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黒いモノクロな世界と白いカラフルな世界  作者: ちぇしゃ


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001-1「せいじょさま……?って私の事ですか?」


 2027年10月15日。空にはお月様がうさぎを宿して笑っていた。






 

 




 目を開けると、そこに広がっていたのは真っ白な空間だった。


 真っ白な床。真っ白な壁。


 真っ白な服を着た美しい人が1人。


 そして、床に座っている私の足元には白く輝く魔法陣が広がっている。


 今までに無いほど純粋な白に囲まれている。先ほどまでの暗闇と比べると、此処は白すぎて目が痛くなる。


「聖女様……?」


 真っ白な服を着た人が目を見開き、思わず声を漏らした。声からすると、真っ白な服を着た人は男の人だろうか。


「せいじょ、さま?」


 セイジョサマという名前に聞き覚えがなく、首を傾げる。一体誰の事を言っているのだろうかと疑問を抱きながらも問いかける事は出来ない。しかしながら、真っ白な服を着た人の目の前にいるのは私のみだ。彼との距離は数メートル以上離れているが、その間に他の人間は見受けられない。辺りを見回してみても同様だ。


「せいじょさま……?って私の事ですか?」

「ああ、そうだ」


 私が問いかけると、真っ白な服を着た人がこちらに歩いてきた。その表情は無表情だが、やけに嬉しそうだ。


「間違いない。黒い目と髪。そして、顔立ち。言い伝え通りだ……」


 言い伝えとは何の事だろうかと首を傾げる。


「この国に聖女様が現れて下さるとは……」


 真っ白な服を着た人の様子から、セイジョサマというのは私の事で、此処に現れたのはどうやらめでたい事のようだ。

 それよりも、先ほどまでと全く違う場所である此処が何処か分からない。何故このような所にいるのだろうか。


「ここは……?」

「此処は、空の国だ」


 空の国という名前に聞き覚えがなく、そんな地域があっただろうかと地図を頭の中で思い返すが、もとより地名を全て頭に入れている訳では無い為、思い当たる場所は無い。それ以前に日本ですら無い可能性もある。別の可能性としては今この状況こそが私の想像の産物だ。

 何故ならば、瞬きをした瞬間に別の所にいるなど、普通ではない。目の前にいる人にも見覚えが無い。そして私はセイジョサマという名前ではないが、この人にとっては私を表す呼び名なのかもしれない。


 真っ白な服を着た人が少しずつ、私に近寄る。何故か分からないが、目の前の人がひどく大きく感じる。


「聖女様、突然の事で驚いただろう」

「はい……」


 思わず正座になるのも仕方がないと思う。目の前の人が真剣な顔をして私の目の前で膝をついているのだから。粗相が無いように注意を払う。

 しかしながら、私の足元がひどく冷たく感じるのは、床が大理石だからだろうか。


「私は霙という」

「霙、さん……?」


 いかにも日本人ではないような顔立ちをしておきながら、日本人のような名前という事に、違和感を拭いきれない。失礼だとは思いつつ、目の前の人をよく観察してみるが、何度見ても白髪に金色の瞳。どう見ても日本人には見えない。今まで生きてきた中で金色の瞳というものは見た事が無い。神々しいそれは、まるで神にでも会ったかのようだ。


「色々と説明をさせてくれと言いたい所だが、このままでは冷えてしまうな」


 そう言って霙は手を伸ばした。


「!」


 先程より近い距離に来たからこそ分かる。霙は随分と背が高く、手も大きい事から威圧感がある。世界の中で日本人は小さいとされていたが、その中でも、更に小さい私からすると、この人はまるで巨人だ。


「……っ」


 怖がる事は失礼だと理解してはいるが、どうしても自分より大きいものを目の前にすると恐怖が勝る。人間とはそういうものだろう。加えて目の前の人は私にとって未知の存在だ。躊躇なく手を伸ばせる訳もない。今現在の状況の原因がこの人だとするならば、尚更手を取る事など不可能だ。万が一私を騙そうとするならば、そのように考えると足元から伝わる冷えが体中を巡ってくる。


「すまない、怖がらせたな」


 私の怯えに気がついたのか、手を引いた。強引に連れて行く訳ではないと分かり、安堵の息を吐く。


「だが、このままここにいると風邪を引いてしまう。今会ったばかりの男が一緒では不安かもしれないが、一緒に来てはくれないか」


 私の態度に不満を抱く事もなく、霙はそう言い、もう一度手を差し伸べる。


 この手の上に私の手を重ねても不満を抱かないだろうか。私の手を握り返してくれるだろうか。


 此処にいても、仕方が無い。空の国という場所を、私はまったく知らない。一人になった時の方が、恐ろしい。加えて、あまりにもゆっくりしていると、霙も態度を変えてしまう恐れがある。出すべき結論は決まっている為、悩むだけ無駄だ。恐る恐る、目の前の大きな手に自身の手を重ねてみる。予想してはいたが、実際に重ねてみると、驚くほど手の大きさが違う。彼の手はとても大きく、私の両手を使ったとしても、彼の手を包みきる事は難しいだろう。私が彼の手をそっと握った時、彼は優しく微笑んで私の手を握り返した。

 これは都合の良い夢なのだろうか。目が覚めたら知らない世界ではあるが、少し怖くて優しい人が目の前にいる。夢ならば、知らない世界を旅出来るという経験も悪くは無い。目が覚めたら元の所に戻ると考えると、目を覚ましたくないとすら感じる。気がついたら別の所にいるという非現実的な事が起こっている為、やはりこれは夢だろう。


 私の妄想が見せた都合の良い夢だ。


 霙と手を繋ごうと思えば、私が握っただけでは繋げなかった。彼が私の手を掴む事は出来るが、私の手が小さすぎて彼の手を掴む事は出来ない。彼の指を掴むので精一杯だ。いくら霙の背が大きいといっても、私の手はこのように小さいものだろうか。


「とりあえず、暖かい部屋に行こう。暖炉をつけたままにしてある」


 私はそこでようやく立ち上がる事が出来、ゆっくりと歩き始めた。そこで、私はこの人に比べると予想以上に小さい事が分かる。傍から見られない為、正確には分からないが、おそらく私の背は彼の腰当たりまでしか無いだろう。決して霙が早足な訳では無いが、そもそもの足の長さが違う為歩幅も異なり、自然と早足になる。

 そして、その状態でしばらく歩く。


「……っ、はぁ、……はぁ」


 元々体力の無い私の息はすっかり上がった。しかしながら、初めて会った人に速度を落とすように頼む事など出来ない。歩く事をやめてしまうと、霙は遅いと怒り出してしまう可能性もある。

 そして先程から感じていたが、出発地点から目的地までの距離が遠い。一体どれ程歩いただろうか。現在地も分からない為、例え目的地の場所を聞いたとしてもどれほど進んだか分からないだろう。現在は建物の中だという事は分かるが、家というにはあまりにも広すぎる。先程から景色が全く変わらない。最初に目を覚ました所と同じく、周りは白一色。異なる箇所といえば、先程のまでいた場所は部屋で、今は廊下という事くらいだろう。

 歩いていると、何故か霙は立ち止まった。歩く速度が遅かったのだろうか。私も同じく足を止めて、隣の人の顔を覗き込んでみる。隣の人は不満げな顔をさらす事なく、不思議そうな顔で私を見下ろしていた。


「すまない。歩くのが速かったか?」

「あ、いえ! 私が、遅いだけなので!」

「そうか」


 そう言い、再び歩みを進めた。どうやら、怒りから止まった訳では無いようだ。しかしながら、霙の歩みは先程よりも遅い。気を遣ってくれているのだろう。歩いてもついて行く事が出来るほどの速度だ。怖そうに見えるが、手や行動は温かく、優しい。


「あの、ありがとうございます」

「いや、こちらこそ気が付かなくて済まなかったな」

「い、いえ!」


 謝らせてしまった事を申し訳なく思う気持ちがありつつも、気にしてくれたという事が喜ばしい。先程までとは異なり、ゆっくりと足を進める。時間はかかるだろうが、その方が有難い。

 いくら歩いてもやはり景色は変わらず、白一色だ。違う景色が現れたというならば、花が生けてある花瓶が所々に現れた事くらいだろうか。しかしながら、その花も白である為、景色が変わったという感覚はない。何故、このように白一色に彩られているのだろうか。特別な意味でもあるのだろうか。あまりにも白が多すぎて逃げ場がないように感じる。目を閉じても、まぶたの裏に白が滲んできそうだ。

 歩いていると、変わらない景色の中に少しずつ変化が見え始めた。白いという点に変わりないが、ただの廊下と壁だった所にドアが出てきた。この辺りの部屋は何に使う部屋だろうか。個室だとすると、それだけ多くの人がこの建物に住んでいるという事だ。やはり、家と言うには広すぎる。此処は何かの建物だろうか。宿舎のようなものの可能性もある。それも含めて説明をしてくれるのだろうが、一体どこに迷いこんだのだろう。夢にしては現実的だ。歩くと体力を消耗するし、疲労感も味わう。頬をつねっても夢だと認識しても目が覚める兆しは無い。これが覚めない夢ならば良かったのに。

 

 霙は無口な性格なのだろう。先程話した以降は一切話しかけてこない。こちらから話しかける訳にもいかず、この沈黙は気まずい。先程までは歩く事に一生懸命だったが、今は歩く事に意識を集中させる必要もない事から、考え事をする暇が出来た。霙の顔色を伺うが、表情は変わらず無表情だ。初めて私を見た時の嬉しそうな顔は幻だと思う程顔色が伺えない。出来る事ならば手を離して歩きたいが、霙の力が強くて手を離せそうにもない。無理やり離すと、機嫌を損ねる可能性もある為、強引に離す訳にもいかない。


「あの……」


 沈黙の気まずさから何か会話をと思って話しかけようとするが、細く頼りない声は、霙の「ついたぞ」という声にかき消された。霙の声に釣られて、目線を前に向けると目の前には大きなドアがあった。やはりドアの色は他の色と違わず白色だ。数メートル両隣にもドアがあるが、見た目はどれも変わらず、私1人では確実に迷っただろう。


「ここは?」

「此処は私の執務室だ」

「執務室?」

「簡単に言うと、仕事場だな」


 執務室という単語は理解出来ないが、仕事場と言われれば理解出来た。彼の仕事場に案内された理由が分からない。彼の仕事を手伝えという事だろうか。果たして私に出来る仕事だろうか。


「あっ、あの。がんばり、ます」

「ん、何をだ?」

「え、と」


 何をと聞かれても正直どのような仕事をすべきか分からない為、明確な答が私の中で見つからない。よく分からずに頑張る等と言った事に怒りを感じたのだろうか。霙の表情を見ると、怒りというよりは、心底不思議そうだ。


「お仕事……、を。がんばります」

「仕事……?」


 霙の返答を聞くに、どうやら仕事をさせる為にこの執務室へ招待した訳では無さそうだ。では何故この部屋に連れてきたのか理解出来ない。


「えっと、じゃあなんでここに?」

「此処の方が静かに話が出来るからな」


 そういえば説明すると言っていたと今更ながらに思い返す。静かにとは言うが、此処に来るまでに誰ともすれ違う事はなかった為、この部屋でなくとも話をする事は十分可能だろう。では何故移動したかと考えるが答えは見つからない。


 霙は音を立てながらドアを開けて中に入った。


「入って来い」


 霙は手を離して部屋に入り、振り返って私を呼んだ。


「入っても良いの……?」

「ああ」


 足を踏み出し部屋の中へ入ると、先ほどまでの冷たい空気と異なり、ふわりと暖かい空気が肌をかすめた。

 誰かの部屋にはいるという体験は今までにした事が無い。彼の執務室はとてもシンプルで飾り気がない場所だった。しかしながら、先程まで白一色の物しか見ていなかった為、この部屋の焦げ茶の机や黒のソファは新鮮に映る。部屋全体を見回すが、高い本棚の威圧感に負け、ドアの近くで立ちすくむ。

 彼の仕事は一体何だろうか。本の多さや机から察するに事務のような仕事だろうか。仕事部屋があるという事から上の立場にある人だろう。

 彼はソファを指さしながら私の方を見る。話をする為、ソファに座れという事だろう。彼の手招きに従い、ソファの方へ足を進めた。


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