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黒いモノクロな世界と白いカラフルな世界  作者: ちぇしゃ


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001-2「私、15歳です。小さい子じゃないです……」


「誰?」

「ひぅっ!」


 突如背後から聞きなれない声が響き渡り、私の肩を掴んだ。全く予想していない背後からの奇襲であった為、つま先から頭の先までが震えた。自身でも驚くほど飛び上がり、霙の後ろに逃げ込んだ。出会ったばかりの霙の事を信用している訳では無いが、歩いてくる中で彼私の知る男性よりも優しい人という予感を感じた。恐らく霙の足に抱きついても、怒りをあらわにする事はないはずだ。


「はぁ……。白鴎、彼女が怯えている」


 霙は、大きなため息をついて、入ってきた人に声をかけた。


「え?」


 今入ってきた白鴎という人物は、声を聞く限り男性のようだ。美しく綺麗な外見からすると女性のようだが、それは霙も同様だ。霙の後ろから白鴎を覗き見るが、やはり彼も霙と同じように白い服を着ている。白髪に金色の瞳と、容姿まで霙と同じだが、顔はのつくりが全く異なる事から、兄弟という線は薄い。


「で、この可愛い子、誰?」


 白鴎は私の方を指差す。自身を表す言葉としては久しく聞いていない単語に胸が震える。


「彼女は聖女様だ」

「へ……、は?」


 白鴎は遠慮の欠片も無い眼差しで私を見る。私はその目線に耐えきれず、もう一度霙の後ろに隠れる。


「白鴎、見すぎだ」

「いやいや、そりゃあ見るでしょ。だって聖女様だよ? 長年待ち望んだ聖女様だよ?」

「まぁ、それはそうだな」


 待ち望んだという事は、やはり私は歓迎されてるのだろうか。白鴎は霙の後ろに回り込む。視線を感じるが、そのような事をされているのだから余計に顔を上げる事が出来ない。


「それにしても、今回の聖女様は一段と小さいね」


 小さいという余計な単語は自身では理解していたとしても他人から言われると一層傷つく。人間ならではだろう。同年代と比べると小さい事は十分理解していた為、それ程傷ついた訳ではないが。


「だろう」


 白鴎の言葉に、霙も同意した事に悔しさを覚えるが、次の霙の発言がより私を傷つけた。


「まだ幼子なのにな」

「?!」


 背が低い自覚はしているが、幼子になった覚えは無い。霙と白鴎と比べると背が低い事は否定のしようもないが、そこまで小さく見られていたとなると、文句の1つも言いたくなるというものだ。


「あの、私。小さい子じゃないです」


 弁解はしたいと思い、霙の足に顔を埋めたまま声を上げる。


「あ、喋った。声も可愛いね」

「!」


 白鴎も声は優しいものだった。白鴎も恐ろしい人ではないの可能性がある。もし恐ろしい人である可能性がでたら、その時に逃げれば良い。


「あ、あの……」


 顔だけを霙の後ろから出すが、白鴎を見た時に私は驚きを隠す事が出来なかった。白鴎は座り込んで私の目線に顔を合わせていた。初めて見る顔が近くにある事には驚いたが、上から見下ろしている訳では無い為、怖さは半減した。


「私、15歳です。小さい子じゃないです……」

「え?」


 自分の年齢を伝えると白鴎は目を丸くし、それから霙を見た。これで誤解は解けたはずだ。今後の事もある為、幼い子だと思われていたならば、誤解は早めに解いておいた方がよい。


「いや、十分幼いだろう」

「え?」


 しかしながら霙は私が15歳であると弁解したにもかかわらず、幼子だと言い張る。


「うん、まだまだ幼いね」


 白鴎も同様にそう言う。心外だ。確かに15歳は大人では無い為、分類としては子どもだが、間違っても幼子ではない。この夢の世界と現実では、時間の流れが異なるのだろうか。


「おいで」


 白鴎は私の方へ手を伸ばす。霙の手ですら握る事を躊躇したというのに、たった今出会った人の手を握るというのは相当の勇気がいる。霙の方を向くと、霙は頷いた。つまり、白鴎の手を取るべきだという事だろう。


 霙と同様、遥かに大きい白鴎の手を握る。私が握ったのは手というより指だが。しかしながら、先程まで一緒にいた霙から離れる事を不安に思い、反対の手で霙の手を探した。2人の手を握ると、不思議と気持ちが楽になった気がした。


 2人にソファに促され、ゆっくりと腰掛ける。ソファはとても広く、私の両隣に霙と白鴎も一緒に座ったが、まだ余裕がある。手は握ったままだ。


「やれやれ、やっと話が出来る」


 霙はそう言いながら白鴎の方を見た。まるでお前のせいだとでも言うように。


「だって仕方ないじゃん。聖女様がこんなに可愛いだなんて思わなかったし」

「確かにな。今までの聖女様よりずっとずっと小さいしな」


 可愛いという表現は嬉しいが、小さいを繰り返される事は少し複雑だ。まぁ、容姿は変えようがない為、仕方がない。正直、夢の中くらいは背が高くなりたいという理想を叶えて欲しかった。




 この夢は一体いつ覚めるのだろうか。


 


 


 

 

「で、本題に入るが」


 霙の言葉に思わず背筋が伸びる。


「は、はい」

「この国の事は知っているか?」

「わ、分かりません」


 この国の名前は空の国。私が知っているのはそれだけだ。自分がどういう存在かも分からない。セイジョサマとは一体どういう存在なのだろうか。


「この世界は地の国、太陽の国、水の国、魔の国、そして、空の国に分かれている。今、私たちがいるのは空の国だ」


 この世界は全部で5つの国に分かれていて、今は私がいるのは空の国という所のようだ。やはり、此処は日本ではない。私の知る世界は多くの地域に分かれている。5つの国しかない事から、この世界は小さいのか。はたまた、国の名前は地球でいうと大陸のような括りなのかもしれない。


「そして今いる此処は、聖女様が暮らす事になっている建物だ」


 聖女様が暮らすという事は、私は此処にいても良いのだろうか。


「あの、私は……」


 聖女様が何か分からないが、私の居場所は此処にあると推測するが、否定された時の感情の行き場が分からない。


「安心しろ。聖女様の部屋も今、急ぎ用意している」

「そうそう。何も心配する事はないよ」

 

 どうやら、路頭に迷わなくても済みそうだ。安堵からさ息を吐く。


 この建物は本当に広かった。先程の部屋から此処に歩いて来るだけでも時間がかかった。これ程までに広い建物であるならば、私以外にも聖女様は沢山いるのだろう。この広い建物がまさか1人の為だけの物とは思えない。


「急ぎ教える必要があるのは、あと聖女様についてだな」


 それは一番気になっていた事だ。私は一体この世界でどういう存在なのか、それが分からないと何も出来ない。何をすれば良いかも分からない。


「聖女様は数百年に1度、どこかの国に落ちてくる。聖女様が落ちてくる場所は国によって決まっていて、この空の国では先程貴方が落ちてきた場所だ」


 彼が私の事を聖女だと気づいた理由が理解出来た。彼は私の容姿に目がいっていたようだが、それだけでは聖女だと確信出来る訳がない。あの魔法陣のようなものが、そうなのかもしれない。


「そして、聖女様の役割だが」


 これが本題だ。思わず2人の手を握る力が強くなる。


「いるだけで世界が豊かになる」

「?」


 直ぐには理解をする事が難しい。結局、私は何をすれば良いのだろう。思わず首を傾げる。


「つまりね、この世界は聖女様が来るまで自然災害が割と多かったんだよ。でも聖女様は世界に愛されているから、自然災害がすっごく減るんだよ。ゼロにはならないけど、自然災害なんてあったら聖女様が幸せに暮らせないからね。まあ、聖女様が不幸になるなんて事になったら、神様も怒って世界は滅んじゃうけどね」


 霙に代わり、白鴎が説明をした。聞き流すところだったが、白鴎の口から穏やかではない単語が放たれた。世界が滅ぶというのはサラリと流しても良い言葉なのだろうか。霙と白鴎の顔を伺ってみるが、大丈夫では無いことが伺い知れ。聖女は神様に愛される存在。ならば私の役割は不幸にならない事だろう。



 私に、この世界が救えるのだろうか。私は、どうやったら幸せになれるのだろうか。本当に幸せ人なるだけでよいのだろうか。




 




 きゅるるるぅ。


 自身の役割が分かった所で、私のお腹が情けない悲鳴をあげた。思い返せばしばらく何も食べていなかった。


「何の音だ?」

「さぁ」


 2人は何の音か分かっていないようで、宙を見る。それを良い事に私はしらを切る。


 くるるるぅ。


 つもりだったのだが、再び私のお腹が主張をしてきた。今度こそ2人は音の正体に気づいたようで、視線が私のお腹に向かっていた。


「あぅ」


 思わず両手でお腹を押さえるが、私のお腹も我慢する事を諦めたのか、3度、4度と続けざまに鳴り出す。


「腹が減ったのか。昼食の時間だしな」

「ふふ、可愛い主張だね」


 2人に笑われてしまった。お腹の音を我慢する事を諦めよう。私はご飯が欲しい。


「ごはん、どうやったら貰えますか?」


 空腹を我慢できず 、何か食べるものをもらえるだろうかと 催促をしてみる。まだ少し肌寒いため、欲を言えば温かいものが欲しい。

 

「頼んだらもらえるが?」

「あ、そうじゃなくて、お掃除とか……」

「そんな事はしなくて良いんだよ?」

「でも、」


 『働かざる者食うべからず』という言葉もある。親切に見返りがない事が1番恐ろしい。


「聖女様はこの世界にいる事が仕事のようなものだ。それに、突然知らない世界に来たんだ。今は甘えておけ」


 霙の心遣いがとても恐ろしく、そして嬉しい。霙と白鴎が“当たり前の顔”で優しくしている。誰も対価というものを欲していない。食事を「与えるもの」として差し出してくる。此処にいる人達は、どうやら優しい人達のようで、私が何をせずとも食事を与えてくれるようだ。


「ありがとう、ございます」


 あぁ、優しすぎて、ひどく恐ろしい。

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