教えて、あなた達のことを。この場所で
「私、お二人の前で何度眠れば良いのでしょうか……」
目が覚めて飛び起きる。
……まただ。この光景に覚えがある。
カンナとフジで取っ組み合い。歩乃華は洋服のままベッドで眠る。
小屋の時と一緒。
なんなら悪化している気がした。
苦笑していると、歩乃華に気がついたカンナとフジは土下座をする。
異世界にも土下座という概念があることに驚きだった。……これは思考の放棄かもしれない。
「「誠に申し訳ございませんでした」」
「いやなんで謝るんですか!?」
私を守るためにカンナさんは血だらけになっていた。
私が夢見心地でいたのも、きっとフジさんの優しさによる魔法だと思う。
謝られる理由なんて、ないはず。
どうしたものか、と歩乃華が悩んでいると、重々しくフジが先に口を開いた。
「まずは僕から失礼致します」
頭を下げたまま、緊張した面持ちで口を開いた。
「僕は、本来ならばブランベアが離れた時に馬車を動かし、送り人様を逃がすために動くべきでした。
しかし僕は……っ」
言いずらそうに唇を噛む。
カンナはもちろん、歩乃華も下手に口を挟まず、フジの続きを待った。
「傷だらけのカンナを見て、助けるために、馬車にかけた幻術すら解いて、カンナの方へ行きました」
ここまで聞いて歩乃華は理解した。
フジさんはきっと、私とカンナさんの命を天秤にかけて、カンナさんを選んだのだということを。
これはトロッコ問題のように思える。
フジさんより上の立場なのだろう私と、長年共にすごした親族のカンナさん。
救えるのはどちらか一人だけ。
……だったら親族を選ぶのは普通だと思う。
いくら上の立場だと言っても、私はせいぜい数時間共にいただけだ。
嫌いとか、好きとか、そういうレッテルすら貼れるような時間じゃない。
「付き人として、送り人様を守らなければいけなかったのに……」
それは心からの叫びのようだ。
痛々しくて、目を逸らしたくなるほど、可哀想。
「このような決断をしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
そこで、フジは息を整える。
「つきましては、いかなる処分でも受け入れる所存です」
フジの手は、震えていた。
声だって、何もかも弱々しかった。
それほどまでに、これは重罪だったのだろうか。
確かに私も、一歩間違えたら死んでいたのかもしれない。
それでも、私には彼を罪だなんて言えなかった、思えなかった。
それにもし馬車で逃げていたら……きっとカンナさんは死んでいた。
なんなら、ブランベアが追いかけてきていたかもしれない。
「次は私が失礼致します」
歩乃華よりも先に、カンナが声を出す。
凛としていて、強い声だった。
「私は、私は……フジが駆け寄ろうとした時点で、喉を潰してでも叫んで、なんとしてでも送り人様の方へ向かわせるべきでした」
違うと思います。
反射的に言葉が出そうになる。
自分が死にかけている時に、他の人を守る方へ行けだなんて、人間言えるのだろうか。
……うん、やっぱり難しいことだと思う。
そこに罪悪感も何も持たなくていいのに。
「私は……私は内心喜んでしまいました」
それが間違いであるかのように、カンナは自分を嘲笑する。
「助けようとしてくれたことに対して、嬉しくなってしまいました」
教えてくれる本音は、何も、間違いじゃない。
「この行動で送り人様が危険な目にあったのに、それなのに……」
カンナが床板に爪を立てる。
心做しか、歯を食いしばっているような雰囲気を感じた。
それでもカンナは落ち着いて、一息つく。
「送り人様、……もし、もし許されるのならば、フジの罪を、
──私に被せては頂けませんでしょうか」
「カンナっ!!」
隣のフジは驚いたのか声をはりあげて、カンナの方を向いた。
「フジは黙って。……もちろん、送り人様の判断を尊重致します。私たちはどんな処分でも、受け入れます」
言葉と視線でフジをカンナは黙らせる。
覚悟、決まりすぎだと思う。
なんて声をかけるべきか、相応しい言葉が見つからない。
私からすれば、大した問題じゃない。
……何もできていなかったのは、私の方だ。
でも二人はその行動を間違いだと、罪だと思っている。
ぐちゃぐちゃの言葉でも、私なりに伝えよう。それしか、私には出来ないから。
「顔をあげてください」
ゆっくりと上がっていく。
こちらを見る目は怯えていた。
おのずと上目遣いになっていて、小動物のよう。
歩乃華は笑う。
怖がらせないためにも、自分のためにも。
「私はお二人のことをもっと知りたいです」
二人がなにか喋る前に、歩乃華は言葉を紡いでいく。
二人の顔を、今は見るのが怖いから目を閉じて。
「この世界のこととか、いずれ大事になるだろうことにばかり目を向けて、私はお二人のことをあまり知ろうとしていませんでした」
年齢も、出身地も。
好きなことも、嫌いなことも。
家族のことも、何もかも。
「だから、お二人の決断も感情も、全部間違ってないんです」
目を合わせながら、丁寧に言葉を紡ぐ。
「誰だって、ほとんど知らない人と大切な人なら、大切な人を助けたいはずだから」
私は、決断……できるか分からないけど。
それでも大切な人を助けたいって、思うはずだ。
「これは、私の落ち度です!」
嫌われないことだけ考えていた、私が悪い。
もっと上手く立ち回れたはずなのだ。
私が、子供だったから無理だったわけで。
もう二度と、絶対に、してやらない。
恐る恐る目を開けてみる。
二人は、どんな顔をしているだろうか。
「……っ」
「……ぁ」
……良かった、ちゃんと届いたみたいだ。
輪郭をなぞるように、二人の目から溢れる。
二人は言葉を上手く発せずに、口をパクパクするだけだった。
歩乃華は微笑む。まるで、聖女のような顔で。
「お二人は今、何歳ですか? 好きなことは、なんですか?」
「……っぁ、わ、私は、私達は十三歳で」
「僕の、僕の好きなことは……本読むこととか」
私の一つ年上。
日本ならまだ義務教育。
……なら、大丈夫なお年頃だ。
ゆっくりでいい。
私が元の世界に帰るまでに、関係を深めていけばいいのだ。
そうすれば嫌われることも、仲違いすることもないと思うから。
「私は二人と、仲良くなりたいです」
少しだけ、不安。
拒否られてしまったら、二人が自分を許せなかったら。
しかしそれは杞憂となった。
「もちろんだよっ! 歩乃華様!」
「こちらこそお願いします、歩乃華様!」
二人の笑顔は、花が咲いたようだった。
「私とフジは双子なんだ。命式的なものっちゃものだけど」
カンナから衝撃的な事実を貰う。
普通に姉弟だと思っていたのだ。だって、顔はその、似ていないから。
言葉に詰る歩乃華を見てカンナは笑った。
「形的には私が養子なんですけど、フジとはそれこそこんなちっこい赤ん坊の時から一緒だったんで!」
「それに親から言われるまで普通に双子だと思ってたしな」
確かに顔も違うし所作も若干違う。
だけど凡そのところは、仲良くてお互いの事を大切に思っているのがわかる。
いいな、兄弟って。私は、一人っ子だからな。
「いいですね、わたしにもお二人みたいに兄弟が欲しかったです」
歩乃華は笑う。不都合な真実には蓋を閉めて。
三人は会話を重ねていく。
歳の近い彼女達が打ち解けるには十分すぎるほどの時間を。
私は、二人とはもう友達になれたのかな。
……嫌われては、ないよね?
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