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戦うすべを手にして

本日、既に2話更新済みです。


「送り人様、今お時間いいでしょうか?」


 大司教が扉を叩く。歩乃華は驚きつつも扉を開いた。


 大司教は基本いつも忙しくて、あまり長い時間話すことはできない。一体何があったのだろうか?

 もしかしてフジくんになにかあったのかな!?

 扉を開けて青ざめる歩乃華に大司教は慌てて要件を伝えた。



「フジくんは変わりありませんよ。私が来たのは、紹介したい人がいるからです」


 ちょっと着いてきてもらっていいですかな? と言われ、大人しく大司教の後を追う。

 教会を出てどこに向かうのかと思えば、それはまた別の大きな施設だった。

 看板に書かれている文字は、紙と照らし合わせれば理解できる。


「冒険者ギルド……」

「魔物退治とかを主な仕事としている、便利屋みたいなものですよ」


 屈強な冒険者達が、こちらをちらりと見る。

 歩乃華は少し肩を狭めた。


「少々荒くれ者が多いですし、大変酒臭いですが……お許しを」


 大司教さんはこの場所が好きじゃなさそうだな。確かに教会とは真逆に位置してそうな雰囲気だし。

 恐る恐る中に入ると、思っていたよりも綺麗で、想像以上にお酒臭かった。

 ただこういうのも楽しいんだろうな、とは思う。

 大司教は真っ直ぐに歩くから、歩乃華も急いで着いていく。目的地は1つのテーブル。そう、二人の……目立つ人がいた。


 大柄でお酒をぐびぐびと飲んでいる女性と、すごく小柄でちびちびお水を飲んでいる男の子。

 この二人に、会わせたかったのかな?



「お二人とも、お待たせしてしまって申し訳ありません」


「あら大司教ちゃんじゃなぁい! 全然待ってないし、まだ飲み始めよぉ!」


「ええ。ただ飲み始めではなくかなり出来上がっている状態ではあるので、こちらが逆に謝罪案件です」


 戸惑っている歩乃華と女性の方が目が合う。すると顔を向上させ、ガバッと肩を組んだ。


「初めましてだねっ! 私さんがチューネ・ヴィルレイレだよん!」


 チューネによる自己紹介が飛んできたかと思えば、男の子が、師匠より先に自己紹介とは何事ですか!? と怒る。

 そして咳払いをして、胸に手を当て紳士的に挨拶をしてきた。


「初めまして送り人様。ネオ・ニールと申します。以後お見知り置きを」


 この人達は私が送り人であると知っているみたいだ。チューネさんと、ネオさん。

 なんというか、大小コンビというか凸凹コンビというか……。ちょっと微笑ましいな。


「初めまして、小暮歩乃華と言います。それで、会わせて頂いた理由は……?」



「あぁ、このネオ殿がフジくんを助ける事ができる人物だからだよ」




「天才魔術師である僕が持っている祝福は、液状ノ祝福です。僕の祝福を使えば、

──魔力結晶を"飲める形"に変えられるんです」


 それは本来、不可能なことだった。

 

 だからこそ魔力の回復手段は自然に待つ他なかった。……本来ならば。

 つまりこの力は、この世界の常識を覆す力だった。

 液状ノ祝福等の、何らかの方法で液体に変化させられる祝福によって、魔力結晶を液体にできるため、取り込めるようになるのだ。



 ネオ・ニールは、フジを、助けられる。



「ぬか喜びはいけませんよ、送り人様。言ってはあれですが、彼等は冒険者。タダで助けることはしません」


「えぇ。僕らは依頼人になるかもしれない人が来る、ということしか知りませんでしたから」


 つまりこの人達が言いたいのは、依頼として引き受けるに値する報酬が出せるかどうかが肝なのか。

 この世界の通貨は、私は持っていない。フジくんとカンナちゃんが持っているようだけど、勝手に懐からとる訳にはいかないから……。

 2人なら許してくれそうだけど。

 ……ここは、私が頑張らないと。


 向こうは何を求めてるだろうか。


「言いたいことは分かりました。では一つお聞きしたいのですが、お金以外の報酬はどうでしょう?」


 私自身で出せるものは、やはり知識しかない。日本で培ったものは私の身に深く刻まれている。


「構いませんよ。ですが、僕は強いし頭もいいので、あなたにお金以外の何かは出せるのでしょうか?」



「そうですね、お2人にとっての他の世界。異世界での知識は興味ありませんか?」



 ネオの眉毛がピクリと動く。歩乃華は振り向きはしない。けれど、冒険者ギルドにいる人々も聞き耳を立てているようだ。


「興味がないなんて言ったら嘘ですね。でも、僕は僕に関係のない知識はいりません。そうですね……魔法に関する知識なら欲しいです」


 魔法に関する知識。一番持ってないよ。

 ただ自然魔法を見る感じ、きっとある程度の化学は通じるんじゃないかな。

 例えば……感電や燃焼反応、太陽光による熱線とか、属性の組み合わせを教えるのはどうだろう。

 もう既にある可能性は高いけど、どれか1つくらいは分からないのがあるはず。



「属性の組み合わせによる魔法とかはどうですか?」


「すごく高度な事を言うじゃないですか。天才たる僕ならばできるとは思いますが……」


 声はあまり変わっていないが、態度がどんどん食いついている。これはいけるかも。

 さてじゃあどうしようかな……。


「どうですか? 依頼の対価として」


「魔力欠乏体への魔力注入に対する依頼。もう少し対価はあっていいと思いますね。例えば組み合わせをいくつか教えるとか」


 チラチラとこちらを見てくるネオさん。これはあと一歩だし、大きく出せば引き受けてくれるだろう。


「知っている限りお教えしますよ」


「え、本当に?」


 ネオの目の色が変わる。

 これはもう交渉成立したも同然だ、よしっ!


「もちろん」


 ネオは顔を綻ばせ、嬉しそうに依頼書へサインした。いつの間に依頼書が……と思ったが、大司教が用意してくれていて、報酬も今記入したようだ。

 本当にありがとうございます、大司教!


「ただ救うには魔力結晶が必要なので、目覚めさせるのは戦いが終わったあとです。そこは大丈夫ですか?」


 首を傾げながら問われ、私はそれにうなづいた。ネオは満足気に笑い立ち上がる。


「さぁ行きましょう善は急げです。行くっきゃないです」


「えどこへ?」


「お師匠様は魔法ラブなのよぉ。ギルドの訓練所だから、私さん達につい来てねー」


「え、あの……え? あ、担がれるんですか私!? え?」


 チューネさんの肩に流れるようにネオさんは座り、私は逆の方へ担がれる。大司教は笑いながらギルドから出ていってしまった。


 この人達は結構自由人……!


 歩乃華は流れるように、ギルドの後ろに作られていた広い土地に連れていかれた。



「では、まずは何を教えてくれるのですか!?」


 ネオさんがものすごい笑顔で歩乃華に迫る。キラキラとした瞳の彼に、一体何から伝えるべきか、と悩む。


「僕は風林火山、光星雷聖と幅広い属性を使えますので安心してなんでも言ってください」


 たしか自然魔法と神霊魔法の属性だったよね。これなら多分ある程度のものはできるんじゃないかな。



「1個提案なんですが、一時的に狭い範囲にしてその中だけを燃やすことってできますか?」


「無の魔法は僕使えないので、分かりませんが……。そうですね、光の魔法で結界を作り、その中だけを燃やすのは可能かと」


「丈夫な透明な結界を作ってもらって、それを熱するように火をお願いします」


 イメージとしてはこうだ。箱みたいな物を作って、箱を熱すれば温度で圧力が増えるはず。それを一気に解放すれば衝撃波みたいなものが生まれるんじゃないかな。


「分かりました。やってみます。色々指示してください」


 ネオはまた杖を構える。そして今度はミスらないようにするためか、詠唱を始めた。


 神の御心のままに、光の皇子を身に宿し、清廉潔白な我が祈る! 全てを守りたまえ!


──プロテクション!!!


 キラキラと輝く光が、瞬く間に正方形を構築する。面は透明に見えるが、角度が変わると虹色に乱反射していた。


 ネオは続けざまに、そのすぐ近くで火の魔法である"活火激発"を起こした。


「そのまま外部から圧力をかけてください!」


 ネオは歩乃華の呼び掛けに悩みつつも、結界を縮めようと押し込むことで圧力をかける。

 しかしある瞬間から、気を抜いたら結界が壊れてしまいそうになる。


「なん…で?」


 ぽつりとこぼれた疑問。それに歩乃華は答えた。


「結界によって作られていた空間を、外部からいきなり押し込むことで圧力を。そして密閉した空間を熱することでも圧力は増えるので、逃げ場がない超高圧状態を作り出せるんです」


 それを極限まで小さくして、解放した瞬間がそれの真骨頂です。


 歩乃華の言葉に答えるように、ネオは無理やり結界を5センチほどにして、遠くへ投げた。

 少なくとも3人が安全でいられるように、人のいない方向へ。


 パチンッ


──次の瞬間、結界は無へと消えた。


 ……音がなくなった。しかし、それはほんの一瞬だった。

 超高圧状態となっていた内部が一気に解放され、内部の熱された空気は膨張し、周囲の空気を押しのける。

 訓練所を抉るように、衝撃波は広がっていく。


「送り人様! チューネ!」


 ネオは歩乃華を後ろに庇い、自衛のためにプロテクションを使った。チューネもその中に入り、二重結界となるように魔法を行使する。


 地面はまだ、僅かに揺れている。


 長い間、砂埃に結界は包まれた。

 数秒待つと、音から衝撃波は止んだことがわかるため、ネオは暴風一陣で風を吹き飛ばした。


 開けた視界からわかることは、圧力によって訓練所にクレーターができることだった。



「大…成功……?」



「大迷惑だボケ」


 青筋を浮かべたギルド長が、ネオの後ろに立っていた。

──完全に、怒っている。

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