光の満ちたこの世界で
更新ミスにより上げ直しました。
「フジくんっ!」
歩乃華は思わずフジに抱きつく。
フジは慌てつつも、しっかりと支えてくれた。
「良かった……生きてる」
胸から感じる温もりは、生命の暖かさだった。
「心配かけて、ごめん。もう大丈夫だから」
フジは歩乃華を優しく引き剥がしながら、戦場を睨みつける。
視界が血に染まる。絶望的な戦力差。
世界を蹂躙できる、強すぎる敵。
だから──
「ダメですよ。貴方は、まだ魔法使っちゃ。次こそ、本当に死にます」
ネオが止める。
死ぬという言葉に、歩乃華は強く反応した。
どういうこと?
……もしかして、フジくんは魔力が全部戻っている訳じゃないってこと?
「だ……」
「言わないで、歩乃華」
拒否の言葉を言わせてはくれなかった。
もし言ってしまったら、血に縛られているフジは、言うことを聞くしかない。
「僕は戦うよ。そのために起こされたはずだ」
紳士然として、フジは笑う。
「……それに、歩乃華とカンナの為なら──死んでもいい。僕の価値は、そこにある」
歪んでいる思考。
それはカンナが家族だから? 歩乃華が──送り人だから?
フジが付き人だから、命を捧げるの?
……狂ってる。
だけどフジの魔法以外で、この場を打開するなんて……。
言葉に詰まる。
私は見ていた、城壁の下では多くの人が死んだこと。
怪我人なんて……山ほどいる。
みんなはどう思うだろう。
死んだ人もいるのに、フジくんだけ守ることを。
フジくんを助けたい。
でも、この国だって守りたい。助けたい。
対立してしまうそれを、どうにかする方法はないの?
……理不尽すぎる。
もうどうでもいい、逃げたい。
家に帰りたい。
──それは、許されないけれど。
「魔力さえあれば、魔法を使っても死にませんか?」
ネオに問いかける。
それに訝しげながら頷いた。
そっか。
それに、魔力って液体なら──使えるんだよね。
根拠も何もない。
失敗する可能性の方が高いと思う。
だけど、これしかなかった。
落ちていた騎士の剣を手に取る。
構えた瞬間、剣が震えていた。
……怖い、な。
でも、やる。
──私が、やるんだ。
「歩乃華っ!??」「やめなさい!!」
2人の手が伸びる。しかし間に合わない。
歩乃華は自分の右掌に……剣を突き刺した。
「……歩乃華」
ごめんね、フジくん。
血がとめどなく溢れ出てくる。
手が熱くて、存在を、痛みを主張していた。
これで、いい。
「まさか、嘘ですよね」
ネオは異常者を見るような目で歩乃華を見つめた。
2人は歩乃華の行動を理解してしまう。
でも、脳が拒否している。
これは、してはいけない。
「できるできないじゃない。これは人の理を超えている……」
ネオの口調が崩れる。
でも歩乃華は考えている暇はなかった。
「……わかった」
フジは頷いて、歩乃華から剣を借りる。
そしてそのまま自分の左掌を傷つけた。
本当はよくないことくらいわかってる。
魔力を相手に譲渡する。
ヒントはネオがくれた。
体内に入れれば使えるんじゃないか?
できるかなんて、分からないけど。
「フジくん、手を」
歩乃華は手を差し出した。
フジはそれに少し戸惑い、だけど手を伸ばす。
2人の手が重なった。
傷口が痛み、血が混ざり合う。
「歩乃華、魔力を借りるよ」
その瞬間、体がよろけそうになる。
歩乃華はそれを必死に耐えた。
私は戦う。
この国と、嫌われたくない自分のために。
そして、強くて優しいフジの為に。
魔力なのか分からない。
だけど、確実に何かがフジに流れている。
でも外に漏れ出ている感覚もあった。
「神の御心のままに、星の輝きを身に宿し」
世界が、重力が歪む。
フジと歩乃華を中心に、新たな重力が誕生した。
髪が不自然に揺れる。
なぜだか今なら空を飛べそうだった。
「星の魔法……。それは本当に、正しいのでしょうか」
ネオが呟く。
そして表情が歪んだ。
「清廉潔白な我が望む」
風が吹き荒れる。
明るくなってきていたはずの空は、またもや闇に包まれた。
体が空っぽになっていく。
立っているのも、ギリギリだった。
「世に我を刻みたまえ!」
世界から音が消える。
アビスアイは咄嗟に大きく後退。
操っていたドラゴンたちを、無理やりに自分の盾にした。
誰かが避難を叫ぶ。
しかし騎士たちはただただ、呆然と空を眺めていた。
「──プレアデス!」
世界が歪む。
空から轟音が聞こえる。
全ての音を、奪った。
"ソレ"は世にその存在を主張する。
「隕石……?」
巨大な石が、降る。それもたくさん降ってくる。
空気の圧が城壁の上にまで届いた。
それでも、歩乃華はその光景を見つめる。
歩乃華は体からゴッソリと魔力が無くなっているのに気づいた。
体が、重い。
視界が、ぼやける。
左手で頬を思いっきり抓る。
今、寝る訳にはいかない……!
目を開いて眺めていると、突然フジに抱き寄せられる。
驚いて上を見上げると、フジは真剣な顔で耳を抑えてきた。
歩乃華も言われた通り空いている手で自分の耳を抑える。
その時だった。
グァルワァォォォォォン
遠くで魔物の叫び声が聞こえる。
それだけじゃない。大地を割るような轟音が鳴り響いた。
耳を塞いでいるのに、大きすぎる音。
そっか、フジくんはこの音から守るために……。
こんな時でも、守ってくれるんだね。
数秒か、数時間なのか。
そんなのは些細なものにしか感じ取れなかった。
歩乃華は久しぶりに開放された耳で、世界の音を聞く。
と言っても、静かだったけれど。
「大地が、凹んでる」
城壁の上からでも、見える。
隕石の形が何となくわかるくらい、大きく凹んでいる。
潰された死体が沢山あった。
魔物と、兵士の。
私が、兵士を殺したのと同義だった。巻き込んでしまったんだ。
……あまり、見たくは無いかもしれない。
もう、何も考えられない。
取り返しのつかないことを、してしまった。
人の理から、ズレている。
「殲滅までは行きませんが、大幅に戦力を削ってます。……勝機です」
歩乃華は慌てて、遠くにいるアビスアイを見据える。
あいつの足元には、ドラゴンの死体が積み重なっていた。
使い捨てるなんて……。
アビスアイは、魔物に目を合わせている。支配しているのだろう。
……今が、チャンスだ。
「フジくん! 目を!!」
「──ライトニングボルト!!」
ものすごい速さで雷の一陣がアビスアイの目を貫いた。
光速は、さすがのアビスアイでも避けられないみたい。なら、続けて──
「瞳は、全てを見ている」
最後、1つの目が真っ直ぐ歩乃華の目を見つめる。
全身の毛が立つような、恐怖を感じた。
足に力が入らない。呼吸が浅くなる。
見られているだけで、全てを奪われそう。
全てを欲し、全てを支配する。それはまた、物や場所だけじゃない。
人すらも、アビスアイにとっては装飾品でしかない。
狙いを歩乃華に定めたアビスアイは、口角を上げた。
そして小さく「欲しい」と呟く。
歩乃華は気づいてしまった。
アビスアイのネックレスは、"瞳"でできている。
震える歩乃華の手をフジは優しく握った。
傷は、いつの間にかフジが直してくれていたようだ。
最終決戦。
最後に残った瞳は、瘴気の目──空気を汚染する、毒のような瞳。
魔物達が逃げ去るように森に隠れた今、アビスアイを倒すチャンスだ。
アビスアイは不気味に笑う。
歩乃華を物としか見ていないその瞳が、楽しげだった。
少し背中が凍りつく。
そしてその瞬間、世界の空気がより重くなった。
アビスアイの瞳は、光っている。
「フジく……フジくん!?」
手を振り払われたため、慌てて横を見る。
するとフジはふらっと、地面に尻もちを着く。
目が放心していて、浅い呼吸を繰り返していた。
そして苦しそうに胸の当たりを抑える。
まさか……嘘だ! ……そんな。
絶望。そんな歩乃華に、フジは視線を向けた。
視線に捉えてくれているのか、分からない。
だけど、愛おしいものを見るような、優しい目。
そして彼は口を開こうとして、閉じた。
……。
「ただの魔力酔いですね。いえ、アビスアイに汚染されているのもあるでしょう」
ネオはすぐに動いて、フジのことをその場で横にさせた。
……私の魔力を使ったんだ、酔って当然なのかも。
汚染……。やっぱり、アビスアイの瘴気か。
ネオも眉間にシワがよっているし、私も気持ち悪い。
城壁の下で倒れている兵士もいた。
「でも、死なないんですよね、ネオさん」
フジくんにはここで戦線離脱してもらった方がいい。
私も本調子じゃない。
でも、まだ終わってない。
……私は、まだ戦える!
でも体は否定していた。動いては、くれなかった。
もう、どうでもいいじゃないか。
──違う!
思考がぐちゃぐちゃになる。
考えたいのに、考えられない。
「送り人様、貴方も魔力が枯渇している。それ以上は、死にます」
しばらく、魔法と祝福は使えないって……こと?
こんな状態でそんな……っ?
もし今、カンナちゃん達が居てくれたら……。
そんな歩乃華の背中を押すように、風が吹いた。
「2回戦目の演者は……彼女達のようです」
ネオに釣られるがまま、歩乃華はアビスアイを見る。
するとその上に、2つの黒い影。
その姿は、見覚えしかない。
「待ってましたよ、あなたたちのことを」
戦場は静寂に包まれている。
誰もが空を見上げていた。希望を求めて、救いを願って。
そして、信じられないとでも言うように。
「絶対に、殺す!!!」
「やってやんよ」
戦場がざわめく。
歩乃華は目を見開いた。
カンナ・フルシベル。
"セイリュー・カルカミカ"。
彼女達は今、戦場に降り立った。
前書きでも少し書きましたが、話の順番を間違えてしまいました。そのため削除し、上げ直しという形を取らせて頂きました。
誠に申し訳ございませんでした。




