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黒いモノクロな世界と白いカラフルな世界〜世界の色を探して〜  作者: ちぇしゃ


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028-1「図鑑? なにそれ」 


「おはよ、聖女様」

「おはよう、白鴎さん!」


 朝日が窓を照らす。お出かけ日和とでも言うように雲ひとつない空だ。

 楽しみだったのか、普段よりも早く起きれた。私が起きた時はまだ空は暗かった。二度寝をしようとも思ったが、どうにも目が冴えて再び眠る事が出来なかった。諦めて無駄にカーテンを開けたり閉めたりしたものだ。

 

「嬉しそうだね」

「お出かけ楽しみです!」


 白鴎が髪の毛を結んでくれている間も自然と足が揺れる。相変わらず人形の様な私の表情も、白鴎には少し楽しそうに見えるのだろうか。

 指であげれば上がる口角も、未だ自然と上がる事はない。単純に筋肉の問題だろうか。


「あぁ、そうだ。ご飯はどうする?」

「どうするって?」


 食べないという選択肢はあるのだろうか。選択肢としてはあっても良いけれど、でもきっと食べなければ腹が空く。もう私の体は食べなければならない体になってしまった。それが良い事なのか、悪い事なのか分からない。


「緑弥のご飯を食べるか、それとも屋台で何が買って食べるか」

「屋台?」


 屋台というのは道端に出ている露天の事だろう。例えば焼き芋屋。他には、と考えたところで何も思いつかなかった。けれども、屋台と聞かれると、どうしても祭りが思い浮かぶ。


 正直緑弥の作った食事が食べたいところだが、屋台というのはそうそう食べる機会がないだろう。食べてみたくないと言えば嘘になる。


「屋台って何があるの?」

「だいたい何でもある。串焼きや野菜も売ってるし、パンとか、デザートもね」


 具体的な商品が何一つ説明されず頭で想像するのは難しいが、この建物で出てこないようなものもきっと出てくるのだろう。


「屋台は定期的に変わるから、実際にお店を見て美味しそうなものを食べてもいいし」

「それ楽しそう!」


 実際に見て食べれそうなものを食べれば良いのだ。それはとても楽しそうだ。もしどうしても食べたいものがなければ、無理に食べなくても良い。何も食べずに帰ってくれば、緑弥が何が作ってくれるはずだ。


 私が見た事のない食べ物も沢山あるのだろう。始めてみる景色や食べ物に気を取られる事になるだろう。初めてあの建物から出た時のように、きっと沢山の色に触れて、沢山の色を知るのだろう。


「じゃあ今日は外で食べる」

「ん。分かった。緑弥に言っとく」


 洋服と髪の毛の準備が出来た私を椅子から降ろす。10日ほど前に私の身長は伸びたが、この先もまた身長が伸びる事があるのだろうか。いつかは伸びるだろうが、あまり小さいままだと出来る事も少なくてつまらない。


 出発は午後だと言っていたが、それまでどうしようか。霙は今もうすでに会議に出ているというし、白鴎もこれから会議に出る。2人と遊ぶ事は叶わない。

 おままごとで遊ぼうか。みーは窓の外の方を見つめている。みーと一緒に遊ぶのも良い。そういえばこれだけ一緒にいて私はまだみーの絵を描いた事がない。みーの絵を描くのも良いかもしれない。


「じゃあ行くね。会議が終わったら迎えに来るから、それまで勉強頑張って」 

「…………」


 すっかり忘れていたそれに無言の返事を返す。


 どうやら午前中に好きな遊びをして過ごす事はかなわないようだ。けれども南葵が来るまでなら良いのではないか。そもそも南葵とはどこで勉強するかという事も話し合っていない訳だからこのまま部屋にこもっていれば勉強から逃れられるのではないだろうか。そのような浅はかな気持ちが私の心を占める。


「もうすぐ南葵が迎えに来るらしいよ」

「…………」


 けれどもその希望もすぐに潰え、大人しく部屋で待っている事しか出来ない。

 白鴎を見送った後は、それでも南葵が迎えに来るまでならば良いだろうと、スケッチブックと色鉛筆を取り出す。


 今日はもうすでに描くものが決まっている。私が普段食事をする椅子にみーを座らせ、私はその足元にスケッチブックを広げて座り込む。地べたに座り込む事に抵抗は無い。寧ろ、ひんやりとした心地が寒くて気持ち良い。

 服を着ていないみーは、寒そうだが体全身で空気を取り込んでいるようだ。


「きっいろ〜」


 黄色の色鉛筆を持ち、輪郭を書く。描きやすいと思ってみーを椅子に座らせたが、どうやら失敗したようだ。座っている姿は書きにくい。けれどもぬいぐるみのみーは自分で立つ事が出来ない。立ってもらいたいけれどそういう訳にもいかない為、諦めて座っている姿を描く事にした。


「みー、じっとしていてね」


 動くはずもないぬいぐるみに声をかけ再び絵の作成に移る。香色のみーに近づける為には、黄色の後に茶色を塗り重ねるのが良いだろう。丸い耳と少し上を向いてツンとしている鼻。何を考えているのか分からないつぶらな瞳。

 輪郭を書いた後に中をすべて黄色に塗る。明るい色のミーが出来上がった。これはこれで可愛いと思う。けれどもただのくまのぬいぐるみの描きたいのではなく、ミーを描きたい。薄っすらと茶色を塗り重ねると、茶色が強くて思った色にならない。迷ったあげく、橙色と肌色を塗り重ねる。まだ思った色にはならなかったが、最初よりは随分とましだろう。及第点まで近づいた。


 瞳は青色。光を反射してキラリと光る白色の部分はあえて塗らない。そして目の端の方は少し黒い。輝く瞳の出来上がりだ。


「でーき……てない!」

「何を騒いでるんだ?」


 ノックもなしに部屋に入ってきたのは南葵。


「勉強はまだしないよっ。今はね、みーを描いてるの」

「へぇ、いいじゃん」


 南葵が急かさなかった事を良い「」事にそのまま絵を描き続ける。とは言ってももう少しで終わるけれど。

  

 最後は可愛い口。ぬいぐるみだから口は開いていないけれど確かにそこにある口を黒で描き込む。


「今度こそでーきた」


 スケッチブックを眺めて南葵に見せる。


「上手いな」

「そう?」


 スケッチブックをもとに戻し、もう一度眺める。 

 絵が薄くなっているような気がするが、気のせいだろう。そう言えば、以前も似たような事があった。本格的に私の目がおかしくなってきているのだろうか。


「みー、こっちおいで」


 椅子に座らせていたみーを抱き上げ、膝の上に座らせる。

 

「ん? 今腕輪が光ったか?」


 私がみー触れた瞬間、南葵がそう言う。


「え、ほんと?」


 長袖を捲って腕輪を見てみるが、やはり何の変化もない。これは、私の腕についている時はいつも微かに光っている。私の体から常に神気が溢れているからだ。

 南葵の言う「光った」とは、普段よりも明るくという事だろう。けれども、何故突然光ったのか分からない。みーに触れた瞬間だから、みーに反応したのだろうか。


「ねぇ、みーってどうやって書くの?」

「今描いたじゃないか」

「そうじゃなくって、みーのお名前描きたいの」


 決してこれは勉強ではない。ただ、みーの名前は書けるようになりたいと思っただけだ。


「それなら」


 南葵は持参していたメモ帳に「みー」と書いてくれた。この世界の「ー」は伸ばし棒ではなかった。覚えづらさはあるが、忘れないように描いた絵の隙間に「みー」と書いておく。 

 さて、これ以上勉強を遅らせる理由がなくなってしまった。

 

「お勉強したくなーい」


 それでも往生際悪く、机に突っ伏してみる。チラリと南葵を見てみるが、怒っている気配はない。いつまで粘れるだろうか。昨日は絵本を読むだけだったから、今日もそれだけで過ごせないだろうか。


「お絵かきしたぁい」


 けれども今日は絵本よりもお絵かきが良い。何を描きたいかというのは決まっていない。

  

「……なら図鑑でも作るか」

「図鑑? なにそれ」 


 これは、私のお勉強したくないという言葉を聞き入れてくれた結果だろうか。「図鑑」という言葉に聞き覚えはない。


「図鑑を知らないのか。まあ、あれだ。食べ物が載っていたり、生き物が載っていたりする。あと花もあったりするな」

「なんでも載ってるの?」

「まあ、そうだな。聖女様もスケッチブックに色々絵を描いているだろう。それに名前を書けば図鑑になる。簡単な説明書きが載っているものもあるがな」

「へぇー」


 興味は唆られる。


「それって、沢山描かないといけない?」

「まぁ、そうだな。だか、必ずしもそうである必要はない。やりたいようにやれば良い」

「ふぅん、」


 勉強をするよりはよっぽど良い。


「やって、みようかなぁ」


 このまま勉強をさせられてはたまらない。ならば、好きな絵を描く方が良い。


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