表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/55

激動の真夜中で

1話更新済です。

「──水氷冷華!!!」


 フレアドラゴンに向かって、魔法が放たれる。

 氷の粒がフレアドラゴンに当たった瞬間、それは瞬く間に氷の華を象った。

 1輪だけじゃない。2つ目3つ目、5つ目と、どんどんと花開く。


 ……桁が違う。




「やっぱりしぶといですね」



 フレアドラゴンは大怪我をおったが、それでもまだ飛んでいる。

 そして、鋭い目がネオを中心に捉えた。



「フレアドラゴンの相手は僕がします。他は魔力回復に勤しんでください」



 他の魔法使いが、風の刃を飛ばす。

 しかし、鱗に弾かれて霧散した。


 騎士たちの剣は、当たり前に届かない。


 しかしドラゴンの攻撃は兵士達を貶める。


 大きな肉体で兵士達に突っ込む。

 そのせいで多くの人間が、空へ上がって打ち付けられた。


 誰かの叫び声が途中で途切れる。



 ネオは分かりやすく顔を歪めて、舌打ちする。




「すぐ、終わらせます」




 ネオは右手で林の魔法を操り、左手で風の魔法を操る。


 歩乃華はそれを眺めることしか出来なかった。


 どんなに悔しくても、歩乃華は戦うことができない。



「──水氷風刃」



 氷の刃が、目まぐるしい速さでフレアドラゴンの体を傷つける。


 ……しかし、ついた傷はすぐに回復されてしまう。


 ただ体に氷が付着して、動きが遅くなるだけだ。


 ネオは確かに強い。

 だけど、決定打に欠けている。



「違ぇ。本命はあいつじゃない」



 裏がつぶやく。


 それに聞き返す前に、答えはわかった。



「行くわよーっ!! ──氷消瓦解!!!」



 チューネの大きな声が戦場に響く。

 その声とともに、ネオが付けた氷はバラバラに砕ける。

 その破片はフレアドラゴンの体を突き刺して、止まった。


 フレアドラゴンはもがき苦しみ、地面に落ちる。


 そっか! 体内に氷があれば、ずっと傷つけることができるんだ!


 地面に落ちたフレアドラゴンに、騎士達が一斉に剣を突き刺す。


 それでもまだもがいて、火を吐く。


 だが、ネオがいるのに火なんて現象を、そのままになんてしない。



「僕は最高傑作ですから。自分が作った火じゃなくても、消せます」



 パッチン。



 指を鳴らすその姿が、なぜだかフジとリンクした。



 ウォォォォォォォォ!!!!


 勝利の歓声の中、剣を突き出した騎士の1人が崩れ落ちる。

 ……燃えて、灰になってしまった。



 それでもドラゴンを倒せたことは、兵士たちの大きなモチベーションに繋がる。


 気持ちが前向きになった。これなら──!



「幸せは、長く続かねぇもんだ」



 裏の声と共に、森の奥から無数に羽ばたく音が聞こえる。


 嫌だ。そんなわけない。


 お願い、嘘であって。


 脳内で鳴り響くこれは、人間の本能。



「……なんで、よ」



 空を覆い尽くすほど、多種多様な色のドラゴンが飛んでいる。


 歩乃華は立ちくらみして、裏にもたれ掛かった。足に、力が入らない。



「……あー。チッ」


 裏は優しく歩乃華を抱きとめつつ、大きな舌打ちをする。



「おい、お前。魔力結晶は足りるはずだから、起こしてきてくれ」


「何言ってるんですか? 僕がこの場から離れたら……」


「お前だけじゃ、いい方向に向くわけねぇよ」


 歩乃華は裏が何するのか分からなくて、おずおず見上げる。


 フードの隙間から、ツリ目で、でも優しい瞳が見えた気がした。


「眠りの王子様を起こせ。あいつなら


──フジ・フルシベルなら、変えられるはずだ」



 その名前を聞いた瞬間、ネオは大きく目を見開いた。


「なっ……。……わかりました。僕がいない間は、あなたが抑えててくれるんですよね」


「依頼に上乗せしてやりたい気分だけどな。……行けよ」


 ネオは後ろを向いて、走り始めた。


 裏は歩乃華を優しい仕草で座らせる。そしてそのまま、空の上を走った。



「……動くなよ。"影縫い"」



 裏が右手を翳して、力強く握りしめた。

 その瞬間時が止まる。……ような気がした。


 世界そのものの影が、彼によって操られている。空が、軋む。


 ドラゴン達は藻掻くが、動けない。



 倒す訳じゃない。派手なんかじゃない。


 彼の1人の手によって、戦場が止まっている。

 ……こんな戦い方、見たことがない。


 正確に時間稼ぎをしている。


 裏は情報を大事にしてるはず。だから、本来ならば戦争なんて参加するわけ無かった。


 どうして彼は、助けてくれるの?


 その背中からは、何も読み取ることができなかった。



……

………



 ネオは駆け抜ける。城壁内も、大通りも、教会の中も。


 不安げな人々を慰める暇なんてなかった。

 ただ一刻も早く、彼を起こす必要があった。



──フジ・フルシベル。



 ネオは彼を誰よりも深く知っている。



『──活火激発』



 魔法殺戮兵器だったネオの、最後の戦争。

 それは奇しくもガトナ領とフルシベル家の戦争という、小さなものだった。


 フルシベルを、何も抱えずに殺せばいい仕事。


 なのに、ネオは1人も殺せなかった。


 たった一人の、幼き少年の手によって。



「あの頃は、恨みましたよ」


 整わない息のまま、横たわっているフジを見つめる。最後見た時よりも、うんと成長している姿を。



『なんで魔法を発動させないんだ!』


 上司から言われたが、無理だった。

 発動させても、消されてしまう。フジによって全ての魔法がかき消された。



「貴方は、僕にとって最も遠くて、憧れる存在でした。いいえ、今もですね」



 魔力結晶を液体化させて、フジに流し込む。ネオは効率的に繰り返した。



『化け物だな。魔力が少ないくせに』


 上司は間違っている。魔力が少ない事で、普通の人間と釣り合いを取ろうとしていることに。



「あなたは魔法の天才だ」


 精霊に愛されていて、彼もまた魔法を愛している。


 憧れている。恐怖している。理解したい。出来ない。

 1秒たりとも目を離したくなかった存在。


「あなたは僕にとって……」


 その言葉は、最後まで形にならなかった。


 形に、したくなかったのかもしれない。


 フジの瞼が揺れた。


 そして、ゆっくりと開かれる。


 長いまつ毛の下で、光に満ちたその瞳は揺れた。



「……ぁ」



 声が聞こえた気がした。

 自分の中で溢れ出てくる謎の感情を抑えて、冷静に言葉を紡ぐ。



「早く起きてください。戦場はあなたにかかってます」



 貴方はきっと僕を知らない。


 知らなくていい。


 どうか、この国を救って欲しい。



「……ぁっ、が、カンナは! 歩乃華は!? いや、ありが…ゴハッ」


 慌てた様子で言葉を紡いで、咳き込むフジ。

 ネオは水差しを渡しつつ、今の状況を伝えた。


「戦争は、もう始まってます。カンナさんは今いませんが、送り人様は城壁にいるんですよ」


「……ありがとうっ! 頼む、僕をそこまで連れてってくれ」


「言われなくても。ただ、貴方は寝起きだ。後、今の魔力量はギリギリなはずですよね」


 ネオは今、フジに目覚められる程度の魔力しか流せていないはずだ。

 高純度の魔力結晶が、少なかったから。



「わかってるよ。でも、僕は付き人だ。この身がどうなろうとも、歩乃華を助ける必要がある」



 自己犠牲精神。それは、送り人様と重なっていると感じた。

 お互いがお互いのために身を滅ぼす。

 そんなの負の連鎖だ。


 でも、聞く耳を持ってはくれないですね。


「いいですよ、連れていきます。ただ戦うことはやめた方がいいです。きっと、送り人様も止めますし」


「……と、とにかくお願いします」


 魔法は強いのに、まだ子供ですね。


………

……



「あー! もうだるいっつうの」


 裏は必要最低限の動きで、ただひたすらにドラゴンの動きのみを止めている。

 地上の敵は騎士達が抑えていた。


 とはいえ、だ。


 どんなに強いとしても、このままじゃ防戦一方。


 お願い、お願いお願い。


 フジくん、ネオさん、早く戻ってきて……!



「しかも最悪な知らせだぜ、送り人。あいつ、今が好機と踏んだな」



 裏が空中から笑う。

 遠いけど言葉が聞こえるのは、裏の不思議な影を操る力のおかげだろう。


 だから、歩乃華は心の準備をすることができた。

 できた。……とはいえだけど。



 空気がよりいっそう重くなった。


 ドラゴンたちの動きも、急に変わる。まるで誰かに操られているみたいに。


 大地が揺れる。


 頭が割れそうなくらい痛い。


 歩乃華はそれでも見つめ続けた。そいつの姿が、見えるまで。


 戦場にノイズが走る。


「……アビス、アイ」



 気づいた時には、空中に玉座が浮かんでいた。


 酷くボロボロな格好で、2つの目が忙しなく戦場を見続けている。

 潰れている瞳は一つだけ。タリアがいた、証拠のひとつみたい。



「この世の全ては我がものである。全ては我が目の下に」



 その言葉と共に、魔物たちは機械的な動きで速度をあげた。


「くっ、総員! 緩むな!!!」


 騎士団長が大声をあげる。

 それでも騎士たちは次々に傷をつけられていく。


「──フルキュア・フィールド」


 大司教が最上級の回復魔法を、領域という形で作り上げる。

 それによって、死者はかなり激減した。



「冒険者の意地、見せつけるぞ!!!」



 ギルド長が叫ぶと、冒険者がそれに答える。


 どんなにけが人が出て、絶望的な状況でも、誰も辞めなかった。


 諦めたくなんてなかった。


 空に日が登ろうとしていても、絶対に。


「……目が腐る」


 アビスアイは嫌悪感丸出しでつぶやく。


 ……許せない


 歩乃華は唇に力を込めて、そして、立ち上がった。



──私が俯いている暇なんてない!



「魔法師団の皆さん、攻撃魔法の用意を!」


 ネオがいない。だから、私が代わりにやる。

 やってくれるかどうかは、分からなかった。だけど、みんなは私の言葉に即座に反応する。


 ありがとうございます、みなさん。



 失敗するかもしれない。


 そんな恐怖で、声が震えそうになる。

 だけどそれを必死に押し殺した。



「──発射!」


 地上の敵を少しでも減らす。

 ドラゴンは裏が教えててくれるし、アビスアイは未だ動きを見せていない。


 あいつは、何をしてくる?



「"殺せ"」


 機械的にもがいていたドラゴン達が勢いよく動き始める。

 裏はその異変にいち早く認識して、その勢いを利用して戦場の遠くへ吹き飛ばした。


「……最悪だな」


 気持ちはある。

 だけど、戦場とは見合っていない。


 戦力が、足りなすぎる……!



「お願い、早く……」



 息を切らした足音が止まる。


 その場の空気が僅かに揺れた。


 呼吸すら重い戦場が、軽くなった。


 歩乃華は。いや、歩乃華だけじゃない。

 その場にいた全員が振り向いた。



「ただいま戻りました。……歩乃華」



 膝をつき、優しく微笑む彼は──



「……フジ、くんっ!!!」

面白かったり、続きが気になった方は評価やブックマークの方をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ