこにいた数多くの人の中の一人が、その神楽という人なのだろう。
「俺が知らせてくるよ。どうせ帰るつもりだったし」
どうやら、緑弥も向こうに帰るようだ。
「あいつ、腕はめちゃくちゃ良いけど、仕事風景見せてくんねんだよ」
「……鶴の恩返しみたい」
「ふっ、あいつは鶴ってより、懐かないインコだな」
「インコ?」
「そ、可愛いし、賢いけど、態度がでかい。口が悪い。喧しい。でも可愛い」
「へ、へぇ」
散々な言われようだ。仲良くなれるだろうか。可愛いを二回言った。見た目が可愛いというよりは、生意気なところも可愛いという意味だろう。本当に仲良くなれるだろうか。今から不安しか湧いてこないが、私の部屋も可愛く作ってくれたのも、彼である為、一度会ってお礼を言いたい。
そして、今日は帰らずに、もう1日だけ城に泊まるようだ。来客が来るかもしれないから、ここにいろと言われた。「来客が来るまで待ってる」と伝えたが、「大幅に姿が変わった事で来客が混乱する可能性もあるため、聖女のその姿を広めてから会わせる」と断られてしまった。来客に会うために、ここに残っているというのに、来客には会わなくて良いというのは、矛盾が生じている。
意味がわからなくて霙と白鴎を見るが、苦笑いで返された。ともあれ、ここに残るのは決まったようだ。
黎翔は「残った仕事を片付けてくる」と言って、部屋を出ていった。私は何をしようかと考えたところで、霙が向こうから、色鉛筆とスケッチブックを持ってきてくれていたので、お絵かきでもしようと思う。
何を書こうか。あの景色なんかはどうだろうか。バルコニーから見下ろした景色は美しく、そして、何色にも色づいていた。一言では言い表せない、人が生きている温かい色。それを絵で表現など到底出来ないが、今1番描きたいと思ったのはそれだ。
「お散歩行ってきます」
スケッチブックと色鉛筆を持ち、部屋を出ようとすると霙に「待て」と止められた。
「何処に行く」
「バルコニー、です」
「一人で行く気か」
「ダメですか?」
「道を覚えているのか?」
「何回も行ったから大丈夫」
「そうか。迷ったら必ず近くにいる誰かに知らせろ。あまり遅くなるなよ」
「はぁい!」
想像以上に霙はあっさりと引いて拍子抜けだった。やはり体が大きくなった事で、自由度が増えた気がする。
「本当に一人で良いの?」
「うん。だって、お姉さんになったもん。出来ます」
「そっか、頑張ってね」
「うん!」
どうやら白鴎も見守ってくれるようだ。
「行ってきます!」
扉を出て進んで行くと見覚えのある景色だ。白だけれど、真っ白ではない見慣れた景色。ここからの道順は覚えている。昨日も緊張しながら通った道だ。あの夜も通った道だ。あの時は周りの景色ばかり見ていたから道順も忘れようがない。




