表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/55

引き返せない選択で

 協力することに決めました! ただこれだけを大統領に言って上手く行くわけがない。こんなことになるなら昨日承諾しておけば良かった、なんてね。

 歩乃華を後悔が襲う。しかし後ろを向いている時間などは存在していなかった。


 大通りを真っ直ぐ歩けば着くため、歩乃華は思考をとにかく回転させる。


 正直、お互いのためにも魔物は討伐した方がいいのはわかってる。でも、簡単にいかない。


 まず交渉から始まるのは容易に理解できる。

 相手的には、どう私──送歌ノ祝福を利用するかが鍵になるだろう。

 私的には、味方の数も資金も大統領に頼らないとどうにもならないから、そこを明確にしなければいけない。

 いいやそれだけじゃないかも。カンナちゃん達付き人の存在も大切だ。

 フルシベル家には里とかあるって言っていたし、色々と発言権があることはわかる。

 相手的にはフルシベル家の支援も欲しいだろう。


 例え私が送り人だとしても、それを勝手に交渉のカードにしちゃいけない。だとしたら、決定権がないことを隠しつつ、それを仄めかして私にとって有利な場を作る必要がある。


 この時に大切なことは、相手に不信感を持たせないこと。


 考えられる範囲で相手に不信感を与える要素は、フジくんもカンナちゃんもいないことと、私が子供であること。

 でもこれは誤魔化しようがないし、どうにかできる要素じゃない。

 そしたら素直に伝えるべき? いやでも下に見られる可能性もある。


 あくまでも選択権が私にあるようにしないと、いい条件は引き出せない。


 残りの思考は、話しながらしかないな。


 二回目となる大きな屋敷の前で立ち止まる。嫌な汗が流れて、血流が鈍くなったような錯覚。

 重い足を動かして、中へと入っていった。


………

……



 案内された部屋は前と同じだった。

 居心地の悪さは増しているし、今回は歩乃華一人ということが余計心を突き刺している。


 大統領も忙しいようで、少しだけ待っていてくださいとメイドさんに言われた。

 一息つく間があるのは嬉しいけど、余計に緊張してくる……。

 緊張を和らげるために、紅茶の中をスプーンで混ぜた。

 ……。

 向こうと手を組むと決めたんだ、紅茶を飲まないのは、失礼にあたる。

 歩乃華は1口、出された紅茶を飲む。暖かくて、茶葉の香りが緊張をとかしてくれた。おいしいな。


 扉の近くに立っているメイドが、急に動いたかと思えば扉を開ける。

 誰が来たかなんて想像するまでもない。豪華な服に身を包んだふくよかな大統領だ。

 大統領は外から帰ってきたばかりなのか、羽織と帽子を脱いでメイドに手渡している。

 忙しいというのは嘘でもなんでもなく、本当のようだ。それに心做しかやつれて見える。


「さっきまで会合があったものですから……。それで、送り人様が来たのは先日の件ですかね」


 ソファに腰を沈めて、無駄な会話を嫌うように率直に話題を出した。

 歩乃華としても同感だったため、そのまま話題に移っていく。


「急に押しかけてしまってすみません。先日の話を聞いてから、私達は魔物討伐に協力することに決めたんです。ですのでその詳しい話を進めていきたいなと思いまして」


 申し訳なさそうに言葉を紡ぎながら、相手が何を言ってくるかを予想する。

 歩乃華にとって話し合いは穏便に終わった記憶が無いのだ。目線は極力相手から晒しちゃいけないし、警戒されるような行動をとってはいけない。

 あくまでも自分が選択権を持っていることをアピールしないと、大統領はフェアにやってくれないだろう。先日も、子供と言っていたから。


「こんなにも早く決断して頂けるとは思っていませんでしたよ。……ちなみに、どうしてこんなに早く心変わりしたのかお聞きしても?」


 当たり前の疑問。そして訝しげな目。大統領は歩乃華を信用していないのが分かりやすかった。

 歩乃華はとにかく違和感を持たれない程度に思考をめぐらせる。

 情報をどこまで出すか? フジの状態まで出してしまったら、相手に有利な場になってしまうな。

 ゆっくりと紅茶を口元に運ぶ。そろそろ決断を出す時が来たようだ。


「元々悩んでいたのもそうですが、高純度の魔力結晶が必要になったんです。だから選択を決め切る事が出来ました」


 ちょっと危険な賭けだったかもしれない。魔力結晶がこの世界にとってどんな物なのか、まだ把握しきれていないのに出してしまったこと。

 しかし良い判断だったようだ。大統領は警戒を少しといてくれたような気がする。


「そちらにもメリットがあるなら、こちらとしても頼みやすいですよ」


 大統領としても、相手の目的がわかるのはありがたいことだった。後から色々と条件を課せられたら厄介だからだ。


「ただ高純度の魔力結晶はどのくらいのものを想定していますか? こちらとしても魔力結晶は貴重なので、ある程度の量は欲しいのですが」


 歩乃華は返答に戸惑う。ポーカーフェイスだが、内心汗ダラダラだ。

 馬鹿みたいな量を要求する必要がある。なんならいくつかはプラスで貰っておきたい。


「B級のものだったら最低二百とか三百くらい欲しいですね……」


 魔物の大量発生がどのくらいを指しているのか分からないけど、最低限それは欲しい。

 歩乃華は不安げにチラチラ大統領の顔を覗き見る。断られたら……だいぶ困る。

 そんな歩乃華とは裏腹に、大統領はホッとしたような顔をした。


「そんな遠慮しなくてもいいですよ。魔物達は総勢三十万ほどいますし、B級も五万体程は確認済ですから。こちらからはそうですね、二万や三万くらいなら渡せますよ」


 大統領の言葉が耳に入った途端、行儀悪くもクッキーの欠片を落とした。もちろんバレないように拾ったが、歩乃華の頭はそれどころじゃない。

 今大統領三十万って言った? あの魔物が?


 冗談……だよね?


 そしてブランベアみたいな魔物が五万いるって?

 ここで良かった、どうにかなった! みたいに楽観視できるほど歩乃華は強くない。


 冷や汗が止まらなかった。


 もっと調べておけばよかった。後悔後先たたずとはこの事か。

 大統領の協力はあるとはいえ、三十万? 勝てるのかそれは?

 普通に死ぬかもしれない。流石に想定外だ。いや自分が軽く見ていたのが悪いけれど。

 頭を抱えたくなることを必死に堪えて、歩乃華は思考を破棄した。


 もう……どうしようもできないから。


「……あは、ありがとうございます。それじゃあ詳しい情報とか教えてください」


 乾いた笑いを隠せなかった歩乃華を、大統領は苦笑する。具体的な数は公表していないが、大量の魔物が発生したことは言っていた。だからこれは単なる情報収集不足。

 大統領からの評価が下がる、彼は冷酷だった。


「まず、魔物具体的な総数は三十万程。見えてるものだけなのでもっといる可能性もあります。あまり信用しすぎないでください。そしてその魔物達は隊列を組んでおり、正しく魔物軍と言えます」


 隊列を組んでいる。それが意味することは、間違いなく指揮官がいるだろうこと。そしてB級の魔物が五万体ほどと言っていたことから、指揮官はA、いやS級くらいの力を持っていると思われる。

 いや待て、指揮官は本当に魔物だけなのか? 人間でも祝福や魔法でどうにかできる可能性だってある。

 指揮官はいるだろうけど、視野は狭めないようにしないと。


「魔物の種類は多種多様で、その中でもやはりゴブリンやオークが多いです」


 混合軍……。魔物自体が分からないから、戦闘方法とかも分からない。これは持ち帰ってカンナちゃんに共有しよう。


「現在はガトナ山地の麓から徐々に行動しているので、タリスに来るのは少なく見積って残り7日ほど」


 一週間か。どれだけ大統領が準備してくれているかだけど、思ったよりも時間がありそうだ。

 時間があるならば、私は私でできることをやろう。


「ありがとうございます。今のところ準備はどのくらいできていますか? 兵の数とか戦備とか……」


「ここにいる騎士が三万。魔法騎士が一万五千。冒険者が五千。義勇団が三千、錬金術師が二人ですね。教会に頼んで回復師を二百名ほど用意していただけています」


 思っていたよりもだいぶ少ない、そう思っていることは大統領にすぐバレた。

 苦々しげに笑う大統領は、大きくため息を吐いてから真面目な顔をする。


「すみませんね。本来ならばこの倍は兵がいるのですが、今は他国へ遠征していて」


 なんでもタリスは肥沃の地に恥じぬほど、色んな資源に恵まれているようだった。そのせいで他国から助けを求められることが多いらしい。


「……我が国が恵まれているからと言って、あのクソ野郎ども」


 大統領はよく思っていないのか、明確に顔を崩して悪態を着いた。

 それのせいで今回戦力が足りなくて困っているんだから、大統領は不憫だろう。歩乃華は少々憐れんだ。


「これ以上の戦力の増強は無理となんですね、では装備はどうですか?」


「実は装備なんですが……」


 大統領は言葉を淀む。

 嫌な予感がじわじわときている歩乃華には、耳が痛い話だった。


「最新鋭のものの多くは向こうの兵たちが持っていますし、ここに残っていたものも"意図的に"壊されていたんですよ……」


「絶対それ誰かの陰謀じゃないですか……! もしかして装備……」


 思わず歩乃華は立ち上がり叫ぶ。だって考えられないのだ、いや有り得ては行けなかった。

 兵も少なくて装備もあまりよくない、それなのに敵は沢山いる。これを絶望と言わずしてなんというか。


「えぇ、お察しの通り今何とかかき集めている分だけです」


 歩乃華はふらつき、力なくソファに座る。思わず頭を抱えるのも仕方ないだろう。

 残り一週間で何が出来る? 三十万を殲滅なんてできないはずがない。

 守ることに力を入れたとしても、ジリ貧だろう。


 八方塞がり。いいや違う、本当はわかっている。ただの推測だが、三十万から耐え凌ぐよりはマシだろう。


「魔物達の、司令官を倒しましょう」


 それが一番、現実的です。


「団体行動するぐらいですから、いる可能性の方が高いと思います」


 大統領は少し驚き、笑った。ちゃんといる可能性に気付けていたことも、殲滅よりも格段にいい作戦になることも理解しているのだから。

 それにもう十分値踏みした、その上で決めたのだ。今は戦力も欲しいし、変にさぐり合うのはやめてしまっていいだろう。

 一度目をつぶり呼吸を整えてから、大統領は頭を下げた。


「子供だからと言って侮って悪かった。小暮くん、共同戦線をはろう」


 突然な奇行に歩乃華は頭がついていけなかった。さっきまでと大統領違くないか? 敬語でもないし、急に謝るなんて。

 歩乃華は思考を破棄する。考えるな、そういうものなのだろう。


「急に言われても困るだろうね。しかし君には頭を下げる価値があった。これまでの非礼を詫びよう」


 そこまでの価値があったなんて思えない。たかが司令官を倒せばいいと言っただけなのに。


「一国のトップが簡単に言っていいのですか……そういうの」


「良くないだろうな、あいつに怒られる。ただ俺ももう疲れた。正直偉そうにするのも敬語も嫌なんだよ。他国のやつとかガトナがいる時は丁寧を装ってるけどさ」



 嫌だとかなんだとか言っているけれど、大統領はこの国が好きだからやっているんだろう。そうじゃないと、やつれるまで働かないし私に期待して落胆もし無いはずだ。


 単純に好ましい人柄だった。上に立つ者としての覚悟や技術がある。


「作戦をねろうじゃないか、小暮くん」


 大統領と歩乃華は、ここで正しく手を組んだ。


──ここから先は、引き返せない。

本日は21時30分に投稿予定です。


面白かったり、続きが気になった方は評価やブックマークの方をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ