016-2「披露会ってそんなに危険なの?」
「久しぶり!」
「お、お久しぶりです!」
食事を終えたところに、彩月が大きな箱を持って入ってきた。彩月は私の顔を見て素敵な笑顔でそう言った。そういえば彩月と会うのは久しぶりかもしれない。
「ちょっと、箱がまだあるから手伝って!」
彩月のその声かけで黎翔以外は皆部屋から出て行ってしまった。黎翔は行かなくて良いのかと思うけれど国王は一番偉い人だと言うのだから行かなくてい良いのだろう。寧ろ私の方が手伝いに行くべきかもしれない。手伝いに行く心持ちはあるけれど、行ったとしてもきっと重たい荷物は何も持てないから結局足手まといになるだけだろうとも思う。部屋で黎翔と待っていようと思う。
次々と運び込まれてくる箱達は、大小様々だ。1人で持てるような小さな箱をあれば2人でなければ持てないような大きな箱もある。
「なんだか量が多くないですか?」
明日の衣装だけのはずなのに一体何日分あるのだろうか。箱の中身を見るのが怖い。
「もちろん。衣装は1つじゃないから」
彩月が当然とでも言うように荷物を運び込みながら言った。
「……どうして?」
「街道を通る時に衣装が汚れる可能性だってあるし、どこかに引っ掛けて破れる可能性もある。水がかかる可能性だってあるし、考えたくないけど、衣装自体に何かハプニングがある可能性もある。だからそういう時に着替えは必要になる」
「……………………え?」
いや、理解はできた。できたのだけれど、受け入れられるかというと全くの別問題だ。
「披露会ってそんなに危険なの?」
ただ歩くだけだった気がするのに、身近にそんなにたくさんの危険が潜んでいるのか。着替えが必要になるほどの危険があるというのか。
これは延期の方が良かったかもしれない。あわよくば中止でも良い。
「気にするな。奴のは性分……、というよりも職業病だな。いつ何があってもいいように服を用意するのがあいつの仕事らしい。ちなみに披露会は全くもって危険なイベントではない。彩月の例えも起こる可能性の方が低い。というよりまず起こらない」
「備えあれば憂いなしですよ」
「さすがに備えありすぎて憂いありだな」
緑弥が鋭い突っ込みをいれる。私も着替えは一着で良いと思うよ。というよりも使うかも分からない予備の着替えまで作ってくれていたのか。私が彩月と会う事が出来なかった期間、布や糸と格闘してくれていたのだろう。
彩月の苦労を思うなら衣装が汚れて2着でも3着でも着た方がいいのだろうけれど、せっかく作ってくれたドレスを汚すような行動は出来るならば避けたい。そんな私の葛藤を見破ったのか白鴎が頭を撫でて呟いた。
「大丈夫。衣装はこれから先、着る機会はいくらでもあるから、今回は無理に沢山着なくてもいいよ」
「そ、そっか」
今回無理にたくさん着なくてもいい事を喜べばいいのかまた着る機会が訪れてしまう事を悔めばいいのか分からない。
「いっぱいありがとう」
「どういたしまして」
彩月や霙達が全員でハンガーラックのようなものに衣装をかけていく。改めて見ると多すぎて少し引く。5セットのドレスは全て白色で、見てるだけでも眩しい。これだけの量を数日で作ったというのは本当に意味が分からない。けれどそのドレス一つ一つに彩月の優しさを感じる。私の要望を聞いてくれているようで本当に嬉しい。
「それじゃあサイズ合わせをしますよ」
「……!」
呑気に眺めて喜んでいたけれど、私はこれからこれを全部着てサイズを合わせなければならない。可愛いドレスを着られるのは本当に嬉しい事なのだけれど、このドレス全部を着るなんて今日は夜寝られるかという不安も出てくる。さすがに夜寝れないなんて事になったら明日に響くと思うからないとは思うけれど。
しんどかった訳では無いけれど病み上がりという事で遠慮してくれないだろうか、なんて希望を持ってみるけれど、そうもいかなそうだ。何度も言うけれど決してドレスを着る事が嫌なわけではない。ただ量があまりにも多くて疲れそうだなというのが不安なだけだ。
「明日に響くといけませんからさっと終わらせますよ」
そう言って彩月はベッドの上に座っていた私の両脇を持ち上げ床に立たせる。気分はもう人形だ。
「はい、それでは着替えますよ。霙、白鴎。今着ている服を脱がせてあげてください」
私が今着ている服はクリーム色のシンプルなワンピース。眠りやすいように誰かが着替えさせてくれたのだろう。だからとても脱ぐのが簡単だ。いつもの条件反射で私が両手を上げると霙と白鴎は私のスカートの裾を持ち脱がせる。
「遠慮がねえな」
緑弥が呆れたように呟くけれど、これがいつもの光景だ。羞恥心なんて最初の方に消え去った。今は下着を着ているからマシな方だ。正直私も今日は霙と白鴎だけではないから緊張するかなと思ったけど、そんな事はなかった。黎翔とは一緒にお風呂に入った仲だし。
「メインの衣装はこれですね」
彩月が最初に差し出したドレスは柔らかいシフォン生地のドレスだ。ローブがまるで羽のように後ろになびいている。髪飾りはドレスと同じ生地が使われている可愛らしいカチューシャだ。
「かわいいね」
「でしょう」
彩月が体の前で広げている衣装は彩月の髪色とよく合っている。そのドレスを身につけた彩月が可愛いだろうと言ったら怒られるだろうか。念のため言うのはやめておこう。きっと私が言った「可愛い」はドレスの事だと思われているからそれで良いのだ。
素敵な衣装を着るために私は両手を上に伸ばす。そうすると上からかぽっと衣装を着られ、すぐに服が着れる仕組みだ。私はこの方法を、ここで過ごした約2週間のうちに身につけた。すごいと褒めるが良い。
「すみません聖女様。今回の衣装は後ろでボタンとリボンで止める仕組みとなっていますので、手は降ろしていただいて大丈夫です」
「なんと」
ドヤ顔をした自分が恥ずかしい。今回に限っては私の身につけた方法が使えないみたいだ。それでは手の位置はどうすればいいのだろう。とりあえず前ならえのように腕を前に突き出してみる。
「腕はそのままお願いします」
これで良かった様だ。それから腹あたりから胸にかけて板のようなものを巻きつけられ、リボンで結ばれた。全然きつくはない為、苦しくはなかった。その後、前からドレスを着て、後ろでボタンを止められた。ちなみにボタンは、沢山あった。私一人では着られないという事が分かった。そしてさらに、ふわりとしたボリュームのあるスカートを履く。
「……袖はあと数ミリ短い方が良いですね。上からこのローブを着てください」
数ミリなんて気にならないし、ローブを着るなら尚更いいのではと思うけれど、彩月さんの真剣な顔を見たら何も言えない。
「明日はヴェールも被りますからね」
「はぁい」
元気よく手を上げたら「動かないで」と言われてしまった。私も袖についてる針が刺さるのは嫌た。私が動きを止めると、細かいところまで服を見ていく。
「今着ているドレスは、大幅に変更しなくても大丈夫そうですね。霙、2着目のドレスを取ってください」
「これか?」
「はい。あとはその靴とリボンがついているバレッタを」
動きを止めるのも疲れ、休憩したいと思っていると、まさかの2着目発言が彩月から漏れた。いや2着目以降も着る事は分かっていたのだけれど、まさか休みなしで行くとは思わなかった。




