歪な才で
「よう迷惑キッズども。良くもまぁ訓練所にデッケェ穴作りやがって」
口では笑みを作りつつも、ピクピクと怒りで震えている。大柄で、顔には傷がある男。
タリスのギルド長だった。
ギルド長はあくまでも無理やり笑顔を作りながら、冷静に言葉を紡ぐ。
「この落とし前、どうつけるつもりなんだ?」
歩乃華は何も言えなかった。10割こちらが悪い。ただでさえ色々と忙しいのに……。なんで、今やらかしたんだろう。
あぁ……完全にやらかした……っ。
「……土地は僕が山の魔法で直します」
「ったりめぇだろ。んで、その新作魔法をどうするつもりだ?」
「…………使いません」
「目ぇ見て言えよクソガキ」
ギルド長はぷいっと目を合わせないネオに……負けた。諦めて溜息をつき、今度は歩乃華の方を見た。
「あー、送り人……様。てめ、貴方も始末書っつうか反省文書いてもらう。そういう決まりだからな」
「わかりました……その、それだけですか?」
歩乃華がそういうと、ギルド長はめんどくせぇ……とでも言うように、頭をボリボリとかいた。
「本来なら違約金又は罰があるんだけどよ、送り人様にさせられねぇよ。つうかやられると教会とかフルシベル家とわだかまりができる。やめてくれ」
色々と大変らしい。大分迷惑かけてしまった……。本当にごめんなさい。
歩乃華はしゅんと肩を落とす。その姿を見てギルド長はより頭を抱えた。
「……ちっ、これだとまたあいつに小言言われる……」
頬を膨らませるネオと、落ち込む歩乃華。頭を抱えるギルド長。面白い場面だとチューネは笑いながら、手を叩いて場を仕切り直した。
「私さん的には、全員反省したことだから、もういいんじゃないかなぁって思うの」
「……そうだな、このままここにいられても迷惑だ。さっさと訓練所を直してくれ」
ギルド長にしっしと追い払われるように追い出された私達は、またもや訓練所へと戻ってきた。
何回みても酷い光景だ、これはキレられても仕方がない。
圧力鍋の容量というか、そんな感じで考えてみたけど、これはあまり使わない方がいいね。
歩乃華の視界の中心には、山の魔法でひたすら土を生み出しているネオがいた。
あれ、チューネさんは手伝わないのかな? と思って周りを見渡して探す。
「私さんは属性自体は持ってるけど、攻撃魔法しか使えないのよ〜。歩乃華ちゃんは山の魔法使えたりする?」
探されていることに気づいたのか、チューネさんが近づいて来た。
なるほど、属性自体は持っていても使えないとかあるんだ……!
「いえ、私が使えるのは風と光と聖らしいので」
「うーんと、控えめな属性の量ねぇ〜。歩乃華ちゃんはなんか、どんな魔法が使えるの?」
チューネさんは気まずそうに、言葉を選んでいた。気を使わせてしまったな……。
「魔法はまだ使ったことがないですね……。覚えてみたいとは思うんですけど」
本当なら、フジくんに魔法を教えてもらおうと思ってた。フジくんは魔法がすごく上手みたいだし。
歩乃華は人知れず心を痛ませる、チューネはそれに気づいたのか気づかなかったのか。
「そうなの? だったら私さん達が教えるわ! お師匠様も終わったようだしね!」
歩乃華の肩を叩いて前を向かせた。
「怒られたあとなのに使っていいんですか……?」
「気にしなーい気にしなーい! なんなら私さん達にとってはいつもの事よ〜!」
「い、いつもではありませんよ!! 変なことは言わないでください!!」
顔を膨らませながらネオさんはチューネさんに向かってポカポカと拳を振るった。
チューネさんは一切きいていないようで、まるでそよ風に吹かれているようだ。
この二人は、愉快でおもしろい人達だな。
「では、僕ネオ・ニールが魔法をお教えしましょう!」
ネオはどこからかメガネを取り出し、白衣を着て先生になりきる。
……白衣が地面に付いているのは、触れてはいけない気がするな。
「まず、歩乃華くんは魔法についてどのくらいの知識がありますか?」
「ほ、歩乃華くん……」
すっごく教師になりきってるなぁ。
私が知っているのはフジくんから聞いたことくらい。
魔力量は人それぞれで、魔法を使うには精霊達にお願いする必要があるということ。属性は12個あって、それぞれ風林火山、光星雷聖、闇地悪無として区切られていること……とか色々。
それをネオに伝えると、うんうん、と頷いて説明を始めてくれた。
「まず人間の保有している魔力は覚醒魔力と潜在魔力に分けられます」
あ、この話は何となく覚えがあるかも。
たしか、魔力が覚醒していないと使えなくて、そうそう限界まで使えないって、大司教が言っていたと思う。
だから私も魔力切れをたかがって言っちゃったんだし。……フジくんはほぼほぼ覚醒させていたんだよね。
「生まれた時点で、人間は3割から5割までしか覚醒していないんです。そのため、とにかく魔力を動かしたり、魔法を使うことで潜在魔力を覚醒させていくんです!」
魔力を動かすというのは、体の中の血管に流れている魔力を、自らの力で意識的に動かすことを指す。
歩乃華も気になり試しにやってみたが……
「……」
「……」
「……?」
全く動いているような気がしなかった。
そもそも血流の流れなんて意識的に起こしてる訳じゃない。それを動かすなんて……無理じゃないか?
「絶望的なまでに魔法のセンスがないですね」
「意識するのは血じゃなくて魔力よ!!」
「意識しているんですけど……?」
絶望的なまでにセンスがないなんて、残念。保有量が多いらしいから使ってみたかったのに。
「ではまぁ気を取り直して、魔法の種類についてお教えしましょう!」
魔法は大きくわけて5種類に分けられる。攻撃、防御、回復、補助、弱体だ。
「人にはそれぞれ向き不向きがあり、僕は基本全部できますが、主に補助の方が好きです。チューネは攻撃魔法しか使えませんね」
その人の持つ性質によって、この魔法は使えるけどこの魔法は使えないとかがあるらしい。もちろん、これは極端な例だけど。
普通に使えるけど苦手とか、魔力を多く使ってしまうとかも、性質によって決まる。
「じゃあ私は何が向いていて、何が苦手なんでしょうか」
「使ってみますか? 簡単な魔法なら魔力をあんまり動かせなくても使えるでしょうし」
ネオさんに杖を渡される。
私、詠唱もあんまりわかってないのに大丈夫なのかな?
「まずは攻撃魔法からですね」
ネオさんに光の魔法で一般的な攻撃魔法、ライトラインを教えてもらった。
魔法は想像すれば使えるような、簡単なものではない。理屈を理解して的確な道を通ることで、超常的な現象を精霊達に叶えてもらっているだけだ。
詠唱はそのために必要なプロセス。
恥ずかしがっては、いけない。
「か、神の御心のままに、光の皇子を身に宿し、清廉潔白な我が祈る……彼のものをい、射抜きたまえ! らいとらいん!」
一応全力の詠唱に、精霊達は戸惑いながらも応える。光線が的をめがけて飛んで行った!
だが、……遅い。びっくりするくらい遅い。
「裁縫針みたいなものがのろのろと打ち出されましたね」
「あー、……私さんはちょっと、うん。何も言えないかな」
あまりの向いてなさに歩乃華は大きく肩を落とした。
その後も歩乃華は様々な種類の魔法に取り組んでみる。
しかし結果は基本悲惨なものだった。
「防御魔法では逆にすごいですね。あんなに薄い膜は初めて見ました」
「私さん、これ弱体……かかってる?」
「うーん……少し足が早くなった……かも?」
防御も弱体も補助も全てが、驚くくらいの低威力だった。属性がダメだったのかもしれないと、風でも聖でも使ってみたが、結果は惨敗だった。
「困りましたね、あとは僕の苦手……げふんげふん、好きじゃない回復魔法しか残ってないです」
回復魔法に対してだけは、ネオが苦手なのもあって後回しにしていた。
だがしかし、このままクソみたいな結果の羅列では……やってられない。
「あの! 私に回復魔法教えてください」
回復魔法は他の魔法とは違い、内部の人体構造に対する理解が必要だった。
どの位置にどんな臓器があり、血流の流れはどうなっているのか。それが分からない限り、回復魔法は表面的なものしか治すことができない。
だからこそネオは苦手だった。決して血が苦手な訳じゃない。
集中する歩乃華を横目に、ネオは心配でたまらなかった。魔法が苦手な人はいるが、ここまで使えない人は初めて見たのだ。
送り人として命を狙われる可能性はあるし、魔物との戦いだって有り得る。
自衛が出来なくて、付き人に全てを任せるなんて、怖くてたまらないはずだ、きっと。
どうか、回復魔法だけでも使えますように。
歩乃華の心の準備が出来たのを確認したチューネは、自分の手のひらにナイフで傷をつける。
妙な緊張感がその場を包んだ。
「神の御心のままに、聖者の愛を身に宿し──」
ネオはここで違和感を持った。
さっきまでの歩乃華と、一切の雰囲気が似ていないことに。
きっと幻覚だと思う。だが、何故だか後光が指しているように見えた。
「清廉潔白な我が叶える 彼の者を癒したまえ」
それが錯覚でもなんでもなかったと知るのは、歩乃華が魔法を完成させてからだった。
「──キュア」
一瞬、世界が静まった。
可憐な唇から紡がれた魔法は、初歩も初歩な回復魔法に過ぎない。
効果だってチューネの手のひらの傷を治すので手一杯なはずだ。普通なら、そのはずだった。
柔らかく暖かな光がチューネの身体全体を包み込む。決してその威力は初歩的な回復魔法で済まされていいものじゃなかった。
「あ、あれ? 私さん、なんだか体全体が軽いというか……。待って! めちゃくちゃ肌ツヤがいいんだけど!? は? キレそう!!」
自分の体で威力を確認したチューネは、すぐに鏡を取り出して自分の美貌を確認した。
いつも以上に美しく、鏡の前でポーズを決めまくる。
そんなチューネを華麗にスルーしたネオは、歩乃華にキラキラとした目で話しかけた。
「なんですかあの威力は!? キュアで出していいもんじゃないです!!」
「え、え? えっと、上手くいった、でいいんですかね?」
1人だけ情報を飲み込めていない。歩乃華はとりあえず言われた通り、集中して回復魔法を使ったに過ぎなかった。
何故ここまで興奮されているのか、当人は理解できていない。
「……いやおかしいですね」
「な、何がでしょうか……?」
「キュアで出していい威力じゃない。精霊への指示が、異常に的確だった……」
ネオはぶつぶつと考えを重ねる。
そんなにおかしなことだったの? 魔法が使えた喜びで、そんなに実感がわかないのに……。
ネオはハッと、正気に戻り、歩乃華に問いかける。
「ちなみにたくさんの魔法を使わせてしまったわけですが、睡魔などはありますか?」
「大丈夫ですよ。魔力切れはないです」
そういうとネオは驚いたように呟いた。
「まだ覚醒魔力はきっと多くないはずなのに……、元々の保有量がとんでもなく多いんですね、きっと」
「私さんもそう思うな。歩乃華ちゃんの使い方は、まだとにかく量でごり押す感じだし、無理やり使ってるからいつもより多くの魔力を消費するはずだよ」
2人は冷静に分析する。
歩乃華はそれを聞きながら、おかしいな、と思っていた。
歩乃華は何度も魔力切れで倒れている。祝福を使ったから倒れてしまったわけだが、祝福と魔法でこんなにも差があるものなのだろうか?
ただまぁ、2人は色々考察しているみたいだし、邪魔するのは辞めておこうかな。
このまま、回復魔法について沢山教えてもらおう。そして教会に戻ったら、私はアビスアイについて調べないと。
──まだ、名前しかわかってない。
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