005-2「その茶色いのなあに?」イラスト付き
「ココア!」
食事が終わったから、今度こそココアを注文する。
「分かった、分かった」
白鴎は呆れたように笑いながら、キッチンに向かう。鍋に牛乳を入れたかと思えば、その中に何か茶色い粉を入れていた。
「その茶色いのなあに?」
「ココアの粉だよ」
ココアの粉。それを入れるだけでココアが出来るのだろうか。今鍋の中がどうなっているのかわからない。白鴎は粉が入っている瓶とスプーンを持っている為、両手が塞がっている。
「霙さん!」
キッチンから先程座っていた場所まで戻っていき、霙に手を伸ばす。
「だっこ」
「!」
霙は先程食べていた食事を片付けてくれていたが、私が手を伸ばすと笑って抱っこしてくれた。
「あっち、あっち」
白鴎がいるキッチンの方を指差すと、霙はそちらの方に向かってくれた。霙の腕の中から鍋を覗き込むと、白い牛乳の中に茶色い粉が溶けているところだった。
「どうして茶色い粉が溶けてるの?」
「ココアの粉は温かいものの中にいれるとよく溶けるんだよ」
「へぇ」
魔法の様だ。あんなにも美味しい飲み物が、元々はこんなに茶色い粉だったなんて驚きだ。見たところ、作り方は簡単そうだから、私にも作る事が出来そうだ。問題があるとすれば、私のこの低い身長だろう。これでは鍋を覗き込む事はおろか、火にかける事も出来やしない。
「はい、出来たよ」
真っ白なマグカップの中にココアを入れ、それを机まで持って行ってくれる。ソファに座り、マグカップを持って匂いを嗅ぐと甘くて良い匂いがする。昨日と同じ、あの甘い匂いだ。一口目を飲もうとしたけれど、白い湯気が出ていて、熱いのが分かっているから、何度も息を吹きかけて冷ます。熱い方が美味しいという人もいるかもしれないけれど、私はまだその境地にたどり着けていない。
少し冷めた所で一口目を飲み込むと、昨日と同じ甘さが口の中に広がった。思わず顔が蕩けそうになる。やはり自分で作れるようになりたい。そうすれば、霙達に作ってもらわなくても、いつでも美味しいものが飲める。
マグカップを両手で持っていると、手にまで暖かさが染み渡ってきて、冷えた指先が綻んでいく。
四葉のクローバーを見つけた時の、あの嬉しい感覚と似ている。
霙達には少し慣れてきた気がする。今の所、私がこの世界で会った事があるのは4人だけだけれど、皆とても優しいと思う。特に霙と白鴎はずっと一緒にいてくれるから、怖い人じゃないという事はわかった。少し無愛想だったり、言葉が乱暴だったりするかもしれないけれど、そんなのはもう慣れている。それにそんなのは重要じゃない。
中身が優しいかどうか、私にとってはそれだけだ。優しい人にこそ、裏があるという言葉を聞くけれど、きっと大丈夫だと思う。目の前の霙と白鴎をチラリと見ると、やはり少し寂しい気持ちが浮かび上がってくる。早く飲み終わらないといけないかなと感じるけれど、2人とも優しい目で見てくれているから、急がなくてもいいと思う。
「この後は何かしたい事はあるか?」
「……」
急に話しかけられたので、ココアを飲み込みながら考える。考えた末に出てきたのが
「おままごと」
だった。考えても、絵本とおままごと以外にやりたい事はない。というよりも、出来る事がない。この世界に何があるのかも、まだ分からない。
「分かった。私達は別の部屋にいるから、もし何かあれば呼んでくれ。そこにある鈴を鳴らせば私と白鴎に聞こえるようになっている」
霙が指さした方向を見てみると、見覚えのない鈴が私のベッドサイドの机の上に置かれていた。白色の鈴は私の部屋のインテリアと妙に合っていて、違和感を感じさせない。だからこそ今まで気が付かなかった。もしくは、朝食の準備をしている時に置いたのかもしれない。鈴を鳴らせば、どんなに離れていたとしても聞こえるのだろうか。一般的に、鈴を鳴らしても、この部屋の外には聞こえないと思うのだけれど。不思議だけれど、霙が言うのだから、きっと聞こえるのだろう。
「分かりました」
洗い物くらい自分でと思うのだが、身長的に不可能だったので、結局食事だけでなくカップの片付けまで任せてしまった。
誰もいなくなった部屋で、遠慮なくおままごとを広げる。取り敢えず、前に作った弁当箱3つを取り出す。自分では色とりどりで素敵な弁当だと思うけれど、実際にこういうのを食べてみたい。弁当だなんて、どこかに行く時にしか食べる事はない。お弁当を食べるとしたら、どこかに行って食べてみたい。部屋にいる時はわざわざ弁当を作る必要もないし。庭で弁当なんかも良いかもしれない。
弁当3つ全部蓋を開けると、中から2つだけ、自分が知らない具材が出てきた。昨日入れた時も何か分からずに入れたけれど、お陰様で、色合いはとても良いと思う。
「あ、でもこれ……」
2つのうちの1つは、もしかすると
「ハンバーグ?」
かもしれない。確証はないけれど、今日の食事で食べたハンバーグによく似ている。こんな小さなハンバーグを見た事が無かったから、昨日の時点ではこれがハンバーグとは分からなかったけれど、色も形も一緒だ。ただほんの少し、今日食べたハンバーグの方が大きいような気もする。でも、本当にそっくりだから、これはもうハンバーグで良いと思う。丸くてコロコロしている。
「これ、なんだろ?」
それは分かったとしても、もう1つがどうしてもわからない。白いこれはパンだろうか。その中にキャベツや肉のようなものが挟まっている。色がとても綺麗だったから、思わず弁当に入れたけれど、これは食べれるだろうか。こんな食べ物は今までに見た事がない。形も変な三角の形だ。
「そうだ、」
今度、このパンの様なものを食べてみたいと言ってみようか。もしかすると、作ってくれるかもしれない。そうしたら、どんな味かもわかると思う。それに、美味しいかどうかもわかる。
作っていたお弁当の中身を1度全部だし、他の食材が入っている箱に一緒に入れる。そして、再び食材が入っている箱をガサゴソと漁ると、下の方から、ニンジンの輪切りのようなものが出てきた。両手で持って見つめてみると、色も形も間違いなくニンジンだ。
「……美味しそう」
お腹が減っているわけでもないにも関わらず、涎が出てしまいそうな程本物に近い。
「……はむ」
先を少しだけ齧ってみた。
「なあんだ」
味はない。分かっていたはずだけれど、少し期待していた。でも期待はずれだ。あまりにも本物の様だから、このニンジンも本物かと思ったけど、そんなはずはなかった。
いや、まだ希望はある。もしかすると、他の食材なら味がするかもしれない。先程の小さなハンバーグみたいなものを探し出して、それも口に入れてみる。
「味、しない……」
やっだめか。お腹が減ってる訳では無いのに、どうしてこんなにも口に入れたくなってしまうのだろう。飲み込んだら危ないからもうやめておこう。万が一霙達に見られたら心配かける。変な事をしてるって捨てられても困るし。
それから30分ほど1人で遊んでいると、だんだんと視界がぼやけてきた。
「これが、トマトで……、んぅう、これ、は、」
おにぎりを持ったところで手から力が抜けてしまい、皿の上に落ちる。
「おにぎりは、……こっち」
落としてしまったおにぎりを、もう1つの皿の方に置く。不思議だ。先程から視界がおかしい。視界はぼやけるし、床に置いている皿が大きくなったり、小さくなったりしている。
脳は動いているのに、その意思に反して、私の視界はどんどん狭まって黒くなっていく。
「ねむたく、ないもん……」
私はまだ遊びたいから眠たくない。そう思うのに、頭がだんだんと下に下がっていく。そして、暗くなった視界の中で最後に、おでこに、硬い感触があった。
※この画像はAI生成画像です




