消された記録の中で
朝に1話更新しています。
昨日は眠れたような気がしなかった。
歩乃華は重い体を起こして、窓を開けて太陽の光を浴びた。優しい風が頬を撫でる。
平和に見える街が、危機的状況だなんて誰が信じるのだろうか。
「はぁ」
大統領とは上手くやれたし、裏との取引もできた。カンナちゃんはもうコルンの街に向かって駆け抜けているし、大司教は教会に泊めてくれて、色々と良くしてくれた。
でもダメだ。まだ問題は山積みだし、時間だってない。このままのんびりしていたら、後で困るに決まってる。
歩乃華は自分の体にムチを打ち、やる気を出させる。
今日の目的は、武器の入手ルートを見つけることと、魔法の使い方を教えてもらうこと。そして、昨日裏が言っていた……アビスアイについて調べること。
優先順位ははっきりしてる。1番は──アビスアイについて調べること。
歩乃華は顎に手を当てながら考える。アビスアイについて調べるなら、図書館に行くべきだろうか。それとも大統領のところに行った方が、情報があるのかな。
歩乃華が悩んでいると、窓の下から声が聞こえる。
「おーい、歩乃華さーん。おはようございますー!」
手を振っているのは、キィナさんだった。
ふわりと白髪が揺れ動き、優しく細めた瞳が不思議な魅力を持っている。
やはり綺麗な人だな。
「おはようございます、キィナさん」
あんまり大きな声では無いが、聞こえたようで安心する。
そういえばキィナさんも教会関係者だから、魔物の大量発生とかは知っているのかな。
「歩乃華さん。これから朝食を持ってきますので、部屋で待っていてくださいね」
朝食まで用意してくれるんだ……! 歩乃華はありがとうございます、と言ってキィナさんを見送った。
さて、キィナさんを待っている間に最低限の身支度を終わらせないと。
「朝ごはんをお持ちしましたよ」
「ありがとうございます」
キィナさんが持ってきてくれたのは、スープとパン、そしてお肉料理だった。
ありがたくそれを受け取り、キィナさんが引くのを待つが、いつまでも動かない。
「……えっと、部屋に入りますか?」
「はいっ」
いい笑顔で言われて少々引いてしまう。異世界ギャップ、なのだろうか。
簡易的な机と椅子はあるため、そこに食事を置き、向かい合うように椅子に座った。
「僕に気にせず食べてくださいね。僕は話す銅像とでも思っていただいて結構ですので」
「あははは……。キィナさんはもう朝ごはんは食べたんですか?」
一緒に持ってきていただいた水を飲む。話しながら1人だけ食べるなんて高度なこと、今まであまりなかった。正直タイミングが難しくなる未来しか見えない。
気まずい。しかもキィナさんとはまだ距離感を掴みかねてると言いますか……なんというか……。
「食べましたよ。僕はすごい早起きなので、太陽が顔を出したくらいには起きているんです」
「それはすごい早起きですね……。そういえばこの世界の時間の概念ってどうなってるんですか?」
同じだったら助かるけど……。でも送り人が伝えたとしても昔の時間の読み方かもな。
「送り人様に伝えられて色々な言い方はありますよ。ただ主に使われてるのは、太陽の顔を出した時間を光の時として、光星雷聖、闇地悪無と、数えるやり方ですね」
なるほど魔法の属性の言い方で表すのか。確かに送り人によって色々言われてきただろうし、そっちの方が統一できていいかも。
1つの時で3時間くらいかな?
「せっかくなのでついでに時計もお見せしますよ」
そう言ってキィナは懐から丸い物体を取り出した。
その時計では真ん中の部分がキラキラと黄色く光っている。
「中央の光っている魔力結晶で時間を判別するんですよ。今は光の時なので黄色く光ってます」
なるほど、色で判断するんだ。そしてこれが魔力結晶なのか。綺麗に加工されてるからかな、宝石みたい。
「ただ手持ちの時計は高価なので、大きな広場などに大きな時計を置いて、そこで判断する人が多いですよ」
「そうなんですね! そう言われれば昨日時計台を見た気がします」
時計が高価なのは、やっぱり魔力結晶のせいなのかな? それとも周りの装飾?
この世界でもアナログ時計みたいな形状になれば使いやすい気はするけど……ならないのには理由があるのかもね。
にしてもキィナさんが持ってきた朝ごはんは、すっごく美味しい!
朝から食べるとちょっと重いけど、美味しさがそれを上回るから何も問題は無いね!
「お口にあったようで何よりです。さて、ご飯もそろそろ食べ終わるでしょうし、そろそろ本題に入りましょう」
なるほど、何かお話があるから強引にも入ってきたんだね。
歩乃華は急ぎめにご飯を食べ終える。少しだけ胃もたれがするけど……まぁ大丈夫かな。
「歩乃華さんは、魔物が大量発生しているのは知っています……よね?」
「えぇ、知ってます」
「良かった。なら、送り人として力を尽くすという認識であっていますね!」
確かに参戦はするけれど……。でもそっか、この世界の人々にとって、送り人って俗に言う勇者みたいなものなのかも。
すごい力を持っていて、助けてくれる強い人。優しくて守ってくれるかっこいい人。
だから問題が起きた時に期待されちゃうのは、理解できる。
「大統領とはもうお話しましたか?」
「はい、協力関係を築くことになってますよ」
「それは良かったです!」
それでこの人は何をしたいんだろう?
さすがに分からないかも。何か用があってきたんだろうけど……?
「実は仲のいい友達が、どうしても魔力結晶を買いたいらしいんですよ。その……言いづらいのですが、大統領と取り持っていただくことってできますか?」
なるほどそれが目的だったんだ。
でも気軽に返事はできないな。とりあえずなんでかを聞こう。
「その、友人さんは何の目的で魔力結晶を? あと急に取り持って欲しいと言われましても……」
「友人は他国の商人なんですが、来たばっかりでまだタリスではあまり商売が開始できてないんです。そのため取引が難しいらしくて。ただどうしても今回の魔力結晶は欲しいと……」
なるほど。魔力結晶は貴重らしいし、多く手に入れられたら外国で高値で売れる。これはいい商売になりそうだから、どうしても欲しいのはわかるかも。
でもだからといって特別にそんなことしたら、何か亀裂をうみそうで怖い。
いや待って、他国から新しく来た商人だったら!
「あの、一つお聞きしたいんですが、その友人さんは武器を売っていたりしますか!?」
「た、確か売っていたと思います。一応彼、他国では割と大商人を気取ってたので……」
歩乃華の勢いに驚きつつも、キィナは応える。その回答は、歩乃華の求めていたものだった。
これは朗報! 相手は魔力結晶が欲しいようだし、取引はしやすいはず。大統領とのパイプを繋げることとかを加味したら、ある程度の譲歩は考えられると思う。
「分かりました、私が取り持ちます。そして、友人さんに伝えて頂けますか? 武器や装備の類を多く用意して欲しいと」
「分かりました! そしてありがとうございます!! おかげで彼に文句言われないですみますよ」
にこやかなキィナさんは、早速伝えに行きますと言って食器を持ち部屋を出ていった。
想定外だったけど、装備の入手先になりそうで助かったな。魔力結晶を引き合いに出しちゃったみたいなものだけど、私は取り持つことを了承しただけだし、大丈夫だよね?
ただ1つ気になることがあるとすれば、少しだけ上手くいきすぎ? なんてね。
………
……
…
歩乃華は街へとでて、大図書館へと足を運んだ。
裏の言っていた"アビスアイ"という存在は、聞いてみたけど大司教ですら知らなかった。
旧王なんて仰々しい二つ名があるのに、おかしいと思う。きっと、何かあるんじゃないかな。
「すみません司書さん。本を探しているんですが……」
「うーんと、魔物の本ですかね? 一応この辺にありますが、そんな名前の魔物は書いてなかった気がするなぁ……」
司書さんがいくつか本を取り出す。そして、少し悩んだ様子で語った。
「地下の、その奥にならあるかもしれませんね。ただあそこは禁書となっていて、持ち出しもできなければ一定以上の人じゃないと入れないんです」
大司教も知らなかったことを踏まえると、禁書の方が可能性が高いかも知れない。
歩乃華は少し悩む。送り人であったら入れたりしないだろうか?
「あの、もし私が送り人でも入れませんか?」
「すみません。入る基準は冒険者ギルドの階級がS以上の方"のみ"となっていまして……」
S級って……。ブランベアでB級だし、無理じゃないかな……?
困ったな、入れないと調べられないし。
「……わかりました。じゃあこの本達だけ借りていきますね」
これは早急に方法を考えないと。
時間はもう、あまり残されていないのだから。
本日、21時30分にも投稿予定です。
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