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黒いモノクロな世界と白いカラフルな世界〜世界の色を探して〜  作者: ちぇしゃ


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012-3「緑色のニンジン!」


「ぷはぁ」


 熱くもなく、ぬるくもない。絶妙な温かさのミルクティーは、少し冷えた体を十分に温めてくれた。

 甘いミルクティーを飲んでいる私の横で、黎翔は砂糖もミルクも入っていないブラックコーヒーを喉に通していた。


「うまいな」


 黎翔は机の上に広がっている緑弥が作ったクッキーを食べながら、そう呟いた。


「緑弥さんって凄いの。おいしいのを作る魔法使いなんだよ」

「ふっ、魔法使いか」


 何故か魔法使いという単語がツボに入ったようで、笑われた。


「お前も食え」


 そう呟いた黎翔は、クッキーを1つつまんで、私の口元まで持ってきてくれる。


「あむ」


 口元に差し出されたクッキーを口に含む事に迷いはない。口に広がる甘さは確かに苦いコーヒーと相性は良いかもしれない。ブラックコーヒーなんて飲める気がしないけれど。


「腹は減っていないか?」


 今現在クッキーを食べているというのに、この質問をされるのは不思議だ。この感覚に覚えがある。頭にメガネをつけておきながら、メガネを探すやつ。


「クッキーでお腹いっぱいになりそう」

「飯を食う腹は残しておけ」

「はぁい」


 どうやら、クッキーで満腹になる事は許されなさそうだ。食事を用意してくれるという事で良いのだろうか。緑弥にも食事はいらないと言っているわけではあるし。


「あっ、そうだ」

「……なんだ」

「あのね、私は今日、大発見したんだよ」

「大発見」


 真面目な顔で私の言葉を繰り返す黎翔はなんだか訝しげだ。


「あのね、飴って宝石なんだよ」

「……」

「えっとね、今日、飴貰ったんだけど、すっごくきらきらだったの」


 今まで見たどんなものより綺麗で美しかった。本物の宝石なんて見た事はなかったけれど、きっと、宝石なんかより飴の方が輝いている。いっそ、ドレスに宝石ではなく、飴を縫い付けてみたらどうだろうか。


「……うん、良いかも」


 帰ったら、やってみたい。


「何を考えているか知らないが、やめておいた方が良い」

「えー」


 何を考えているか分からないのに却下されてしまった。きっとキラキラしていて、素敵だと思うのに。不満を残しつつも、クッキーを齧ると幸せが広がって不満もとんでいってしまった。


「……お前は、」

「なぁに?」

「……いや、小さいな」

「いきなり罵倒、ですか……?」

「ほう。お前は罵倒などという言葉を知っているのか」

「15歳、ですから」

  

 確かに小さいかもしれないけど、いきなりすぎる。全く脈略が無かった。


「この小さい体にどうやって食事が取り込まれているのか謎だ」


 これは、私をからかうというよりも、本当に純粋な疑問。まるで神秘を見ているかのような瞳だ。


「いっぱい入るよ。美味しいものをいっぱい溜めてるの」


 ニンジンとか、ニンジンとか、ニンジンとか。

 黎翔はまた一つ私の口元にクッキーを入れ込む。


「それよりも披露会だが」


それよりもと言うが、話を始めたのは黎翔だ。まぁ、良いけれど。


「披露会って、私は特にする事はないんですよね?」


 確か前に笑って手を振れば良いと言われた気がする。それが私にとってものすごく難しいのだけれど。


「ああ。ところで聖女は空が飛べるか?」

「無理ですよ?!」


 「ところで飯食べたか?」みたいな感じで、軽く聞かないでほしい。空なんか飛べたら、人間の神秘だよ。


「なんだ、無理なのか」


 そんなにがっかりされても、当たり前の事で、そんなに落ち込まないでほしい。


「私、普通の人間だよ?」

「聖女という時点で、普通ではないがな」


 いや、でも私はセイジョが何か知らないから、普通ではないと言われても分からない。もしかして歴代の聖女は空が飛べたりしたのだろうか。


「……」


 今度試しに、出来心で手をバタバタしてみようか。もしかすると、空も飛べるかもしれない。


「ところで腹は空いたか?」

「……」


 一つ分かった事がある。きっと偉い人は飽きっぽいのだ。だから、さっきからコロコロと話題が変わるのだろう。


「お腹、ちょっと空いたかも」

「なら飯にするか。丁度昼時だ」


 黎翔は近くにあったベルを鳴らして、廊下にいた人に、昼食を頼んでくれた。


「ニンジンあるかな」

「……本当にニンジンが好きなんだな」

「うん、好き」

「昼食は、オムライスだそうだ」

「おむらいす!」


 ご飯に卵がかかっていて、ふわふわでとても美味しいやつだ。


「食欲はあるのに、そこまでの量は入らんのか」

「いっぱい食べてます、よ?」

「私達からすると、少食だ。……と霙達が言っていた」


 それには、誤解があると思う。私が小食なのではなくて、霙達が大食いなのだ。私は、一般的だと思う。これでも私は結構食べるようになった。食べて、お腹が痛くなる事もない。


「トマト以外にも嫌いなものはあるのか?」

「トマト以外……」


 好きなものは、たくさん思い浮かぶのに苦手なものは、すぐには思い浮かばない。今まで食べたものの中でどうしても食べられなかったもの。


「うーん、ないかも」

「そうか。ならば、ここでの食事でも困らないな」

「ここでの食事?」

「……この先、城で食事をする事も増えるだろう」


 つまり、これからも、この城で食事をしても良いという事だ。そして、それはすなわちここにもたくさん遊びに来ても良いという事だ。


「食べる!!」


 歓迎されるというのはこんなにも嬉しいものなのか。理由もなく遊びに来て良いと言われるのは、こんなにも胸が暖かくなるのか。


 無条件で受け入れられるというのは、こういう感覚なのか。


 不思議だ。特に悲しくもないのに、涙が溢れそうになる。


「また遊びに来るね」

「ああ」


 一言、そう答えた黎翔の目が普段よりも笑っているように見えた。


「ご飯、また今度一緒に食べてね」

「…………」


 返事はなかったけれど、きっと食べてくれるだろうという予感がした。私は、黎翔の反応に満足したのに、なぜか黎翔は、私の頬をつねった。


「ふぇ? ふぁあに?」


 力加減が上手なのか、全く痛さは感じないけれど、喋りにくい。


「……いや、こうして見ると、普通の人間だなと」

「…ふぇー?」


 紛れもなく、普通の人間のつもりでいたのですが。


「ぇい!」


 仕返しとばかりに黎翔の頬をつねろうとしたけれど


「……」


 なんという事だろう。私の手が短すぎて、頬に届かないという事態が発生した。どうにか届かせようと、手をバタバタしてみるけれど、黎翔の顔の前でバタバタと振られるだけで、全くもって届く気配がない。悔しいけれど、なんだか、それも面白くなってきて、つい笑いそうになってしまった。















 黎翔が私の頬を離し、雑談に花を咲かせていたところ、コンコンとノックの音がした。黎翔が促すと素敵な良い匂いと共に男の人が食事を持って入ってきた。


「昼食をお持ちいたしました」


 そう言いながら、ワゴンを机の横につける。


「先程の返事だが、」


 黎翔の言葉を聞きながらも目線がつい食事の方に引っ張られてしまう。しかし、そんな私を意に返さず、黎翔は言葉を続けた。


「今でも良いか?」


 先程って何の事だろうかと、問いかける前に意味が分かってしまった。机の上に並んでいるのは、二人分の食事だった。二人分のオムライスと、二人分のサラダ。


「良い!」


 先程の言葉は、私が「今度」といったから、返事がしづらかったのだろう。


「一緒に食べ、ます!」


 これは嬉しい誤算だった。こんなに嬉しい事があるならば、今座っている席が隣ではなく正面だったとしても全く問題はない。むしろ正面の方が、相手の表情もよく見えるし、良い事しかないような気がする。


「いただきまーす!」


 口の中に広がる、優しくて、甘い卵の香りは絶品だった。正直、緑弥と良い勝負だと思う。私の何倍もある大きさのオムライスを食べている黎翔は、大人だからか、一口もすごく大きい。そこが男らしくて、格好良いとも思う。格好良いんだけど、食べてるものがオムライスだから、なんだか可愛い。偉い人って、もっと豪華な食事をしているとばかり思っていたけれど、結構、庶民的だ。私がいるから、合わせてくれてるのだろうか。


「……」

「っわ!」


 オムライスを頬張って幸せに浸っていたところ、目の前に、ニンジンが現れた。おそらく黎翔のサラダに入っているニンジンだろう。


「良いの?」

「ああ」


 良いというなら、遠慮なく


「はむっ」


 安定の美味しさだ。オムライスばかりではなく、サラダにも手をつけよう。


「ん?」


 スプーンからフォークに持ち替えて、サラダにフォークを突き刺したまでは良いのだが、見覚えのない緑のものが出てきて、首を傾げる。

 キャベツでも、レタスでもない。きゅうりでもない。


「これ、なぁに?」


 フォークで刺した感じだと、茹でたニンジンによく似ている。もしかすると


「緑色のニンジン!」


 今まで、ニンジンは橙しか食べた事がなかったから、緑色のニンジンがあるなんて驚きだ。


「それはアボカドだな」

「あぼ……、?」

「アボカド」

「あどがぼ」

「アボカド」

「アボガド」

「惜しい」


 まるで呪文のような名前の野菜だ。


「食べてみろ」

「……」

「食べないのか」

「うーん、」



 緑色のニンジンだと思ったら食べられるのだけれど、なんだか、それではないと知ったら、正体が分からなくて、食べにくくなってしまった。


「おいしぃ?」

「正直、私は好きではないな」

「えー……」

「だが食える」

「えー………………」


 好きではないのに食べられるってなんだろう。黎翔も好きではないのなら、ますます食べにくくなってしまった。


「食わず嫌いは良くない。食ってみろ」

「……」


 それならせめて嘘でも「美味しい」「好き」と言って欲しかった。黎翔相手に食べたくないは通用しなさそうだったから、諦めて一口食べてみる事にする。


「あむ」


 食感は茹でたニンジンに似ている。味はどちらかというとない。思ったよりも食べれない事はない。


「おいしい……?」


 きっと美味しいのだろうけど、よく分からない。食べられない事は無いのだけれど、沢山は食べられないだろうという感じだ。


「栄養はあるらしいぞ。カロリーは高いがな」

「かろりー……」

「お前は気にする必要も無さそうだな」


 栄養があるという事なので、もう一口アボガドを食べてみる。出されたからには満腹にならない限りは食べるつもりだ。食べられない苦しさに比べたらなんて事ない。


 取り敢えずニンジンで口直しをしよう。


 

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