表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/55

潰された希望で

「知られているのは僥倖。それで君はどうしたのかな?」


 白い髭を撫でながら、教皇は鋭い眼光でフジを睨みつける。

 フジは少し気後れしつつも、……下を向いている暇なんてなかった。



「──スリーピス!」


「……プロテクション」



 ダメか。

 さすがに戦闘なしでは無理だと思っていたけど、まさか教皇が相手とは。


 アルカリアのトップの存在で、聖の魔法に精通している方。

 そして今代の教皇は、賢皇とも呼ばれていた。


 苦しい戦いになるな。


 でも、やめられるわけなかった。



「──フジ・フルシベル。1つ問おうではないか。君は、小暮歩乃華の命できたのかな?」


 歩乃華に迷惑をかける訳にはいかない。

 それにこれはただの、僕のわがままだ。


 ……ただでさえ、僕は歩乃華に色々と隠しているのに。


「まさか。僕は僕の意思でここに来たまでだ」


「……ふむ。まぁ、餌は多い方が良いか」


 フジは猛烈に嫌な予感がして、反射的にその場を飛び引いた。


 フジがさっきまでいた場所に、怪しく浮かび上がる紋章。


 流れたのは冷や汗か、血なのか。



「……教皇なのに、いいのか」


「君はただの不法侵入者。儂はそれを罰する守護者のようなものかな」



 乱暴に頬の血を飛ばす。

 そして、──覚悟を決めた。



「──燎原乃火!!」


「……プロテクション」



 勝ち目のない戦いの、幕は上がった。




「──風雷氷雨」


 風が吹き荒れ雷が鳴り響く。氷の雨が降り注ぎ、その絵面はまるで地獄。


 しかし、教皇の「プロテクション」の前では全部が無駄だった。

 せいぜいヒビを入れられたくらいだ。


「ふむ、魔法の複合と再構築か。さすが魔法の天才」


 貴方に言われたところで、嫌味にしか聞こえないな。



「……はぁはぁ。なんで……っ」


「君の魔法は確かに素晴らしい。ぜひ、仲間になって欲しいよ」


 息切れの激しいフジと比べて、教皇は一切疲れていない。

 それどころか、好機とでも言うように初期魔法で攻撃してくる具合だ。


「ライトビーム」


 フジは寸前のところで避ける。

 しかし、耳にかすり焼けただれてしまった。


「──キュア!!」


 とんでもない威力の光線から、避けながら回復魔法を放つ。

 威力も速さも段違い。

 そして、あいつは詠唱すら省略している。


 教皇の視線の動きから、予測して避けることしか出来ない。

 だからこそ、数が増えたら……終わる。


 教皇が僕の事を舐めているうちに、やるしかない。



「教皇、お前の目的は……歩乃華なのか?」


「さすがにわかるか。うむ、儂は小暮歩乃華が欲しい」



 対話で時間を稼ぎつつ、息を整える。


「それは歩乃華が、送り人だからか?」


「それだけなわけない。小暮歩乃華は黒髪で、若い少女だからな」



 は?



「なんの穢れも知らない、清く美しいままで、偶像にしてあげたら……それは幸せだろう?」




「黙れよ、クソ。教皇お前は、私利私欲のために、偶像を作っていたのか?」


「口が悪いやつめ、いかにも」


 偶像制度。

 清き少年少女を捕まえて、意志と成長機能を取り除く。

 "お人形"のように飾って、偶像にすること。


「それの主犯格は、教皇なのか?」


 人々の希望になる、偶像と信じられていたのは何十年前だったか。

 まさか全部、自分の欲だったとはな。


「辞めるつもりはなかったのに、アルリアが言うことを聞いてくれなかったのや」


 主犯格を否定せず、なんなら辞めることを拒否していた。

 もう言葉にする必要すらない。


「もういい。お前と話すのは、無駄みたいだ」



 カンナを、利用するな。


 歩乃華を、奪われてたまるものか。




──この世から、死んでくれ。




「──水氷冷華!!!」


「無駄やの。──プロテクション」



 無駄なことくらいわかってる。

 僕の狙いはたった一つ、これだけだ。



「虫さん! 頼んだ」


 僕には、これしかない。


 勢いよく虫が飛んで、外に出る。

 教皇は驚いたようにそっちを見るが、無視した。


 それがお前の、ミスになるよ……絶対に。



「しばらくさようならだ、クソ野郎」



 フジは、手を強く噛んだ。不思議と迷いもなければ、痛みも感じない。


 そして魔法陣に血を垂らす。

 その勢いのまま、全力で魔力を込めた。


 魔法陣は、目が痛いくらい、強く光輝く。


「愚かよのう」


 フジの行動に気づいた教皇は、ため息を着く。まるで、無駄だとわかっているかのように。


「それはどうかな?」


 呪いのような、フルシベル家の血の濃さを……舐めないでくれ。



 一際強く光ったかと思えば、魔法陣の元からフジが消える。



「ほう……まぁよい」


 教皇は髭を撫でながら、杖を振る。


 すると扉が具現化し、地下への階段が繋がっていた。


 薄暗い地下室の中では、美しく微笑む"偶像"で溢れる。

 ショーケースの中で、規律の取れた偶像。全て同じ角度で笑っていた。


「楽しみよのう、シィノ、歩乃華?」


……

………



「よし! これで封印結界は作れただろう」


「良かったです!」


 歩乃華は、無事にお役目が終わったことに胸を撫で下ろす。


 フジくんは、どうなったかな?

 上手くいっていると、いいけれど。


 でもどうしてかな、胸騒ぎがする。



「ボタン殿も待っているし、早く行こうか」


 紳士のようにリードしてくれるアルリア。

 でも今は少しでも早く戻りたい。

 だから不自然では無い程度に、足を早める。


 そして長い道のりを歩いて、大きな扉を開けた。


「……おかえりなさい、歩乃華様、アルリア様」


 そこには笑いながら、虫を潰しているボタンがいた。

面白かったり、続きが気になった方は評価やブックマークの方をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ