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結末を知らぬままで

「結局、アビスアイの封印が時間で解けていたことにしたんだ」


 カンナは口をとんがらせながら怒る。

 歩乃華はそれを宥めながら、胸の中に残るしこりを考えた。


 ガトナ領主とキィナさん。

 一体どっちが首謀者なのか。


 もうわかる方法はなかった。


「ガトナ領主が不審死を遂げたし、キィナ? って人は行方不明。戦後処理で忙しいし、闇の中に葬った方が都合がいいんだろうな」


 大司教が否定していても、疑いを晴らせなかった私達は、ガトナ領主の元へ向かった。



「部屋にいなかったと思ったら、城壁の中で死んでるとか……口封じされた感強いじゃん」



「僕としては、首謀者として疑われているうちは、生かしておいたほうがいいと思うんだけどな」


「いえもしかしたら共犯関係にあって、生きている方が都合が悪かったのかもしれません」


 三人は黙り込み、さらに考える。

 しかしすぐにオーバーヒートしたようにカンナが泣き言を叫んだ。



「んー! 無理! わかんない!」


「首謀者の証拠はないですし、キィナさんの行方も分からないですから……確定はできないですね」


 裏の調査結果も大統領に渡した。

 だけれど、首謀者の証拠は得られなかったようだ。


 大統領でも無理だったなら、私達に見つける方法はない。


 もう、諦めるしかないのかな。



「歩乃華。とりあえずさ、そろそろ行こうか」


 フジは歩乃華に手を伸ばす。


 確かに戦後処理で忙しい。とはいえ、そろそろやらなければいけないことがある。


 "シュティレ"を封印すること。


 私が本来やらないといけないお役目は、これなのだから。



「大統領を待たせたら申し訳ないもんね」



 カンナは元気よく笑って、歩乃華とフジを背後から抱きしめる。


「きゃっ」「うわっ」


 歩乃華達から零れた声には無視するカンナ。

 急に飛びつかれたとはいえ、怒ることはできない。


 カンナには、戦争でいっぱい心配させた。


 フジは長く目覚めなかったし、歩乃華も死にかけた。


 だから、カンナには頭があげられない。


 人前で抱きしめられるのは恥ずかしいけど、このくらいならいいかな。



「仲良いですね。ほら、案内するので来てください」

「私さんとしてはもう少し眺めててあげたいけれどね〜」


 やっぱり見られると恥ずかしいかもっ!


 扉付近で呆れたようなネオの目が痛い。

 頬を染めながら、三人は慌てて出ていった。



「封印を施す手順はわかっていますか?」


 歩きながらネオから問われる。


「えっと、シュティレに向かって祝福を使うみたいな……?」


 あやふやな知識で答えると、思いっきりため息をつかれた。

 そして詳しく説明してくれる。


「大統領邸の奥には封印の祠があるんです。送り人様はそこで祝福を使ってください」


 なるほど、精霊を生み出せばいいんだ。


「僕とフジさんで結界にするので」


 精霊を変化させることで、結界を作れる。

 うん、2人なら強い結界が作れそう。


 ネオが訓練場で結界を作っていたことを思い出す。

 超高圧状態でも耐えれて、硬さに驚いたな。



「2人なら出来るだろうけど、仕組まれてるみたいだね」



 カンナの言葉でハッとする。


 もしかしてタリアは、封印のことまで見越していたからフジのことを助けたのかな。


 いや、ただの優しさであってほしいな。




 そして少し思ったけど、ネオは少しだけピリピリしている。

 笑っているはずなのに目が笑っていないというか、投げやりになっているというか。


 するとチューネがコソッと教えてくれる。


「お師匠様は、責任重大すぎて怯えているのよ」


 ……確かに、世界の命運をかけた大仕事だもん。


 怖いはずだよね。


 歩乃華はフジが心配になり、横を歩いている顔を覗いた。

 視線に気づいたフジは、こちらを向いてにこりと笑う。


 か、かっこいい……。


「フジくんは、大丈夫ですか? その、結界……」


 一瞬見とれたことをおくびにも出さないようにして、問いかける。


「怖くない訳じゃない。だけどさ、少しだけ楽しみなんだ」


 フジは目を輝かせ、とびきりの笑顔で答える。


「だって、魔力を使わないで好きなだけ精霊を変化させられるなんて……夢みたいなんだ」


 なるほど、封印の祠では魔力を使わなくてもいいんだね。

 子供のようにはしゃぐフジが面白くて、歩乃華はくすくすと笑った。


 歩乃華達は和気藹々と雰囲気のまま、大統領邸へと足を踏み入れた。



「久しぶりだね。……すまないが、忙しくてね。封印の方をお願いするよ」


 隈がすごい。やつれている、なんて言葉じゃ足りないかも。

 戦後処理は大変なはずだ。

 土地もボロボロになっただろうし、中心に集まった魔物は殲滅できてない。


 遅れてやってきたリーミネさんたちを中心に、冒険者が討伐はしてる。

 とはいえ、だよね。


 大統領から錆び付いた鉄の鍵を受け取る。


「さぁ行きますか。嫌かもしれませんが、カンナさんとチューネはここに残っていてください」


「な、なんで?」


 カンナが首を傾げる。

 そして離れたくないとでも言うように、歩乃華とフジの袖を握った。


「封印の祠では、大量の精霊が生まれます。普通の人間では精霊に酔ってしまうんです」


「え! ならフジも歩乃華も体調悪くなるってこと?」


 より強い力で握られる。

 カンナの手が微かに震えていた。


「僕もですけど? 送り人様や守り人なら耐性がありますが、僕らは体調崩す危険性があってもやらなきゃいけないんです」


「カンナちゃん、辛いのはわかるけれど、2人は術者として行かないといけないの。二人で待ちましょう?」


「……わかった。私がいても、邪魔になりそうだし、待ってるよ」



 ……カンナはパッと手を離した。

 理解が早くて驚く。

 どうしようも出来ないから、正しいんだけど……申し訳ない。



「行きましょう」



 ネオに連れられて、大統領邸の奥を歩く。

 そしていかにも、な扉を見つけた。


 扉を鍵で開けると、外に出る。


 木々が生い茂っていて、外からは見えない。


「魔法で入れないようにもしているな」


「道無き道、ですね」


 歩けない訳じゃないけど、本当に隠そうとしているようだ。


「扉はわかりやすいですけど、この鍵がないと入れませんし」


「ええ。それに、魔法で特殊加工をしてます。これの複製は無理ですね」


 そんな雑談をしながら、私達は封印の祠の中へ入る。

 想像よりも中は整備されていた。


 緊張で、3人の口数は減る。


 ネオが先導しているとはいえ、とんでもなく長い道のり。

 ようやく扉を見つけたかと思えば、階段への入口だった。

 長い石の階段を降りていき、広い場所へと出る。


「地下から封印する、訳じゃなかったですね」


 波のさざめきが聞こえる。

 いつの間にやら、この大陸の端っこにいたみたい。



「小さいですけど遠くに見える、あの灰色の地が『静寂の地』で、シュティレのいる場所です」



 青い地平線と、空の境界に存在しているはず。それなのに静寂の地だけに色がなかった。


 背筋が冷える。見てはいけないもののような、気がした。


「……あの、準備は大丈夫ですか?」


 2人に問いかける。


 フジもネオも頷く。


「全力で頑張るよ」

「いやでも、やるしかないんですよ」



 歩乃華はそれを確認してから、集中する。



 祝福を使うこの感覚を、なんと言えばいいか分からない。

 だけど、明確に言えることがあった。


 私は今、自分の意思で動いている。


 流されてばかりじゃない。

 帰るために役目を果たしているんだ。


 帰ることは変わらないけど、この世界のことも愛したいって、思ってる。


 きっと、これがいい。




 優しく微笑むその姿は、慈愛に満ちていた。

 まるで女神そのもの。

 光って見えるのも、色鮮やかなのも精霊の存在だ。

 だけど、歩乃華が輝いているように見えて仕方がない。



「惚けないでください。やりますよ、フジさん」



 歩乃華の意識の外で、フジとネオが精霊を操る。

 精霊には祠の外とは違い、意思があった。


 だからこそ封印の祠の中だけは、魔力を使わなくても精霊に意思を伝えられる。



「多重結界術式の様式でやりますよ」


「……わかった」



 ネオとフジは別々の結界を作る。


 布を織るように、積み上げるように。


 精霊達はネオとフジの感情に呼応して、チカチカと光りながら受け入れていく。




 2人は、光り輝く結界を世に顕現させた。



「綺麗、ですね」


 最高出力で祝福を使っていた歩乃華は、一息ついて振り向く。



「当たり前ですね、ええ。……はぁ」


「夢みたいだったな」


「あはは……お疲れ様です」



 ネオとフジは疲れて座っている。だけど、どこか目を輝かせていた。


「でも……これで、皆さんは他国に行くんですよね」


 ネオの言葉が重くのしかかる。

 そうだ、ここでの役目が終わったなら、他国に行くしかない。


 ここで出会った人達とは、お別れだ。


 わかっていたはずなのに、胸が痛い。

 もうネオと目を合わしただけで、泣いてしまうような気がした。


 別れることが酷く悲しくて、寂しい。


 別れと感謝を伝えたいのに、言葉が形にはなってくれなかった。

本日21時30分にも更新します。

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