011-1「鳥さんは、この辺り」
目が覚めた時、私は自分のベッドの上にいた。どうやらあれから朝まで眠ってしまった様だ。
いくら小さいとはいえ、ずっと抱っこするのは重たかっただろうに。けれど2人の足だったら、そこまでの時間はかからないのかもしれない。行きは私が寄り道をしていたから、すごく時間がかかってしまったが2人が歩いていくとあっという間なのだろう。
それにしても、昨日は楽しかった。黎翔とは初めて会ったから緊張した。「国王様」って呼ばれるのは好きではないのかもしれない。私が最初に「国王様」って呼んだ時は眉間に皺が寄っていた。けれど、私が名前で呼ぶと彼の眉間に皺が寄る事はなかったし、返事も最初と比べて素っ気ないものではなかった。やはり役職で呼ばれるより名前で呼ばれた方が嬉しいのだろう。
本当は黎翔の所に泊まってもいいのだけれど、みーが1人ぼっちだと可哀想だ。黎翔の所に泊まるとしたら、私はどこで寝るのだろうか。客室を用意してくれたりするのだろうか。気持ち的にはソファーにでも転がしておいてくれたら十分に寝られるのだけれど。私は小さいからどこでも寝られる。欲を言うならば、柔らかいところが良い。柔らかい所だと夢も見ずにぐっすり眠る事が出来る。
私の腕の中にはみーがいた。いつの間にか無意識で握りしめていたのか、もしくは霙と白鴎のどちらかが私の腕の中にみーを置いてくれたのだろう。みーがいてくれたおかげでぐっすりと眠る事が出来た。
ゆっくりと起き上がってみると、いつもより早く寝たからか、起きるのも早かったようで、外はまだ暗い。おそらくもう少しすれば夜明けが来るのだろうけれど、この暗さでは絵本を読む事も難しそうだ。きっと目が悪くなってしまう。
さて、何をして時間を潰そうか。暗くても道具がなくても出来る事といえば何だろうか。すぐに思いつくのが筋トレだが、私は別に筋肉を育てたい訳ではない。脂肪をなくしたい訳でもない。私の少ない知識の中で思い浮かぶのは、妄想ぐらいだ。だが、ずっと考え事をしているのも暇だ。こんな時にスマホでもあれば時間を潰す事が出来るのだろう。目が悪くなる事は間違いないが。でもそうか、スマホで目を悪くする事を考えれば、暗闇で絵本を読んで目を悪くするのもそんなに変わらないのかもしれない。けれど、やはり、目を悪くすると後々支障が出てきそうだから、絵本は今はやめておこう。
「♪~」
こんな時に出来るのは、歌を歌う事くらいだろう。大きな声で歌ってしまうと、隣の部屋にいる2人が起きてしまうかもしれないから、布団の中にくるまり、顔を枕に押し付けて、小さい声で歌う事にした。
歌詞なんてよく覚えていないけれど、なんとなく好きなメロディーだった。歌えるうちにたくさん歌っておかないといけない気がする。私は歌とは無縁の人生だったけれど、たまに聞こえてくるメロディーが本当に好きだった。だからこそ、自分が歌ってみるのと、その歌を聴くのとでは感覚が全く違う。やはり曲は聞くのがいいのであって、自分で歌うのは少し違うと感じた。
それでもやはり暇である事は間違いないので、時間を潰す目的で繰り返し同じメロディを歌ってみる。歌って不思議だ。歌は形に残らないのに一番形に残る気がする。普段話している言葉を少し高くしたり低くしたりするだけでずっとずっと記憶に残っていくものになるのだから。
「……」
歌も絵に描く事が出来たらいいのに。けれど、歌を絵に残そうとしてもかけるのはせいぜい音符記号くらいだろう。そんなのはただの楽譜だ。絵とは言えない。中には楽譜は絵だという人もいるのかもしれないが、私はその感覚がよくわからない。楽譜が読めない人からしたら、楽譜はただの記号の羅列にしか見えない。
「♪~」
私は一体この歌をいつまで覚えていられるのだろうか。
体を起こし、ベッドサイドに立ってみると、以前に彩月が作ってくれたふわふわのパジャマを着ている事に気がついた。いつもこの服で寝ているから違和感が無くて、着替えていた事に気が付かなかった。そして、風呂にも入れてもらったのか、体はすごくさっぱりしていた。風呂に入れてもらって着替えもしているのに、それに全く気づかなかった私ってどうなんだろうか。よほどぐっすりと爆睡していた事がわかる。
窓の外を見てみるとやはりまだ暗いけれど、少しずつ明るくなっていきそうな気がする。もう少ししたら日の出だろう。今日も鳥が窓の外を飛んでいる。私にとって空はとてもとても広いものだから、鳥にとってもそうだろう。広い宇宙を自由に羽ばたける鳥はなんと羨ましいのだろう。
「そうだ」
鳥の絵を描こう。色鉛筆とスケッチブックを持ってベッドに戻る。少し行儀は悪いかもしれないけれど、ベッドの上に寝転んだ状態でスケッチブックと色鉛筆を広げる。鳥は白だった。白の色鉛筆を手に取り、スケッチブックに色を走らせるけれど。
「みえない」
やはり、白のスケッチブックに白の鳥は合わない。当たり前だけれど見えない。
「じゃあ、この色かな」
人間とは不思議だ。色とは不思議だ。
今、私が持っているのは水色の色鉛筆だ。反対の手で青色の色鉛筆を持つ。
「ちがう……」
どうして、人は空を青いと表現するのだろう。晴天を「空が青い」と表現するにもかかわらず、その色は決して青ではない。薄くて濃い、どちらともつかない水色。もしかすると、初めて空を青いと言った人は、水色の事を青と認識していたのかもしれない。
「……」
それも素敵だ。色への認識なんて、人それぞれだ。特に中途半端な色は。
手に水色だけを持ち、鳥の周りを薄く塗る。
「鳥さんは、この辺り」
鳥の場所を真ん中の少し右辺りに確保し、それ以外を水色で塗りつぶす。
「雲は……、ない」
ちらりと窓の外を見てみると、雲ひとつない晴天だった。そのための場所を残さずに、全てを水色で塗る。難しいのはここからだ。私はいま空全体を水色で塗ったけれど、鳥の部分だけを残して乗らなければいけない。つまり鳥の形をイメージしながら塗らなければいけないのだ。なんとも難しい。
「確か、羽は大きくて」
羽の輪郭を水色で描き、
「頭はこうで……、あ、嘴もあった。足はこうで」
輪郭としてはこんなものだろう。さて、これからどうしようか。残った白い空間にわざわざ白い色鉛筆で色を塗るのはどうだろうか。意味もなければ写りもしない。
「うーん」
これはこれで良いのではないだろうか。あえて何もかかないというのも。けれど、やはり物足りない気がして、少しの陰影を水色でつける。大体、顎のあたりと足の付け根のあたり、翼の付け根あたりだろうか。
「……うん」
それっぽくなったのではないだろうか。白い鳥だからあえてこれでも良いだろう。
「あとは、目」
さすがに目も描かないのは違う。瞳は何色だっただろうか。黒だったような気もするし、濃い青色だったような気もする。ここは濃い青色の方が良い気がする。方がこの絵にも鳥にも合っている。
「まぁるいめ」
必死に思い出しながら青い目を書くけれど、
「……」
何と言えばいいのだろうか。一気にキャラクター感が増した。少しくらい黒色を足した方がよさそうだ。
「……」
結果的に満足のいく仕上がりにはならなかった。自分も他人も満足のいくというのはなかなか作ることができないものだろう。
色鉛筆を使ったって必ずしも望む色になるわけではない。色を何度も何度も重ね合わせて自分の好きな色を作っていくのが楽しくて難しい。
本当に絵は難しい。
これで完成で良いだろう。
そろそろお片付けをしましょう。




