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アビスアイとの戦いで

 負けたら、全部が終わる。


 だから、……負けたくない。



 アビスアイ。

 歩乃華を連れてきてくれた彼が、教えてくれた魔物の名前。


 名前を聞いただけで、嫌な気持ちだ。


 カンナはアックスを強く握る。

 さっきみたいにお荷物になんて、なるつもりはない。


 ゆっくり深呼吸をする。


 歩乃華のお陰で、息がしやすい。



「行こうか、カンちゃん」



 セイリュー先生は刀を構える。

 その構えは美しく、殺すことに特化していた。


「はいっ、セイリュー先生!」


 2人同時に動き出す。

 カンナは地面を抉るように、セイリューは風が吹くように。



「我が目の下で、同じことは許さぬ」



 アビスアイは人魂と触手を、2人にけしかける。


 カンナは人魂と触手を、アックスの衝撃波で倒す。

 その余波で地面は盛り上がり、ちょうどいい足場となった。


 セイリューはその地面を利用して跳躍する。


 触手の上を駆け抜けて、人魂から逃げる。そして一直線上に重なって見えたその一瞬。



「──風月」



 セイリューは全てを切った。



 そしてカンナはアビスアイの背後から飛び上がる!



「えぇぇいっ!!」



 可愛らしい掛け声とは乖離して、とんでもない重量がアビスアイを襲った。



「くだらぬ」



 アビスアイは触手でアックスを弾いた。



 2人は、アビスアイを殺すため猛攻をかける。アビスアイの身に纏う布や、骨のような身体を傷つけた。


 触手も人魂も潰して、切って、消し炭にした。


 しかし──



「……全部、効いてない?」




 肩で息をしながら、アビスアイを見上げる。


 傷はある。なのに──浅い。

 致命傷に届いてなかった。


 このままじゃ、……削り負ける。


 こんなんじゃ、届かない──!



「あー! この触手邪魔やんなぁ、ほんと!」



 セイリューが見たこともないような顔でキレる。


 二人は何度も触手を切っても、また新しい触手や人魂で邪魔される。


 目を狙おうにも、上手く動けなかった。



 カンナは殺意を込めて睨みつける。


 しかしアビスアイはされど気にした様子はなかった。



 玉座から1歩も動かない。

 

 ……動く必要すら、ない。


 それだけで──格が違った。



 もう奴の興味は、カンナたちにない。



「……美しい」



 視線の先には、裏に守られている歩乃華がいた。


 今にも死にそう。


 それでも、立っている歩乃華。

 ずっとずっと、祝福を使い続けている。



──なんでそんなに、頑張れるの?



 ……私は、もう無理だって、思ったのに。


 逃げたくて、諦めたくて、目を逸らしたかった。


 なのに、歩乃華は立ってる。


 ……私も、歩乃華の隣に立ちたい。


 瞳の奥には──決意が込められていた。



「……っ!」



 カンナはアックスを木に刺す。


 それに乗っかって高く飛び上がる。月を背に、カンナは右手を構えた。



「神の御心のままに、黄昏に贖い身を焦がし、火の如く、世を滅するは!



── 燎原之火!!」



 奇しくも──あの時の同じだ。


 カンナは大地を燃やし尽くす。



「無駄」



 アビスアイは、火を避けようともしなかった。


 木々が燃え上がり、煙が世界を包み込んだ。


 火で倒そうだなんて、もう思ってない。

 ただ、倒す足掛かりにするだけだよっ!!



 カンナはアックス目掛けて落下する。

 手を伸ばして──強く握りしめた。


 持ち手が熱い。皮膚が爛れている。


 でも、不思議と痛みよりも高揚感の方が高かった。



「カンちゃん!」



 セイリューの手の中に飛び込む。

 そしてバネのように飛び上がった。



「愚か者が」



 アビスアイは慣れた様子で、触手を防御代わりに使う。


 でも、ミスったね。


 カンナは熱を持つアックスを、アビスアイの"目"に突き刺した。



──全部、見えてるつもりだった?



「煙ってさ、目に入ると……痛いよね」




 濡れた瞳が──焼ける。


 アビスアイの悠々とした顔が、醜く歪む。


 そして、足掻くような声が響いた。


 涙で歪む視界で、正しい距離感を見失ったアビスアイ。

 触手すらも、カンナの背中を押す力になっただけだった。



 世界に静寂が訪れる。


 暗かった世界が、一気に晴れあがった。



「……勝った?」



──違う。


 静かすぎる。


 こんな簡単に、あの"化け物"が死ぬわけない。


 何かが、まだ終わってない。


 その瞬間、アビスアイの体が砕け散る。


 そして、その破片が悪しきオーラを放ちながら空に舞い上がった。


 これは良くないやつ──っ!



「ここからはぼんに任せて」



 セイリューは天高く刀を構える。

 そして──静かに笑った。




「さぁ──全部、封じるで」


 ……もう、壊させへんよ。




 刀が青い光を放つ。

 風が刀に向かって吹き荒れる。


 そして悪しき破片が刀に吸収され、渦を作った。



「……へぇ、流石は極上刀って言ったところか」



 裏は愉快そうに笑う。

 今まで見たことの無い、刀の力。


 歩乃華も、呆気になってその姿に見入る。



 全ての破片が、その刀に収まった。


 もう、……あの刀じゃない。



「──邪眼。この刀は、それが相応しいやんな」



 セイリューは切なそうに笑った。


 あの刀は"鎮守"じゃない。魔に染まりすぎてしまった。



「……勝ち、ましたね」



 掠れた歩乃華の声が背中から聞こえる。


 慌てて振り向くと、血の気のない顔で裏に肩を借りている姿があった。


 カンナは慌てて駆け寄る。そして、手を握りながら、苦しく笑った。


「……勝てたね」



──それでも。

 勝ちは、勝ちだった。


 こんな形でしか、掴めなかったとしても。



 誰も、上手く笑えなかった。

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