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黒いモノクロな世界と白いカラフルな世界〜世界の色を探して〜  作者: ちぇしゃ


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028-4「一緒だっ、皆と!」


 絵を書いていると太陽はすっかり真上まで登っていた。少し冷えた風が肌を撫でていった。


「そろそろ終わろう」


 座り込んでいた私と南葵は伸びをするように立ち上がった。勉強というよりはただの絵を描く時間だった。

 

「あ、今日はこれから霙さんと白鴎さんの会議が終わったら一緒に町に遊びに行くんだぁ」


 そう言えば南葵は意外そうに鼻を鳴らした。


「お前街に興味あったんだな」 

「お兄ちゃんが美味しそうな魚を買ってたからね。南葵も一緒に行こうよ!」

「やはり食べ物関係か。楽しそうだが、あいにく今日は午後から予定があってな。また誘ってくれ」

「残念……」


 初めての街歩きだ。以前も一度だけ街にいたが、あの時とは違う。今回は自由な探索だ。出来るだけ人数が多い方がいい。決して霙や白鴎を信用していない訳ではない。寧ろ2人がいれば十分に心強い。けれども知らない場所に行く時に、出来る限り四方を知っている人で固めておきたい。そんな浅ましい感情から南葵を誘ってみたが、どうやら予定があるようだ。残念に思いつつも断られたのだからこれ以上しつこく誘う訳にもいかない。面倒と思われたら生きていき辛くなるから。


 上に登った太陽を眺めながら部屋の方向へと南葵を連れて歩いていく。けれどその途中で私の部屋ではなく南葵の研究室へ向かう事にした。理由は言わずもがな、南葵が確実に私の部屋から南葵の研究室へまっすぐと戻れる確証が私の中でなかったからだ。南葵はこの後予定があると言っていた。南葵の研究室から予定の場所まで時間通りに行けるかどうかは私の知ったところではない。けれどもほんの少しの手助けぐらいはしてやるべきだろう。


 南葵は研究室に着くと、私に礼を言い持っていたスケッチブックと色鉛筆を私に渡した。南葵が研究室に入った事を確認し、私は部屋に戻るべく足を進めた。


 この道は歩き慣れた。績の医務室を通り過ぎ、見覚えのある真っ白な廊下をただひたすら歩く。代わり映えのない景色。以前と違うのはだんだんと寒くなっていく気温だけ。真っ白の廊下。真っ白な壁。まるで冬を思い出させるような色彩だ。この場で唯一の色を持っている私はまるで異端だ。けれどもそれを不幸とは思わない。


 羨ましくは思う。その白を筆で掬って私自身に塗り込めればいいのに。壁に髪を押し付けてみても全く無駄だ。


「なァにやってんだ」


 呆れた低い声。


「お兄ちゃん!」


 神楽は壁に頭をこすりつけている私を見て変な生き物を見るような目線を送ってきた。送られている私が言う事ではないが、その目線は正しいと思う。私も誰かがそのような変な行動していたら同じような目線を送る。

 

「んで、何してたんだ?」

「んー……」


 どう説明をして良いのか分からず頭をひねる。髪を白くしようとしたと言っても呆れた目線を送られる事は分かっている。私はこの言葉を別の意味に捉える事にした。


「南葵を研究室に送ったから、お部屋に戻ろうとしてたのっ!」


 私がごまかしているのを分かっているだろうに、私を見てその後に南葵の研究室を眺めて私の頭をひとなでした。


「よくやった」


 うっすらと笑った神楽は満足そうに手を下ろした。


 私はそれに言葉が出ずに、感情を隠すように神楽の服を握った。


「あ、のね。これからお部屋に戻るの。一緒に行こ?」

「……まあ、いいけど」


 ぶっきらぼうな言葉に安心する。


「案内してあげるっ!」

「俺は道は分かるつーの。南葵さんと一緒にすんな」


 失礼な神楽の言葉もいつも通りだ。私が持っていたスケッチブックと色鉛筆を取り上げた神楽は、そそくさと私の前を歩き出した。慌てて追いかければ、すぐに神楽の横まで辿り着く。無許可に神楽の服の裾を握れば、突き放される事なく歩き続けた。


  


 

 


 

「帰ってきたか」


 部屋に着くと霙と白鴎がソファに座って待っていた。どうやら予想よりも早く会議が終わったようだ。


「聖女様を送ってくれたの? 助かるよ」


 白鴎はソファーから立ち上がりこちらへ歩いてくる。


「俺はこれで」


 白鴎の言葉に軽く頭を下げた神楽は役目を終えたとでも言うようにすぐに部屋から出て行こうとする。私はそんな神楽を引き止めるべく服の裾先ほどよりも強く握った。


「おい、俺は今から仕事だ。離せ」

「今から霙さんと白鴎さんと一緒に街に行くの。お兄ちゃんも一緒に行こ!」


 南葵はダメだったが、神楽ならばついてきてくれるかもしれない。

 

「はぁ? 俺にも仕事があるんだっつーの」


 けれどもやはり、そう言って断られる。


「えー。いつもお仕事してないじゃん!」

「してるつーの。お前といる時はだいたい休憩中なんだよ。つーか、お前は何で俺の休憩中を狙って現れるんだよ」

「たまたまだもん!」


 本当に休憩時間を狙った訳ではない。というより私が歩いている先で神楽が休憩をしているのだ。これは不可抗力であり意図的ではない。私を責めるのは門違いというものだ。

 

「いいじゃん。たまには休憩も必要だよ」


 ここで白鴎をからの後押しを受ける。

 

「いや、俺普段から結構休憩してるんすけど」

「まあまあ」


 白鴎の後押しに先ほどまで全く行く気がなかった神楽の表情に迷いが出る。それを良い事に私は次に霙に視線を向ける。そうすれば霙には私の視線の意図が伝わったようで、ゆっくりと口を開いた。

 

「聖女様が外の世界に興味を持ったのは神楽が秋刀魚を聖女様に食べさせたからだろう。秋刀魚の美味い店。教えてやるぐらいはいいんじゃないのか」


 静かに確信をつく重たい言葉に神楽はとうとう口を噤んだ。


「……まぁ別に町は嫌いじゃないし」


 神楽なりの了承の返事だった、もつべきものは神楽が頭が上がらない人たちだ。


「じゃあ行こう!」

「待て」


 神楽の服の裾を持ったまま部屋を飛び出そうとした私は霙に止められた。


「なぁに?」

「その格好で行けば、確実に聖女だとバレて、まともに街歩きなど出来ないぞ」

「えー?」


 自分の服装を見てみるが、これはそれ程までに派手なのか。この国の『普通』が分からない。


「服じゃなくて、髪と目の事な」

「あ、そっち」


 そう言われて納得した。そう言えば、この世界で黒目黒髪はは聖女だけだった。


「どうするの?」


 だからといって、私は髪の色を変える術をもっていない。


「彩月を呼んでいる」

「彩月さん?」


 なるほど。理解した。要は彩月に帽子でも作ってもらって髪を隠そうという訳だろう。




 

 タイミングよくノックが聞こえ彩月が部屋に入ってきた。


「私達は部屋を出ている。頼んだ」

「ああ」

「?」


 帽子をかぶるだけならばわざわざ霙達が部屋を出る必要はない。という事は帽子をかぶるだけではないのかもしれない。もしかすると能力に関わる何か――――、


「早速ですが」


 彩月はそう言いながら私の目の前までやってきて、膝をついた。


「この国のものは全体的に白髪のものが多いです。瞳も金色のものが多くいます。もちろんそれ以外の色彩もいるのですが大多数が白髪金目ですね」

「うん」


 前にバルコニーから見下ろした時も、、街に行った時も、ほぼ白髪だった。他の色もいたかもしれないが、大多数がそれだった。黒髪の人は1人としていなかった。


「黒髪の聖女様が街へ行くと、どうしても正体に気づかれてしまいます。そうすると聖女様が街を観光する場合ではなくなってしまうので」


 彩月は私の両手をそっと握った。


「私の能力を使ってもよろしいですか?」


 私の手を包み込む彩月の手はとても温かい。


「うん、いいよ」


 どんな能力かも分からない。けれど彩月が私に害をもたらそうと考えていない事は分かる。私が拒否する理由はない。


「ありがとうございます」


 能力は人に言うものではないと言っていた。私は彩月にどのような能力があるのかは知らない。だから言わなければバレなかったのに。言わなければ私は知らなかったから、彩月が能力を使わなくたって責めたりしない。彩月は私にはそれを知られてもいいと思ったのだろうか。

 少しは信頼してもらえたと思っても良いのだろうか。

  

「では」


 誰かが能力を使うのを見たのは2回目だ。彩月が能力を使えば少しだけ風が起こった。けれどそれはすぐに止み、暖かい空気感だけが残った。


「終わったの?」

「ああ」


 彩月が持ってきた鏡を覗き込めばその中には知らない子どもが映っていた。正確には見慣れた顔ではあるが見慣れない髪色と瞳の少女が写っていた。


「え、すごいねっ!」


 私の黒髪と黒目は白髪と金目に変わっていた。見慣れない色彩に違和感がありつつも、これでみんなと一緒だと思うと心が弾む。


「一緒だっ、皆と!」


 まるで家族のようだ。新鮮な色彩は心を弾ませる。


「これで、街の人も気づかないね!」

「そうだね」

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