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愛ある暴力は宿屋で


 宿のオーナーが現れた。

 腰まで伸びた赤い髪をなびかせ、強気な表情のまま男達とセイリューを拳で黙らせる。


 男達は注意の後出禁に、セイリューに対しては……。


「リーさん、許してんよ……」


「だめに決まってんだろ。とりあえず百枚は皿洗いな」


 厨房の方で皿を洗わせている。


 リーミネ・クランさんはセイリューさんの姉御分らしい。

 リーミネは溜息を着きながら、歩乃華たちの席へ向かってくる。


「悪いね。せっかくご飯食べてたのにこんな諍いあってさ」


「大丈夫ですよリーミネさん!」


 カンナがニコニコ笑顔で最後の一口食べる。ここの料理は全部リーミネが作っているのだ。


「美味しそうに食べてくれるね! ……で、あんたは初顔よね、アタシはリーミネ・クランよろしく」


 差し出された右手に、歩乃華は戸惑いがちに手を握る。

 大人の女性のようで、かっこいいと思った。


「私は小暮歩乃華です。ここの料理すごく美味しいです!」


「そりゃよかった。今日は迷惑かけたお詫びってことで、全部セイリューに払わせるから、子供はゆっくり休みな」


「やったー! ありがとうございます!!」

「いいんですか? ありがとうございます」

「ぇ、あす、すみませんありがとうございます」


 カンナ、フジそして歩乃華と感謝を口にする。その姿にリーミネは満足気に頷いた。

 リーミネは歩乃華達が食べ終わったお皿を、セイリューに向かって容赦なく投げ渡した。

 それを一枚も割らずに受け取って洗い出すセイリュー、平気で投げるリーミネ。そんな2人に……思わず引いた。


「ふわぁ……」


 おなかいっぱいになり、ついつい欠伸をこぼす。

 今日は沢山寝た……というか気絶したのに。

 そんな歩乃華をフジはクスリと笑う。


「眠いですし、今日はもう寝ましょう。早く中心に向かわないといけないし。……カンナ、まだ寝るな」


 瞼が落ちてきていたカンナに、フジが釘を刺す。


「……ね、寝てないもん。歩乃華、一緒に女子会しよう! フジは別部屋だから覗いちゃダメだめだよ?」


 耳を赤くして否定するカンナ。

 そして対抗のためにフジをからかうように笑った。フジは冷めた目をしている。


「覗かないし、明日起きれなくても知らないぞ。歩乃華だけ連れて出発してやる。一人でグースカ寝てな」


「分かったフジは私と戦いたいのね」


 ぴくぴくと口を揺らすカンナ。フジも煽るように笑った。

 私よりも一つ歳上なんだけどなぁ。

 子供みたいな一面に歩乃華は苦笑い。


「あの……ケンカは、ダメ…ですよ……?」


 歩乃華の言葉が聞こえなかったのか、二人は幼稚な口喧嘩を続ける。

 まだ暴力はないからいいけど、このままヒートアップしたらよくないと思う。

 どうしようかな。


「そんなんじゃこいつらには届かない。こういう時はね、愛のある暴力が一番なの。ちゃんと加減すれば、それは愛情表現に過ぎないんだから。ほら、手を握って? あ、親指は中に入れな折れちゃったらダメだし」


 リーミネが歩乃華の手を握って教えてくれる。

 何故だか歩乃華が殴って止めると思っているようだ。


「いやあの……え? 殴りませんよ!?」


 リーミネは有り得ないものを見た、そんな顔をする。

 この方、愛があれば暴力振るってもいいと思っているのだろうか。


「カンナちゃん、フジくん。せめて上に行きましょう。ここでは迷惑になっちゃいますから……ね?」


 歩乃華は二人に笑いかける。

 するとフジとカンナはここが食堂であったことを思い出し、顔を赤くする。そして顔を青くした。

 歩乃華は笑顔だが、だからこそ圧があった。

 二人は小さくなって、大人しく歩乃華の後ろをついて歩く。


「なるほど、そういう手もあるのね」


 リーミネは感心したように手を叩いた。





「2人とも仲直りしましたか?」


「「しました」」


「じゃあ今日はもう休みましょう。お二人のことは、明日また教えてください」


 フジが隣の部屋に行く。

 さすがに男女同じ部屋はあまり良くない、この配慮は有難く受けとっておこう。

 実はカンナが三人部屋にしようとして、フジが全力拒否した、なんてことを歩乃華は知らない。


「歩乃華、私の寝巻きだけど……今日はとりあえずこれどーぞ」


「すみませんありがとうございます。……あの、ここお風呂は……ない感じですかね」


 受け取った寝巻きを持って右往左往する。

 正直お風呂じゃなくても、せめてシャワーは浴びたい。

 カンナは申し訳なさそうに眉尻を下げた。


「ごめん、お風呂は基本的にない。お金めっちゃかかるから、貴族くらいしか浴びれないかな。フジはまだ魔力溜まってないと思うから……、濡れたタオル用意するね! 体を拭くので許して!」


「……わかりましたありがとうございます」


 だいぶ嫌だけれど仕方がない。

 そうか、異世界ではお風呂は無いのか。でも私の知ってる異世界転生物? ではあったんだけどなぁ。

 少しだけ残念でいると、カンナがタオルを持って部屋から出ようとした。

 慌てて引き留める。もしかしてこの部屋に水道はないのだろうか?


「林の魔法が私は使えない。だから外にある井戸で水を持ってきて使うのが普通だよ」


 タオルを濡らすのにも大変なんだ、と思う。そして申し訳なくなった、わざわざ濡らしに行くなんて大変すぎるのだ。

 これは自分で向かった方が良いだろう。


「やっぱり自分で行きます! ごめんね、カンナちゃん」


 その言葉にカンナは少し困ったような顔をした。そしてため息をついて、真剣な目をこちらに向ける。


「あのね、歩乃華。こんな暗い時間に歩乃華1人で外に出たら、人攫いに会うかもしれないし、危険なの。その点私だったら抵抗もできるからさ、お願い部屋にいて?」


 心配そうな声に、上手く応えることが出来なかった。

 そりゃそうなのだ、わかる。だけれども、カンナを一人で外に出す理由にはならない。


「それに私、ちょっと用事があるの! 大丈夫だよ、歩乃華。気にしすぎないで?」


 歩乃華の返事を待たずに、カンナは扉から出ていってしまった。

 歩乃華は足を踏み出しかけて、やめた。どうせ井戸の場所も分からない。変に外に出て迷惑をかけるくらいなら、大人しくここに居た方がいい。

 歩乃華は窓辺のベッドに腰掛けて、そのまま部屋を見渡した。

 和洋折衷な部屋。内装は二つのベッドと木造の机だけ。机上には不思議なオブジェクトが置かれている以外何もおかしなところはなかった。

 だからこそ何もすることがない。


 一人で暇な歩乃華は思考の海へと潜る。


 今日という一日の展開が早すぎて、正直ついていけてない。

 魔物という不可思議な存在。魔法という超常現象。祝福という謎の力。

 全てが今までの常識と反している。

 直接見てしまったからこそ、受け入れるしかない。わかってる。でも、心のどこかで拒否したがってる。

 物語の主人公のように、柔軟に考えられたら良かったのだが。


 歩乃華はお行儀悪くごろり、と横たわる。

 今日はとても疲れた。体を拭いたら直ぐに寝てしまおう……。


 ……コンコンコン


 遠慮がちに扉が叩かれる。

 なにか言葉を発する前に、歩乃華、カンナ、今大丈夫か? という声が聞こえた。

 悩むまでもない、フジだ。


 歩乃華は急ぎ足で扉に向かい、錆び付いた音を出しながら扉を開けた。

 扉の前には大きな本を抱えたフジが立っている。


「急に入ってごめん。話忘れてたことがあったからさ。……あれ? カンナは?」


「カンナちゃんは今井戸の方に行ってて居ないんです。えっと、とりあえず……中に入りますか?」


「あぁ。そうさせてもらう」


 入れたところで、この部屋に椅子はなかった。

 部屋の真ん中で足を止めて悩む。

 ベッドの上に座るしかない。でも男女で座るのはいかがなものか。

 確か友達の読んでいた本ではその後よろしくない展開に進んでいた。どうしよう。


「歩乃華? ……あぁ、椅子がないのか。じゃあ僕は床に座るよ」


「ですが床は腰が痛くなりますし、フジくんがベッドの上に座ってください」


「いや歩乃華が……、ってこれは終わらなくなるやつだな。……嫌じゃなければ横並びで座ろうか」


 ここで嫌だなんて言うほど歩乃華は強くない。それに嫌悪感もないため、受け入れる。

 もちろんそういう雰囲気になったら、全力で逃げるつもりだ。

 友達の教えでは"ギャグ展開?"にもっていけばいいらしい。


 柔らかなシーツの上に腰をかける。

 フジは大きな本のページをめくり、何かを探していた。


「この世界の文字も、覚えないとですね」


「覚えるのは大変だけど、覚えた方が便利だしな。空いた時間にでも教えるよ」


「やっぱり国によって違うんですか?」


「いや、文字も文法も全部共通だ。ただ場所によっては訛りもあるし、その地域のみの熟語とかあるかな」


「なるほど……」


「ある程度読み書きできれば大丈夫だと思う。……とあった、あった」


 フジは目当てのページを見つけたようだ。

 見せてくれた見開きには、ぎっしりと文字が書いてあった。何も分からない。


「一応ここには、色々な祝福が書いてある。恥ずかしいけど、明確に祝福を説明しろって言われたら難しいからさ」


 恥ずかしそうなフジ。祝福は感覚だからこそらしい。

 確かに、私もなにか不思議なことをした。だけれども、あれは無意識的なものだったと思う。私、どうやって使ったっけ。


「じゃあまず僕の祝福は、『文言(もんごん)ノ祝福』」


「言葉や文字の"本当の意味"がわかる力なんだ。ただ巡らせる魔力を増やすことで、相手の本心や無意識的なものまで感じ取れるようになる」


 つまりフジくんの前で隠し事はできない、と思った方が良さそうだ。

 歩乃華は発言に気をつけるだけでなく、その時の考えまで注意しようと心に決めた。


「使うかどうかは自分で決められる。魔力の消費量は少ないから、普段は基本使ってるかな」


「魔力の消費量とかも違いがあるんですか?」


「あるよ。僕とかカンナの祝福、常時系祝福って言われるものだけど、そういうものは少ない」


 常時系祝福。常時使うからこそ少ないのだろうか。

 にしても、フジくんの力は強いと思う。それなのに魔力をあまり使わないとか、すごいな。


「ただ歩乃華の使った領域系祝福は魔力の消費量が多いかな。範囲しだいだけど」


 じゃああの時眠くなってしまったのは、魔力がなくなってしまったからなのかも。

 使うタイミングに気をつけないと、迷惑をかけてしまいそうだ。


「魔力……はどうやったら回復するんですか? 私もきっと使いすぎたのでしょうし」


「時間が経てば回復するよ。他にも魔力を貯めといた魔力瓶とか、外部的に手に入れる方法はある。……ただまぁ魔力瓶の内容量にもよるけど、基本頭のおかしい値段だから、うん本当に……」


 遠い目をするフジ。

 うわ言のように魔力瓶と呟いている。魔法をよく使うみたいだし、喉から手が出るほど欲しいものなのかもしれない。

 魔力の話から離れよう……。えっと、そうだ。


「ちなみに祝福はどのくらい種類、というか系統? があるんですか」


「魔力瓶……。ぁ、全部で六系統ある。常時系祝福、領域系祝福、強化系祝福、衰弱系祝福、操作系祝福。そして、神格系祝福だ」


 若干引きづっていたけど、戻ってきたかな、うん。

 にしても言葉からわりと想像しやすいかもしれない。ただ神格系? はなんか凄そう。


「といってもただの目安で、実際はここに分類するのも難しい祝福もある。だからここはあんまり覚えなくてもいいかな」


「なるほど……それで、カンナちゃんの祝福? はなんなんですか?」


 確か力持ちになるような祝福だったと思う。あんなに大きなアックスを操っていて、かっこよかった。

 歩乃華はあまり筋力に自信はない。だからこそ、軽々と持っていたのが印象的だった。


「カンナは巨力ノ祝福を持ってる。どんな重いものでも持てるし、自分触れたものの重さも増やすことが出来るんだ。使い方によってはとんでもないことになるな」


 確かに大きなアックスを簡単に操れるのは怖いかも。しかも常時だから、日常生活でも便利だ。

 うんうん、と歩乃華が思っていると、フジが言いづらそうに口を開いた。


「マナー的なもので、祝福を相手に聞くのは失礼に当たることもあるから、人は選んだ方が良い」


「そうなんですか! す、すみません」


 馬車の中の時もいつの時でも、フジは祝福を外で言いたがらなかった。それは、周りを警戒してのことらしい。


 それよりもマナー違反をしてしまった。その事実に歩乃華は肩を落とす。

 そんな歩乃華を見て、フジは分かりやすく慌てる。


「い、いやいや! 付き人の力を知るのは大切なことだし、ほら、歩乃華は僕の主じゃないか。それに伝えると言ったのは僕の方だ。だから大丈夫」


 優しさが歩乃華の心を蝕む。

 歩乃華は完璧に人に合わせることが出来た。それなのに、異世界に来てからというもの、全然上手くいかない。

 落ち込んでしまった歩乃華を見て、フジは困った。

 今までカンナ以外の女性と二人きりになったことはない。だからこそどうすればいいのか分からなかった。

 カンナにする扱いが正しくないことはわかるけど。


「……えっ?」


 悩んだ末にフジは、歩乃華の頭を撫でた。

 どうすればいいか分からなかったから、里の小さな子供をあやすように、優しく。


「歩乃華はまだ来たばっかで何も知らないと思うしさ、気にしなくていいと思う。それに僕も教えてなかったし」


 フジは恥ずかし気に笑う。だって歩乃華の髪は柔らかくてサラサラで、……いい匂いがする。

 変なことを考えそうになって、慌てて違うことを考える。美味しかったなぁ、ラーヌン、いい匂いだし……ぁ。


 フジの心境を知らない歩乃華は優しくて暖かい掌と瞳に溶かされて、恥ずかしくなってしまう。


「フジくん……」


 見つめ合う男女、その場はベット。何も起きないはずがなく……。


「はいそこまで。なんかいい雰囲気になってるのやめてくださーい」


 助かった……。


 カンナはフジと歩乃華の間に割って入り、タオルをフジにぶん投げた。

 歩乃華に抱きつき、頬を膨らませる。


「もうっ! 私が居ない時に一体全体なーにをしていたのかなぁ? 1回扉開けて閉めたんだからね?」


「僕はただ安心させたかったというか、なんというか……」

「私はぎゃぐにできませんでした、次は頑張ります!」


「よくわかんないことがわかったよ……」


 カンナは頭を抱える。

 そしてフジを部屋の外へ投げた。

 比喩じゃない、服を掴んで外に投げたのだ。綺麗な放物線……。


「フジは自分でどうにかしてから眠る! 歩乃華は体を拭いてから眠ってね!」

本日、18時30分にも更新予定です!


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