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嵐の前の静けさで

本日、朝にも更新済みです。

 鉄の匂いが、戦場を占拠する。

 終わりが見えない大量の魔物達。

 村を蹂躙するその姿は、悪魔以外の何物でもない。


 嫌になるくらい眩しい朝日が、憎たらしい。


 育て上げた私兵が倒れていくのを、ガトナ領主はただただ眺めていた。



「私はどこで、間違えた?」



 兄達を引きずり下ろし、バレないように資金を集めてきた。

 全ては、この国の大統領になるために。



 ヴェルガ・ガトナ。



 その名を全世界に轟かすことが、己の最終到達点。

 なのに、なぜ?



『げ、ガトナ領の……』



 先代のやらかしがなんだ。

 重税がなんだ。


 結局、誰も彼も"ガトナ領主"としか私を見ないではないか。


 ならいい。


 そっちがその気なら、"私"という存在を忘れられないようにしてやる。


 それは人が抱くには、あまりにも"強欲"な野望だった。



「私は、ヴェルガ・ガトナ。魔物共なんかに、奪わせてなんてやるものか」



 何度目かの誓いを胸に、ヴェルガは兵士達に指揮を執る。



 ヴェルガは知らなかった。


 自分が、似ていることを。


 全てを支配しようとする災厄と、存在に固執する自分自身。


──あまりにも、よく似ていた。



 ヴェルガは、最後の戦いにならないことを祈る。


 そして無謀な戦いへと挑んだ。



……

………




──世界は、優しくない。


 一通り読み込んだ歩乃華は、天を仰ぐ。


 手に入れた情報はどれも伝説のようで、現実だった。



 アビスアイが猛威を奮っていたのは、何百年も何千年も前の出来事。

 このタリスに大量の魔物を生み出し、壊滅的な状態にまで陥れた。


 地は割れ、重い風が吹き荒れる。


 目が合った途端、正気が失われた。



「……勝てる、のでしょうか」


 敵は、神話級の相手。

 たくさんの逸話が残っているくらい、記憶に深く刻まれた出来事だった。



──だからこそ人の記憶に無いことが怖い。



 勝てるかどうかじゃない。


 やるしかない。



 だけど、弱音を吐いてしまう自分がどうしても嫌いだった。



「問題ないわ! ……だって、書いてあるもの」



 アビスアイは初代送り人と付き人、そして守り人によって封印された。

 全てのお話で、結末だけは一致している。


 3人がそれそれアビスアイの目を潰すこと。


 それが大きな解決策になりそうだ。



「タリアは、もう役目をしてくれている。なら、次は私達の番です」



 私の一番の目的はフジくんを救うこと。


 だけど、今はタリアもこの国の人も、全員を助けたいって思ってる。


 嫌われたくないのは、変わらない。


 不純な動機も……無いわけじゃない。



 だけど、大事なのは"過程"じゃなくて"結果"!



「チューネさん、ありがとうございます。……では、行きましょう」



 チューネと歩乃華は、バレないようにしながら禁書庫をでる。


 そして、またいつものようにチューネに担がれた。



「本を読むと感覚が狂うわね! もうこんなに暗いなんて、私さん怖い!!」


「ですね。それに心なしか空気が重いです……」



 不安げな顔をした人々が、苦しそうに城壁の外を眺めていた。

 どうやらもう、すぐ側まで魔物が迫ってきているようだ。


 それは、ガトナ領の戦線が崩れたことを意味する。


 ……地獄だ。



「送り人……様? ねぇお願い! 僕のお父さんを助けて!!」



 小さな小さな少年が、歩乃華達に向かって叫ぶ。

 痛々しげな少年に、歩乃華は上手く微笑むことができなかった。


 大丈夫だよって、言ってあげたい。


 でも、無責任なことは何も出来ないのだ。



 苦しい思いをしながら大通りを駆け抜ける。そして、大統領達の元へ足を踏み入れた。




「おかえりですね。さて、アビスアイについて何かわかりましたか?」


 部屋に入って直ぐに、ネオから問われる。


「いくつかわかったことがあります。それは──」



 アビスアイには三つの目があり、それぞれ魔物を生み出す、従える──瘴気を作り出す力がある。



「解決策になり得る可能性があるのは、全部の目を潰すことです。そして既に、守り人であるタリアのお陰で、1つ潰れてます」


「目を潰す……」


 ネオは思案するように、口元に指を宛てがった。

 しかしすぐにハッとしたように呟く。



「この国には守り人がいないはずなんですが……本当なんですか? その情報は」



 ……あぁ、本当にこの国の人は、誰もタリアを覚えていないんだ。



 私も夢の中で会っただけ。

 それでも、禁書を読むと確実にタリアの存在は記されていた。


 存在はしている。でも、記憶からは……。



「正しいですよ。現に、魔物の数は大幅には増えていませんよね」



 大統領に目を合わせる。

 すると大きく頷いてくれた。



「ガトナ領の兵が頑張ってくれたのもあって、魔物の総勢は約27万。だいぶ健闘してくれたよ」



 国が保有する兵力に比べて、貴族が持つ兵力はたかがしれてる。

 それなのにここまで減っているのは、見事としか言えない。



「そしてだいぶ時間を稼いでくれましたからね。紹介してくれた商人も間に合って、装備は充実できました」



 大司教が優しく微笑む。


 ……良かった。装備があるのと無いのじゃ、大きな差が生まれたはず。


 着々と迎え撃つ準備が出来ていることに、歩乃華は胸を撫で下ろした。



「想定外は多かったですが……事前に話し合った通りで、……あ」



 騎士団長さんが兵士全体の指揮。

 大統領は他国の重鎮への対応。



 私は、黒幕──アビスアイの、討伐だ。



 ただアビスアイがどこにいるか分からない。それに戦場で情報を伝える役目は、私がやった方がいいと思う。


 裏なら、できるはずだから。



「騎士団長さん、実は……」


 裏との関係は一応伏せつつ、情報伝達の役目を任せてもらった。

 怪訝そうな顔はされたが、どうにかなって良かった……。



 歩乃華は苦々しげに窓の外を眺める。



 時間も足りなければ、信頼関係も足りていない。


 それでも、その時は着実に近づいてきていた。



「行こうか、歩乃華くん。城壁には、兵士達が集っているよ」



 もう止まれない。


 ……やるしか、ない。



 私達は、戦いへと足を踏み出した。

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