006-2「みーのお洋服、ですか?」
「それでは、せっかく着替えたので、今日のお洋服はこれで決まりでよろしいですか?」
「はい」
私の洋服が決まった事で、今度は白鴎が私の手を引き、鏡の前まで連れていく。
「かわいい洋服を着たんだから可愛い髪型にしないとね」
なるほど。白鴎の考え方はなんだか素敵だ。
「今日はどんな髪型にしようかな。彩月、何か希望はある?」
「……そうだな。編み込みからのツインテールだな」
「了解」
なんだか最近2つ結びが多いような気がする。髪型に全くこだわりはないから全然構わないのだけれど。白鴎がまず私の髪の毛を櫛でといていく。ここに来てからというもの、私の髪質はものすごく変わったように思う。まだこの世界に来てたった数日だというのに、私の髪の毛は真っ直ぐなストレートに戻った。まるで魔法のようだった。水の成分か、シャンプーなどの性能なのか分からないけれど、どちらにしろ、綺麗な髪になるなど、思ってもみなかった。綺麗になってからというもの、髪をくくってもらうという事がとても楽しみに思えてきた。
髪を櫛でとかれるというのはとても気持ちがよい事だと思う。髪の毛がサラサラだと絡まる事もないから、もっと気持ちがいい。思わず頭が後ろに倒れてしまいそうな程気持ちよかった。
「聖女様の髪は綺麗だね」
「……ありがとうございます」
髪が綺麗になったのは、この世界に来てからだから、厳密に言えば、私のお世話をしてくれている2人のおかげのような気がする。そう思うと、今の言葉を素直に受け取る事が出来ない。というよりも、私がお礼を言うべきのような気がしてきた。
「はい、出来たよ」
日に日に白鴎の私の髪の毛を結ぶスピードが速くなってきている気がする。もともと器用だったのもあるのだろうけれど、私の髪の毛を結ぶ事に慣れてきているみたいだ。
私の長い髪の毛がツインテールになっている為、少し首を振るとその髪まで左右に揺れる。自分の動きに合わせて、髪が遅れてついてくるのが不思議だった
「あとはこれですが」
彩月が箱を私に差し出す。大きさの割には、思ったより重くない。1人で簡単に持つ事は出来るけれど、抱えたままだとどうしても蓋が開きにくい。
「これは?」
「ぜひ、開けてみてください」
とりあえず箱を床に置く。戸惑いつつもその箱を開けていく。蓋を開けるのは少し固かったけれど、彩月に手伝ってくれそうな雰囲気がなかったので頑張って自分で開けてみる。
「ふぅ」
やっと空いた。カポっという心地よい音が響き、箱の蓋が開く。中から出てきたのはこれまた大量の布だった。
「?」
どうしてこれをわざわざ私が開けるように促したのだろうか。洋服ならもう既にたくさん出ている。それとも、この洋服は他の洋服と比べて特別なものだったのだろうか。チラリと彩月を見ると頷きが返ってきたので、箱の中の洋服を1つ手に取ってみる。私が最初に手に取ったのは、白と緑色の服だった。
「……!」
手に取った瞬間、すぐに気付いた。その洋服は私が着るにはあまりにも小さすぎる。私の頭ぐらいの大きさしかない。では、誰が着るのか。考えられる選択肢は、1つしかなかった。
「みーのお洋服、ですか?」
これしかないだろう。彩月を見ると満足そうな頷きが返ってきたので、間違いない。
「これ、みーに着せてもいいんですか?」
「ええ、勿論」
なんという事だろう。彩月は私の服だけではなく、みーの服も作ってくれていた。私が今着ている洋服と全く同じ作りだ。あまりにも細かすぎてどうやって作ったのか分からないほどだ。短時間でこんなにたくさんの洋服を作るというのは、彩月にしか出来ない事なのだろう。
「あの、ありがとうございます」
今度こそ彩月にお礼を言い、ベッドに寝かせていたみーの元へと駆け寄る。まだ何もまとっていないみーに私とおそろいの洋服を着せる事に迷いはなかった。
「かんわいい!」
みーに洋服を着せ、そのみーを抱きかかえて彩月の方に向かっていくと、完全に仕事モードが終わってしまったのか、素に戻った彩月が両手を広げて私を抱きしめる。ドキリとしたけれど、特に痛くもなかったから、なすがままに身を任せる。ただ少し苦しい。けれど、息が出来ないほどではないから動かずにじっとそのままでいる。
どうやら彩月は私とみーの姿に満足してくれたみたいだ。服を作ったのに、似合わなかった、なんという事態が起こらなくて安心した。
「はぁ、可愛すぎる。もって帰りたい」
もう少し抱きしめられているものかと思ったけれど、霙と白鴎に頭を叩かれた彩月はあっさりと私の事を放した。
持って帰るとは一体どこにだろうか。彩月の家かそれとも仕事場か。どちらにしろ、多分、持って帰られたら困る。
「持って帰ったらもっと想像力が湧くと思うのに」
なるほど、と理由に納得した。日中なら良いよ、暇だからと許可を出しそうになった。
それから完全に仕事モードが終わった彩月と少し話をしたり、私の姿を見ながらデザインを書いたりして、彩月は帰っていった。
「この服達は霙と白鴎がクローゼットに入れておくので、また明日から好きなものを着てください」
と言い残して。私も手伝いますと言いたいところだけど、邪魔にしかならないから大人しくソファに座って待っている事にした。元々ハンガーにかけていた事から、すぐに終わりそうだ。靴も丁寧に並べていてくれるし、リボンだって、種類ごとに分けて箱に入れ直してくれた。
私はというと、何もしていないのに、なんだか疲れてしまった。冷静になると普通の洋服ならまだしも、こんなドレスのような洋服がたくさんあるのだから一体どれほどのお金が注ぎ込まれているのだろうか。考えるだけでも恐ろしい。日本ではこんな洋服は1着持っていれば十分だ。いや、1着も持っていない人の方が多いのではないだろうか。
「洋服の片付けは後でするとして、先にご飯だな」
窓の外を見ると、太陽はすっかり真上まで来ていた。服の片付けは終わってるようには見えるけれど、霙の言葉からするとまだ終わっていないのかもしれない。
「ん、じゃあ、もらってくるよ」
「頼む」
たまには自分でご飯を取り行ってみたい。料理場という所に興味がある。でも、きっと邪魔になるだろう。
いつか、この先もし仮に出会う場面があるようならば、料理を作ってくれている人にも挨拶したい。確か緑弥という名前だった気がする。
「あ、そうそう」
出ていこうとした白鴎が急に止まって振り向く。
「?」
何か言い忘れた事でもあったのかな?
「今日は一緒にご飯食べてもいい?」
「!」
白鴎の言葉が私の頭の中で何度も巡る。不思議と手が震え、心臓が速まった。
一緒に食べる。それはとても
「素敵な事!」
——そう思ったのに、胸の奥が少しだけ痛んだ。
2人が私と一緒にご飯食べるなど、初めての事だった。昨日はクッキーだったけれど、今日はご飯だ。
「本当に、一緒ですか? 2人も食べてくれるの?」
「ああ」
霙からも、確信の言葉を引き出す事が出来た。
「じゃ、今度こそ行ってくるね」
白鴎は今度こそ振り返ってドアを出ていった。
どうしよう。落ち着かない。嬉しいはずなのに、少し怖い。
なんだか今日は一段と天気がいい。




