触れてはいけないもので
「いい? 歩乃華ちゃんは喋っちゃダメよ!」
「わかってます」
ローブについているフードを深く被る。
髪の毛をまとめて出ないようにしているが、ネオとは身長も骨格も違う。
バレるのではないか?
心臓すらもドクドクと不安を煽ってきた。
緊張でお腹も痛くなる。
それでも、ネオさんがどうにかしてくれたんだ。頑張らないと。
2人は並んで大図書館へと足を運んだ。
「私さん達は、禁書庫に入りたいの。どこから入れるかしら?」
チューネが割と大きな声で司書に話しかける。
司書は禁書庫という言葉に、訝しげだ。
しかしすぐに察したように頷いた。
「ネオさんとチューネさんは、もしかして原因探求でも求められたんですか?」
「そうなのよぉ。S級冒険者である私さん達にしか、調べられないから」
「禁書は本当に危険なんですよ……。案内します、ついてきてください」
よかった、バレてなさそう。
ホッとしたように胸を下ろす歩乃華に、チューネはウインクしてきた。
心強いな……。
置いていかれないよう、歩乃華は司書について行った。
ついて行った先は、誰も立ち入らないような入り組んだ奥。
そこには本棚が並べられているだけで、扉なんて1つもない。
ほの暗いのが気味悪くて、こんな時じゃないと立ち入らない場所だった。
なにか仕掛けがあるのかな。
悩んでいると、司書は慣れた手つきで本を押し始めた。
規則性なんてない、本当にただ適当に押しているようにしか思えなかった。
それでも、その時はやってくる。
カチッ、という音がしたと思えば、酷い揺れが三人を襲う。
思わず声が出かけて、必死に口を抑えた。
そしてホコリが空を舞いながら、本棚が動く。
ミステリーでありふれたギミック。
でも、これほどにわかりやすいものはない、
──禁書庫の入口だ。
石階段が地下へと伸びている。
魔法でもなく、からくりのような作りで動くなんて珍しい。この世界で初めて見たかも。
さぁ、足を踏み出そう。
「あ、一応規則ですので、冒険者証を見せてください」
一瞬だけ、司書の視線がフードの奥を覗き込んだ。
心臓が飛び跳ねる。
お願い、バレないで……っ。
歩乃華はチューネに続いて冒険者証を渡す。
司書はそれを確認して、通してくれた。
歩乃華は安堵する。そしてそのまま何事もなかったように禁書庫の奥へと足を進めた。
司書だけが入ってこない。ちゃんと、向こうは規則を守っているのに。
今更ながら規則を破っていることに罪悪感を抱く。
「ごほっ、ホコリがすごいわね……。歩乃華ちゃん、ここなら誰も入って来れないし、自由にして平気よ!」
「そうですね、ありがとうございます。……時間はないですし、急いで探しましょうか」
歩乃華はフードを取りながら、禁書庫の中を歩く。
空気が重い。
まるで、この部屋そのものが何かを隠しているみたいだった。
大量の本、動かされた形跡もないホコリ。
中央には明らかに年季の入った机と椅子がある。
蜘蛛の巣も張っていて、司書すらこの部屋には入れなかったのだろう。
それくらいにも、危ない本があるんだ。
総当り的に探すしかないのだろうか?
歩乃華は全貌を知るためにも禁書庫の中を歩き回る。
文字はまだ照らし合わせないと分からない。もしかしたら、分かりやすくそれっぽいことが書いてたりするのかな?
そんなことを考えながら歩いていると、歩乃華はあることに気づく。
ムラがある。
一部の本の前だけ、ホコリがない。
歩乃華は本を1冊取り出して、照らし合わせながら軽く読んでみる。
もしかしたら、なんて言う確証もない直感だ。
ただ、それはあっているみたい。
──誰かが、ここで気づいた。
そしてそれを、隠したんだ。
「首謀者は、ここで存在に気づいたのかもしれない」
アビスアイに関わる内容だ。
ようやく、前進した。この一歩は、大きなものとなる。
「チューネさん! 私が本を渡すので、それを読んでもらってもいいですか?」
「もう見つけたの? もちろんよ! 私さんに任せんしゃーい」
驚いたように目を開きながら、快く引き受けてくれるチューネ。
よかった、そう胸を下ろして、片っ端から有り得るものを手に取る。
アビスアイの綴りは覚えた。
全部、見つけるんだから。
「私さんは知らなかったけど、こんなにも文献があったのね……」
机に置かれた本の山を見つめて、チューネは顔を青ざめる。
歩乃華はそれに同意しつつ、脳内では悩んでいた。
なぜ、アビスアイの存在がこんなにも忘れられてしまったのか。
タリアを忘れてしまったから? でも歴史まで消えるなんて、考えられない。
誰かが"故意的"に歴史を消し去ったのかな。
いや、そんなことしてメリットなんて思いつかない。
人為的な災害とは違い、アビスアイは魔物だ。消したら被害が大きくなっていい事なんて……。
いや、もしかして国に大きな被害を作るのが目的だった?
でもわざわざアビスアイの存在を消すなんて、大変すぎる。
じゃあ誰が何のために消した? そんなことをできる人物なんて……思いつかない。
自然とため息がこぼれる。
もしかしたら犯人を見つけることができると思ったのに。
今はまだ、分からない。
歩乃華は気持ちを切り替えて本に立ち向かう。
照らし合わせる必要があるから、時間はかかるけど……今は少しでも情報が欲しい。
有効打、弱点。
そのまま乗っていなくたっていい、推測できる情報が付けられれば万々歳だ。
この時はまだ、歩乃華は知らなかった。
──アビスアイの"絶望"を。
本日は21時30分にも更新予定です!
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