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黒いモノクロな世界と白いカラフルな世界  作者: ちぇしゃ


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19/22

005-1「やりたい事を……」


 朝、霙と白鴎が新しい服を持ってきてくれた。それはパジャマでも、真っ白い服でもなかった。今まで見たことのない服だった。聞けば、彩月が新しく仕立ててくれたらしい。昨日、私の採寸をしてから作ってくれた様で、サイズもぴったりと合っていた。

 採寸をしたのは昨日の昼過ぎだった為、そこから今朝までの短時間で服を作ったのかと驚いた。霙曰く「小さい子ども用の服は縫う場所が少ないからすぐに作れる」と言っていたらしい。小さい服ほど大変だと、どこかで聞いた気がする。けれど、ここでは違うのだろうか。どちらにせよ、私が着る服が手に入った訳だから、今度会った時に、彩月には礼を言わなければならない。パジャマも2着、普段着も2着ある訳だから、毎日同じ服を着続けなくても良い。


 いつも通り顔を洗い、彩月から届いた服を着て座っていると、白鴎が私の後ろに来て、昨日のように髪の毛を結んでくれる。私は特にこだわりはない為「どんな髪型がいい?」と聞いてくれた白鴎には何も言葉を返す事が出来ない。結局、白鴎に全て任せてしまった。

 髪型は、昨日は三つ編みと編み込みだったけれど、今日は、2つのお団子だ。耳下で作られているお団子は、どうしたらこのような形になるのだろうかと疑問に思うほど綺麗だ。これほどまでに可愛く結んでくれて感謝を言いたい。そして、お団子の根元には、昨日も付けてくれた赤いリボンが揺れている。髪を結ぶと少し首元がスースーするような気もする。しかし、髪の毛を結ぶというのは目にかからないし、首元にもかからないから邪魔にならなくて動きやすい。それに昨日前髪を切ってくれているから、前髪が目にかかる事もない。そう思うと、髪をくくるのもいいものだと感じる。髪の毛をくくるのはお洒落のためでもあるけれど機能性も重視しているのだと思った。


「うん、今日も可愛い」

「ありがとうございます」


 私も大きくなれば自分でこんなに可愛い髪型をする事が出来るだろうか。ちらりと自分の手を見てみると、今この手では到底無理だなと少し凹む。


 これ程までに可愛い髪型にしてくれたという事は、今日は何かあるのだろう。


「あの、今日の予定は……」

「今日は特に予定は無いよ。聖女様はまずこの世界に慣れる事が第一だから、やりたい事をすればいいよ」


 何かがある特別な日だから、可愛くしてくれた訳ではないらしい。白鴎に頼んだら、また、可愛くしてくれるのだろうか。

 白鴎の言葉に少し考えこむ。


「やりたい事を……」


 この世界について分からない事の方が多いから、やりたい事と言われてもすぐには何も出てこない。強いていえば、おままごとやお絵かきがしたいと思うくらいだけれど、それは別に今すぐでなくてもいい。

 そういえば昨日績と絵の話をした気がする。何故そのような話になったのだっただろうか。あぁ、そうだ。績が私に欲しいものを聞いてきたんだ。それで私は思わず絵が描きたい事を言ってしまった。今思えば、日常生活で必要な物を言えば良かったかもしれない。だが、それも特に思いつかない。日常で必要なものは揃っている。これ以上望むのは贅沢というものだ。やりたい事といえば。


「ココア……」


 昨日飲んだココアが飲みたい。


「本当に気に入ったんだな。でもまずは食事にしないか?」


 本当は今すぐココアが飲みたい気分だけれど、先にご飯と言われれば仕方がない。けれども、あの甘いココアをもう一度早く飲みたい。寧ろあれがご飯代わりでもいいなと思う。良くないとは思うけれど、そう思ってしまうほど本当に美味しかった。自分の中ではニンジンと良い勝負かもしれない。


「はぁい」


 ニンジンはあるだろうか。


「今日やりたい事も食事の後に考えよう」

「はい」









 霙の言葉に従って、まずは食事だ。白鴎が取ってきてくれる様で、私はのんびりと部屋で待っていれば良いみたい。椅子に座って足をぶらぶらしながら白鴎を待っている。ちなみに霙は、そんな私を見て「行儀が悪い」と怒る事なく、足に毛布を掛けてくれたり、カーディガンを着せてくれたりした。とても温かい。むしろ暑い。

 しばらく待っているとなんとなく良い匂いがしてきた。


「?」


 何の匂いだろうか。食事の匂いである事は確実なのだけれど、その正体が分からない。甘い匂いではないから、デザートではないと思う。


「おまたせ」


 鼻をクンクンしていたら、白鴎が食事が乗ったトレーを持って帰ってきた。白鴎が部屋に入った事で、匂いがより一層強くなる。これは何の匂いだろう。嗅いだ事がある匂いだ。なんと、言っただろうか。たしか。


「ハンバーグ?」

「よく分かったな」


 よかった、合っていた。

 知ってる匂いのはずだ。ハンバーグは初日に食べた。食べたと言っても一口しか食べられなかったけれど。あの一口を食べてから、ずっと、もう一度食べたかった。

 白鴎がトレーを私の目の前にある机にそっと置く。本当に、ハンバーグだった。私の鼻は優秀かもしれない。

 ハンバーグは食べやすいように一口サイズの可愛らしい形になっている。 これなら食べやすくて嬉しい。なんだか、最近この形をどこかで見たような気がする。何だっただろうか。

 ハンバーグの他には、おにぎりが1つとトマトのパスタとサラダ。あと、何かのスープ。しかもそのサラダは私の大好きなニンジン入りだ。美味しいものが多いので、思わず頬が緩みそうになってしまう。


「いただき、ます」


 両手を合わせて挨拶をする。霙と白鴎を見ると2人とも頷いてくれたので、フォークを持って食べ始める。まず最初はハンバーグ。フォークで刺すと汁のようなものが出てきた。なんだか熱そうだ。3回ほど息を吹きかけてから食べる事にした。けれど、失敗だった。3回など大した回数ではない。もう少し冷ますべきだった。少し火傷したような気がするけれど、味覚に問題はない。前回と同じく味は絶品だ。思わず口の中にまだ入っているというのに2つ目にフォークを突き刺す。早くこれを口の中に入れたいというのに、今口の中に入っているハンバーグが邪魔をしている。早く食べようと思うけれど、なかなか飲み込む事が出来ない。飲み物で流し込む事も考えたけれど、せっかく美味しいものを食べているのだから、勿体ない事は出来ない。漸く1つ目のハンバーグを飲み込み、2つ目のハンバーグを口に入れようとしたところで気づく。また火傷してしまうところだった。今度こそ、たくさん息を吹きかけないと。さっきより少し多く息を吹きかけてから2つ目のハンバーグを口に入れる。今度は火傷をする事もなかった。ただただ美味しい味が口いっぱいに広がった。そして三つ目のハンバーグにフォークを突き刺したところで


「これも食え」


 霙が口元におにぎりを持ってくる。おにぎりは嫌いではない。むしろ好きな部類に入るけれど、今はハンバーグが食べたい。けれど、それを言っていいのかが、わからない。思わず眉を寄せてしまった。


 ――どうして、だめなのだろう。

 美味しいものは、先に食べてはいけないのだろうか。

 

「ハンバーグは3つしかないだろう。美味しいものは最後に取っておくのも1つの手だぞ」

「……」

 

 そういう考え方もあるのか。今までは好きなものを先に全部食べてしまっていたから考えにも及ばなかった。でも、どうして最後に美味しいものを取っておくのだろうか。別にいつ食べても味は変わらないというのに。



 

 

 好きなものを、好きなだけ食べていいなんて――そんなこと、教わったことがなかった。



 


 

 

「ほら」


 口元まで持ってきてくれているのだから、食べるしかない。霙が持っているおにぎりにかじりつく。


「!」


 ハンバーグとご飯の相性が想像していたよりも遥かに良い。どうして私は今までこの組み合わせを知らなかったのだろうか。お肉とお米のコンビ。侮りがたし。これはハンバーグだけ食べた時には味わえない相性の良さだ。ハンバーグを食べるのを止めた霙には文句を言いたかったところだが、これでは文句どころではない。むしろ賞賛を送りたい。

 おにぎりを食べるのは2回目だけれど、おにぎりだけを食べるよりもずっと美味しい。しかも、お米がすごくおいしい。もっちり、というのだろうか。指で押したら、そのまま形を覚えてしまいそうな柔らかさだ。水分を沢山含んでいて、柔らかくてふわふわだ。お米だけを永遠に食べられそうだ。霙が持っているおにぎりにどんどんかじり付く。


「!」


 おにぎりに齧り付いていると、途端に味が変わった。中から、薄ピンクの何かが出てきた。美味しいのだけれど、これは何だろう。辛くはない。お米にとても合っている。でも、その正体だけが何かわからない。お肉、ではないと思うけれど。


「どうかしたのか?」


 おにぎりを食べるペースが止まった私を見て霙が聞いてくれた。


「これ、なあに? 真ん中のピンク色の」

「ん? ああ、これか。これは焼き鮭をほぐしたものだ」


 焼き鮭とは、名前からすれば、鮭を焼いた物という事だろうか。そんな料理の仕方もあるのか。私はそのまま霙が持っているおにぎりに一口、もう一口とかじりついていく。思わず口いっぱいにおにぎりを頬張る。


「気に入ったみたいだな」


 霙はそう言って私が齧り付いていたおにぎりを遠くにやった。


「……」


 思わず口の中に入っているおにぎりを噛む事を忘れ、霙が持っているおにぎりを目で追ってしまう。


「とったりしないから安心しろ」


 そのような心配をしたつもりはないが、そのように見えたという事だろう。


「ほら、次はこっち」


 白鴎は私が握りしめていたフォークを手からスルッと奪い取り、今度はサラダを私の方に近づけた。サラダには私の大好きなニンジンが入っていたのだった。白鴎もそれを心得ているのか、最初にニンジンをフォークに突き刺して口元まで持ってきてくれた。今日のニンジンは茹でられていない様で、噛んだら音がする。最近は茹でられているニンジンばかりを食べていたから、たまには硬いのも良い。噛むのに少し時間はかかってしまうけれど、野菜本来の味がして美味しい。噛み終わって口を開けると、今度はキャベツを口に入れられる。キャベツはどうやら茹でられている様で、柔らかい。


 そして、今度はトマト。白鴎が私の口元にトマトを持ってきてくれる。ここに来た初日にも昨日もトマトを食べたけれど、あまり好きではない。甘くて美味しいような気もしたけれど、あの食感がどうしても好きになれない。そう思えば、トマトを前にして口が開かなくなる。


 私は開こうとしているのだが、口が開いてくれない。


「あ、トマトは嫌いだっけ」


 白鴎が確信をついた言葉を投げかけてきたが、気まずさからか、顔を背けてしまう。


「じゃあ、次はこれかな」


 白鴎は無理矢理食べさせたい訳ではなかったのか、トマトを皿の端において、今度はサラダに入っていたキュウリを口元まで持ってきた。キュウリなら食べられる。今度は迷わずに大きな口を開けてキュウリを口の中に入れる。予想通り、ポリポリと音がする。


 ところで、私はどうして食べさせられているのだろうか。自分で食べられるのに。寧ろ昨日まで全部自分で食べていたのに。白鴎が持っているフォークを奪い取ろうと手を伸ばすけれど、持ち上げられてしまい取る事は叶わなかった。


「……」


 思わずフォークを見つめてみるけれど、私の元に戻ってくる事はなかった。


「だって、聖女様、好きなものばっかり食べちゃうでしょう? いつも野菜を食べるから心配はしていないけど、でもバランスよく取らないといけないよ」


 好きなものを食べて、何がいけないのだろう。

 

「野菜ばっかり最初に食べて、お腹いっぱいになっちゃって、他ものが食べれないっていう事よくあるでしょ?」


 全くもってその通りだけれど、それは仕方ないと思う。野菜は美味しいし、腹も膨れる。すぐに満腹になるのはこの体のサイズが小さいからだろう。食事量が少ないからどうしようもないんだ。最後に待ち望んでいたハンバーグを口に入れて、食事は終わった。




 少しずつでも食事量は増えるだろうか。

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