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既視感だらけの宿屋で


 グゥゥゥウ


「……ぁ。お腹、すいちゃった」


 カンナがお腹を押さえ、眉を下げながら笑った。

 確かに自覚してみれば、ブランベアに出会った時点で日は落ち初めていたし、今はもう外は暗い。

 夜ご飯の時間だ。


「そうですね、私もお腹すいちゃいました」


「そしたら下の食堂に行くか。ここの食堂は絶品のハンバーダとか、ラーヌンとか……あとポイラ・モーがあるんだ!」


 目を輝かせるフジ。

 歩乃華としては、名前だけ知ってる料理っぽくてちょっと気になる。

 ただポイラ・モー? はちょっとわかんないかも。


 三人で並んで部屋を出る。

 今更ながらここはコルンの街の宿屋らしい。

 私が寝てしまった後、大急ぎでここまで馬車を走らせて、部屋を取ってくれたみたいだ。

 ブランベアは起きて追いかけてきたのかどうか、それはちょっと聞く勇気は無かった。


 一階まで降りると、木製の椅子と机が並んでいて、屈強な男の人や露出度の高い女性が座っていた。

 席はほとんど空いていなくて、今がちょうどピークなのだろう。

 三人で座れる席を探していると、一人の男が手を挙げた。


「フーくん、カンちゃん! そして一人の美少女さん! ここ四人席あいとんよー!」


 四人席の通路側に一人座っていた男性だ。

 橙色の髪の毛を持っていて、後ろの一部が長くて結んでいる。メガネをかけていて瞳の色は分かりずらいが、人あたりの良さそうな青年だ。

 周りの人達に比べると華奢で、衣服もちゃんとしている。

 いい所のお坊ちゃん、もしくは先生とかそういう人なのか?


「セイリュー先生……。四人席に座っても誰も来ないの見慣れちゃったよ」


 カンナが若干引いた目で青年を見る。しかしそれでも申し出はありがたいため、相席させて貰うことにした。

 歩乃華がフジの横に座り、セイリューの横にカンナが座る。セイリューの目の前に歩乃華は座ったので、自然と向き合う形だ。


「改めまして、美少女さんのお名前教えてんなー」


 ……美少女さんって言い方、ちょっと恥ずかしいな。

 目が合ってるから多分私だろうけど……。


「名乗るなら先にセイリュー先生からでしょ?」


 カンナが助け舟をだす。

 その言葉にセイリューはやんねやんね! と笑った。


「ボンはセイリュー・カルカミカ! 気軽にセイちゃんでもなんでも好きな呼び方しんなー!」


 ニパッと笑うセイリュー。

 癖は強いけれど、いいひとなんだろうな。


「私は小暮歩乃華と申します。ぁ、歩乃華が名前です! えっと、呼び捨てでもなんでもいいですよ」


「分かった! じゃあ……ほのちー、にしんよー」


 ほのちー……初めて呼ばれたかもしれない。ちょっとむず痒いな。

 私はセイリューさんをどうお呼びするべきなんだろうか。


「んなんな!ほの「その前にご飯頼むんで、歩乃華様、何食べたいですか?」


 セイリューの話を遮って、フジが話しかけてくる。

 フジの差し出す手にあるメニューのようなものは、読むことが出来ない。

 とりあえず先程言っていた……ラーヌンにでもしよう。

 異世界の推定ラーメン。正直一番気になるかも。


「私はラーヌンにします」


「お! お目が高い! 何味にすんのー?」


 あ、そうか。味噌とか醤油とか色々あるもんね。

 歩乃華は読めないメニューを前に唸る。

 フジは気づいたのか、そっと耳元に口を寄せた。


「ミリやトソコシ、ソオ、アニュルがあります」


 歩乃華はその言葉に全力で思考する。

 多分アニュルは知らない味だろう。だとしても他は……自信が無い。


「あの、おすすめとかありますか……」


 変な味を頼むよりはいい……と思うの。判断することを諦めた訳じゃないよ、うん。


「圧倒的ソオです」「いやミリね」「トソコツのこてこて感もいいやんなー」


 別れてる! そしてアニュルは選択肢から完全に消えました。

 歩乃華は悩みに悩みまくり、最終的には一番早くできるというミリになった。アニュルではなかった。

 フジはラーヌンのソオを、カンナはハンバーダを頼み、セイリューはポイラ・モーにしている。

 歩乃華以外は即決だった。



「歩乃華様、お水をどうぞ!」


「歩乃華様、お召し物が汚れないようにこれを」



 フジとカンナはそれぞれ水入りコップを差し出してくれたり、大きな布を渡してくれた。

 この布は紙エプロン代わりなのだろうか。

 歩乃華は申し訳ないけれど有難くそれを受け取る。

 気を使わないで、と言ってみたが、なんでも付き人としてはやってみたかったそうだ。

 二人が楽しそうだから……いいのかな?


「三人ともまだまだ心の距離が遠いんねー」


 セイリューは微笑ましげに三人を見ていた。

 心の距離……か。どうしたらもっと仲良くなれるのか。


「仲良く? それは簡単。まずは呼び方から変えればいいんよ!」


 言葉に出ていたみたいで、セイリューはアドバイスをくれた。

 確かに、いつまでもさん呼びでは距離があるかもしれない。

 いつも、どのタイミングでさん呼びをやめるべきか悩んでいたのを思い出した。


「もしよろしければ、お二人は私のことを歩乃華と呼んでくれませんか?」


 歩乃華様はちょっぴりむず痒い。

 歩乃華の言葉に二人は顔を見合わせ、悩んでいる。

 付き人とは色々複雑らしい。


「で、では僭越ながら……歩乃華。歩乃華と呼ぶね!」


 カンナは緊張していたが、ちゃんと呼んでくれた。

 歩乃華はそのまま横へと視線をずらす。

 そこには、一生懸命息を整えているフジがいた。


「すぅ……はぁ。すぅ……はぁ。……歩乃華。歩乃華!……さま」


 フジは顔を真っ赤にして目を逸らした。

 それでもちゃんと呼び捨てにしてくれて、有難かった。

 次は君の番だよ、とセイリューは歩乃華に伝える。

 歩乃華は得意の愛想笑いを身につけて、二人に体から向き合った。


「それでは、カンナちゃん、フジくんと呼びますね」


「いやそこは呼び捨てと思うやんかー!?」


 セイリューの言葉と同時に料理が運ばれてくる。

 歩乃華の前に置かれたラーヌンは、味噌に似たような香りがした。

 麺はうどんよりは細いけれど、ラーメンにしてはだいぶ太い。

 具材もかなり乗っている。だが見知った具材はあまりなかった。何このブヨブヨしたやつ。

 フジの前にあるラーヌンからは塩の香りがした。ほかは基本一緒だ。


 そしてカンナのハンバーダは、これまたハンバーグそっくりだった。

 基本同じだけれど、ハンバーグの上に薄いハンバーグが乗っていることは初めて見たかもしれない。


 心做しか肉の種類も違う気がする。


 例えるなら、下は豚ひき肉で上は牛ひき肉みたいなものだ。

 周りに着いている野菜も彩豊かで、次はハンバーダを頼みたいと思う。


 そして初見の料理、ポイラ・モー。

 あれは……なんだろう。

 お米の上からスープをかけて、よく分からないお肉を乗っけてる。そして備え付けとして、ミルクスープと香辛料が混ざって白なのに赤い液体が置いてあった。


 匂いがすごい。ラーヌンが若干負けるくらいには、辛そうな匂いが……。


「でんは、神の御心に感謝!」

「「神の御心に感謝」」

「か、神の御心に感謝……」


 歩乃華は置かれていた箸のようなものを手に取る。

 子供用の箸みたいに、上あたりでバネが着いていた。そのため箸を使う難易度は低いと思える。

 歩乃華は逆に若干使いずらかったが、頑張って麺をつかみ口の中に入れてみた。


 歩乃華は一口でわかる。これは美味しい。


 太い麺だからこそ、モッチりとしているしスープが染み込んでいて美味しい。

 噛めば噛むほど旨みが出ているのではないか、と思った。

 そして味噌と思われるこのスープ。ついていたレンゲに似たスプーンで掬ってみると、とろりとしている。

 味噌ではない。にているけど違う。だとしても、幾重にもなるこの複雑な味わいが素晴らしい。

 よく分からない具材も、不思議な食感だけれど美味しい。ぷちぷにって感じでいくらみたいだ、面白い。


「ほのちー美味しそうに食べるんねー」


「良ければソオも食べるか?」


 フジがスプーンに麺とスープを乗せて差し出してくれる。


 歩乃華は悩んだが、交換という形で食べることにした。

 だからこそ簡潔に、一口で理解しなければいけない。

 差し出されたスプーンを口で咥える。そしてスープと麺を口の中に。

 まずはスープ。シンプルで素晴らしい。シンプルだからこそ飽きが来やすいはずだが、この味は何度でも食べたくなった。

 麺はミリと変わらないが、染み込んでいるスープが違うからこそこれはもう別の味になっている。


「美味しいですねぇ……」


 うっとりとソオを堪能する歩乃華は、顔を赤らめているフジには気づかなかった。

 だからこそ、同じようにしてフジにミリを上げてしまうのだが。


「ぉ、おいしいな、ミリも」


 カンナとセイリューは腹を抱えて笑っていた。しかし先にカンナが復活、というか正気に戻る。


「歩乃華美味しそうに食べるから、良かったら食べる? ハンバーダ」


 カンナは一口サイズのものをフォークに指し、そのまま歩乃華の方へと寄せた。

 歩乃華は餌付けされている雛のように、それに食らいつく。もちろん上品に。


 ハンバーダは予想通り、お肉が二層で違くなっている。

 一緒に食べると口の中で合い挽き肉ようになって美味しい。もしかしてこれは、三通り楽しめるのではないだろうか。

 そして、なんと言っても! 噛めば噛むほど溢れ出てくる肉汁。

 もう肉汁だけで喉が潤いそうだ。


「ありがとうカンナちゃん。お礼です。……どーぞ」


 麺をスプーンの上に置いて、お返しに食べさせる。

 カンナも嬉しそうに口に入れていた。

 異世界の食事は、いいものだ。

 歩乃華は楽しい食卓を見て微笑む。


「うーん、ぼんを挟んでいちゃつかれてるかんら、ぼんの肩身狭いんねー」


 いつの間にか食べきったのか、セイリューがニコニコとこちらを見ていた。

 早かった。ポイラ・モーは未だに意味不明だから、食べてるところ見たかったんだけどな。

 ほんの少しだけ残念。


「ちょちょちょいちょい、空いてねーじゃんこの食堂ー!!」

「親分が来るのにぎゅうぎゅうとかまじ無いわー」

「俺らは泣く子も黙る四人衆。こんな仕打ちはねぇーんじゃーね?」

「……腹減った」


 屈強な男の人達が、樽とか色んなものを蹴飛ばしながら入ってくる。

 あんまり良くないタイプの人達だ。

 現に元々食堂にいた人たちは、ドン引きしながら見ていた。なんなら嫌すぎて離れた人もいる。

 四人は食堂を見渡して、私たちの方で視線を止めた。

 二ィィっと上がっていく口角。舌なめずりするようにこちらを見て、鼻息を荒くした。

 フジはそっと歩乃華の肩に手を回し、少しでも通路から離そうと動かしてくれる。

 男達はやはり歩乃華達の方に近寄ってきた。


「嬢ちゃん達さぁ、俺ら冒険終わりで疲れてるんだよ」

「席変わってくんね?」

「もちろん君と……君、二人だけならひざの上にでも乗せてあげるからぁ」

「……腹減った」


 カンナと歩乃華をいやらしい目つきで見る男達。

 フジが抗議のために立ち上がろうとすると、そっとセイリューが止めた。


「普通に気持ち悪い。子供達に手を出すなんて犯罪者そのものだ。この子達に手を出すならぼんが相手になるんよ」


 セイリューが冷めた目で男達を見た。

 見た目的に戦えそうな人ではない。だからこそ、男達がこっちによって来たのだが。

 わかりやすい挑発に対して、男達は顔を真っ赤に染め上げる。


 大丈夫かな……。歩乃華は心配になって目で訴えかけるが、セイリューはウインクで返した。

 フジやカンナに目を向けても、二人とも平気でご飯を食べている。逆に、安心した、かのように。

 よくよく考えてみれば食堂内も、もう終わったことのようにして、普通にご飯を食べている。


 もしかしてセイリューさんは、私が思っているよりも強いのかもしれない。


「あ、備品壊したら請求くるので、気をつけてくださいね」


 カンナの言葉にセイリューは、あ、忘れてたともいいだけに笑う。

 セイリューは立ち上がって、笑顔を消した。とても真剣な顔だ、さっきまでとは全然違う。



「神の御心のままに、暮夜に狂えて身を挺し、山の如く、全を包み込め 抜山蓋世(ばつざんがいせい)


 気温が、下がったような気がした。

 黄土色のオーラのようなものが、セイリューを、食堂内を包む。

 その瞬間、守られているような気配を感じた。


「この魔法によって、食堂内は気によって守られた。そして、セイリュー先生自体も強い気を使えるようになったんだ」


 横でフジが解説する。

 気……とはあれだろうか。武人が使ってたとかいう力? よく分からない。

 どうなるか分からないけれど、今は起こるだろう戦いを静観しよう。


「魔法使いとか知ったこっちゃねー!」

「お前が魔法を使う前に殴れば勝ちっつーの!」

「やっちまってくだせぇ親分!」

「……腹減った」


 ずっと同じことしか喋っていなかった男が前に出てくる。

 とてもごつくて私よりもものすごく身長が高い。

 セイリューとも身長差があり、頭一つ分くらい違うのではないだろうか。


「風のようにすばやく動き、林のように静かに構え」


 空気感が変わった。

 元々気をまとった時点でセイリューは強そうに見えた。

 だがしかし、それとは比べ物にならない。

 構える彼のその姿は、百戦錬磨の武人のようだった。


「火の如く激しく攻め奪い、山のようにどっしりと構えて動かない。……それが我が自然派の心得」


「自然派、それは四代家門の一つ。セイリュー先生は、若き頭領なんだ」


 自然派……。何も分からないし知らない。

 でも、とても強くて、凄い称号だとは思う。

 優しく穏やかそうな人なのにそんな一面があったなんて。

 にしても……あれだよね? 風林火山……だよね。

 名付けた人、多分送り人だったんだろうなぁ。

 歩乃華が遠い目をしていると、腹減った、しか言わなかった男がニヤリと笑った。


「お前、強者だな?」


「まぁどちらかと言うと? そうそうフーくん。ぼんはまだ四代とは認めてないかんら。三代だから」


 わざわざ訂正したあたりから複雑な事情があることを察する。

 それにしても、こんなに大事になっていいのだろうか。

 歩乃華がお給仕している男性を見ると、すごく冷めた目で二人を見ていた。

 止めはしないけど、歓迎もしない。そのような顔だ。だけどもため息混じりに裏に行ってしまった。

 確かに、お店としてはどっちにしろ迷惑だもんね。


「……覚悟はいいか」


「そちらこそ。ぼんは弱いものいじめ好きくないんよ」


 肩を竦めるセイリュー。

 誰かが箸を置いた音を皮切りに、戦火は放たれた……──


「せめて外でやれやバカタレが!」


 ごもっともです!!

本日、4月30日は12時20分と18時30分にも投稿予定です!


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