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黒いモノクロな世界と白いカラフルな世界  作者: ちぇしゃ


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004-3「おままごと!」


 立って話をするのも疲れるので、績にソファを勧めた。


「何が飲みますか?」


 今は起きたばかりだから、とりあえずは大丈夫だろう。そう思い、首を横に振る。


「まだ少し赤いですね」


 績は私の額に触れてそういう。昨日床で打った所だ。私はもう全く痛みはないのだけれど。ふと手元にあった手鏡で見たけれど、確かによくよく見ると少し赤い気がする。それにしても、治りが予想以上に早い。傷と体の内側の回復力はまた違うのだろうか。子どもは治癒が早いというし。


「痛くはないですか?」

「大丈夫です」

「そうですか……」


 私は大丈夫だと言っているのに、績は納得していなさそうな顔だ。本当に痛くないのだけれど。大体これくらいで痛いと言っていたならば、この先怪我をした時にやっていけない気がする。


「そういえば、霙と白鴎は?」

「えっと、なんかよく分からないですけれど、さっきお部屋から出ていきました。すぐに戻って来るって言ってましたけど」


 それでもそろそろ戻って来るのではないだろうか。


「聖女様、今日のご予定は?」

「えっと、今日はお昼から採寸をします」

「……ふむ」


 績は私の答えを聞いた後に手を顎に当てて考え込んでしまった。


「?」


 何か用事でもあったのだろうか。これほどまでに考え込まれてしまうと、少し気になる。何か不都合でもあっただろうか。

 

「績さん?」

「っ、ああ、すみません。つい考え込んでしまいました」

「考え……?」

「ええ、聖女様は何か欲しいものはありませんか?」

「欲しいもの、ですか?」


 急な問いに思わず首を傾げる。


「はい。なにかないですか?」


 急にどうしたのだろうか。欲しいものだなんて、急に出てくるものではない。例えば、どのようなものだろうか。績はどのようなものを想像しているのだろうか。

 ぬいぐるみもあるし。人が生きていくためには、衣食住が保証されていないといけないと聞くけれど、私はこの世界では既に保証されている。だからこそ、私は満たされている。これ以上望むものなんてあるのだろうか。

 

 績を見てみると、私が欲しいものを願う事を望んでいる顔をしている。


「……」


 『欲しいもの』

 

 考えたことが無かった。正確には考えようとして来なかった。望んだとしても、それが手にはいる事は無い。

 けれども、私が一番望んでいたものは、もう手に入った。


 だから、望むものなどない。


 




 もし欲しいものがあるとすれば暇つぶしが出来るものだけれど。


 私が一番、欲しかったものは何だろう。


「おえかき……」


 絵を描く事は昔から好きだった。ここでも絵が描けるならばそれはとても心安らぐ事だ。


 白にも、黒にも、色があると知った。


 黒一色でも十分だけれど、色があるととてもとても嬉しい。


「おえかきという事は、紙と描くものが欲しいんですね?」


 績の言葉に力強く頷く。


「分かりました。明日までに準備しておきます」

「良いのですか!」

「ええ、もちろんです」


 明日がとても楽しみになった。明日が待ち遠しいという経験をするのは初めてかもしれない。みーを抱きしめてもなんだか落ち着かない。

 これは、どういう感情なのだろうか。



 私が1人ソワソワしていると、霙と白鴎が戻ってきた。


「おかえりなさい」

「ただいま」

「戻ってきましたか」

「あれ、績がいる」


 戻ってきた霙と白鴎は何か大きなものを持っていた。それを取りに行っていたのだろう。一体何なのだろうか。


「遅くなってごめんね。で、早速これなんだけど」


 白鴎はそう言って、大きな荷物を、私の前に置いた。


「?」


 けれども、それは箱に入っていて中身が全くわからない。


「開けるから少し待ってろ」


 霙はそう言いながら、箱を開け始めた。


「……よかった。倉庫にしまってあったから埃っぽくないか心配していたけど、大丈夫だったみたい」

「だな」


 霙と白鴎は2人で箱から中身を取り出しているけれど、大きすぎてうまく取り出せないみたいだ。


「手伝いましょう」


 私の隣に座っていた績も手伝おうと立ち上がる。ここは空気を読んで、私も手伝おうとしたけれど「危ないから聖女様は座っていて」と断られてしまった。箱を開けるだけなのに危ないと言われるのは寂しい。だが、確かに私の身長では危ないと言われればそうなのかもしれない。その箱は私の背よりずっと高いのだから。


 一体何が出てくるのだろうか。少しわくわくする。


「そっちをひっぱってくれ」

「分かりました。あ、白鴎、下持ってください」

「うん」


 3人の会話にほんの少しの疎外感を感じる。出来ることならば、私も一緒に頑張りたい。けれども、大人3人がかりでも大変そうな開封を私が手伝っても邪魔になるだけだろう。


「そこ、持ち上げて」


 白鴎の声に霙が頷き、それを持ち上げると 薄い 桃色と白色のものが見始めた。想像 よりも可愛らしい色に首をかしげる。大人3人の中心にこのような可愛らしい色があるということに違和感を感じ 少しの笑いがこみ上げそうになる。そして、とうとう中身が全部見え始めた。


「!」


 まるで夢のようだと思った。大きなときめきが私の心臓を貫く。

 誰もが一度は望むもの。けれども 手に入るはずのないそれは私にとっても 夢のまた夢だった。可愛らしい それは惜しむことなく 私に輝かしい 色を 向けていた。


「おままごと!」


 それはとても可愛いらしいおままごとセットだった。私の身長がとても低い事もあり、おままごとセットはとても大きく感じる。実際大きいのだろう。私からすれば、まるで本当のキッチンのような大きさだ。



 以前は触れたくても触れられなかった それにゆっくりと手を伸ばしてしまった。


 ――どうして今さら、現れるのだろう。あんなに欲しかったものに、簡単に触れられているのだろう。

 

 流し台も付いているし、コンロもついてる。まな板を置く場所もあるし、引き出しだってある。引き出しを覗いてみると、ボウルやザル、お玉、ヘラなどたくさんのキッチン用具が揃っていた。別の引き出しを覗いてみると、野菜や果物など、たくさんの食材が入っていた。

 

 震える手が歓喜に満ちているのだと、自身の興奮を抑え込む。私の年齢を考えれば おままごとで喜ぶような年ではないけれど 今だけはそのことを忘れたい。一度捨て去った欲望をまさか このような形で偶然とは思ってもみなかった。きっと、あの時から神様は 私のことを見てくれていたのだろう。そう、信じてもいない神に祈りを捧げたくなった。



 


「こ、これ、遊んでも良いですか?」

「もちろん」

「ほんと、ですか?!」

「うん」


 早速ソファーに座っているみーを連れて再びおままごとセットのところまで駆け寄っていこうとする。けれど、走り始めたところで、霙からストップがかかる。


「まずは食事をしてからだな」

「えー……」


 遊びたい 欲が 強く 表に出てしまった。自分でも制御が効かず、不満を口に出した。けれども すぐにそのことに気がつき 口を両手で閉じる。

 けれど どうしてもすぐには諦めきれなかった。せっかくこのように素敵なおもちゃが現れたのに。私のためだけの、私が遊べるおもちゃがやっと現れたのに、それを後回しになと出来るはずもない。少しだけでも良いから先に遊びたい。

 そう思い霙を見るけど、霙からの許可は降りなかった。諦めて白鴎を見るけれど、白鴎は績に聞いてとでも言うように、績の方を向いた。願いを込めて績を見るけれど「先にご飯です」と言われてしまった。医者にそう言われてしまったら、私は従うしかないではないか。


 くうぅぅぅぅぅぅぅ


 諦めたところで、私のお腹がしっかりと悲鳴をあげた。


「お腹すいたかもしれないです……」


 お腹が空いているという感覚は全然なかったけれど、お腹が鳴ったのだから、空いているのだろう。それにしてもこの様なタイミングでならなくても良いのに。


「当たり前だ。昨日も食事をしていないのだからな」

「……」


 そういえばそうだったかもしれない。でも少し食べなくとも別に死んだりしない。そこまで考えて績の優しくて 鋭い瞳が目に入りおとなしく食事に向かうことにした。



 白鴎が食堂から食事を持ってきてくれたので、諦めるしかない。お腹が空いているのは事実だと思うし。績はどうするのかなと思っていると、どうやら績は私の額の怪我の状況を見に来てくれただけだった様で、もう帰ってしまった。


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