表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/55

止められないままで

「わ、私でよければ、喜んで」


 天井から、鈴のような声が聞こえる。

 緊張しつつも、優しい声だった。



「ありがとう! 私はカンナ・フルシベル! あなたは?」


「私はシィノ・フラビア。アルカリアの聖女なの」



 アルカリアの……聖女!?


 カンナは驚いて言葉を失う。


 アルカリアの聖女様は、体が弱くて本当に大事な式典でしか姿を表さない人だ。

 出回っていた絵画では、全身が白くて、瞳だけが紅かったと思う。


 そんな凄い人が、どうしてここにいるんだろう?


 それに、フラビアって……。どこかで、聞いたような?



「えっと、聖女様がどうしてここにいるの? ここって、牢獄だよね」



 カンナはおずおず問いかける。

 するとシィノの上品な笑い声が聞こえてきた。


「確かに、牢獄みたいに酷い部屋だわ。でも、本当の牢獄は錆び付いた部屋だもの。違うはずよ」


 え? じゃあ私は今どこに閉じ込められているの??

 もしかして……手違いとか?


 うーん、だとしたら騎士が悪いけど、この国なら私の罪が増えそうで超怖い。



「あなたも、偶像候補だからここに来たんじゃないのかしら?」



 ……偶像候補?

 偶像って、何年か前に廃止された忌まわしき制度だよね。


 待って、そういえば最近聞いた気がするよ、それ。


「ねぇ、もしかして貴方って、キィナ? って人と関係ある!?」


 シィノ・フラビア。キィナ・フラビア。

 他人の空似なわけ、ないよね。



「え? えぇ? ごめんなさい、ご存知ないわ。アルカリアの国民は把握しているけど、聞いた事ないわ」



 アルカリアの国民全員を把握してるとか……聖女様ってすご。


「でもここって偶像候補? が来るところなら、なんで私が連れてこられたんだろう」


「貴方の髪の毛は白? それとも黒?」


「ううん。私は黄色だよ。偶像ってやっぱり清い人じゃないとなれないんだね」


 シィノは急に黙る。

 もうどこか行ってしまったのかな? そう思うと不安でたまらなくなる。


 人と会話していたい。


 自分一人になりたくない。


 だから、どこに行かないで。



「カンナさん、もしかしてご友人に髪の毛が白色、もしくは黒色の方がいるのではなくて?」


 それならすぐに思い出せる。


「うん! 歩乃華っていう私の主で、大事な友達というか、大切な人がいるの! 凄く綺麗な黒髪なんだ」


 友達なんて、不敬かもしれないけどね、

 楽しそうに語るカンナに、シィノは言い淀んだ。


「……もしかしたら、カンナさんは巻餌にされたのかもしれませんね」


 巻餌……?


 どういう……。いや、まさか。


 もしかして。


「歩乃華を偶像にするために、私をここに連れてきたってこと?」


「えぇ。ここでは……何人もの人が、壊されて、望まないことをしていたわ」



 許せない。


 そんな非道なこと、許されていいものか!

 というか、偶像制度って無くなったんじゃないの?


 カンナは怒りで耐えられなくなり、ムカついて床をぶん殴った。

 痛くて、血が滲む。


「……ねぇ、それをさ、私に教えて大丈夫なの? シィノちゃんが怒られない?」


「有り得ないわ。私の元になんて、誰も来ないもの」


 何も変わらない様子で言われたそれが、何か事情があることを鮮明にしてくれる。


 この国はやっぱりおかしい。

 というかもしかして、シィノちゃんはずっとこの白い部屋に閉じ込められているのかな。


 そんなの、精神がおかしくなるに決まってる。



「ねぇシィノちゃん。……一緒にさ、ここから逃げよう」



 歩乃華達に迷惑をかけるかもしれないとわかっていても、言いたかった。



……

………



「祝賀会が、あるんですか?」


「そう。一応遠征帰りだからね」


 国の上層部と騎士が集まる会ならば、牢獄の警備は緩むはず。

 その間なら、助けに行けるかも!!



「……僕は、カンナを助けたい。でもアルカリアと関係が悪くなって、役目が終えられないのは……ダメだ」



 フジが苦しそうに言葉を紡ぐ。

 忘れていた訳じゃないけど、考えないようにしていた事実。


 1番カンナを心配しているはずのフジくんが言うなんて、正直思っていなかった。


「僕がそれを考えてないわけないよ。大丈夫、祝賀会のうちに、アルリアと一緒に封印の祠に行けばいい」



「確かに仲が悪くなる前にできてしまえば1番いいですけど、祝賀会に私たちは入れないはずです」


 送り人とはいえ、入れるわけがない。

 それに、アルリアと2人で封印の祠に行くなんて……少しだけ、嫌かも。

 顔を俯かせ、ため息を着く。



「歩乃華ちゃん、これみて」



 言われた通りに顔を上げて、ボタンがヒラヒラ振っている何かを見る。

 上質な紙に書かれているのは……。



「"招待状"……だよ」



 ボタンさんはどうして、それを持っているの?

 なんて聞いても、はぐらかされるだけだ。

 今は希望が見えたことを喜ぼう!


「作戦としてはこうだよ、僕と歩乃華ちゃんで祝賀会に行き、アルリアと会う」


 そしてアルリアと共に封印の祠へ行き、役目を終わらせる。

 その間にボタンがフジに連絡をとり、カンナを救出するのだ。



「あの、フジくんが一人で侵入するってことですか……?」



 そんなの、危険すぎる。

 歩乃華は作戦に否定的だった。もしかしたらフジもカンナも失うかもしれない。


 ……絶対に、嫌だ。



「そうだね、役割を変えることは出来ないよ」


「……別の方法を考えましょう。絶対に、あるはずです」


 歩乃華は必死に思考を回す。

 その様子をボタンは優しく見つめていた。



「歩乃華。僕なら大丈夫だよ。これで、行こう」



「な、何言ってるんですか? そんなの危険ですよ」


 歩乃華は止めにかかるが、フジは微笑んだ。その笑顔に諦めというか、変に吹っ切れている気がするのは……気のせいであってほしい。


「ボタン兄さんが言った作戦だ、きっとこれが最善だよ。……それに、一日でも早く、カンナを助けたい」


「私もカンナちゃんのことを助けたいです。でも、フジくんがもしそれで……!」


 ボタンはどこか楽しそうに、歩乃華とフジのやり取りを眺めている。


 フジは、優しく微笑んだ。




「僕は構わないよ、それでも」




 歩乃華は言葉を失った。

 フジくんとカンナちゃんはよく似ている。自分がどうなってもいいから、相手を助けたいって。


 そんなの、残す事になる人のことを考えてないのと同じだよ。

 なのに、どうして私は、止められないのだろう。


 そして声を出そうとして、……無理だった。



──2人の関係に、踏み込む資格なんてない。

 ……だから、止められるわけないよ。


 それに、止めすぎても……嫌われるだけだ。



 どれほど仲良くなったとしても、他人に変わりはない。

 タリスの時に、仲良くなれたね。


 でも、どこかやっぱり……遠いのかも。



 歩乃華はふらっとして、倒れそうになる。

 それを優しくボタンが支えた。



「フジも言っているんだし、これ以上どうしようもないよ」



 ボタンさんの、毒のようなその言葉。

 私は頷くことしか出来なかった。


 フジを止めることは、出来ない。



「祝賀会は明後日。ドレスとかは僕が用意するけど、最低限のマナーや踊りは頑張ってもらうしかないかな」



 時間がない。

 マナーと踊りは多分前の世界と同じところは平気なはず。

 もしこの世界特有の何かがあったら無理だけど、それは教えてもらうしかないかな。



「歩乃華、ありがとう。……僕が、踊りを教えるから」


「ありがとうございます、フジくん」



 どこか距離感を感じながら、明後日の為に最低限のことを教えてもらう。


 その時、ボタンが心底幸せそうに笑ったのは誰も気づかなかった。



「……2人が、消えてくれればいいなぁ」

面白かったり、続きが気になった方は評価やブックマークの方をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ