表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/18

選べないまま、誰かの隣で

本日、朝にも投稿しております!

「結局何をするにしても宿をとることは大事だからね!」


 カンナはそう笑って、大通りを歩き始めた。

 それについて行きながら注意深く街中を見てみる。


 楽しげにしている人、愛に溺れている人。そんな平和な方々もいる。

 ただ、厳しい顔をしている騎士やニヤニヤしている旅人、ため息をついている商人。

 笑い声の裏に張り詰めた空気が混ざっている。

 平常時ではないことがひしひしと感じられた。


 歩乃華は自分の決断の価値が高まっている、そのことに恐怖を感じた。


 戦争は、誰もが生き残れる訳じゃない。だから、私が選ばないといけないんだ。


 身近な人を危ない目に合わせないために、他の人を見捨てる。


 他の人を助けるために、身近な人を危ない目に合わせる。


 選べないといけないって、わかっているのに。

 わかってるのにっ! ……選べない。


 歩乃華は自分の腕を、爪が食い込むくらい強く握った。

 そうでもしていないと、思考の海に溺れてしまうから。今も、溺れかけていた。


「……ね、フジ。宿頼んでもいい? 私ちょっと寄り道したいなーなんて」


 両手を合わせてフジに頼むカンナ。視界の端では歩乃華を映している。


「わかった。宿の場所は覚えてるよな?」


 一瞬で理解したフジは簡単に了承する。フジもどうするか悩んでいたからだ。


「もちろん! ……じゃ、歩乃華行こっか!」


 カンナは返事して、歩乃華の腕を掴んだ。

 少しだけ屈んで上目遣いし、笑う。


「え? どこに……んぎゃっ! え、宿屋ってそっちなんですか? 戻ってるじゃないですかー!? え? え?」


 カンナは笑い、慌てる歩乃華の腕を掴んだまま走る。

 戸惑った歩乃華はついて行くのに精一杯だった。





「ふう、良い汗かいたね! 歩乃華!」


 涼しい顔で額の汗を拭うカンナとは対照的に、歩乃華は息が乱れて仕方がなかった。

 返事をする余裕も何も無い。

 大通りを走って、少し曲がったりと、かなりの距離走っていた気がする。

 カンナは一体なんの目的で……?


「ごめんね、歩乃華走らせちゃって」

「い、いえ……大丈夫です。それにしても急にどうしたんですか?」


 歩乃華の問いかけにカンナは快活な笑みを浮かべた。


「ねぇ、歩乃華。デートしようよ」


 デート。でーと。でーと?

 恋人同士や男女で出かける際に使われる用語。聞き間違いなのか。いやデートというのは伏字の可能性もある。

 歩乃華は湯水のように湧き出てくる思考を止めることが出来なかった。腕を掴まれているから、という理由もあるが。


「おーい、戻ってきてー。普通に一緒に出かけようって事だよ。そんな"宇宙にいる犬"みたいな反応しないでー」


 ネットでよく使われていた宇宙猫のことだろうか?

 別のことに意識は傾きつつ、それでもどうにか歩乃華は取り繕った。


「大丈夫です! でも何処に行くんですか?」


「色んなところに行きたいけどー、ほら! 歩乃華の服買いたいし、色々案内したいんだ」


 確かに今のまま同じ服を着るのも嫌だし、カンナの服を借りるのも申し訳ない。

 服は買った方がいいかも。


 それに場所の案内は嬉しいな。街や村と違って広いし色んなお店があって全然分からないもの。


「ありがとうございます! でもフジ君もいていいのでは?」


「やっぱ宿大事だし、フジは結構歩乃華と話してるじゃん? 次は私の番だよ!」


 お話をしたい、そう思われるのは嬉しいことだ。歩乃華まで笑顔になってしまう。

 その姿を見て、よりカンナは嬉しそうになった。


「じゃあまずはお洋服だねー、どんな服が好きとかある?」


「穏やかな色の服……とかですかね。露出とかビビットな色はちょっと……」


 スカートや肩出しとかは別にいい。ただここの世界の人のような露出の高いのは、ちょっと嫌かも。

 シンプルがいい。目立つのは気が引けるし。

 歩乃華の気持ちを理解したカンナは、手を引っ張って向かいのお店を指さした。


「あそこなら良いのが売ってそうじゃないかな? せっかくだし色々見よ!」


 その言葉と共にまた急かされるように歩く。

 カンナちゃんは猪突猛進というか、元気いっぱいな子だなぁ。体力はつくかもしれない。疲れるけど。


 へとへとしながら扉を開けた。

 落ち着いた雰囲気のお店で、木造建築のいい香りがする。

 橙色の光も可愛らしいし、飾られている変なオブジェとフクロウなんて特に愛らしい。

 興味津々でお店の中を見渡していると、肩を叩かれた。


「歩乃華、とりあえずいくつか選んだからさ、合わせてみようよ!」


 カンナのその言葉から始まった"ソレ"は、予想をはるかに超えてきた。


「やっぱり元がいいからなんでも似合うね! 次これ合わせて! あ、とりあえずこれは買いでいい?」


 カンナちゃんは腕が複数本あるんじゃないか? そうじゃないと説明がつかない、そう思えるほど服を合わせるのも選ぶのもスピードがおかしい。


 かれこれ何十着なんだろう……たくさんの服を着た。

 歩乃華も人並みにはオシャレは好きである。だがしかし、カンナにはついていけていなかった。

 もう終わりにしたい。それにこんなに買っても持って帰るの大変だろうし、管理も大変だ。


「あの……カンナちゃん」


「次はこれにこれを合わせて、差し色に赤を使うのもありかも。……どうしたの? 歩乃華」


「そろそろ辞めて、別の所も見に行きませんか? それに多分これは買いすぎですしね」


 苦笑いが出てしまうのも仕方がないだろう。だってまさかここまで買おうとするとは……。

 積ままれた物は見ないふりをして、カンナと目を合わせる。


「もうちょい行けるよ! 私持てるし!!」


 たしかにカンナちゃんの巨力ノ祝福なら余裕かもしれない。だけど、そういうことじゃない!

 言葉選びを慎重にしながら、どうにか止めなければ。


「いえ移動する時とかあると大変じゃないですか……」


「大丈夫、フジなら魔法でどうにかしてくれる!」


「魔法ってそんなこともできるんですかっ!?」


 親指を立てたカンナと驚き目を見開く歩乃華。

 魔法って色んなことが出来すぎてて怖いよ……。


「大丈夫大丈夫! でもまぁお店変えるか! 支払ってくるね!」


「わたしも私も着いていきますよ!」


 この世界のお金のことは気になるし、本当にこのまま全部買われたら困る。

 たしかに全部可愛いし、組み合わせを変えるだけで雰囲気も全然違う。

 だとしても、この量は買いすぎだ。

 山積みになってるもの。


「こ、こちら全部買いになられるのですか??」


 店員さんだって驚いて言葉出てないもん!!


 歩乃華はカンナをとめつつ、どうにか服を減らした。

 といっても外着と部屋着が別で五、六着あるのだから十分だ。


「お会計は二万アルカです」


「はーい。にしてもここ安いね!」


 こっちの金銭感覚分からないのでどうも言えない。アルカ、が通貨なのは分かった。

 金色に輝くコインて、大きさはだいたい百円玉くらいだ。それを複数枚出している。


 支払いをすませて、店員さんが服を袋に包んでいる時にカンナに問いかけた。

 これが一体どのくらいの価値で、統一されているのか、他のものもあるのかなどを。


「えっ、えっとね、お金はこれだけだよ! 神聖国アルカリアって国が作っていて、信頼度は高め!」


「そうなんですね、ありがとうございます。カンナちゃん」


 アルカの相場も知りたいな。

 詐欺られたりしたら嫌だもの。


「私だって勉強してるもん! ……あ、ありがとうございます」


 店員さんから品物を受け取る。……やっぱり量多かったかも。

 両手がもう塞がっちゃっ……あ、カンナちゃんが持ってくれた。


 感謝を口にして、そのままお店を出る。

 その瞬間目線が一気にこちらを向いた。流石に大量の服を持っているのは珍しいようだ。わかる。


 少しだけ恥ずかしがってる歩乃華を他所に、カンナは手を引っ張って一つの出店を指さした。


「あれ、食べない? シューム」


 了承して出店に近づく。この甘い匂いはシュークリームとよく似ていた。

 二つで十アルカを支払い、近くにあったベンチに腰掛ける。

 生地は柔らかくて、クリームの甘い匂い。形は綺麗な丸だった。お饅頭みたい。

 恐る恐る口に入れてみると、やはり味はシュークリームだった。


「美味しいですね」


「でしょー、お気に入り!」


 ちまちまと食べながら他愛のない話をする。

 気を使うカンナを見て、心配させてしまったことを悔いた。

 本当に申し訳ない。私がただ決められていないだけなのに。


「あー、まどろっこしく言うの苦手だからさ、直接言うよ」


 いきなり天を仰いだかと思えば、真っ直ぐ歩乃華を見つめるカンナ。

 歩乃華はびっくりしてシュームを落としかける。危なかったかも。


「私はフジよりも歩乃華よりも……その、頭が悪いからさ、何に悩んでいるのか上手くわかってあげれないと思う」


 悔しげに瞳を揺らし、手を強く握った。

 その姿を見ていると違うと言いたかったのに、それを言うのはお門違いな気がしてしまう。

 歩乃華は沈黙という選択をとった。


「でもこれだけは言える」


 カンナは歩乃華に目を合わせる。優しくて、強くて、暖かい瞳を。


「どんな決断をとっても、私達は、歩乃華の味方だよ」


 胸の中がポカポカと暖かくなる。カンナの言葉は真っ直ぐで、欲しいものをくれる。


「例え歩乃華が世界を敵にしたって、古来の盟約に従うまでもなくついて行くよ」


 カンナは、私が決めかねている理由を勘違いしている。だけれど、その言葉は嫌われたくない私にとって、心を射抜く強さを持っていた。


「だから、安心して悩んでね!」


 ……っ。


 ずるいなぁ、カンナちゃん。



 きっと、戦争に参加してもしなくても、絶対に後悔して、嫌な思いをする。自分で責任をとったって、その価値は私には無い。

 それだけじゃない。どんな選択肢でも、必ず嫌われる可能性が出てくる。

 自分の意思で選択すると、自分で嫌われに行っているようなものだと、思ってしまう。


 嫌われたくない。


 このままずっと流されていきたい。なんて、無理なのかもしれないけど。


 黙ってしまった歩乃華にカンナは何も言わず、そっと手を引いた。

 燃えるような空が、どうしても憎たらしい。

 八つ当たりだとはわかっているけれど。


 最初から最後まで、私は私のことしか考えていられない。あぁ、嫌いだなぁ自分。

 私が他の人の分まで私を嫌う。だから嫌わないで、って考えるのも、嫌いだ。大嫌いだ。


「止まって、歩乃華」


 立ち止まったことを不思議に思いながら、カンナの前を見る。

 目の前には不思議な少年が立っていた。

 銀髪はくせっ毛なのかふわふわと揺れ動いている。ニコニコと愛想の良さそうな顔をしていて、触ると柔らかそうなほっぺだ。

 ゆっくりと弧を描く桃色の唇。そこから紡がれた言葉は。


 不意に、空気が変わる。


「やぁやぁ、君が送り人だネ?」


21時30分にも投稿予定です!

面白かったり、続きが気になった方は評価やブックマークの方をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ