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黒いモノクロな世界と白いカラフルな世界  作者: ちぇしゃ


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004-2「この子の名前です」


 出来るだけ大きい声で返事をした。入ってきたのは予想通り霙と白鴎だった。


「おはようございます」

「おはよう」


 2人とも朝から眩しい。ここ数日で見慣れた白い服を着ている。これ以外の服を見たのは風呂上がりだろうか。これ以外の洋服を持っていないわけでもないだろうに。これが彼らの制服なのかもしれない。興味は無いけれど、2人もたまには別の洋服を着れば良いのにと思ってしまう。


「額の傷はどうだ?」


 私の前まできた霙が額の前髪をめくる。

 

「もう、痛くないです」

「そうか、ならよかった」


 霙は私の額に触れながら、息を吐く。続いて、白鴎も安心したように、私の頭を撫でてくれた。


「顔、洗っておいで」


 白鴎がタオルを渡してくれたので、それを持って洗面所まで向かう。洗面所の前の小さな踏み台乗ると、鏡に自分の姿が映る。改めて顔や姿はそのままだが、身長だけが小さくなっている事を実感する。この体は一体いつになれば戻るのだろうか。さらに言えば、白い髪に金色の目の国で、私だけが黒髪で黒目だ。ここでも私は「違う」と分かる。黒髪黒目が聖女である証のように言われたけれど、そのような証拠よりも、私は皆と一緒がよかった。


 冷たい水で顔を洗うと目が覚める感覚がする。顔をタオルで拭き、霙達の元へ戻ると2人は布団を整えていてくれた。


「ありがとうございます」


 そのくらい、やれと言われれば自分でできるのに。


「いや、これも守護者の役割だ」


 守護者の役割とは多岐に渡るものだ。守護者というよりも完全に私の世話係だ。


「着替えるか」


 霙が持ってきてくれたのは、真っ白のワンピース。普段からパジャマで過ごしている私にとって初めての普段着だ。不可抗力とはいえ、自分が今までどれだけ 怠惰な生活を送ってきたのか実感する。


「そして、今日こそ採寸をさせてくれ」

「はい」


 今日の予定をもう一度 頭に入れる。今日こそその予定を果たそう。人前で脱ぐことに羞恥心を全く抱かないといえば嘘になるが、それほど気にする必要がないことも分かっている。

 


「パジャマ脱いで」


 白鴎は慣れた手つきで、白いワンピースを着せてくれる。


「髪、どうしようか。結ぼうか」


 白鴎は少し考えながらわたしの髪の毛に触れる。私は自身の髪の毛があまり好きでない。切る機会がなくだらしなく 伸びた髪はいつだって 清潔感を損なわせる。ハサミでばっさりと切ってしまおうかと思ったこともあったが、後悔することが分かりきっていたため断念した。

 

「よし、決めた」

 

 白鴎はそう言いながら私の髪の毛を後ろで一つ結びにする。

 

「ねぇ、聖女様」

「?」

「前髪切ってもいい?」


 私の表に出していない声が届いたのかと思った。


 私の前髪は目が隠れてしまうほどに長い。邪魔と言われれば邪魔だ。今まではそのままにしていたり、後ろの髪の毛と一緒に結んでいた。思えばそこまでの不都合はなかった。だが、私が好きで伸ばしていた訳ではないし、切りたいというのならば、それでも良い。


 白鴎に向かって頷くと、白鴎は予め用意していたかのように、腰のポーチからハサミと布を取り出した。そして、椅子に座った状態の私に布をかけると私の前にたった。


「それじゃ、切るね」

「はい」


 目を瞑ると、額に白鴎の手が触れた。そして、髪の毛をクシでとかれている感覚もした。そして次には、ハサミで髪の毛を切る音がした。


 目を開けるのは怖いけれど、少し気になってしまう。それにこのハサミの音がなんだか心地よい。髪の毛を切ってもらうなんていったいどれくらいぶりだろう。店ですら髪を切る事がなかったから、目を瞑る以外にどうすればいいのかわからない。話をすればいいのか、それとも黙っていればいいのか。こんなに近くで目を開けているのは、なんだか恥ずかしいし気まずい。


「もう少し切ってもいい?」

「もう少しならいいんじゃないか」


 私の髪の毛なのに、私の意見を聞かずに霙の意見を聞いてるのがなんだか面白い。それに、霙も少し考えながら言っているのが、なんだか私の事を考えくれている様だ。再びチョキチョキという音が聞こえたが、しばらくするとまたハサミが止まり白鴎が霙に話しかける。


「もう少し切ったらさすがに短い?」

「短いな。……だが、それはそれで可愛いかもしれん」


 一体どれだけ切るつもりだろうか。私には特にこだわりはないからいいのだけれど。そして、あんまりにも似合ってない髪型でなければ大丈夫。


「こんなもん?」

「だな」


 2人の会話からすると終わったのだろうか。目を開けても良いものかわからず、目を瞑り続けていると白鴎から開けていいよという声がかかった。目を開けてみると、目の前にかかる髪の毛の感覚がなくスッキリしたのがわかる。今までは視界の端に髪の毛がチラついていたけれど、今はそれもない。霙は鏡を持ってきてくれたのでその鏡を覗き込むと。


「!」


 予想よりもはるかに短くなっていて驚いた。眉毛の上で綺麗に切りそろえられている。確かにこれでは周りの景色がはっきりと見えるけれど、その分周りからもはっきりと目を見られる。これはとてもとても恥ずかしいかもしれない。確かにどんな髪型でもいいと思ったのは私だけれど、今まで慣れていた視界とは全く異なる視界になったわけだから違和感しか感じない。慣れていけるといいのだけれど。


「これで聖女様の顔がはっきり見える」


 恥ずかしいけれど、霙があまりにも嬉しそうな顔でそう言うものだから、私はこの髪型でもいいかもしれないと思ってしまった。我ながら単純だ。


 切り終わったところで、先程一つで結んでいた髪の毛が解かれた。


「?」


 髪を切るためだけに結んだのかなと思っていると、白鴎は私の髪の毛を後ろで二つに分けた。そして、そのまま両サイドの髪の毛を片っぽずつ編み込んでいった。そして、編み込んだ後の下の方は三つ編みで終わり、その先には小さな赤いリボンが添えられていた。白鴎は器用だ。自分の髪の毛をこんなに綺麗に結ぶ事はできない。もしかしたら彼には妹でもいるのだろうか。


「あり、がと、ございます」

「どういたしまして」


 真っ白の新しいワンピースに綺麗に括られた髪と可愛いリボン。まるで生まれ変わったような心地になる。今すぐ色々な所を歩き回って自慢したい。自分の事を可愛いなんてうぬぼれた事を思う訳ではないけれど、それでもさっきよりはだいぶマシになったのではないだろうか。


「採寸、いつからしますか?」

「昼からだからそれまでゆっくりしているといいよ。ただし危ない事はダメだよ」

「……はい」


 これに関しては前科があるからなんとも言えない。昨日みたいなのは私も避けたい。


「今日はみーと遊びます」

「みー?」


 まだ2人に名前をつけたこと知らせていなかった。


「この子の名前です」


 ベッドに横になっているくまのぬいぐるみを胸の前で抱き寄せる。


「名前付けたのか」

「はい。名前ないと……、可哀想だから」

「そうか。いい名だな」


 思いがけず褒められてしまった。少しだけ名前の由来も紹介したかったけれど、聞かれていないから、わざわざ言うのもおかしいかと思って黙っている事にした。


「あ、そうだ。霙、確か倉庫に」

「ああ……、そういえばあったな」

「?」


 霙と白鴎は2人で会話し始めた。私では、何の話をしているのか全然わからなかったけれど、2人の間では分かっているみたいだった。主語を言わなくてもわかるなんて、まるで夫婦みたい。


「ちょっと待ってろ」

「すぐ戻ってくるから」


 2人とも急ぎ足で部屋を出ていった。何の用事なのだろうか。直ぐに戻るとは言っていたけれど、何をしに行ったのか気になる。


「………」


 手持ち無沙汰だ。待ってろと言われても、いつまでかかるのか分からないし、この場で立って待っていればいいのか、それとも布団やソファーでゴロゴロしながら待ってもいいものか。みーを見てみるけれど、当然ながら返事があるはずもなく、結局どうすればいいかわからないままだ。

 何十秒か待ってみたけれど、2人が戻ってくる気配はなかったので諦めてソファーに座って待つ事にした。ずっと立って待っているのは体力的に厳しい。


 ソファーに座って力がだらりと抜けたところで、コンコンというノックの音が聞こえた。霙と白鴎が帰ってきたのだろうか。


「はーい」


 パタパタと扉のところまで駆けてゆき、ゆっくりと扉を開けると、そこにいたのは、霙と白鴎ではなく績だった。


「績さん!」

「おはようございます、聖女様。おや、髪切ったのですね。お人形さんみたいですごく可愛いですよ」

「!」


 出会ってすぐに髪型の変化に気づいてくれるとは思わなかった。しかも可愛いって言われてしまった。


「ありがと、ございます」


 真正面から褒められると、なんだか恥ずかしくなって、みーの後ろに顔を隠す。


「このぬいぐるみも大事にしてくれているのですね」


 ここに来て最初の贈り物だから。そう言いたい気持ちを飲み込む。


「あのね、この子に名前つけたの」

「素敵ですね。なんという名前を付けたんですか?」

「みー」

「素敵な可愛らしい名前ですね。このぬいぐるみを気に入ってくれたようで私もとても嬉しいです」


 績はどこ 安心したように笑って ぬいぐるみ へと視線を向けた。


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