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自分をかけた取引で

 ある程度情報の共有もできたし、十分な成果は得られたと思う!

 残り一週間、歩乃華ができることはなにかあるだろうか。


「装備は今のところ商人連合に頼んで掻き集めてもらっているが、それでも数には欠けるし耐久性もな……」


「なるほど……こちらも装備には目をかけておきます。大統領、兵士達の強さはどうですか?」


「弱くは無いが、本部隊ではないし掻き集めただけだからな。圧倒的なまでに足りてないし、長期戦なんて以ての外だ」


 本部隊が帰ってくるまで、時間を稼ぐのは現実的では無いのだろう。

 装備に関しては……カンナちゃんとかキィナさんに聞こうかな、もしかしたら何か宛があるかもしれないし。


「強い人はどのくらい強いのですか? 指揮官を倒すこととかって……」


「複数人ならできるだろうが、一人で勝てるやつはいない。首謀者を見つけて倒すのが一番だ」


 首謀者の目処すらたっていないのに、そう決めつけてしまう。

 大統領は首謀者を探しながら、魔物軍に密偵を放っているらしい。

 その密偵の存在は教えてくれなかったが、だいたい国はそういう後ろめたい組織もあるものだ。

 歩乃華はそれを深く追求しない。


 ただこっちでももっと調べないと。


「大統領ありがとうございました。これからはさっき話し合った通りで」


「あぁ、お願いする。それと、付き人にもよろしく言っておいてくれ、いや、それよりも謝るのが先か」


 頭をかきながら分が悪そうに、呟く。話していて特に思ったが、この人は悪い人ではない。


「……気にしているんですね、大統領。でも分かりました、言っておきます」


 本当なら自分から謝った方がいいけれど。

 少し悩み、何も言わずに歩乃華は大統領の元を出ていく。

 置いてきた二人のことが心配だ。……カンナちゃん、フジくん……。


 言葉にできない感情が、ずっと心の中で渦巻いている。

 二人のことを心配に思う気持ちとか、恐怖心とか……罪悪感とか。そんな感情が入り交じって、ぐちゃぐちゃになって、自分を攻める刃となる。

 圧倒的なまでの自己嫌悪。1人になった瞬間に襲ってくる。考えたくないのに考えてしまって、どんどん心が削られていく。


 教会が、待ち遠しくてたまらない。



………

……



「すいません、今戻りました」


 音をあまり立てないように開けられた扉。そういう所から気遣いの心が伺える。

 私の、私たちの送り人様。

 歩乃華に単独行動させるなんて、里の方々にバレたら怒られてしまう。ま、怒られるくらいでフジが戻ってくるならなんでもいいけど。


「おかえり、歩乃華」


 そう言いながらも、視線はフジから離れない。


「カンナちゃん。変わりはありませんか?」


 歩乃華がそっと近づく。あくまでも深入りはしてこないその対応が、今は余計心細さを刺激した。


「うん。フジが目覚めないこと以外は、何も変わらない日だよ、多分」


 嫌味というか、皮肉というか、なんというかね。こんなことを言っても意味はないのに。


 歩乃華は下唇を噛んで黙る。カンナもそれに気付かないふりをしつつ、静寂を抱きしめた。


「大統領と会話をして、協力することになりました。魔力結晶もいただけ……」


「本当!? あの量を、手に入れることができるの? フジを起こしてあげられるの?」


 言葉を遮り問いかける。思わず身を乗り出して、歩乃華を仰け反らせたのは許して欲しい。

 だってフジを助けられる可能性があるのなら、少しでもあるのなら! なんでもしてやる。


「お願い、詳細を教えて!」






「30万もの軍勢が、進行してるの? え、B級とかがごろごろいるの? ……待って、え?」


 想像もつかない光景に唖然とする。

 そんなにたくさんの魔物がいたら……歩乃華のことを私は守れるのだろうか。いや、フジを助けるために断る選択肢なんてそもそもなかったけど!

 どうしたらいいんだ? それに歩乃華の話しぶり的に絶望的な兵力だし……。


「来るのは7日後くらいなんだよね?」


 確認の意を込めて問いかける。


「一応想定では」


 全速力出駆け抜ければ、……6日で行き来できるかな。


「私、セイリュー先生達を呼んでくるよ」


 セイリュー先生は、自然派を率いる若き頭領だ。きっと、絶対力を貸してくれると思う。

 フジのため、いいや、送り人の為ってことにすればフルシベル家にも力を借りれるかな? さすがに7日じゃ間に合わないか。一応連絡だけしよう。


「そうですね、今はとにかく戦力が欲しい。カンナちゃん、お願いします」


「任せて。馬車を猛スピードで走らせるから、絶対に、間に合わせてみせる」


 カンナは視線をフジに戻して、優しくその頭を撫でた。

 大丈夫。絶対にどうにかしてみせるからね。


……

………



 カンナちゃんは、こうしちゃいられない! とでも言うように部屋を出ていった。

 後ろ姿をぼんやりと眺めてから、歩乃華は瞳を閉じる。



「そこにいるんじゃないですか? 裏……さん、ですよ」




 不自然に影が揺れ動いたと思ったら、一点に集まって人の形を象った。

 深くフードを被っていても、三日月に歪む口は隠れていない。あの時は偶然、今は必然。

 ここで邂逅した。


「ま、すぐに会うだろうとは思ってたわ。送り人様」


「その、気持ち悪いので声は1つにして欲しいんですけど」


「お、それが仕事なら喜んで」


「いえただの雑談です」


 1回だけ代償も無しに力を貸してくれる。その約束を、今使わせてもらうつもりだ。一体どこまで吹っかけられるかな。



「タリスの問題が解決するまで、私達に力を貸してください」


「無理だな。そんな抽象的な依頼は受けねぇよ。具体的にしろ。……送り人もわかってるだろ?」


 まぁそうでしょうね。じゃあ一番重い対価になりそうなものにするまで。


 まず首謀者の存在を調べて教えて欲しいのと、戦場での目になってもらいたい。大事なのはこの2つ。

 本当は戦力になって欲しかったけど、それは期待できない気がする。

 後は武器の調達だけど……正直これはわざわざ裏に頼まなくてもいいかな。


 どっちの方が、重いかな。戦場での情報伝達……の方かも。


「じゃあ、戦場での情報伝達の役回り、"目"になってください」


「ま、妥当だな。わかった。じゃあ戦場の状況、指示伝達、全てにおいてお前を起点として行ってやる」


 裏がそう言うと、空中に濃い紫色の丸い魔法陣が浮かび上がる。それはまるで、鍵がかけられた錠前のように動き、空中に霧散した。

 怪しげに光る鍵だけ残り、裏は鍵を胸元にしまった。


「んで、まだあるんじゃねぇの?」


 目なんて見えないのに、全てを見透かされているような感覚がする。

 動揺を隠した状態で、歩乃華は冷静を演じた。


「首謀者の存在を調査して、教えてください」


「へぇ。それにしたんだ。んじゃ、お前の支払える対価はなんだ?」


 いくつか考えてみたのはある。ただ、上手くいくかは分からない。


「魔力結晶はいかがですか?」


「いらねぇな。ルートもあるし、自分の手で手に入れられる」


 魔力結晶がダメとなると、私だけで支払えるものは1個しかない。

 裏は頬杖を着いて歩乃華を見つめる。一体何を出してくるか、楽しみにして。



「わかりました。じゃあ対価は……"私"でどうですか?」




「……っはぁっ!???? お前ばっかじゃねぇの? もっと自分の体は大切に……」


「私の祝福の力は、きっと価値のあるものでしょう?」


 自信満々に告げる歩乃華を見ながら、裏は自分の勘違いを恥じた。

 そんなのは知らずして、歩乃華はここぞとばかりに畳み掛ける。


「貴方が使いたいタイミングで、私は1度だけ祝福を使います。これは、対価としてどうですか?」


 裏は未だ顔の熱は冷めないが、それを無理やり押し込めつつ、笑った。



「ははっ、そんなの……1つの国を滅ぼすのと同じくらいの対価に決まってる。文句なんか1つもねぇよ」



 世間話を挟んでから、ずっと変えずにいてくれた少年の声が、テンション高く聞こえる。

 価値を見誤ったような気はするけれど、とりあえずは、上手くいったのかな。


「さすがにこの取引は不平等がすぎるからな。……あー、うし。一つだけ情報をやるよ」


 刹那、裏は視界を覆うほど近い位置におり、耳元でそっと囁いた。



 『旧王』アビスアイ



「──それが、今回の"元凶"の1つだ」


本日、18時30分と21時30分にも投稿予定です。

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