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黒いモノクロな世界と白いカラフルな世界〜世界の色を探して〜  作者: ちぇしゃ


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010-3「…………甘いの食べたから、大丈夫です」


「ここだ」


 廊下を進んでいると、一段と大きな扉が現れた。白基調な扉である事は今までのものとは変わらないけれど、どこか豪勢だ。差し色に金色がふんだんに使われているからだろうか。ちなみにここまで道はよく覚えていない。足は疲労を覚えているが、どこか達成感を感じる。


「国王はおられるか」

「中に」


 扉の横に佇んでいた人に霙が声をかけると簡潔な答えが返ってきた。霙はそれに頷き、「コンコン」というよりも「ドンドン」と扉をたたく。扉が分厚いから優しく叩いただけならば気がつかないのかもしれない。


 ゆっくりと扉が開いたかと思えば、中から人が出てきた。


「思ったよりもゆっくりでしたね」


 この人が「コクオウ」という人だろううか。


「ゆっくりと歩いてきたからな。それよりも、陛下は奥か?」

「ええ」


 会話を聞くに、どうやら彼が「コクオウ」では無さそうだ。「コクオウ」とういう人が奥にいるという事だろう。


「聖女様と守護者様が到着されました」

「入れ」


 聞こえてきた声は優しさとはまるで無縁の硬く冷たい声だった。声を聞いた途端、私の中の「コクオウ」像とは真反対の人物が思い浮かべられた。


「やっと来たか」


 椅子に座り、机に肘をついて、そういった。恐らく彼が「コクオウ」という人だろう。真っ白で長く綺麗な髪と、吸い込まれてしまいそうなほど輝かしい金色の瞳。やはりこの人はこの国の人なのだなと思う。


 3人で一緒に部屋の中に入り、彼の前に行く。私の事を見る彼の目は何処となく鋭い。まるで睨まれているようだ。私のイメージをしていた王子様像からは果てしなく遠ざかっている。


 霙と白鴎は、部屋に入った途端、まるでこの人を崇めているかのように、膝をつき、頭を下げた。

 私もそうした方が良いのだろうかと迷いながらも、状況がよくつかめず、真似をするように膝をついた。そして、頭も下げようとした所で。


「やめろ」


 と、冷たい声に遮られてしまった。


「立て」


 まるで命令だ。霙と白鴎が座っているのに私は立ったままでも良いのだろうか。横目で霙の方を見てみると、力強い頷きが返ってきた。その頷きは、恐らく立っても良いという事だろう。

 恐る恐る膝を地面から離す。


 彼は鋭い目線で私の事を見ていた。

 温かく厚い生地のものを着ているというのに、今だけは分厚い衣装も心細く感じる。先程まではその衣装が私を守ってくれていたというのに。少しの手の震えを拳を握り耐える。

 

 想像以上に若かった「コクオウ」はその若さを感じさせないほど堂々としていて、優雅だ。


 彼はゆっくりと机についていた腰を上げた。そして重い腰をあげるかのようにゆっくりと立ち上がった。まさか近くにでも来るつもりなのだろうか。


「あ、あの、私は」


 歩き始めた彼に慌てて自己紹介をしようとするも。


「お前が聖女か」


 私が言うよりも早く、「コクオウ」は呟いた。


「はいっ」

「……そうか」


 彼は呟いた後、そのまま私の前に立った。


「?」


 真っ白な衣装をはためかせながら、まるで鳥が舞うように優雅な足取りで。不思議と彼が歩く姿を綺麗だと思ってしまった。


「お初にお目にかかります、聖女様。この国に現れてきて下さった事、心から光栄に思います」

「えっ、あの?」


 先程の雰囲気とはうって変わって、彼は霙と白鴎のように、私に向かって膝をつき、頭を下げた。先程の態度と話し方に差がありすぎて、どうしていいのか分からない。霙たちに助けを求めようにも2人は頭を下げきっていて、もう目線を合わせる事は出来ない。


 偉い人が膝をついているのだから、やはり私もそうした方が良いのだろうかと慌ててしゃがみ込もうとする。


「聖女が膝を着くな。頭を下げるな」


 しかし、私が膝をつくよりも早く再び彼に注意をされてしまった。最初の彼の態度に戻った事に少し安心しながらも、どこか落ち着かない。

 何故膝をついてはいけないのか聞いてはいけなさそうな雰囲気だ。


「……はい」


 とりあえず彼に返事は返す。


「用事は済んだな」

「えっ?」


 彼はもう用が済んだとばかりに、私の前から立ち去り、机に戻る。

 用が済んだという事は、私はもう戻ってもいいのだろうか。


 私が振り向いて帰ろうとしたところで、霙達からストップかかる。


「まだ話はおわっていない」

「……これ以上何を話せと」


 確かに彼の言う事も一理ある。「コクオウ」というのはとても忙しい仕事なのだろう。その証拠に、彼の机には大量の紙が積み重なっている。


「まだ自己紹介すらしていないだろう」


 霙はそういうけれど、私は頭にハテナが浮かんだ。彼は「コクオウ」という名前ではないのだろうか。てっきり私はそれが彼の名前だと思っていた。


「……黎翔」

「え?」

「それが私の名だ」


 黎翔。綺麗な響きだ。黎翔というのが彼の名前ならば「コクオウ」というのは、役職などの名称かもしれない。

 という事は、私は彼を名前で呼んでも良いのだろうか。けれど、彼が率先して私に教えなかったという事は、どちらかというと役職で呼んだ方が良いのかもしれない。


「あの、もう帰っても……?」


 恐れ恐るそう聞くと、彼は私の顔を見て眉を顰めた。この聞き方は早く帰りたがっているようで、不快だったかもしれない。

 私が言い訳を考えるよりも先に、霙は「否」と否定の言葉を述べた。


「もう少しここにいてやってくれ」


 私は全然良いのだけれど、黎翔はそれで良いのだろうか。私の事をあまり気に入ってないようだけれど。しかし、霙が言うならば私に拒否権は無い。


「分かりました」


 黎翔はため息をついたけれど、私に出ていけとは言わなかった。どうすれば良いか分からず、佇んでいると黎翔はソファを指さしたので、大人しくそこに座った。硬い革製のソファはツルツルとしといて気持ちが良かった。


「予想より小さいな」


 ソファの感触を楽しんでいる私を見ながら黎翔は呟く。予想よりという事は、あらかじめ私が小さいという事は聞いていたのだろう。それよりも実物が小さかったという事だ。恐らく私が小さいのではなく、この世界の基準が大きいのだろう。なぜか私も必要以上に幼い子どもとして見られているようだし。確かにこの身長で15歳と言い張るには無理があるだろう。


「じゃあ、ちょっと出てくるね」


 先程まで空気と化していた白鴎が、この部屋から出ていこうとする。どこに行くのだろうかと思い、ついていこうとすると「聖女様はここにいて」と言われてしまった。そう言われてしまっては、この部屋にいるしかない。


「私も仕事を済ませてくる」

 

 そして、なぜか霙までも部屋を出ていこうとした。1人ならまだしも2人共出ていくと思うと途端に心細さが増す。


「聖女様を怖がらせるなよ」

「怖がらせてなどいない」


 2人は後ろ髪を引かれる事なくあっさりと出ていってしまった。初めての人と二人きりだなんて緊張しかない。


  1人残されてしまいどうすれば良いか分からず、そわそわと体を動かす。忙しい彼に話しかけて良いわけもなく、1人で暇を潰そうにも、ここには私が暇を潰せるようなものが何もない。強いて言うならば、この部屋の観察ぐらいならば出来るが、人に部屋をジロジロと見られるのもあまり良い気分ではないだろう。


 となれば、座ってじっとしているしかない。出来るとすれば、妄想くらいだろうか。


「……腹は空いていないか?」


 ぼーっとしていると、彼から話しかけてくれた。というよりも、彼は忙しいはずなのに、先程から書類に手をつけてはいなかった。私がいるから遠慮しているのだろうか。


「…………甘いの食べたから、大丈夫です」


 私の返答の意味が分からなかったのか、再び眉を寄せながら聞いてくる。


「甘いのとは」

「えっと、ちっちゃくて、コロコロしてて、口の中で舐めるやつです。これくらいの大きさの」


「これくらいの」言いながら指で円を作る。大体一口サイズだ。



「あぁ、飴の事か。……、あんなもので腹がふくれるか。おい、軽食をもってこい」

「はい」


 先程食べた甘いものは飴というのか。名前通り甘くて小さくて、可愛い。黎翔は廊下に向かって呼びかけたけれど、なぜか廊下からは返事が返ってきた。その声は霙や白鴎のものではなかったけれど、もしかすると誰かが控えていたのだろうか。入ってくればいいのにとは思うけれど、それが彼の仕事だと考えると余計な事を言う訳にはいかない。


「あの、私、ご飯大丈夫です。まだ我慢出来ます」


 腹が全く減っていないかと聞かれると嘘になるが、我慢もう少し出来そうだ。何よりまだ腹はなっていない。腹が鳴ってから本格的にお腹が空いてくるのだと、この間学んだ。


 仕事の手を止めては悪いからと気を遣ったつもりだったが、私の言葉を聞いて、彼はまた眉をしかめてしまった。


「……子どもが気を遣うな」


 そう言われて、これ以上私に口に出来る言葉はない。私に出来る事といえば、これから来るであろう食事を目の前にして手を合わせる事だけだ。


 出会ってほんの数分だけれど、彼の事はなんとなく分かった。彼は私と話すとき、1度だって目をそらさなかった。私の事を見ながら話をしてくれていた。私が彼は怖いと思う理由は、その鋭い目つきだけだ。これに関しては仕方がない。

 

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