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救うと決めて

「魔力結晶さえあれば、液状化させて体内に入れ込むことはできます。まぁ荒療治なので、高純度でないと生命活動に必要な分まで取り込めるかどうか……」


 また知らない単語。でも何となく意味はわかる。

 その魔力結晶はどうやって手に入れるものなのか。言い淀む感じから思うに、高純度であることが難しいのかな。


「どのくらいの純度が必要なんですか! B級までなら、何とか頑張れば……」


 B級……あ。

 魔物の強さの指標だ。あの強かったブランベアをB級って言っていたよね。

 こういうのの最高値がどこか分からないけれど、かなり高そう。

 にしても魔物が関係しているってことは、魔物が持っているものなのかな。いや、もしかしたらまた違う指標の可能性もある。確証はないな。


「冒険者ギルドが作った難易度のことですよ。そして魔力結晶は、魔物の体内の中に生成される魔力の貯蔵庫です」


 なるほど……。

 頭の中でメモをしておく。


「いくつ必要なんですか!? 私、頑張ればB級なら……」


「もしB級の魔力結晶だけなら、だいたい百か二百です」


 百か、二百。

 それは、命をいくつ積めば届く数なんだろう。


「……は?」


 カンナから敬語とかが抜け落ちる。予想もしていなかった量だった。

 ……無理じゃないの? 届くわけ、ない。


「A級なら十か十五くらいですかね」


「それでも多すぎるよ……」


 敵は強大だな。ただ明確にどのくらい頑張ればいいかわかるから、そう思うと……考えなくていい分、楽なのかもしれない。

 実際問題、絶望的なわけだけど。


「話は戻しますが……残酷な真実ですよ、お二人共」


 簡単な話じゃないことはわかってる。でも言葉にされると考えると、難しいのだろう。

 まぁもう悩んだりする暇はないが。



 ブランベアを相手にした時に、カンナだけだったとはいえ苦戦を強いられた。

 それなのに、助けるためには大量の魔力結晶が必要というのだ。


 現実味はない。数字としては理解している。

 冷静な私が、遠くで無理と言っている。ただもう……やるしかない。


「一度、大統領に相談することをおすすめしますよ」


 大量の魔物を討伐する必要がある。だから協力も欲しいし、大統領に会うのは大事だろう。

 それに魔物の大量発生が今起きているんだ、気持ち悪いくらいにちょうどいい。その返事をしに行かないと。


「はい……その、ありがとうございます」


 歩乃華は今後のためにも、大統領の元へ向かうことを決めた。

 でも、カンナは置いていった方がいいだろう。可哀想だ、フジと離れ離れにするのは。


「大統領の所へ向かいます。カンナちゃんはフジくんのそばにいてあげてください」


「……うん。ごめんね、歩乃華。本当なら、私がついて行かないといけないのに」


 心が不安定になっているのか、泣き出しそうなカンナ。歩乃華は優しく抱きしめてから、そのまま離れた。

 ごめんね、カンナちゃん。フジくんは、私が……絶対助けるから。


 踵を返して部屋を出る。

 教会の中は分からないけど、出られないことはないと思う。



 ……まだ、大丈夫。希望は残ってる。


「あ、目覚めたんですね歩乃華さん」


 ニコニコと後ろから駆け寄ってくるのはキィナさん。

 昨日は運んでもらったようだし、感謝を言わないと。


「はいお陰様で。運んでくださりありがとうございます」


「いえいえ僕なんかで良ければ!」


 頬をかいて困ったような顔をする。それでもどことなく嬉しそうだった。

 キィナさんは偶像……なんだよね。正直まだ偶像とかよくわかってないけど。

 どう会話すればいいか分からないから、ちょっと気まずいな。


「もう行ってしまうんですか? ほら、昨日来てたようですし、属性とか祝福調べましょうよ」


「あ、あはは。でも今急いでいて」


「知っておいた方がいいですよ!」

「貴方の価値、ちゃんと理解しておかないと!」


 歩乃華の声なんて聞こえていないのか、聞いていないのか。

 逃がす気はなさそうだ。キィナは腕を引っ張って別の部屋へと連れていった。

 属性とか祝福とか、調べてるほど暇じゃないんだけど……。フジくんが、危ないのに。

 どうにか身を捩っても逃げることは出来なかった。キィナは想像よりも力があるらしい。


 連れられて入った部屋は、なんとも不思議だった。

 存在を主張するように大きな銀色の球体が、奥でゆっくり回転している。球体は浮いていて、よく見れば花の装飾がされていた。

 花は彫刻、みたいなもの? かな。


 赤いカーペットの上を歩いて、球体の目の前にまで来る。

 遠くからじゃ分からなかったけど、球体からは弾かれるような感覚があった。

 手を近くにやると、反発もするし手もビリビリする。なんとなくの感覚で魔力も感じるから、全て正しいのかもね。


「歩乃華さん、そのまま球体に手を当てればいいんです。そうすれば、全部分かりますから」


 背後から歩乃華を支えるように、優しく肩に触れた。悪魔の囁きのようだけど、歩乃華は嫌がりもせずにその通りに球体に手を。


 触れたところから別の魔力が入ってくるのがわかる。嫌すぎて、抵抗したくなった。

 部屋全体を巻き込むように魔力の渦ができて、歩乃華は吹き飛ばされそうになる。


「すごいすごいすごい! 球体がこんなに光るなんて初めてですよ、それに色が混ざっていますし……」


 楽しそうなキィナを気にする余裕なんてない。歩乃華は目をつぶって両足で踏ん張った。


 球体は翠、黄色、金に光り輝く。輝きはまるで太陽、とんでもない光を放っている。

 色が属性、光量が魔力量を示している。


「風、光、聖。使える属性自体は少ないですが、魔力量が半端ないですね。……それに清い感じの属性が使えるのが最高です」


 キィナは冷静に分析しながら、そっと歩乃華の手に触れて、球体から遠ざけた。

 それだけで光を失っていく球体。歩乃華も少しずつ目を開けた。


「一体、なんなんですかこれ」


「風と光と聖が使えるみたいですね、それに僕なんかと違って魔力量なんて凄いです!!」


 体全体を使って凄さをアピールしているが、歩乃華には良くわからなかった。

 そんなに凄いのかな、これ。


「キィナさんが楽しそうでなによりですけど、そろそろ私は……」


「じゃあ次は祝福ですよね! 次はあの四角いやつですよ。僕なんかでは出来ない高技術の錬金術ですからねぇ」


 またキィナさんのペースに乗せられている。

 知りたいとは思ったけど、今じゃない。

 無理やり振りほどこうとしても、びくともしない。


「ここに立てば祝福がこの書に記されます」


 言われた通りに銀色の箱みたいなものの上に立つ。指揮者の台みたいな大きさで、完全に一人用だった。

 目の前にある書面台の上に、大きな本が置かれている。何も書かれていない白紙で、インクも近くになかった。

 少しだけ立ったまま戸惑っていると、急に下から魔力を感じた。

 先程の球体と同じように、別の魔力が流れ込んでくる感覚がある。左足から全身を辿って右足へ魔力が流れているようだ。


 少しだけ頭がクラクラしてきた。

 思わず書面台に寄りかかる。そして、深呼吸を繰り返して目の前の本を見た。


 何も書かれていなかったはずの本に、文字が書かれていく。インクの香りもしないし、これはきっと魔法なんだろうと想像が容易かった。


 にしても文字が読めないから何も分からない……。いや、確か五十音対応表を作ったはずだ。


 ポケットの中を探すと、小さく折りたたまれた紙が出てくる。それと照らし合わせながら本の内容を読み始めた。


《送歌ノ祝福》

 神格系祝福であり、未だに謎に包まれている。精霊子を作り出す力があるとされているが、情報が少ないため確実性はない。魔力消費量は中間程度。


 ……なんか思っていたのと違ったかも?

 そういえば、これは錬金術によって作られたって言っていたし、この内容もその人が書いたものなのかも。

 だとしたら情報量が少ないのも仕方がないかな。

 次は……うっ、長い。自分の中で省略して読もう。


《荘園ノ祝福》

 領域内の"全員"を回復できる。

 敵意を無くすことができる。


 要するにこうだね。


 情報がある祝福は、結構詳しく記されるんだな……。一文字一文字対応させながら読んだため、普通に文を読むよりも疲れてしまった。

 もちろんそのおかげでいくつかの文字は何となく理解したが。

 それにしても、荘園ノ祝福の使い所は気をつけないと。

 全員だから、敵まで回復させてしまう。厄介だし、魔力の消費量が多いのは身に染みてわかってる。使用は控えた方がいいね。


「二つ祝福持ってるとか、僕なんかと比べ物にならないくらい凄いです! ……歩乃華さん、いや送り人様」


 真剣な顔付きでキィナは話し始めた。何故多少強引でもこの行動をした理由を。


「偶像として、人の悩みを聞く機会が多いんですよ。そして最近出てくる言葉は、魔物に対する怯えなんです」


 そもそも偶像がわかっている前提に話を進めるのをやめて頂きたい。

 人間偶像、つまりは崇拝対象なのはわかる。だけれども、それしか分からない。具体的になんなのか、その説明が欲しいよ。

 しかし歩乃華の戸惑いなんて無視して、キィナは話すのを辞めない。だからそこで違和感を持った。


「僕なんかただの偶像です。ですが、それでも人を救いたいんです! 送り人様の力を貸してください。世界に……希望を」


 その言葉は祈りのようで、どこか強制に聞こえた。

 強引に連れてきた理由には弱いし、なにか他の陰謀があるんじゃないか、そう思えてしまった。

 歩乃華はあくまでも冷静に物事を見る。

 魔物を倒すのは確定しているけれど、信用しきっていいものか……。


「私は、送り人です。絶対なんて言えません。ですが、魔物は倒したいと思っていますよ」


 感激したように目を潤ませるキィナ。心の底から嬉しそうな顔が、どうも怖い。


「ありがとうございます。やはり世界は希望がある。希望が残っている……!!!」


 宗教的価値観、もしくは偶像に慣れてしまったのか。にしても大袈裟な態度に思えるのはどうしてか。

 ただまぁ人を疑っても仕方がない。人に嫌われるような態度はとりたくないし、早くここはひいて大統領の元へ向かおう。

 思っていたよりも時間取られたな、なんて愚痴を考える。

 軽く別れを告げて、足速にその場を離れる。

 私の今の大きな目標は、フジくんを助けること。

──そのためなら、どんなことだってする。


 ……例え、それが正しくなくても。


 大統領に協力をお願いして、魔物を倒す。

 1人なのは、心細いけど……。


 ……やるしか、ない。

 他に選べる道なんて、ないんだから。

本日、18時30分と21時30分にも投稿予定です。

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