004-4「遊んでも、いいですか?」
「おむらいす!」
今日の食事はなんとオムライス。ふわふわ卵の上に真っ赤なケチャップ。これぞ、お子様ランチの定番と言えるだろう。真ん中に旗がささっていないのが残念だけれど。いや、旗が刺さっているのは、チャーハンにだっただろうか。まぁ、ないものはないからどちらでも良い。
オムライスは初めて出たけれど、少し大きい。私がここのご飯を完食できる日は一体いつになるのだろうか。
ところで。
「霙さんと白鴎さんは、食べない、ですか?」
「ああ、私達はお腹が空いていないからな」
「そう、なんですね」
やはりこのオムライスは私1人で食べきるしかないのだろう。
「無理はしないでね」
頑張って1人で食べ切ろうという決意を固めていると、白鴎さんからまるで私の心を読んだかのような言葉が返ってきた。
「はぁい……」
ここのご飯は何故こんなにも美味しいのだろうか。何か特別な材料でも使っているのだろうかと思うくらい美味しい。オムライスなんて本当に久しぶりだ。何年振りだろうか。もし私が自分で料理をする事ができたのならば、自分でも作っていたかもしれないけれど、私には到底料理なんてできなかったから、自分で作る事もなかった。いや、今まで作ろうとも思わなかった。この世界で、もし私の背がもう少し大きくなったのならば作れたのだろうか。いや、そんな先の事を今考えても仕方がない。
パクリと一口食べる度に幸せが口の中に広がってくる。
この世界のご飯はとてもとても美味しい。それは疑いようがない。
それよりも遥かに嬉しい事がある。霙と白鴎は私と一緒にご飯は食べない。だけれども、私がご飯を食べるとき、ひとりにならないようにそばにいてくれる。だから、ここのご飯はこんなに美味しく感じるのだろう。
「おいしい、ね」
ご飯を美味しいと感じる事はとても幸運な事だと知ってしまった。
「ほら、野菜も食え」
霙さんがサラダにフォークを突き刺し、私の口元まで持ってくる。
「はぁい」
私は返事をして思いっきり口をあける。最初は何を口に入れたのかわからなかったけれど、少し噛んでみると口に入ってきたのはトマトだとわかった。
「…………」
思わず咀嚼するスピードが遅くなる。トマトはあんまり好きではない。なんだかぶちゅぶちゅしてるしすっぱい。ここで初めて食べた時も感じたけれど、やはり食べられそうではない。ゆっくりと時間をかけて頑張って飲み込む。なんだか一番最初に食べた時よりも苦手に感じるかもしれない。頑張って飲み込んだところで、霙がもう一度フォークをトマトに突き刺し私の方へ差し出してきた。けれどもう一回トマトを食べる勇気は私にはもうなくて、ふいっと顔を逸らす。
「……トマトは嫌いなのか?」
好き嫌いをするのは良くないと分かっているけれど、こればかりはどうしても食べられそうにない。
迷った末に小さく縦に首を振る。
「そうか」
霙は私が嫌いなもの無理やり食べさせるような事はしなかった。それどころか。
「苦手なのによく一口頑張ったな」
と褒めてくれた。びっくりして思わず目をパチリと見開く。一口頑張っただけで褒められるなんて、子どもってすごいと感心する。
霙は先程までフォークに突き刺さっていたトマトの代わりに、サラダの下の方にあったニンジンを私の口元まで持ってきてくれる。ニンジンは大好きだから嬉しいけれど、あまりにも下の方にあった為、ニンジンがある事にすら気づかなかった。今度こそ迷わずに大きな口を開けてニンジンを口に入れる。やはり美味しい。ニンジンに関しては、ドレッシングとか何もかかっていない方が好きだ。できれば生より茹でてあった方が食べやすい。極論としては、ニンジンならばなんでも良いのだけれど。
「おいしいか?」
今度も迷わずに首を縦に振る。
「そうか」
霙があまりにも嬉しそうに笑うものだから、思わず私も笑ってしまいそうになった。
「お腹いっぱい、です……」
オムライスを半分あたりまで食べたところで、お腹が限界を迎えてしまった。朝からよく食べたと自分でも思う。
「……本当にもういいのか?」
「はい」
これ以上食べたら本当に気持ち悪くなってしまうだろう。
「そうか」
それよりも。
「霙さん、白鴎さん、ごちそうさま、しました」
「ん?ああ、そうだな」
「それがどうかしたの?」
もう2人ともすっかり忘れてしまっているのだろう。
「遊んでも、いいですか?」
「ああ、そういう事か。いいぞ。ただし、採寸の時間になったら呼ぶから、その時は来てくれ」
霙からの許可が返ってきた瞬間に、私はみーを連れて思いっきりおままごとセットの方へ駆け出す。採寸のという話も聞こえてはいたから、走りながら「はい!」と叫ぶ。
「みーはここに座ってね」
みーを近くにある座布団に座らせる。
まずはどんな調理道具があるか確認をしよう。フライパンもある。お鍋もある。ミキサーもある。食べ物は、うん、たくさんある。
「じゃあ、まずは」
ミキサーの中に、りんごといちごとぶどうとバナナを入れてスイッチオン。おままごとセットだから本当に音がなったりしないのは仕方がない。ある程度時間が経ったらミキサーの蓋を開けて用意してあったコップに、果物を入れる。これはもうジュースというよりも、ただのコップに入っている果物だ。これがおままごとだから。
そのコップを二つ持って、私の食べたご飯の片付けをしてくれている霙さんと白鴎の所に持っていく。
「霙さん、白鴎さん!いつも、ありがとぉのジュースです!」
「「!」」
何度も言うが、これはジュースだ。コップの中に果物が入っただけのように見えるが、おままごと的にはジュースだ。そんなジュースとも言えないようなジュースを、霙と白鴎はゆったりと笑いながら受け取ってくれた。
「ありがとう。これは何のジュース?」
「んー、とね。霙さんのはりんごとバナナのジュースで、白鴎さんのはいちごとぶどうのジュースです」
2人は笑って受け取ってくれただけではなく、なんと、ジュースを飲む振りまでしてくれた。
「美味いな」
「聖女様は料理の才能があるかもね」
「!」
2人とも優しすぎるのではないだろうか。2人がずっと笑いながらこっちを見てくるものだから、恥ずかしくなって照れ隠しのようにみーの後ろに顔を埋める。その時に霙と白鴎に頭をふわりと撫でられた感覚がした。体が軽くなる感じがして力が抜けそうだ。
「私たちは、少し席を外すが、遊んでいて構わない」
「美味しいジュースをありがとう」
急に霙と白鴎がそう言うものだから、少し驚いた。けれども、この部屋から出ていくのはなんとなく予想がついていったので小さく縦に首を振る。
採寸があるから、きっとその時には戻ってきてくれるだろう。
「また、あとで」
そう言って二人はこの部屋から出ていった。私も2人に手を振る。
バタン
扉が閉まる音がやけに響く。でも、今はそんな事は良い。それよりも。
「みー、あそぼ!」
せっかくの新しいおもちゃで遊ぶ方が大事だ。まずは何を作って見ようか。
「おべんと!」
おにぎりと、ニンジンはいれなければならない。キャベツも美味しいから入れよう。他には、そう思い、食べ物が入っている引き出しの中身をガサゴソと漁る。弁当に入っていそうな気がするものも沢山出てきた。もし弁当に入っていなくても、ここにあるという事は、食べ物ではあるはずだ。このパンのようなものも美味しそう。ハンバーグに似ている茶色くて丸いものは何だろうか。
お弁当箱を3つ用意して選んだ食材をそれぞれに詰めていく。栄養バランスなど言われてもよくわからない為、とりあえず見た目の色合いだけは綺麗に見えるように考えながら詰めていく。なかなか美味しそうにできたのではないだろうか。3つが3つとも全部違うお弁当にはなったけれど、どれも良い感じになったと思う。思わず満足げに腰に手を当てて胸を張ってみる。ちらりとみーの方を向いてみると、まるで私の気持ちに同意してくれているかのような笑顔を向けてくれていた。
それはともかく、お弁当が完成したので、おままごとセットの中に入っていた巾着を3つ取り出し、それぞれのお弁当箱を包んでいく。その時にフォークを入れるのも忘れない。
「できた」
このお弁当箱は大事に取っておくとして、次は何を作ろうか。今度こそフライパンを使ってみても良いだろう。
まずは。
「たまーご」
こんこんと叩いたら、たしか割れるんだよね。でも、これは叩いても割れない。
「あった」
卵の代わりに今度は目玉焼きをフライパンの上に乗せる。
「じゅー、じゅー」
自ら効果音を出し、美味しいものが出来上がる事を祈る。
「えーと、しょーゆは……」
先程どこかで調味料を見た気がするのだけれど。いくつかある引き出しを漁れば目当てのものは問題なく私の手元にやってきた。目玉焼きをひっくり返す為のフライ返しを探すが、どうやら目の届くところには置いていない様だ。もう一度いくつかある引き出しをを覗く。そうして見つけた それで、目玉焼きをひっくり返して、ではなく、お皿に移して。上から醤油を垂らして。
「できた」
目玉焼きの完成。
なぜだか不思議な達成感がある。単純な作業だけれど やってみるとなかなか楽しいものだ。おままごとは 子供の遊びだと思っていたけれど、今の私にはちょうど良いのかもしれない。もう一度子供時代をやり直せているようだ。
「あとは何を作ろうかなぁ」
と少し考え込んだところで、ご飯後だからか、わずかな睡魔が襲ってきた。
「みー、とりあえず今はお昼寝をしましょう」
結局、私はおままごとを中断して、みーと一緒に睡眠をとる事にした。お布団まで行くのが少し面倒だったから、結局ソファで眠る事にした。ソファに寝転がった瞬間、どこか懐かしいぬくもりに包まれて、抗えないまま、まぶたが落ちた。




