011-4「彩月さん、一緒に食べる……?」
「あとは髪飾りを考えなければ」
髪飾り。まだ決める事があるのか。思わずため息が出そうになったが、これは私に関する事だから、私が飽きていてはいけない。けれど、私の思った事が表情に出ていったのか
「少し疲れたから、休憩しましょうか?」
彩月がそう言ってくれたので、私は迷わず首を縦に振る事にした。
「それじゃあ、時間的にご飯だね」
仕事モードが終わったのか、彩月は笑いながら軽く私の頭を撫でてそう言った。
「ご飯!」
キラリと私の目が輝いた。
「ごはん持ってくるから、待ってて」
白鴎は食事の時間だと分かると、さっと部屋を出て行ってしまった。
「今日のご飯はなぁーにかなぁ?」
足を揺らして霙に聞いてみるけれど、
「さあ、緑弥に聞いてみなければ分からないな」
「そっかぁ」
再び足を揺らす。
「……」
ちらりと彩月を見るけれど、部屋を出ていく様子もない。もしかすると。
「彩月さん、一緒に食べる……?」
恐る恐る期待を込めて聞く。
「……そうですね。一緒に食べましょうか」
「うん!」
彩月は一緒に食べてくれるようだ。となれば、
「ちょっと行ってきます」
「え、どこに?」
「みんなの所!」
驚く彩月をよそに、私は部屋を飛び出した。
私が思うままに動いても、この世界ではきっと大丈夫。そう思えたから。
「かえりましたぁ」
「えっと、お邪魔します?」
「ただいまー」
「邪魔するぞ」
私は出て行ってから数十分後に皆を連れて戻ってきた。部屋の中を見渡すと、先程までいた霙の姿が見えなかった。座って待っていたのは彩月だけだった。彩月は待っている間の時間が暇だったのか、はたまたアイデアが思いついたからか机の上にデザイン画を広げていた。
「なぜ績が?」
「聖女様に一緒にご飯食べようと誘われましてね。ちょうどご飯を食べる頃でしたし、あんなに可愛く誘われたら、断れません」
「ほう。ちなみに聖女様はどんな誘い方を?」
「医務室のドアをノックして、返事を待たずに入ってきたかと思えば、私の足に抱きついて『一緒にご飯食べよぉ?』と首を傾げながらお願いされました」
「……それは断れないね」
「でしょう?」
彩月が一緒にご飯と食べてくれると知った時、績の顔が浮かんだ。そして、
「ほら、今日の飯だ」
ワゴンをもって来てくれた緑弥も誘ってみたら一緒に食べると言ってくれた。しかし「味見やらなんやらであんまり腹は空いてないから、少しだけだが」という事だった。けれども、みんなで食べられるのならば、構わない。
「六人前だな。今日は大皿をいくつか持ってきたから、好きなものを好きなだけ取ってくれ」
「すっごく楽しそう!」
好きなものを好きなだけなんて、とてつもなく、贅沢だ。つまり嫌いなものは食べなくて良いのだろう。サラダにトマトが入っているけれど、それも食べなくていいし、小さなコロコロのハンバーグと、茹でたふかふかのニンジンだけたくさん食べても良いのだ。
おにぎりもあるし、トマトパスタも美味しそうだ。
おそらく私の事だから、量は食べられないだろう。前に、霙や白鴎と一緒に食べた時以上の山盛りだ。果たして食べきれるのだろうかと不安に思うほどの料理が皿に載っている。
「美味そう。さすが緑弥」
「美味そうじゃなくて美味いんだよ。冷める前にさっさと食おうぜ」
それぞれが机に着くと、決して小さい訳では無い机が料理で埋まってしまった。この人数で食べるには少し狭いかもしれない。けれど、この狭さが心地良い。
「そう言えば霙さんは?」
「先程出て行ったきりまだ戻ってきてませんね」
見渡すと霙が座るであろう椅子のところだけ、空白だ。
「先に食べようか?」
「えー……」
それはなんだか寂しい。出来る事ならば、一緒に食べたいと思う。けれども、腹が空いているのも事実なわけで。目の前の食事を自主的におあずけしていた私は五分ほどで限界がきた。私というよりも、私のお腹が限界を迎えたのだけれど。
「聖女様、お腹も鳴っている事ですし、食べましょうか?」
「はぁい」
腹も鳴っているし、それに温かいうちに食べた方が美味しい。
それじゃあ、いただきますと、手を合わせようとしたところで、霙がようやく帰ってきた。
「すまない、遅れた」
霙の顔見て少し安心したと同時に霙の腕の中にあるものに目がいった。
「霙さん、おかえりなさい!」
「ああ、ただいま」
それはまるで瓶のようだ。中身が何かは分からない。
「どこに行っていたの?」
「緑弥のところにな。といっても緑弥はいなかったが」
「俺に用事だったか?すまねぇ、何の用だった?」
「聖女様が飲む為の牛乳がなくなったから貰いにな。いなかったので、済まないか、勝手にもらったぞ」
「ああ、構わない」
霙の用事は、私の為だったようだ。牛乳がなくなっていた事に気がつかなかった。毎日というペースで飲んでいるから、消費も早いのだろう。飲みたい時に、もうなかったと絶望する事はなさそうだ。
「じゃあ、全員揃った事だし、食べよっか?」
「うん!」
今度こそ、心置きなく両手を合わせる。
「いただきまぁす」
さて、何から食べようか。
やはりニンジンから食べたいと思ったのだけれど、ここで問題が起きた。
「届かない」
椅子の上に立てば届きそうな気もするが、さすがに行儀が悪いだろう。
「どれが食べたいんだ?」
必然的に隣に座っていた緑弥が、私の世話をする事になった。申し訳なかったけれど「俺はそんなに腹が減ってないから大丈夫だ」と言って喜んでその役目を引き受けてくれた。
「えっとね、ニンジン」
「あとは?」
「ニンジンもっと、」
「とりあえず5個ぐらいにしとけ。食べれたらまた入れてやるから。ニンジン以外は?」
「えっと、キャベツ」
「残念、これはレタスだ」
「……」
見分けるのは難しいと思う。緑弥は、皿にニンジンとレタスを置いてくれた。
「あとは?」
「ニンジン!」
「……」
そんなに冷たい目で見ないで。
「だって、好きな物好きなだけ食べていいって、……」
そう言ったのは緑弥だ。
「…………野菜を食べるのはいい事だ」
緑弥は苦し紛れにそう言った。自身の発言を顧みているようだ。
「じゃあ、ニンジ」
「だがな」
ニンジンもっと、と頼もうとしたところで緑弥さんに阻まれてしまった。
「栄養バランスって知ってるか?」
「……知らない」
聞いた事はあるけど、知らない。なんだか難しそう。
「野菜を食べるのはいい事なんだ。しかし、野菜だけ食べると、元気もなくなるし、体も冷えるし、あと、」
「……あとは?」
「太った時に、痩せにくくなる」
「!!!」
衝撃だった。どちらかというと野菜って食べたら痩せるものだと思っていた。野菜だけ食べるって、なんて恐ろしい。
なんだか怖くなってしまって、緑弥さんが持ってくれていた器をそっと押し返す。
「だが食べなかったら食べなかったで太るからな」
そして押し返した器をもう一度手前に引き寄せる。けれど、野菜だけをずっと食べていたら太らないのではないだろうか。太った時に痩せにくいのであれば、そもそも太らなければ良い。そう思うのは間違いだろうか。
「そこを気にするなんて、やはり聖女様も女の子なんだね」
白鴎の言葉が突き刺さる。私はれっきとした女の子だ。
「聖女様、どうする?」
先程の話をした後で、私に選択肢を選ばせるなんて、卑怯だと思う。
「……トマトはいりません」
そう言って皿を緑弥に預けた。
「いい子だな」
緑弥がわしゃわしゃっと私の頭を撫でてくれた。乱暴なはずなのに、なぜかその仕草に心が温まる。
「大丈夫だ、俺の作ったものはどれも美味い」
「うん」
そこに関しては、信用がある。
おにぎり1つとパスタを少し。ニンジン5個とレタスを沢山。あとは小さなハンバーグが2つ。正直、食べきれるか怪しいところだ。
「いただきまぁす」
まずは大好きなニンジン。茹でてあるニンジンはほわほわで甘くて、とろけてしまう。
「あまぁい!」
ポリポリのニンジンも好きだけどこっちも大好き。視線を感じ、周りを見渡せば皆がこちらを見ていた。
「どぉしたの?」
「いえ、美味しそうに食べるのだなぁと思いまして」
「だって、とっても美味しいの。績さんもニンジンどぉぞ」
「ふふ、ありがとうございます」
フォークにニンジンを刺して績の口元まで持っていくと、口を開いてくれたので、その中に入れる。
「ね、美味しいでしょ?」
「ええ、美味しいですよ」
私が作った訳では無いけれど、私のおすすめだから、ドヤ顔をしておく。
「ほら、これも美味しいよ」
次は何を食べようかなぁと考えていたところ、目の前にフォークに巻き付けられたパスタが現れた。
「彩月さん、食べていいの?」
「是非」
パクリと目の前のパスタを食べると、この間と少し味が違うような気がしたけれど、これはこれで美味しい。
「お味は?」
「おいしいの」
隣で緑弥がドヤ顔をしているのが見えた。褒められて嬉しいのだろう。
フォークにニンジンをさして口に入れると、先程と同じように柔らかな、甘みが口の中に広がっていく。もうひとつ。
「あむ」
もうひとつ。
「はむ」
おいしい。もうひとつ―――、
「あ、」
ニンジンは5個しか入れてなかった。4つを食べ、1つは績さんにあげた。
チラリと緑弥を見てみるが、彼は私の視線に気付かずに、霙達と話をしながら食べている。
今なら大丈夫だろうと思い、緑弥とは反対側の私の隣に座っている績の服をちょいちょいっ引っ張る。績はそれに気づいてくれた。
「どうしました?」
「ニンジン食べたい」
「食べましたよね?」
「でも、もう無くなっちゃった」
「……」
績ならば、私が言いたい事を分かるはずなのに。ここは私が言った方が良いみたい。
「おかわりちょぉだい」
皿を出して績にそういう。すると績は私のフォークを手に取った。そのまま大皿のサラダからニンジンを。
そう思ったのだけれど績は私の皿に盛られているレタスを差し私の口元まで持ってきた。
「あむ」
食べるけれども。美味しいけれども。それじゃない。績はその後も私の器のレタスを食べさせようとする。績はもうニンジンをくれないようだ。
「彩月さん、あのね」
績が難しいならば、次は彩月に頼もう。




